(画像提供:みなとアクルス)
去る3月20日、名古屋市港区のららぽーと名古屋みなとアクルス隣接地に名古屋最大、2244人(スタンディング時)収容のライブハウス「COMTEC PORTBASE」(コムテック ポートベイス)がオープンしました。市内では「Zepp Nagoya」(ゼップ ナゴヤ)がありますが、ここがスタンディング時で1864名ですからこれを上回ります。
「コムテック」内部の様子(座席設置時)
(画像提供:中日新聞)
ポートベイスはみなとアクルスを整備する東邦ガスを筆頭に、名古屋のメディアも出資した「合同会社ポートベイス」が運営。同社代表社員の伊神悟さんは開業セレモニーの席上、「『名古屋飛ばし』という言葉は聞くたびに悲しい思いをしますので、この街の未来を信じてやっていきたい」と発言されたそうです。
「名古屋飛ばし」は新幹線に語源あり。
「名古屋飛ばし」。
(画像提供:時事通信)
そのことばの由来は、平成2年(1992年)に東海道新幹線で運行を開始したのぞみ号にあります。下り一番列車となったのぞみ301号は、東京駅を出ると新横浜駅に停車後、名古屋駅と京都駅を通過して、新大阪駅までノンストップ、というダイヤでありました。このとき、名古屋駅と同じく、すべてのひかり号が停車していた京都駅も通過となりましたが、京都の財界も自治体も大きな問題にしなかった反面、名古屋は官民挙げてのおかんむり。東海道新幹線は国鉄から東海旅客鉄道(JR東海)の経営に移り、同社は名古屋市に本社を置いたことから「地元企業の裏切り」に見えた面もあったでしょうし、それよりも一番まずかったのは、社内議論の段階でメディアに漏れてしまって、センセーショナルな報道が先行したことで、世論も巻き込んで大騒動となったのです。
さりとて、当時のJR東海が名古屋と京都を軽視したわけではなくて、のぞみ号の設定は東京-大阪の日帰り出張を実現するというミッションを帯びていて、東京駅を6時に出て、新大阪駅に8時30分に着くことで、梅田や本町(ほんまち)など大阪市内中心部のオフィスにおける9時スタートの会議に間に合う、という触れ込みでありました。
しかしながら、その頃の技術では路盤を固めるために早朝の数列車において若干の徐行運転が行われていて、名古屋駅と京都駅に停めていたら2時間30分を突破してしまうとのこと、また、観光ニーズの高い京都において、当時、新幹線による早朝移動のニーズがなかったこと(※現在であれば早朝拝観なども増えていてニーズはあるかも)、そして仮にこの列車を名古屋駅に停めたとて、7時40分ごろの到着となって、ビジネスパーソンにとっても結果として早すぎるということで、通過としたというのです。
この一連のJR東海の経営戦略じたいは非常に筋が通っている反面、これを「名古屋飛ばし」と散々騒ぎ立てた中日新聞その他地元メディアの考え方が理解できないものであります。実際にこの「のぞみ301号」と同じようなスジの「のぞみ99号」(品川駅始発6:00→名古屋駅7:25)、「のぞみ1号」(東京駅始発6:00→名古屋駅7:25)にわざわざ選んで乗って、何度か名古屋に向かったのですが、名古屋駅での降車は少ないものでありました。
では、今でも名古屋通過で良くない?と申せば、その答えは否でして、これらの列車は名古屋駅から大量に乗車があります。双方とも山陽新幹線に直通する博多ゆきのため、名古屋駅から山陽・九州方面への移動に不可欠な存在となっているのです。ただし当時の「のぞみ301号」は新大阪止まりで、名古屋駅〜山陽直通ニーズはその後に設定されたひかり号に委ねるしかなかったのです。
ライブにおける「名古屋飛ばし!?」
新幹線の経緯について相当詳しく書きましたが、一度トピックをライブに戻します。
ライブにおける「名古屋飛ばし」とは、首都圏や関西圏で開かれるライブが名古屋では開催されないという状況を指して使われます。実際の数字がこちら。
全国の総ライブ数…3万4545本
東京都開催…1万1613本
大阪府開催… 6002本
愛知県開催… 2401本
((一社)コンサートプロモーターズ協会、令和5年)
名古屋市を含む愛知県は全国の総ライブ数のわずか7%の開催にとどまること、また経済規模が近似している大阪府の半分にも満たない状況を憂う声が当地から出ていることについては、一定の理解ができようとは思いますが、これがイコール「名古屋飛ばし」と言えるのかは疑問です。ポートベイスと規模で競うZepp Nagoyaの稼働率はほぼ100%。現状として名古屋で開催したくても出来ない状況であったことも事実です。
加えて地勢的な事由も大きく、特に大きなライブとなりますと、ざっと4000万人の人口を持つ首都圏、1500万人の関西圏で開催すると、それらの真ん中に位置しており、1200万人の人口を抱える中部圏のフラッグシップである名古屋市における開催の意義が薄れ、主催者としては「どちらか」に行っていただくことが望ましい、となるのでしょう。この地勢的な特性は、名古屋駅の誘致にはじまり、その機能強化に資してきた歴史、また高速道路や空港などを民間と自治体が力を合わせて整備してきた賜物でありまして、数多の富の流入を生むことになりました。他方、利便性ゆえの他地域への流出も当然生起する、その端的な例がライブやエンタメにおいて、当地が選ばれにくい環境を生んでいるものと考えております。
これらの仮説を正とするならば、基盤となるハードの整備にとどまらず、都市圏を拡大する以外に他に途はありません。かつて名古屋市技官として戦後復興を指揮した田淵寿郎は、名古屋市を中心とする東海地方と北陸地方の経済連携の必要性を訴え、それが東海北陸自動車道の建設に繋がりました。私がたびたび申し述べている、北陸新幹線の東海地方への利便性強化策も、まさに田淵の考え方がもとになっていまして、非常に厳しい言い回しになりますが、名古屋は「日本の真ん中」たる宿命として、どこよりも都市圏拡大にコミットしなければ、このまちに未来はない。翻って、「真ん中」であるがゆえに、どこよりも都市圏拡大がやりやすい環境にあることも事実。田淵は名古屋の戦後復興において「このような(=名古屋市と北陸がコネクトする)構想を含めて立案した」(北日本新聞社・昭和39年発行「太平洋への道」より)とはっきり主張されていて、田淵が遺してくれた偉大な名古屋市の都市インフラの利活用ならびに再整備の必要性を強くお訴え申したいと思います。
大局観をもった市民性を醸成すること。
そもそも、「名古屋飛ばし」ということばじたい、葬り去った方がよい。首都圏や関西圏に対するアンチテーゼ、それそのものは勿論結構なことでありますが、「また飛ばされた」というような僻みに聞こえる節もあって、非常に不快な印象を覚えます。そもそも東海道新幹線の名古屋駅通過劇の際にJR東海に批判的であったとみられる中日新聞がつくったことばでありますが、先に詳述させていただいたとおり、当地の実益というものをまったく顧みずに、通過されたというだけで厳しく糾弾するのは、非常に小さな議論に感じます。名古屋にはわが国を牽引していくだけの力のある都市として、もっと大きく構え、大きく描くこと。
米国のメガロポリスの地勢的な中心は、ニューヨーク。
世界に冠たる経済都市であります。
では、日本のメガロポリスの地勢的な中心は………どこなのですか?
この地こそ、東海道メガロポリスの真ん中だ!
国家観たる大局に立ったときに、このまちが「大きく構えて、大きく描く」という必要性は、まさにここにあるのです。
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