総会の舞台となった大阪市の「梅田芸術劇場」。

"阪急らしい"豪奢な空間が印象的。


阪急阪神ホールディングス(HD)の定時株主総会が今月14日、大阪市の梅田芸術劇場メインホールで開催されました。会場内はヤジなども飛び交い尋常ではない空気であったそうですが、その大きな原因は阪急阪神HD傘下の阪急電鉄が運営する宝塚歌劇団にあります。



上掲は当ブログの過去記事でここに詳述しております内容も含めて各種報道を纏めて記しますと、宝塚歌劇団宙組の有愛(ありあ)きいさんが昨年9月30日、自宅マンションのベランダから転落して死亡、その前の経緯から上級生による"いじめ"や"パワハラ"を苦にした自死であると報じられております。会社側は長らく「パワハラはなかった」とみずからの責任を認めてこなかったのですが、発生から半年近く経過した今年の3月28日にHDの嶋田泰夫社長、宝塚歌劇団の村上浩爾理事長らが千里阪急ホテル(大阪・豊中市)で記者会見し、やっとパワハラがあったことを認め公に謝罪しています。



この対応の遅さ、拙さに加えて、謝罪さえ済めばコトが起こった宙組公演の体制をも通常通りに戻そうとする、あまりにも厚顔無恥ぶりを露見させた対応に、株主たちが非常に憤っている…その証左として角和夫会長グループCEOの再任賛成が57.45%ときわめて低い水準にとどまりました。ひとり過半数と少しという惨状に、ご本人が一番ショックを受けられているのではないでしょうか。しかも前年はタイガースの監督人事を差配したことから社内外から賞賛をされていただけに、まさに天国から地獄の心境であったことでしょう。


角さんがトップになる前の阪急電鉄〜阪急ホールディングスの流れをごく簡単に追っていきますと、私が聞いているうえに確証も持っているのであえて実名を挙げますが、バブル期に阪急のメインバンクであった当時の三和銀行(のちのUFJ銀行、現在の三菱UFJ銀行)に唆されて、大阪市西淀川区の開発案件を含むさまざまな大型投資を実施、それらがバブル崩壊によって不良債権化していったことに加えて、ほぼ同時期に発生した阪神・淡路大震災で800億円という巨額損失を被ったことが追い討ちとなり、90年代後半は財務的に非常に厳しい時代を迎えました。その後、財務畑出身者として初めて大橋太朗さんが社長となり、赤字であった宝塚・神戸の遊園地事業からの撤退や舞台設営ノウハウの外部販売開始などによる宝塚歌劇の黒字化、仏領ケイマン諸島の現地法人への鉄道資産の売却による節税など、ありとあらゆるかたちで財務力回復に尽力されました。


阪急が北摂の丘陵地を開発しつくった「彩都」は

たびたび数百億円単位の損失を計上する失敗例。


その後を継ぐ形で平成15年(2003年)に阪急電鉄の社長に就いた角さんは大橋さんの経営改善策により立て直しつつあったタイミングでの登板で、あまりに時期が良すぎました。企業をふたたび拡大路線に乗せるために平成17年(2005年)には純粋持株会社である阪急ホールディングスを設立、そのトップとして翌平成18年(2006年)には、それまで不倶戴天のライバルであり、村上ファンドによる株の買い占め問題の渦中にあった阪神電気鉄道の子会社化を推進、当時、財務基盤で阪急に勝る阪神を傘下におさめたことで阪急電鉄グループの財務指標を一気に好転させてみせた「功績」(※あくまで旧阪急HDサイドから見て)があります。


阪神電鉄の西梅田開発事業は巨額の含み益を誇り、

阪急HDが阪神の子会社化に動く要因ともなった。




ただ、先述した宝塚歌劇団の問題では大きく足を引っ張られる格好になってしまいました。

角会長が逃げずに、グループトップとして本問題を徹底的に糾弾し指揮権を奮って歌劇団の本格改革に着手しておけば、本人が望むか望まざるかは別としておそらく名経営者として後世に名が残っただろうに、結果として問題に向き合っていないとみられてしまったことで、非常に残念な評価になってしまったのだと推察します。


コロナ禍真っ最中の令和2年(2020年)シーズンで阪神タイガースの選手が名古屋市内に遠征の折、球団ルールに違反する会食をおこなっていたことが発覚しました。その時に角会長は問題発覚1週間後に取材に応え、「具体的なことは(阪神出身の)藤原オーナー(当時)に任せる」といった発言でお茶を濁してみせつつ、実は社内ではかなり素早いタイミングで腹心といわれる阪急出身の杉山健博社長(現:阪神タイガース取締役オーナー)に調査を指示するというスピード感を見せていたそうで、角会長・杉山社長の「阪急コンビ」の動きには非常に高い賞賛があったことも聞いております。


角会長が20年以上率いた阪急→阪急阪神の本丸、

大阪・梅田茶屋町に建つ阪急電鉄本社ビル。


角会長は総会内で株主から「辞任要求」を受けてこう答えています。

「75歳なので近々辞退をする。が、来年まではこのままの体制でいかせて頂きたい。」

これを言ってしまったからには、盤石な社内基盤をもとに関経連の副会長にまで登り詰めた角会長も、この1年は"レームタッグ"化が顕在化してくることでしょう。それをきっかけにした阪急阪神HD内部における「地殻変動」が必ず起こってくると思われます。引き続き注視をいたしたいと思っております。


▶︎次回の記事は6/21(金)に公開します。


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