2016.9 NO.63 おとこ VS おとめ
昔昔その昔、我妻のような小太りの女が別の女のほっそりした長い脚を得たいと思った。女の執念はすごい。気の遠くなるような年月をかけて女性器を男性器に替え遺伝子を移す使い走り(以下「パシリ」という)としての男を造った。旧約聖書はアダムからイブができたとするが、生物学的にはイブからアダムができたと福岡伸一先生は『できそこないの男たち』(光文社新書)で説いていた。しかし、パシリを目的に造ったハズの男は、体力と知恵がつき過ぎたと女はさすがに気がついた。男女平等ではとても治まらず、男社会への女の逆襲が始まることになった。日本でも、かつて、代表の男を差し置き、女同士が争い、国民的男グループを解散させてしまった。また、野党の代表の男も配下の女につまらない男と一刀両断された。その頃から女の長い一生の中で一瞬きらりと光を放つ乙女心は死語になっていった。
当時米、英、独ぐらいしか国のトップが女でなかったが、今や全世界のトップが女だ。大和撫子の奥ゆかしさの名残りを留めた日本の女はずいぶんと遅れて首相になったが、主要先進国のトップが女になった時点で女首相サミットが創設された。年一回各国輪番で開催されるサミットの究極の目的は男を本来のパシリの存在に戻すこと。今世紀末2100年に第50回記念サミットが女都(旧東京)で開催された。大干ばつ時代における役立たない男人口増大に伴う食糧不足問題がテーマだ。その対策として、密告システムを強化し、政治犯を増やすこと。わざとヒステリックになり紛争地を増やし戦地に政治犯の男ども送り出すことが採択された。慈悲深くある女は、愚かで残忍な男と違って、アウシュヴィッツのような直接手を下すことは決して行わないと言う。その陰で『世界悪女大全』(文春文庫)を初め淫乱で残虐で強欲な悪女を書いた書籍や電子書籍はすべて焚書とされた。悪女ぶりはとても口にできない。おぞましい当の悪女、則天武后、呂太后(劉邦の妻)、エリザベート・バートリ(16世紀ハンガリーの大貴族の娘)らは歴史のページから抹消された。
男はいつも女に騙される。武器を取り上げられた男たちは女支配に抵抗できない。アーノルドシュワルツェネッガーのような男でも腕力だけでは女の言うことしか聞かないロボット兵士に敵わない。
女の支配する世界では、法律はあるが、女が女に対して罪を犯した場合のみ適用される。女が男に暴力をふるっても、その原因を作った男が悪いとして適用されない。もっとも、女が男に素直に謝らないのは昔からの話だが。
基本的人権が保障されない男たちは、能力や従順さ等から4つの階層に分類される。「優層」とその下の「良層」が上層。人間扱いされぬ下層は「可層」と「不可層」とからなる。
優層は、頭も顔もよく運動神経も秀逸。学者、プロの野球選手、プロ棋士等いわゆる天才の男たち。男としてではなく種として評価され、唯一自身のDNAを後世に伝えることができる。選ぶのは女の権利。女は、現役からも死後凍結保存された過去の偉人からの精子も選択できる。人気の高い精子に集中するのはサラブレッドの世界と同じだ。ただ、今世紀の初め日本競馬界の至宝ディープインパクトは1年に250頭前後、これまで何千頭の牝馬に種付けしたが、それでも自身を超えるような子馬は生まれなかった。
限りのある数少ない卵子で極めて優秀なDNAを受け継いだ子供、それも男の子ではなく女の子を得るのは至難で、それだけに女はいい種さがしに必死。神頼み、占いも盛んだ。
女は出産の労苦から解放されている。昔で言うところの試験管ベービーが人工子宮にて胎児として育っていく。女の子が生まれたときは自身の手元に置くことができるが、男の子であれば国家の所有物となる。
妊娠・出産をしないことに伴い、子孫繁栄行為の褒美としての快楽を喪失することに対しては、男のハーレムが用意されている。上層の良層の男たちからイケメンが選抜される。パイプカットされた良層の男は自身を指名した女を拒否する権利がない。とてもその気になれない相手に精神的EDに陥り性交が成功しなかった場合は女様を侮辱したとして不可層に転落させられる。そのために医療用の禁止薬物が認可されているのだが。
子育ても良層の男の仕事。女支配社会を批判する言動を子供たちにすれば下層に転落させられる。原則不可層行きだが、貧弱で男らしくない者は可層へ落ちることもある。
下層の男は悲惨だ。可層の、頭も顔もよくない、取り柄のない男たちは、去勢され、宦官になるか働き蜂になるしかない。一生同じ境遇で上層に上がる機会も与えられていない。
不可層は、女支配社会転覆を企てる政治犯やそれに準ずる大罪を犯した、この世から排除されるべき男たち(『21世紀の戦争論』(文春新書)で半藤一利氏に佐藤優氏が話した、第二次世界大戦敗戦前後真っ先に満州入りし日本人を理不尽に蹂躙したソ連兵の懲罰部隊、いわゆる囚人部隊に似ている)。
不可層の男は、去勢されない。隔離されているし、なにより兵士として戦争に駆り出されるか文字通りの金網デスマッチの闘士にされるので、男性ホルモンは欠かせない。古代ローマの剣闘士のごとく、奇跡的に最後まで生き残った者は、上層に上がれる道もある。
私自身は、一見人畜無害に見え、美しい誤解もあってか、上層の良層にて、ハーレムに呼ばれることもなくのんびりと暮らしていた。が、それでも持ち前の反骨精神がもたげてきて、女児たちに男の優秀さ、女支配社会の矛盾について話してしまった。
ある日突然、妻と見間違う女警察長官がやってきて「頭も顔も悪い可層のハズのお前が偉そうな態度をとるのは許さない。袋も竿も完璧に去勢させてやる!」と言い放った。
「ままっ、待ってください。白髪が少ないけどもう老人ですよ。第一放射線治療で故障しています。いや、予後不良なんですよ!」と(まだこんな体形の女がいたかと思うほど)太短い足にすがらんばかりに哀願しているところで目が覚めた。夢でよかった。どうしてこんな怖い夢を見てしまったのだろう。昨晩ナチスのドキュメンタリーと映画『ハンガーゲーム』を観たためか。台所に立つ妻はいつものように明るく優しそうで安心した。