2015.7 NO.49 アンナカレーニナ VS アンナカレーニシナ
一昨年妻の実家を立て替えて住むために家財を整理していたところ、河出書房の『世界文学全集』が出で来た。妻に聞くと、中学生の頃か父に買ってもらったが全然読んでいないと言う。私も子供の頃本を読むのが好きでなく、純文学などはほとんど読んでいない。もうすぐ毎日日曜日になるからと思い全25巻残しておいた。
分厚いものからと思ったのが大間違い。文豪トルストイの『アンナカレーニナ』を読み始めたが、なんとも長い(907頁、約122万字)。文学者は完全無欠と称賛するが、浅学非才かつ短絡的思考の私にとっては、典型的なキリスト教啓蒙小説にすぎない。要するに、不倫する主人公は悲劇的な末路を辿り、貞潔な妹は幸せな人生を送るとしか読めない。
日本の妻は、キリスト教信者でなくとも貞節を守る。日本でも、夫の留守中に自宅のベットに男を誘い入れる肉食系妻も出てきたが、そんなのは稀だ(と思いたい)。
夫の浮気、妻の不倫、という呼び方が似合うように、妻に対しての方が世間の風当たりは強いようだ。
夫のおイタと違い、子供がいる妻が不倫、ひいては離婚に走るのは相当の覚悟がいるだろう。踏み切るのは夫への強い不満、とくに夫の裏切り、浮気であろう。夫の浮気に対し堪忍袋の緒が切れあてこすりの意味で不倫するのではないか。故ダイアナ妃しかり、フックンと別れた奥さんもきっとそうに違いない。
経済的な問題だけでは妻は揺るがない。やくざや借金取りが家に乗り込んでくるようなことがない限りは。夫の中身をみて結婚した妻というものは家計が悪化し生活レベルが急落したからと言って、他の男に走ったり離婚するものではないと思う。妻は自分が働いて家計を助けようと思うだけだ。夫の才能を信じ夫の目が死んでいない限り妻は夫を見捨てない(と信じたい)。
「杏奈カレーにしな!」とレイザーラモンHG(本姓住谷正樹)さんは夕食の献立で妻に偉そうに言えるだろうか。ハードゲイの恰好と「フォー~」と両手をあげるパフォーマンスで一世風靡したHGさんはその後プロレスの道に行ったのが悪かったのか怪我をして一発屋芸人の仲間入りしてしまった。HGさんに第二の有吉弘行さんになってもらうことを願い、妻の住谷杏奈さんがママタレとして奮闘し、家計を支えている。なりふり構わない言動はネット攻撃の餌食にされた感もあるが、その姿は私には健気と映る。
世界的演出家蜷川幸雄さんは、売れない俳優から演出家に軸足を変え、「その頃長女(映画監督の蜷川実花さん)が生まれ、それから6年間専業主夫をしていた」とテレビで言っておられた。1978年に奥さんの真山知子さんが女優休業を宣言するまで。結婚自体周りから反対されていたらしいが、奥さんは蜷川氏の才能を見抜き惚れていたのだろう。
それでは、妻からリスペクトされていない夫はどうなるのか。ダメよ~ではなく、ダメよ!ダメダメと私をよく叱責する我妻は「何か一つでも自分の事で良いと思うことがあれば言ってみて!?」と毒づく。「甘やかしすぎていたと今反省しているの」とのたまう。妻は私のことを今や出来の悪い子供と思っているのかも。私は母性に救われているだけかもしれない。
乳飲み子をおんぶしながらの家事を厭わなかった敬服すべき蜷川氏と違い、出来の悪い私は自ら進んでではなく、妻から命じられて仕方なく専業主夫になる。料理は好きだが、掃除、洗濯は嫌いだ。妻が勤めを辞めれば済む話なのだが、60歳定年まで少なくとも2年間は働くと言う。今頃になって仕事に対する意欲と責任感をみせる。こちらは「すまじきものは宮仕え」の心境。我慢料(給料)の為に我慢するのが我慢ならなくなってきた(周りから我慢していたのはこちらの方だと怨嗟、怨嗟の合唱が聞こえてきそうだが)。
職業欄は「無職」となるのか。65歳で年金生活に入るまで40年以上に亘る企業活動等を通じて少しぐらいは世の中のお役に立てたのではないか。今別居とは言わず結婚生活を卒業するとの「卒婚」と言う言葉が生まれているが、職業生活を卒業するという意味で「卒職」と書かせてもらいたいものだ。
「愛川欽也さんは息を引き取る寸前まで仕事に行こうと言っていた」とチクリと言う妻は私が銀行を辞める折一生働くからと言ったことを忘れていない。「ろくでもないブログエッセイを書いている暇があるなら、お兄さんを見習って何かボランティアでもすればどうなの!?」と嫌味を言う。私の兄は長年の趣味のエレキギターをスチールギターに持ち替えて、仲間とハワイアンバンドをつくり、老人向け施設の高齢者を慰問する演奏活動に勤しんでいる。
そう言われても、特技はないし、大した資格も持たない。強いて言えば事務局代行ぐらいか。20年間2つの団体で事務局長をしていたから。しかしそれに入れ込んでしまえば卒職した意味がなくなる。
四季のある人生の冬の時代に死出の旅の準備と思うのだが、そう妻に言えば、「準備なんか要らないから、とっとと逝けば!」と言われるのがオチだ。