2017.12 NO.81 コンビニ VS コンビに
作家の村田沙耶香さんはコンビニでバイトしながら小説を書き、昨年上半期芥川賞を受賞した。私も10数年前わずか8ヵ月間だけだったがコンビニでバイトした経験がある。公益社団法人に在籍しながら深夜のバイトをすることになった経緯については、仔細は書けない。一言、自他ともに私自身に罰を与えるためとしておこう。
料理が趣味なので、フグのチェーン店をはじめ外食の店の面接を数度受けたが皆断られた。先方はイキのいい若者を欲しているのに、貧相でいかにも訳アリの中年男はお呼びでない。結局、その頃長男と長女がSコンビニにバイトしていたのでそのよしみでSコンビニの某店の店長(以下「店長」という)に拾ってもらった。親の七光りと言うが、子供の七光りでバイト職を得たヘタレな父親だ。
頭書の受賞作『コンビニ人間』(文藝春秋)のP63に書かれているとおり、コンビニのアルバイト店員を見下しているお客は少なくないと私も感じていた。バイトとはいえコンビニ店員としての自覚と責任感を強く持たなければアブナイと思った。気の強そうな若いホステスに袋への詰め方が悪いときつくなじられたり、釣銭を渡したつもりが千鳥足の酔っ払い客が受け取り損ね他の客もいる前で罵倒されたりもした。が、やってられるか!とキレることはなかった。やればできるものだと思った。
この他バイトしてみてよかったと思えることは、50歳を過ぎていたが意外に体力があると発見できたこととお金の有難味がわかったこと。夜の10時から朝方5時か7時まで途中の仮眠なしで勤務した。それで1日税引き11千円ほどだったか。社団の仕事もあり週に2、3日勤務でもしんどかった。月20万円を深夜バイトで稼ぐのは容易ではないと痛感した。
銀行の元同僚で銀行本体から関係会社に移り不遇をかこつ者に対し「能力があろうとなかろうと、もう必要としていないのに関係会社に置いてくれる。それがどれくらいありがたいことかコンビニの深夜バイトをすれば分かる」と諭した。
当時コンビニでの昼間のバイトは女学生らで用が足りた。深夜は私のようなおっさんでも使い道がある。いろんな訳アリの人がバイトに来ていた。私に最初に仕事を教えてくれた人は、家で塾を開いている先生で、里子を預かりその子の為にバイトするという奇特な人だった。敬拝すべき人だが、塾長口調に中学生に戻った気分になり、それには閉口した。運送業を廃業した中年女性は介護職の資格を取るまでのつなぎとしてバイトに来ていた。
訳なんかなさそうな明るく若いフリーターもいた。私自身の二十代の頃に比しずいぶんとしっかりしている。どうして正業に就かないのかと思ったが、尋ねることはしなかった。
店長は昼間働き夜の11時前後に店長の奥さんと交代する。奥さんが私の仕事を手伝ってくれた。奥さんは怒るとややヒステリックになるが全うないい人だった。奥さんも私が悪いことをするような人ではないと思ってくれたようで、次第に、真夜中商品の入れ替えや補充の作業しながら世間話をするようになった。ある時私は奥さんに夫婦での旅行や楽しみは後に残すのではなく、できる時にしておかないと後悔するときが来るかもという話をした。奥さんはそうだねとは言わなかった。
バイトして3か月経った10月頃バイトが終わり自転車で家に帰ろうとしたとき、奥さんに呼び止められた。不二家のノベルティーかペコちゃんの携帯ストラップを貰った。中年男に不似合いだったが、その心遣いが嬉しかった。それが奥さんと会話した最後だった。その日か次の日に店長が自宅のマンションから飛び降りた。
近所の新聞販売店からの未入金が溜まっていることや知り合いからの無心を断った気まずさなどストレスはあったようだが、それが原因になるものではない。
真相は知る由もないが、コンビニは24時間365日。それが1年続くということではない。店長である限り正月や盆も関係なく同じ日々が際限なく延々と続く。それで成績もよくないとなれば、無間地獄のようで鬱にならない方が不思議なのかもしれない。
コンビニ店の売上は一に立地、二に他店との競合関係に左右される。亡くなった店長のいた店は最寄りの駅から少し離れていた。その間に創設の頃はなかった僚店や他店ができ成績は振るわなかったようだ。バイトを多く使えば休む余裕もできるが、それでなくとも経費を抑える必要があるなら夫婦がフル回転せざるを得ない。夫婦コンビにしないと店のオーナーになれない条件があるのはそういうことなのだろう。
300万円そこらを用意するだけで、数千万円はかかる立派な店舗の一国一城の主になれる。安易な考えやゆるんだ経営姿勢を許さないのはある面理解できる。だが、“一将功成りて万骨枯る”でも困る。私のドジな長女はSコンビニは2店舗ほどクビ同然に辞めたが、Rコンビニにはそんな事態にはならなかった。本部からの締め付けがきついのかSコンビニ店のオーナーに心の余裕がないと見受けた。Sコンビニのカリスマ経営者が退任したので少しは状況が変わっているのかもしれないが。
コンビニ業界の問題点について言えば、今年初発覚した病欠バイトの罰金ペナルティー問題は店側だけの問題といえるのか。本部サイドに問題はないのか。私がバイトしていた当時の問題点については、早稲田大法学部安達陽子さんがまとめた卒業論文『どこまで黒いの、コンビニ・ フランチャイズ』に書かれている。なかなかの名論文 (今もネットで検索できる) で、彼女の後を追い卒論のテーマにコンビニ業界の問題点を取り上げる学生も散見された。そうした問題点は今どう改善されているのであろうか?
超高齢化社会において、近くにコンビニがなければ高齢者は『コンビニ難民』(竹本遼太氏著:中公新書ラクレ)に陥る。今やコンビニは単なる小売店ではなくライフラインだという。
それを支える店長夫婦とアルバイト店員がいる。勝ち組のコンビニ業界は、政治家にとって大きな支援団体かもしれないが、心ある政治家には業界の実態に関心を持ってもらいたい。亡くなった店長も草葉の陰からきっとそう望んでいることだろう。