大阪府・大阪市が共同で進めるIR(統合型リゾート)が国交省の区域認定を受けて、IR推進派は俄然勢いづいているようです。以前も申しましたように、私はIRの中核となるカジノ施設についてどう作用するのか、効果検証が不可能として賛否は持っておりませんが、良い点と問題点の両面を見ていきながら、本稿を通じてみなさんでご一緒に考えていきたいと思います。



まずは良い点から。

カジノの持つ国際的集客力は以前から指摘されていますし、アジア地域においてもシンガポールやマカオでは既に実績があります。またわが国が苦手とする「超富裕層」と呼ばれる層の集客を可能にすると言われ、そのような方々に'JAPAN'を売り出す絶好の機会と見る向きもありまして、聞いている限り夢が拡がります。



加えてカジノがもたらすであろう利益でパブリックな施設も整備されるということ。大規模なMICE施設の整備に公的リソースを注入することなく整備できるほか、ホテルやSCも利益ベースではないため、これまでわが国にあるものとは異次元の環境がつくられることでしょう。またこれらの複合施設がウォーターフロントに開設されることにより、これまでキタ〜ミナミと呼ばれるエリアのみが発展を遂げていた大阪にとって沿岸部活性化のキーコンテンツとなりうることが想定されています。


またカジノによる利益からもたらされる納付金(国と地方で折半)、および日本人と日本在住外国人の入場者に課す入場料の全額は立地自治体にもたらされることになります。大阪IRについてはこれらを1060億円を見込んでいて、これを大阪府と大阪市で折半すると、府市双方の税収は530億円の純増となります。増えた税収でギャンブル依存症対策や治安対策などカジノ設置に必要な事業を実施し、残った余りある資金で住民サービスの向上に繋げていくという説明です。



カジノというギャンブル性の高い施設を誘致することに否定的な意見もみられますが、すでに大阪市内には住宅地はもとより都市部の商店街にも多くのパチスロ店が立ち並び、「ボートレースのメッカ」ともいわれる住之江競艇場が市内にあるなど公営競技もさかんで、大阪市を代表する梅田・難波という中心市街地には競馬・競艇の場外発売場もあります。横浜ではIR反対派が市長に当選、和歌山では県議会でIR設置が否決されている中で大阪府市において反対のうねりが少なかったのは、そもそもの市民性が大きいことは、その理由として排除しきれないと考えております。


では、次に懸念される問題点について指摘してまいります。


まず、予測値におけるベースとなっているとみられるカジノ施設へのアテンダンスは年間2000万人で国内客1400万人、海外600万人を見込んでいます。国内7割、海外3割と読んだ目標値は、実はよく出来たもので、IR開業を見込む2029年の国際情勢、為替、その他の状況によってインバウンドの振れ幅は大きくなるためややネガティブに見込んだのでしょう。

しかし、この国内客の1400万人見込みは逆立ちしても(笑)不可能であります。物見遊山的なゲストの入りを見込んでも3割〜4割弱といったところになるでしょう。おそらく街中のパチスロ店とは一線を画したい府市サイドと日本人のギャンブル性を自社の収益に繋げたい事業者サイドでの駆け引きではあると思いますが、日本在住者のアテンダンスを増やすためには年間パスポートなどリピーターを増やす施策がマストです。


また、カジノ施設に伴い新設されるパブリック施設についてグレードダウンしていることも大きな懸念点です。コロナ禍前にあたる2019年11月に出された当初案では国際展示場の面積を10万㎡以上としていたものが2021年には2万㎡以上に縮小、最終的に2万㎡で確定しています。国の参入条件上、6500席規模の国際会議場も合わせて整備されるようで、3500室規模のホテルも含めて国際会議や国際的イベントの誘致も図られるものと推測しますが、このクラスであれば公民一体となってカジノなしで建設できるのではないかという意見もあります。


それらに伴い地域経済における効果が予想を大きく下回るのではということが懸念点の3つ目。収益の8割をカジノで、その入場者の7割を日本人と見込んでいることについて、当地財界のトップである関経連の松本正義会長はあくまで自らの考え方として強い懸念を示しています。



SNS上においてIR推進論者は、IRに及び腰になりつつあるわが国の論調を憂う声を発信し続けているようでして、確かに人口減少の中で経済力を高めていくためのひとつの手段としてIRをうまく使っていこう、というところについては私も同意をいたします。しかしながら、「パリ」「ミラノ」「ロンドン」「ニューヨーク」のような都市格の高い地でIRが推進されないのは何故なのでしょう?



大阪の場合、市歌で「高津の宮の昔よりよよの栄を……」と謳われているように街の成立は非常に古いものの、歴史的に見れば、ところどころでプツリプツリと切れてしまっていて連綿とした文化性はほぼありませんので、おのずと「シンガポール」や「マカオ」などの新興都市に倣うかたちになる理由は分からなくはない、しかしながら、わが国の首都機能のある東京や、神戸と並び称される港町の横浜などの他都市が大阪に倣うことには些かの違和感を禁じ得ません。



大阪は区域認定を受け事業会社の計画が練られ、国のカジノ免許交付を待つことになります。事業会社にとって経営判断を迫られるまでの状況の急変ない限り、このまま進んでいくことになり、水面下でIR参入を目指す各地域は大阪の様子見を決め込んでいるようです。横浜は2021年の市長選でIR反対派の市長を当選させるなど「一旦は」旗色が明確になったといえますが、お台場へのIR誘致計画が度々取り沙汰される東京など、水面下では動きがみられると聞きます。ただ収益性とか公益性とかに目を眩ませるのではなく、各々の都市格に見合った選択をしてほしいものと思います。


【おことわり】

当ブログはそのタイトル通り「思い付き」更新のため不定期で更新をしてきましたが、長く続けていますと、定期的に投稿してほしい、とのお声を多数頂戴するに至りました。

そのため、原則として「月・水・金」の週3更新とさせていただきます。

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私も目標として励みますが、多忙時など更新が滞ることも想定されます。何卒ご容赦いただき、気長にお付き合い頂ければ幸いです。


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