2017.11 臨時号 NO.79 アジ VS アシ
最近憂国の士気取りで、「物言わぬは腹ふくるるわざなり」と言わんばかりに腹立つことばかり書いていたような気がする。時には腹が空く話もしてみることにする。
秋から冬にかけて青魚が美味しい。「光物」と呼ばれる青魚で代表的な、サンマ(秋刀魚)、サバ(鯖)、イワシ(鰯)、アジ(鰺)の内、ある事で仲間ハズレになっている魚は何か。
正解はアジ。サンマ雲、サバ雲、イワシ雲と呼ばれるが、アジ雲というのはない。秋の象徴的な雲・巻積雲は、小さな雲片が多数の群れをなし、集まって魚の鱗や水面の波のような形状をしていることから魚に例えられたという。光物の中ではアジは見た目が地味なのかもしれない。他の青魚に比べて油が少なくやや淡白なところもアジの特徴。
魚の背がギンギラギンでさり気ないハズがなく、油ぎる光物の刺身は好きではない。とくにサンマの刺身は苦手だが、くせのないアジだけはむしろ喜んでたたきとかを食する。私に限ってはアジを光物とは仲間外れにしている。アジの名の由来も味がよいということから来ているという説が有力だが、納得するところだ。
私にとって、サバとアジは大違いなのだが、同じススギ目の魚で親戚である。ぜいごと呼ばれる硬いとげのある稜鱗が尻から腹にかけてあるのがアジ。サバにはそれがない。後述するアジにもブランドがあるが、サバのブランドとしては、関サバ、松輪サバ、岬(愛媛)サバが有名。なお、コンサバは、金鯖ではなく、保守的なという意味の外来略語。
いつも腐らず元気な明石家さんまさんと違って、イワシやサンマと並んでサバは生き腐れといわれるほど足がはやく腐りやすい。そこで酢で〆ることになるが、それが好きではない。江戸前寿司ならコハダ(小鰭)にうるさくなければ通とは呼べないが、私はまず食べない。関西では、しめ鯖のことをきずしと呼ぶ。関東のしめ鯖より、酢が立っており、子供の頃一切れ食べるとうっ!となり、三切れ目にはもどしそうになったものだ。ハレの日などに母がよくこのきずしとバラ寿司(関東はちらし寿司)を作ったものだが、この二つの酢の料理が苦手だった。もっとも、酢が嫌いかというとそうでもない。餃子のつけだれは酢と醤油の割合は8:2と酢をたっぷり利かせる。元AKB48前田敦子さんや歌手の八代亜紀さんほどではないが、あんかけ焼きそばなど中華料理によく酢をかける。
魚、とくに青魚はDHA・EPAも豊富で健康によいと言われなくても、歳をとってくると肉よりも魚が美味しいと思うようになってくる。私は、元来白身で淡白な、おっとっと、女ではなく、魚が好きだ。タイ(鯛)やスズキ(鱸)を塩焼きにしてかやくご飯(関東は五目飯)の上にのせて食べるとたまらない。タイのあらで潮汁もよく作る。
赤身のサケ(鮭)の切り身を買えば、オリーブオイルでムニエルにして食べるか、冬は粕汁に入れて食する。青魚では、サンマは塩焼きが一番だが、ソテーしてスパゲッティー・ペペロンティーノに混ぜ入れることもある。サバは伊藤食品のサバ缶(味噌煮)で十分。アニサキスも心配ないし。イワシは、小骨が妻の小言と同じでうるさく、あまり食さない。
アジの料理は、刺身、たたき、なめろう、それを焼いた、さんが焼き、塩焼き、干物、フライと幅広いが、とくにフライが好きだ。アジの干物は食べない。干物は、逆にもっと油が乗った方がよい。函館で良物を食べて以来好きになったホッケや赤魚の金目鯛、好きな金沢に行ったときはノドクロ(アカムツ)の一夜干しを頬張る。
