神戸の一番店・大丸神戸店はターミナルに立地しているのではなく、ターミナルの三宮から歩いて10分〜15分ほどの距離にある「旧居留地」に建つ百貨店です。



本館東側(トアロード側)は1995年の阪神・淡路大震災で倒壊、97年に建て替えられたものであります。本館も非常に立派な建物でありますが、今日の本題は「周辺店舗」といたします。



明石町(あかしまち)筋サイドには本館外周にコリドールが設けられ、1階にはUCCグループによるカフェ「カフェラ」がオープンカフェを運営しています。

ここの特徴は、大型店内にあらゆる機能を包含して集客力を高める他の百貨店とは一線を画し、周辺街区とともに活性化を図る方法がとられているところです。飲食施設は上層階に設けて集客装置とする思考の強い大型デパートで、1階の外周道路に向けてカフェを設置する発想は97年当時でも前例がありません。大丸松坂屋百貨店社長で神戸店長も歴任された"神戸っ子"、澤田太郎さんも「象徴的(なプロジェクト)」と振り返っておられます。


周辺店舗展開の歴史


実は大丸の周辺街区活性化はこの時にはじまったものではありません。

ターミナルから遠く離れた大丸に対して、三宮交差点角に位置するそごう神戸店(現:神戸阪急)との熾烈な競争の中、1970年ごろから失速しはじめる大丸神戸店。

その中で、慢性的な赤字に苦しんでいた博多大丸の社長として同社の黒字化を果たした、これまた"神戸っ子"の長沢昭さんが本社役員への異動を蹴ってまで神戸店長に手を挙げられたそうです。

長沢さんは本館南側に隣接し仲町通に接する「旧居留地38番館」に着眼しました。38番館は滋賀・近江八幡市を拠点に関西各地に数多の洋館建築を遺したウィリアム・メレル・ヴォーリズの設計として1929年に完成したものです。ヴォーリズは大阪の大丸心斎橋店(旧館、基壇部ファサードと1階内装は保存ないし復元)や関西学院(兵庫・西宮市)の設計にも携わっていることで広く知られています。



実はこの歴史的な建物は長らく大丸が所有する中で、店舗のバックヤードとして使われていたそうであります。長沢さんは当時のトレンドであったサザビーリーグの〈アフタヌーンティー・ティールーム〉や〈アニエス・ベー〉を誘致するにあたり、路面店展開に拘る同社に38番館への出店を打診、快諾をもらったことで、1987年、初の周辺店舗「LIVE LAB WEST」(リブラブウエスト)を開店したのです。


これが当たったことで自信を深めた大丸は、パーキングなど店舗周辺の自社物件への路面店開発を進める一方、当時は古い建物が多く空き区画が目立っていたビル旧居留地のビルオーナーたちとともに、街区全体の活性化を進めていくことになるのです。


そのさなか……………


阪神・淡路大震災の発災。


(写真提供:神戸市)


1995年1月17日、まだ夜が明けきらない中、神戸の地は激震に見舞われました。

大丸神戸店は本館東側が倒壊、建替を余儀なくされます。古い建物が多かった周辺街区も多くの建物が被害を受けました。


周辺街区とともに発展を遂げてきた大丸は、震災から2年を経過した97年の復興オープンに際しても、まちが一体となった活性化を目指し、ビルの低層階を大丸が貸借し周辺店舗として路面店展開する手法を加速度的に進めます。先の澤田さんは「1987年の(長沢店長時代の)全面リフレッシュの路線を踏襲した」と回顧していて、ショップを館だけで囲い込む「内向き」展開から、周辺街区とともに賑わう「外向き」展開へのマインドチェンジが確立したのです。


最近の周辺店舗戦略を読む

その後も周辺店舗のブラッシュアップを随時進められています。ここから先は、昨年よりいくつかのブティックのニューオープンとリプレイスを取り上げます。


〈ルイ・ヴィトン〉を仲町通の別の場所(旧居留地25番館)から神戸店近くに誘致したのも大丸です。奥の38番館には〈エルメス〉が店を構えます。38番館の奥が神戸店本館です。


本館東の壁面に相対する明石町筋沿いを北に見ています。ヴィトンの隣には〈グッチ〉が。


さらに北にはアルマーニのふたつのラインが仲良く並びます。



本館正面を通り、三宮と大丸神戸店を結ぶ道路「花時計線」沿いには同店の周辺店舗展開はなされていませんでしたが、ここに〈バーバリー〉と〈ロレックス〉がオープン。


旧居留地街区全体に広がっていた路面店展開を店舗周辺にリプレイスを図ることで、神戸店本館との回遊性を高める取組と推測します。一方で旧居留地の大丸から離れた区画は歩行者の通行量が目に見えて減っている上に空きテナントも多く見られてきていて、これらの「大丸頼み」からの脱却も併せて求められるところです。


