静けさと情熱を持った音楽
カウボーイ・ジャンキーズは、1986年代の後半にレコードデビューしたカントリー、ブルース、ロック、フォークなどを内省的な独得の感覚でミックスしているカナダのバンド。どんなに音が大きくなっても残る静けさと、どこかデリケートでストイックな感じがとてもカナダらしいと思う。
4人のメンバーのうち3人は兄妹で、デビューから現在までメンバーが変わることなく、音楽と同様に地味だが確実に、長く充実した活動を続けている。
世界中の多くの人と同じように、このグループのことを知ったのは1989年の『The Trinity Session』だった。カナダの教会で一本のマイクを使ってライブ録音されたこのセカンドアルバムは、とてもスローでダウナーな雰囲気が、まるでブルースとアンビエントを混ぜたような感じでとても衝撃的だった(妖気が漂っているともいう笑)。
ここでは、オリジナルに加えてハンク・ウイリアムス、エルビス・プレスリー、ルー・リードなどの曲をカバーしている。他のどこにもない特別な雰囲気を持つこの作品は、長く残り続けるだろう。
エルビスも歌った古い歌「Blue Moon」の一節を引用した「Blue Moon Revisited」には、このグループの良さがすべて入っている。
Blue Moon Revisited
カウボーイ・ジャンキーズは1990年と2017年に来日したことがある。1990年のコンサートで、ヴォーカルのマーゴ・ティミンズは花と花瓶がある小さな机を前に置いて、少し高い椅子に軽く座って歌っていた。
どこかアマチュアのような素朴な感じがするマーゴが、遠くを見るように歌い始めると、儚くて力強いヴォーカリストに一転したことはいまもよく覚えている。
この時のコンサートのことが、その年の終わりに出たサードアルバム『the caution horses』のライナーノートで書かれていて、カウボーイ・ジャンキーズのことを何だか身近な人たちのバンドような気持ちがした。
「1989年は、私たちにとってかなり壮観な年でした。私たちはその年をトロントの小さなローカル・バーでスタートして、東京の中心にあるコンサートホールで終えました。」
『the caution horses』はダークさが薄まり、フォークっぽい感じが増していて、自作、カバーともに聞きやすい曲が多い。
「Rock and Bird」のプロモーションビデオは、寂れたオーディションに自信のない歌手と上手く引けないピアニストが登場し、自動ピアノが動き出すという内容になっている。この映像は、カウボーイ・ジャンキーズの音楽を聞くと感じる周りとの微妙な違和感や、もの悲しい感じが出ていてけっこう好きだった。
翼のない鳥は消え去って
重い心を持つ岩は戻ってきた
岩は彼女の力になって
そして鳥は彼女の夢になった
Rock and Bird
1996年にリリースされた『Lay It Down』に入っている「Angel Mine」という曲も映像を含めて気に入っていた。
穏やかで地味な曲なのだが、メロディも歌詞も素晴らしい。
彼はむかし知った翼を探していた
それは天使みたいな彼女の背中にあったもの
それが見つからなかったとしても、彼は別に気にしない
だってそれはまた生えてくることを知っていたから
私にはその翼が生えてきたり
光を失った光輪が輝き続けるという約束はできないよ
でも私はあなたの信頼を裏切ることは決してない
エンジェルマイン
Angel mine
カウボーイ・ジャンキーズは、『The Trinity Session』の20年後の2007年に同じ場所で同じ曲を何人かのゲストと一緒に演奏した『Trinity Revisited』というアルバムを出した。
そして2010年から2012年までの18か月に、「ノマド・シリーズ」と題した4枚のアルバムを連続してリリースしている。
安定志向のベテラングループだったら絶対にしないだろうことをするところが、伝統的な音楽をベースにしていても、決して保守的なグループではないカウボーイ・ジャンキーズらしいと思う。
その意欲的なシリーズは4枚とも感じが違うが、1枚目の『Renmin Park』はバンドの中心人物であるギターのマイケル・ティミンズが滞在した中国のいろいろな音を散りばめるなど、実験的なサウンドが入っていて、オルタナ・ロックバンドのサウンドみたいにも聞こえてとても良い。
[You've Got to Get] A Good Heart
カウボーイ・ジャンキーズの音楽は今でもよく聞いている。彼らの音楽には、どこか心の深いところに差し込む淡い光みたいなところがある。
もう30年以上も前になるなんて信じられないが、『the caution horses』の最後に入っている、とても個性的なシンガー&ソングライター、マリー・マーガレット・オハラの曲「You Will Be Loved Again」のカバーが、とても好きだった。
こんな風にデリケートな静けさと緊張感を持っていて、どこかに温かさもある曲はめったにない。
You Will Be Loved Again