『終わった人』(講談社)で甘い幻想を抱きがちなアラ還男たちに冷や水を浴びせた作家内館牧子さんもアジフライが好物らしい。エッセイ『毒唇主義』では、盛岡滞在時に心臓と動脈の急性疾患で倒れ、奇跡的に命をとりとめ約4か月ぶりに普通食が可能となったときイの一番にアジフライ(ソースどぼどぼがけ)とラーメンを挙げたという。
私は、池上線旗の台駅近くの釣り魚の店『舟武』でアジフライの美味しさに目覚めた。本ブログ2013年9月号(「ウクライナ と ユウクライナ」)に登場する、妻とひと時を過ごした店がこの店だ。房総の地魚の刺身、でっぷりしたエビフライ、小ぶりのアジフライ、〆の雑炊が定番だ(大将が店に出なくなってからは次第に足が遠のいてしまったが)。
美味しさに目覚めて以来アジフライの名店巡りをしているが、尻尾付きと尻尾がない半身揚げの2種類に分かれるようだ。どちらも美味しいが、どちらかと言えば、肉厚な半身揚げよりも尻尾がついた小振りのアジフライの方が好みといえる。
浅草の『徳仙』は小ぶりで尻尾付き。あの欽ちゃんの思い入れの店。他で尾付きで千円未満の定食としては、八丁堀『うら八』新御徒町『まめぞ』門前仲町『富水』など。
千円以上では、大森海岸『入舟』渋谷『d47食堂』や姿づくりの形でアジフライが供される錦糸町『魚義』がよい。尻尾付きアジフライ一枚と刺身がセットになった嬉しい定食なら、新お茶の水『たんぽぽ』恵比寿『さくま』渋谷『御厨』。遠出なら沼津『ずう』など。
尻尾がついていないアジフライは、やや大振りの身がふっくらとしたアジを半身で揚げるのが多いが、その代表例と言える店は六本木『田はら』。愛媛県三瓶町のブランド「奥地あじ」を使用している。ただ、ランチとしては2千円(税引き)と値が張る。千円未満では、銀座「三州屋」淺草雷門『ときわ食堂』が普段使いできる。
今春には、ブランドの黄金あじを食べに、房総に足を延した。二大有名店の浜金谷『さすけ食堂』(半身揚げ)と竹岡『マルゴ』(尻尾付き)をはしごした。10時開店の10分後にさすけ食堂に着いたが甘かった。順番待ちは18組目で都心なら帰るところだが、店外の長い椅子に座れるので待つことにした。1時間強経ってようやくアジの刺身もついた『さすけ定食』を頼み肉厚のアジフライを頬張った。その後近くの金谷美術館(コンクール入選作展示中)に寄り、それから一駅手前の竹岡駅近くのマルゴに向かった。アジフライは尻尾付きで好みなのだが、小ぶり過ぎて、ふっくらした身の厚いアジフライを食べた後ではすこし衣が気になってしまった。食べログでは、さすけ食堂の方が点数が高いが、妥当だろうと感じた。なお、TV深夜番組『孤独のグルメ Season6』では浜金谷『漁師めし はまべ』の方を紹介していた。次の機会には訪問してみたい。
ブランドアジと言うなら、三浦半島の松輪アジを使う東京・京橋『松輪』も外せないが、大根おろしと醤油で食べるとのこと。私は内館先生ほどドボドボかけないが、ウスターソースかトンカツソースで食べたい派だ。ソースを使わせてもらえそうもなく敷居が高く未訪問。マツコ・デラックスさんが絶賛したという築地市場内『八千代』(尻尾付き)や同市場内の『小田保』(半身揚げ)には、せっかちで短気な私は行列に耐えられず足が向かない。食道楽の端くれだが、お笑いのアンジャッシュ渡部建さん、フォーリンデブはっしーさん等著名グルメブロガーほどの拘りや情熱を私は持ち合わせていない。
それでも、銀座、渋谷、上野、錦糸町、北千住等映画、美術館、カラオケ等に行く折居酒屋や食堂にランチに立ち寄る。中には、魚が売りなのに衣もついた冷凍物を揚げたアジフライを出す店もある。矜持があるのかと立腹することもあるが、隠れたアジフライの名店に出会えたときの嬉しさは格別だ。これから先もぶらり味のある探訪は続けていきたい。