周辺店舗戦略における課題


館の中に囲い込み集客力を維持しようとする「内向き」、そして大丸神戸店のように周辺街区とともに賑わいを創出しようとする「外向き」、双方のメリット・デメリットは詳述しませんが、彼が指摘した買い回りや比較購買については「内向き」が、街区活性化やショップ設計の自由度などでは「外向き」が有効と考えられます。その中で「外向き」の顧客本意の視点から見た時の課題と改善策を大きく2点考察したいと思います。


❶比較購買のしにくさ

「外向き」だとブランドブティックとして独立しているため、比較購買のハードルは高いと考えられます。

そこを踏まえた時に、シューズやハンドバッグなどの雑貨・身廻品に比較購買のニーズが高いことは分かっているので、そのフロアについてはMD重複になりますが本館で展開する方法は必要だろうと前々から考えておりました。伊勢丹新宿本店においても2006年の本館1階リモデルの頃より本館3階・4階のブティックゾーンだけでなく1階のハンドバッグやアクセサリーでもコーナー展開させています。


❷本館ラグジュアリーとの差異化

実は本館2階にもラグジュアリーブティックが展開されていて、〈シャネル〉〈ディオール〉〈ブルガリ〉など19のブランドがブティックを出店しています。時折、周辺店舗とインショップを入れ替えてはいるのですが、その基準がよく分からない。これは館としての魅力を高めていくにあたって大きな課題だろうと考えます。

ややドラスティックな意見になりますが、ラグジュアリーは全て周辺店舗として外に出して、ジュエリー・ウォッチ関連だけ残して同カテゴリーを西日本一の面積でやる…神戸店のフィールドなら絶対できるはずです。


顧客起点でのオペレーションに期待!



周辺店舗とインショップのメリットを最大化させつつデメリットを補う施策は常に考えつつ、30kmほどしか離れていない大阪の店舗群にどう対抗するのかを考えていくべきで、その前提として「顧客本位」をどこまで貫けるのかがキーになることは言うまでもありません。

今回は周辺店舗メインの記事であったためにあえて触れませんでしたが、本館のフロア構成においても、アクセサリー・婦人靴の面積が足りていないのは明白であります。これらのフロアは明らかに混雑しすぎていて、顧客満足の視点から申せば改善の余地が感じられます。さらには先に記したようにジュエリー・ウォッチのカテゴリー強化や雑貨フロアにおけるラグジュアリー導入で本館のプレステージ性をさらに高めることにより、神戸商圏の拡大を目指して頂きたく、大いに期待いたしたいところです。


あとがき



実は先日、大丸神戸店の周辺店舗誘致に関して、市街地活性化の側面からひとつの例として説明していたところ、上掲リンクの和歌山特集①で記した大学生からこの質問を貰いました。


「神戸店の周辺店舗戦略は顧客本位の視点から見てどうなんですか?」


彼は「ショップを周辺街区に出すことで買い回り等で不便をかける」と。私はまちづくりとストアオペレーションという論点の差異をついて「あくまで『まちづくり』の視点からだと…」と切り返しましたが、自分の言葉ながら私のこの答え方では彼の最良の問題提起を無価値に貶めるほどマズイものでありました。大いに反省いたしたいところです。


「顧客本位」を持ち出した大学生の彼と、その大切な問題提起に向き合わずに「論点のズレ」を建前に話を逸らした私…どちらに分があるのか、議論の余地すらありません。となると、この記事は私が書いたというより、大学生に「書かされた」ような印象を読み手のみなさんに与えてしまいそうですが、強ち間違いとも言い切れないところ。少なくとも記事を書く際のひとつの大きな示唆になったことは紛れもない事実であり、彼が私を軽々と超えてきてくれたことに嬉々とした感情を抱くところであります。暫くは私が投げかけるイジワルな質問に付き合ってもらいますけど(笑)、近い将来、きっと素晴らしいマインドを持ったプロジェクトリーダーに育ってくれることでしょう。


【おことわり】

当ブログはそのタイトル通り「思い付き」更新のため不定期で更新をしてきましたが、長く続けていますと、定期的に投稿してほしい、とのお声を多数頂戴するに至りました。

そのため、原則として「月・水・金」の週3更新とさせていただきます。

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私も目標として励みますが、多忙時など更新が滞ることも想定されます。何卒ご容赦いただき、気長にお付き合い頂ければ幸いです。


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