2018.1 NO.83よんれんぱ VS よんれんぱい
正月恒例の箱根駅伝に原晋監督率いる青山学院大学駅伝チームが4連覇をかけて1/2~3天下の剣の箱根路に挑む。出雲駅伝、全日本大学駅伝は落としたが、果たして。
2年に1度開催される世界陸上において、この前(2017年8月)の大会で引退し文字通りレジェンドとなったウサイン・ボルト選手は、200m走にて過去4連覇を達成している(引退の今大会では出場せず5連覇は目指さなかった)。
4年に1度開催されるオリンピックで4連覇(12年を要する)するのは、どの種目においても、至難の業。前回(2016年)のリオ・オリンピックの女子レスリングで4連覇を目指した日本の二人の選手で明暗が分かれた。伊調馨選手が4連覇を果たし、国から国民栄誉賞を授与された。夏季オリンピックの120年の歴史の中でオリンピック4連覇を果たした選手は、陸上男子走幅跳のカール・ルイス 選手(1984-1996)、水泳男子200m個人メドレーのマイケル・フェルプス選手 (2004-2016)を含めこれまで5人しかいない。あのボルト選手でもオリンピックでは100m、200mで三連覇したに止まる。それもすごいことではあるが。
吉田沙保里選手は、残念ながら4連覇を逃した。ただ、男子レスリング(グレコローマン)のアレクサンドル・カレリン選手は、霊長類最強男と呼ばれたが、オリンピック3連覇の後の4連覇目のシドニーオリンピックは銀メダルに終わった。吉田選手もこれとまったく同じで霊長類最強女子と呼ばれるにふさわしい実績に変わりはない。
スポーツ界に限らず勝負の世界では、4連勝することがあれば4連敗することもある。4連敗と言えば将棋の竜王戦を思い起こす。奇しくも本年度同じ二人が戦っている(羽生棋聖が3勝1敗でリード。本日からの対局に勝利すればファン念願の永世竜王)が、その9年前の2008年の竜王戦において羽生善治現棋聖が渡辺明竜王に初挑戦した。ともに制すれば初代永世竜王の称号を得る(羽生棋聖は通算7期目、渡辺竜王は連続5期目)。羽生棋聖にとっては史上初の永世7冠(当時の全7大タイトルのすべてで永世称号を得る)もかかっていた。
羽生棋聖は7番勝負の初戦から3連勝した。当時3連勝した後7番勝負で負け越すことはまだ起きていなかった。リーチがかかった第4局目も羽生棋聖が勝勢となり、渡辺竜王は羽生棋聖が次どんな手を指しても投了するつもりだった。しかし、勝ちを確信していた羽生棋聖がゆっくりと水かお茶を飲んで指そうとしたその一瞬の間に、渡辺竜王が詰まない手を発見し、結局羽生棋聖はその対局を落としてしまった。それが尾を引いたのか、その後の3対局も全敗し、結局4連敗となり永世7冠は幻に終わった。最終局の大盤解説会場は重苦しい雰囲気に包まれたことは想像するに難くない。
この対局に限らず、対局終盤の帰趨は分かりやすい。勝勢の方が盤面に覆いかぶさるように前のめりになり、一心不乱に詰めに間違いがないか読み耽っている。だが、対局が終わった直後ではどちらが勝ったか分からない。勝った方も苦虫を嚙み潰したような顔をしている。負けた相手の気持ちを慮ってのことだ。日本人の美徳「惻隠の情」というものだ。
惻隠の情と言えば、日露戦争の水師営の会見が有名。旅順降伏後の会見にて敗軍のステッセル将軍を辱めることなく(世界の常識に反し)帯剣を許して記念撮影したことで乃木大将が世界から称賛された。その前にも、日清戦争の折、伊東祐亨初代連合艦隊司令長官と島村速雄参謀は、敗戦した清国の丁汝昌提督が自裁した際、没収した艦船の中から輸送船「康済号」を返し、丁提督の棺を送らせるともに弔砲を撃ち哀悼の意を表した。花も実もある武士の美談として欧米諸国にも打電されたと中村彰彦氏が自著『智将は敵に学び 愚将は身内を妬む』の中で記している。
