ショービジネスの中のワイルドフラワー
ドリー・パートンが先日、80歳で亡くなった。世界中のメディアやSNSで追悼されていたので、「そんなに凄かったんだ」と思っている人も多いんじゃないかな。
ドリーは1970年代にカントリーの世界で成功し、その枠に留まらずにポップミュージックやロックのフィールドでも大成功した。生涯に3,000以上の曲を作曲し、保守的な地域から出たとても派手で静かでリベラルなオピニオンリーダーでもあった。
ドリー・パートンを知ったきっかけは、子どもの頃にオリビア・ニュートン・ジョンが歌った「Jolene」を聞いたことだった。
何年か経って何か面白い音楽がないか探しているとき、ドリー・パートンがその作曲者で他にも良い曲がたくさんあるらしいと知って関心を持った。
Jolene
最初に彼女の凄さに気付いた曲は、「Coat of Many Colors」だった。
テネシー州の田舎にある農家の12人兄弟の4人目として生まれたドリーは、少女時代は経済的には厳しい状況で育ったという。その頃の思い出を描いたこの曲の美しさを分かる人は、世界中にいるだろうと思う。
端切れをもらった母親が、それを集めてコートを作ってくれた。嬉しい気持ちでそれを着て学校に行ったら、みんなにバカにされたけれど、母親が話をしながら作ってくれた色がバラバラなこのコートは、みんなが着ている立派なコートなんかよりもずっと価値があるんだというお話し。
ストーリー仕立てになっているので、できればぜひ歌詞を全部見て欲しい。
いまだったら私たちにはお金がなかったことが分かる
でも私は自分のできる最高に豊かな生活をしていた
私の色とりどりのコートの中で
だってそれはママが私につくってくれたんだから
私だけのために
Coat of Many Colors
誰でも思うだろうけれど、ドリーは安っぽくて大げさな見かけと繊細な曲が遠すぎて、何だろうこの人?というのが最初の印象だった。
まるで大昔のクラシックの作曲家みたいなでかいブロンドのカツラ、巨大な胸、陽気なユーモアと親しみやすさで作ったパブリックイメージは意識的だったようで、「こんなにも安っぽく見えるためには、かなりのお金が必要なのよ」とよくジョークを言っていたらしい。
彼女の生まれたテネシーをテーマにした「My Tennessee Mountain」は、カントリーやブルーグラスの感じが強い名曲。まるでフォスターが作ったようなこの曲は、いまではテネシー州の州歌にもなっている。
私のテネシーの山にある家では
人生がまるで赤ちゃんの息づかいのように平和で
私のテネシーの山にある家では
すぐ近くの野原でコウロギが鳴いているの
My Tennessee Mountain Home
ドリーは、ロックやポップスなどを含むいろいろな音楽的な冒険をしながらも、ベースとなる部分がしっかりしているからか、生涯にわたってエンターテイナーであると同時に音楽家として素晴らしい作品を作り続けた。
ここでは個人的に好きなメロディアスでアコースティックな曲を紹介しているが、ドリーにはいろいろな顔があるので関心をもったら探ってみて欲しい。
2001年にリリースした38枚目!の『Little Sparrow』も、カントリーやフォークっぽさが感じられる内省的でとても良いアルバムだと思う。(その後も10枚くらい新譜をリリースしている)
「Little Sparrow」は、若い女性を小さな雀に喩えて「嘘をつく男を信じちゃいけない」と警告している曲。
Little Sparrow
ドリー・パートンは、ショービジネスの世界に入ったときのデフォルメされたキャラクターを最後まで続けながら、父親は読み書きができなかったという理由からか、0歳から5歳までの子どもに毎月1冊の本を郵送するプログラム「イマジネーション・ライブラリー」を長く続けてきた。そのプログラムは、今では世界中で毎月約85万人の子どもたちに本を送っているそうだ。
ほかにも保守的なカントリーの世界で、最初にLGBTを支援した一人だったらしい。
ドリーには、現在は見出しにくくなっているアメリカの最も良い部分、緩やかなリベラルさ、明るいユーモア、真実を求める優しい心、不正と戦う強い意志と勇気があったと思う。
彼女のことは、以前にも『Torio』というドリー、エミル―・ハリスとリンダ・ロンシュタットの3人で組んだアルバムの紹介で書いたことがある。このアルバムは大好きだった。
そこでも紹介したけれど、ドリーが書いた「Wildflowers」という曲を最後に聞いて欲しい。ドリー・パートンのことはあまり知らないのだが、この曲は最も彼女自身に近いような印象を持っている。
丘には野の花が一面に咲いていた
花たちはただ、太陽の下で枯れていくしかない
私は、その場所で枯れていくなんて嫌だった
自由に育つことが必要な野バラのように
どこへ行くのかも恐れず私は走り出した
野生に育った花は、どこだって生き残れる
野生の花は、どこでだって育っていく
Wildflowers
ドリー・パートン、エミル―・ハリス、リンダ・ロンシュタットについて書いています
Dolly,Linda & Emmylou -アメリカの豊かなハーモニー















