2015.6 NO.48 ツケメン と イケメン
『ラーメン、つけ麺、僕イケメン』とは、お笑い芸人狩野英孝さんのキャッチフレーズ。イケメンとは言い難いがブサ男でもないところに狩野さんの妙味がある。
私は、ラーメンは好きだか、ツケメンは嫌い。イケメンはもっと苦手だ。
神戸っ子だった私は、薄口醤油がベースの透き通ったスープと芯のあるストレート麺が好きで、その芯が消えて伸びてしまわないうちに一心不乱に食べ切るのが常だった。
今までで一番美味しいと思ったのは、昭和46年頃大学生の時家庭教師のバイトからの帰り道みぞれまじりの寒い夜道を2~3キロほど歩いて、やっとの思いでたどり着き食べた一杯のラーメン。屋台に毛の生えたラーメン屋で週に一度は食べに行くにもかかわらず、こんなに美味しいものだったかと驚いた。高額な物を食べてもアントキほどの感慨は得られていない。
冷え切った体に、あったかいんだから、そう感じたのかもしれない。その頃『人間の條件』がTVで再放送されていた。最終回加藤剛さん扮する主人公が屋台の饅頭を盗み妻への土産としてそれを握りしめて雪の中で死んでいった。あの夜のラーメンの経験で私は「アツアツの饅頭を食べておれば妻と生きて再会できたのに」と歯ぎしりしたものだ(作家にとっては主人公が死なないと物語が完結しないのであろうが)。
昭和33年ラーメンに革命がおこった。日清のチキンラーメンの誕生だ。私はコマーシャル通り、どんぶりに即席めんを入れ3分間待つのが待ち遠しかった。勇んで蓋のお椀を開け一口食べたが、チキン味が合わなかったのか油なのか頭が痛くなってしまった。大きすぎた期待の反動でトラウマとなりそれから5~6年間は味付け油麺を食することができなかった。それで乾麺のマルタイ棒ラーメンをよく口にしていた(スープが濁っていると思ったが、とんこつ味いうことは当時知らなかった)。
チキンラーメンは私の落胆をよそに半世紀以上のロングセラーを続けており、芦田愛菜ちゃんの「チッキンラメーンちょっぴっとだっけ、好っき~になってってっとってっと・・」の愛らしいコマーシャルソングは記憶に新しいが、いまだにCMに力を入れている。
昭和46 年第二のラーメン革命が起こる。今度も日清食品によるカップヌードルの誕生だ。またしても、普通の人が味わえる小さな喜びを自分は共有できないのかと恐る恐る口にしたが、セーフだった。それでも定番のコンソメ味ではなくカレーヌードルを好んで食べていた。
つけ麺は、食べない。文字通り「つけ麺の神」となった故山岸一雄氏の東池袋「大勝軒」も行ったことがない。アツアツのつけ汁に冷やした麺を入れるのが分からない。家庭料理研究の第一人者故土井勝先生は、「体温に近いのが一番まずく感じるものなんですよ。冷たいものは冷たく、熱いものは熱く」と海軍経理学校出身の強面の顔をこれ以上ないほどにこやかにしていつも言っておられた(イケメン、と言っても今や白髪交じりのオジサンになってしまったが、次男の善晴氏が後を継いでいる)。
麺が冷たいのが嫌なら「あつもり」があると言われる。それならラーメンでいいじゃないかと私は理屈をこねる。
副都心として再開発が急ピッチに進むJR大崎駅の近くで品川区大崎2丁目12と西品川3丁目21との間を西に上ると百反坂通り(近くには商店街に銀座名の使用が初めて許された戸越銀座商店街)がある。再開発とは無縁の昔ながらの通りにランチにたまに寄る天ぷら屋があった。数年前そこに行くときに斜め向かいにすごい行列の連なった店があり驚いた。店の前ではなんと列がどくろを巻いていた。噂に聞く六厘舎がこんなところにあると知りまた驚いた。近所迷惑ということでこの本店は閉鎖された。意を決して一度ネット通販で注文したが、結局食べることなく子供達の胃袋に消えた。喰わず嫌いはいまだ続いている。
女というものはそもそも面喰いだ。もっとも男も美人が好きだ。違いと言えば、女はイケメンに振られた直後は「男は顔ではない。優しさと生活力だ」と思い直す。
かれこれ40年近く前私がまだ独身の頃、僚店のイケメン行員が閨の睦言ならぬ失言をして傷ついた当店の新入女子行員が辞めて故郷に帰るという事件が起こった。そうとは知らず支店長に応接間に呼ばれた。「お前のことを二番目に好きだと言っている」と高校の大先輩でもある支店長に言われたが、藪から棒で頭が○☓△となり、裏をとった。新入行員を早々と辞めさせては人事部への聞こえが悪いと支店長は思ったらしい(まったく!)。
こんなのは論外だが、イケメンにあたって砕けるとこちらに好意の眼差しを向けてくれることもあった(「もしかしてだけど、もしかしてだけど」の歌マネと同じで妄想だと妻は相手にしない)が、何だかイケメンの尻拭いをさせられる気分になったものだ。
人気者のイケメンもそれを維持するは容易くない。美人は飽きると言われる。顔が商売のイケメン俳優もたいへんだ。速水もこみちさんは、趣味の料理で、美木良介さんはブレスダイエット(どっちが本業か分からないほど)で新しい商品(俳優)価値を生み出している。
人気のラーメン店も顧客が味に慣れてしまうと味が落ちたと足が遠のいてしまうと言われる。すぐれた店主は日々味を進化させて客に味が変わっていないと思わせる。
企業も同じだ。少しでも胡坐をかいたり、ゆるんだりすると外資に狙われるスキが生まれる。1960年前後の即席めん業界の草創期から日清食品とライバル同士しのぎを削っていた、チャルメラでお馴染みの明星食品が50年後他社の子会社になった。よりによって日清食品の軍門に下った。友好的TOBにより日清食品に救われたとはいえ、明星食品の社員の忸怩たる想いはいかばかりか。その気持ちは痛いほど分かる。