2016年8月のリオ・オリンピックで銅メダルを獲得した水谷隼選手に対して、TV番組でご意見番の張本勲氏がクレームをつけた。『あんなガッツポーズはダメ 手は肩より上に挙げちゃいけないんだよ! スポーツは『礼に始まり礼に終わる』ですから」と。世間はガッツポーズの高さの発言部分に反応し張本氏に異を唱えた。張本氏が言いたかったのは、発言の最後に“礼に始まり礼に終わる” 将棋と同じことを言っているから、惻隠の情のことだったと思う。その意味では、銅メダルがかかった大一番の試合で、勝った瞬間卓球界では珍しく仰向けに大の字に床に倒れこんだのを指摘すればよかったのだと思う。何としても勝ちたいと思うのは相手の選手も同じ。その気持ちを酌むべきと(卓球界を牽引する水谷選手には地味との卓球イメージを覆したいとの想いも根底にあったのは確かだと思うが)。
2017年5月末埼玉スタジアムで行われたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝トーナメント1回戦第2戦の浦和レッズ対済州ユナイテッド戦で乱闘騒ぎが起きた。負けた韓国チームが非難されて当然の狼藉であったが、その韓国チームの監督に「負けたチームもマナーを守るべきだが、勝ったチームのマナーも守る必要がある」と言われてしまった。敗者の気持ちを逆なですることがあったとすれば日本人として恥ずかしい限り。
こうした大人のサッカー選手がいる一方、その前日に行われたサッカーU-20ワールドカップ1次リーグ第3戦(日本対イタリア)の韓国サッカー場の日本側のロッカールームにおいて「ティシュペーパー一枚も落ちていなかった。ペッボトル等もきちっと分別されていた」とかの韓国人が驚嘆し賞賛していた。試合後のピッチでの日本チームの行動も褒められていた。そういえば、2014年に行われたFIFAワールドカップブラジル大会でも、負け試合だったが、試合後の日本サポーターのゴミ拾いが世界から称賛されていた。
日本人としてのDNAなのか若者にはよき日本精神(勤勉、正直、謙虚、潔さ、約束の厳守、惻隠の情)がまだ息づいているのではと思うと嬉しい気持ちになる。
今の少年たちを見ていると、日本の、日本人の、未来は明るく思えてくる。
公式戦29連勝し将棋ブームを再来させた、15歳にして礼節、惻隠の情も弁える藤井聡太四段、同い年で内村二世と呼ばれる体操の北園丈琉選手。近い将来世界チャンピオンが約束されたような卓球天才少年の張本智和選手。日本のメッシと呼ばれるサッカーの久保建英選手。日本陸上選手権の100m走、200m走で優勝し、日本最速記録が期待されるサニブラウン・ハキーム選手。2008年からショパン国際ピアノ・コンクールin Asiaで5年連続1位になった18歳の牛田智大ピアニスト。光速ウクレレ少年と称される10歳の近藤利樹プレーヤーなど、男子だけを見てもジャンルを問わず若き天才が目白押しとなっている。
ただ、才能を持った若者が順調に育つとは、残念ながら一概には言えない。昔から「神童も二十歳過ぎればただの人」という成句もある。大人になって、だれもが野球の松井秀喜さんやゴルフの宮里藍さんのように実績も(驕らず周りを気遣う)人格も両面認められ、世界から愛される日本人になるとは限らない。
本人自身の問題だけではないのかもしれない。若木に養分を与え過ぎるスポンサーの存在がかえってアダになるのか。それとも取り巻く大人たちがいけないのか。
我らロートルも、自らは平和ボケしているくせに「今日日の若い者は」と言いがちになる。あの世は我らの為、この世は若者の為にある。臭い息と加齢臭は許してもらうとしても、稲の伝染病いもち病のように若者を腐らせないことを年頭にあたり心に深く刻もう。