2015.11 NO.53 おんなのでふね VS おんなのでぶね
小学生の頃から連珠(五目並べ)が少し強く、と言っても高校2年の別府行き修学旅行の船中余興トーナメントで優勝する程度だが。そんなこともあり、囲碁への乗り替えが遅れ大学生になってから囲碁を覚え始めた。1970年代の当時頂点に立っていた棋士が同世代の石田芳夫二十四世本因坊や武宮正樹九段らでスーツが似合いスマートでかっこよかった。TVの囲碁番組もよく見ていたものだ。
一方、将棋は、大山康晴十五世名人から中原十六世名人の時代に代わりつつあったが、着物を着て古臭い、泥臭くさいイメージが好きではなかった。
それから45年余り人生の起伏を味わうと、より厳しい世界の将棋に関心が移ってきた。陣地を取り合う囲碁よりも敵将を攻め取る将棋の方がゲームとしては激しい。しかも将棋棋士は一定年齢までに四段に上がらなければ引退させられる。我々凡人からすれば天才に違いないのに。青春のすべてを捧げてきた当人とっては過酷すぎる。
歌も同じだ。若い頃演歌は聴かなかったし、唄わなかった。宴席ではさだまさしさんの『無縁坂』で押し通した。プライベートでは、井上陽水さんの『心もよう』『傘がない』、かぐや姫の『22歳の別れ』『僕の胸でお休み』などフォークソングが中心だった。
その頃は年をとっても演歌を唄うことはないと思っていたが、今や、大川栄策さんの『さざんかの宿』、北島三郎さんの『北の漁場』はカラオケでの定番だ。
歌手も同様だ。昔は演歌歌手に興味はなかったが、今や大月みやこさんがお気に入りだ。レコード大賞をとった『白い海峡』を妻に頼んで唄ってもらう。歌詞の「二度ともどって来るなよと言われた言葉が耳にのこる。ああ・・・」は、東京で夢破れた女が故郷に戻る船の中で別れた夫か元彼に許しを請う情景が目に浮かび、切なくなる。非日常の気分に浸れる。
若い頃から唯一心に残っていた演歌『嫁入り舟』(野路由紀子さん)も妻に唄ってもらいたのだが、DAMでもJOYSOUNDでも選曲できない。名曲だと思うのだが。
昭和48年6月の初め銀行の新人研修を終え神戸駅前の配属店に初めて出勤したとき、開店前どこから入ってよいものか思案していたら、後ろから女子行員に声をかけられた。細身だが美人だと思った。その女子が社員旅行のバスの中で、嫁入り舟を唄った。まだ発売からそんなに日が経ってないハズなのだが、よほどの思い入れがあるのかすっかり持ち歌にしていた。後で分かったことなのだが、同じ職場の先輩との結婚話が破談になったとのことだった。「いちどだけ彼にあげた唇かみしめて 雨の中にかすんでゆく幸福見送る 今日の最終でこの町出たいけど老いた母ひとり残して出られない」と哀愁に満ちたこの歌をバスに同乗していたハズの元彼がどういう想いで聴いていたのかが気になった。
今も歌の題名を思い出しただけで当時のことが蘇ってくる。男はロマンチストなのだと妻に言うと、「いつまでも覚えているのは、アンタが女々しいだけよ!」と妻からバッサリ切られた。そう言えば、高校の同窓会で、思い出話にと片思いのマドンナなど失恋話を披露すると、“男前”な女子、と言っても同じ60代半ばのおばさんなのだが、「未来のある話をしろ!」と、女々しいと言わんばかりに叱られたこともあった(男子と女子の未来の意味は違うのかもしれないが、それにしても加齢なる女子達は何歳まで生きるつもりなのだろうか?) 。
妻も最近演歌にはまっている。平成のお鹿婆さんか!とツッコミたくなる妻が演歌の情念を理解しているとは思えない。カラオケのLIVEDAMで採点95点以上をとることに執心しており、演歌の方が点数を取りやすいと思っているのだろう。
妻のモテ期と言えるのは、高校時代(男子に実際にモテたかどうかは不明だが)。女子高の文化祭で映画『サウンドオブミュージック』のジュリー・アンドリュースさんが演じた主人公マリア役を演じ、義兄によると拍手喝采だったとのことだ。その時に担任の先生からオペラの方に進んではとお褒めの言葉を頂戴したらしい。
妻は子育てが終わり仕事もリタイアが近づいてきた今日この頃、歌を余生の生きがいにしたいと思っているらしい。高齢者施設で歌で慰問することを夢みているのかもしれない。
毎週のように練習を兼ねてカラオケに行く妻とは3週間に一度程度一緒にカラオケに行く。「ストレスを解消しに行くのに、どうしてストレスの元凶と一緒に」と嫌がるが、そこはそれ宥めすかして連れて行ってもらう。
LIVEDAMの精密採点DXでは採点が90点台と80点台以下では採点が出るときのBGMが違う(95点以上だとまた違うらしい)。妻は採点が出る前にBGMが流れた途端「やった!」と喜ぶ。こちらは90点(下手の壁)を出したことがないので、分からない。だんだん面白くなくなり、茶茶を入れだす。妻が松原のぶえさんの『おんなの出船』を選曲すると、妻の顔を見ながらぼそっと「女のデブね」とつぶやく。石川さゆりさんの『天城越え』では、妻が「あまぎ~ご~え~」と絶唱する横で「あえぎ~ご~え~」と絶叫する。
妻は「下品! だからアンタと来るのは嫌なの!」と怒り出す。が、まさに煽てりゃナントカも木に登るタイプなので、ヨイショ、ヨイショすれば直ぐ機嫌が直る。毎回その繰り返しだ。
ある時、妻が私に「なぜ最近カラオケ、カラオケと言い出したの?」と聞いてきた。毎日が日曜の私は「嫁さんに遊んでもらうには嫁さんの趣味に合わせるのが一番」と答えた。それに対する妻の返答はなかった。身にまとわりつく濡れ落ち葉を想像したかどうかは分からない。