Philip Glass -静けさと生命力 | 100nights+ & music

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2020年の1年間に好きな音楽を100回紹介していました。
追記)2023年になっても見てくれる人がいて驚きました、感謝を込めて?気が向いた時にときどきまた書こうかと思います、よろしく!

 

環境音楽にならないミニマル・ミュージック

 

 フィリップ・グラスは1937年生まれの現代音楽家の作曲家で、この原稿を書いている時点で86歳になる。クラシックを学んだあとにインドに行き、帰国してニューヨークでタクシー運転手をしながら、ビートルズで有名になったラヴィ・シャンカールとも音楽を作っていたらしい。

 彼には現代音楽のアウトサイダー的な巨匠という、ルー・リードのような印象を持っている。でも単に顔が似ていて、緊張感を持ったラジカルなニューヨーカーという部分が共通しているだけかもしれない。

 

 ダライ・ラマがアメリカで初めて公の場で演説した夜のために書かれた「Mad Rush」は、あまり長くなくて(それでも15分だが)聞きやすい。

 彼の音楽は、同じシンプルなパターンを繰り返すミニマリズムのスタイルで、万人受けするだろうメロディアスさを持っているのだが、決してイージーリスニングにならないところが良いと思う。

 

Mad Rush

 

 フィリップ・グラスの名前を知ったのは、1987年のドキュメンタリー映画「コヤニスカッティ」だった。この映画は主人公がいないどころかナレーションすらない映像だけの内容で、ずっとフィリップ・グラスの音楽だけが流れ続けていた。

 「コヤニスカッティ」とは、アメリカのホピ族の言葉で「常軌を逸し、混乱した生活。平衡を失った世界」という意味。映画は現代文明のいろいろな姿の断片からなる内容で、最後に1960年代の無人ロケットが打ち上げ直後に爆発するシーンで終わる。当時は文明の終末のように見えた映像も、いまは日常の世界に見えるかもしれない。

 

 トレイラーを紹介しようかと思ったのだが、今の社会状況で見るには陰気過ぎて気が滅入るので、代わりにニューヨークの若い音楽家たち、Bang on a Can All-Starsによる「Closing」という曲の演奏を聞いてほしい。

 

Bang on a Can All-Stars Closing

 

 フィリップ・グラスは、いわゆるクラシック畑の巨匠ではあるが、デヴィッド・ボウイ、パティ・スミス、ルー・リード、ローリー・アンダーソンなどとも仲がいいようで、どこかニューウエイブに影響を与えた前衛的なロッカーみたいな印象がある。

 それは、インドやチベットの影響を受けたり、ニューヨークに住んでいたり、子どもの頃に古いポップミュージックやラジカルなジャズを一緒に聴いていたことなど、バックボーンから来る価値観がみんな似ているからなのかもしれない。

 

 フィリップ・グラスが、ベルリン時代のデヴィッド・ボウイがイーノとつくった「ロウ」と「ヒーローズ」を下敷きにしてつくった交響曲がある。

 すべての出来がいいとは思わないが、「Warszawa」はひたすら暗いオリジナルより聞きやすく作られていて、作品としてとても良く出来ていると思う。

 

Warszawa

 

 フィリップ・グラスはミニマリズムの代表的な音楽家だと言われがちだが、本人はそれが気に入らないらしい。詳しくないので偉そうには言えないが、ミニマリズムという狭い枠にとらわれない強い意思を持った音楽家という感じはする。

 

 彼のとても好きな曲が、「メタモルフォ―ゼズ」という曲。30分以上あるピアノのソロで、静かな中に生気がある感じが気に入っている。

 その曲の一部を、Louis L. がハンドパンで演奏している映像を見て欲しい。同じ曲なのにとても印象が違うが、短めなので聞きやすいと思う。

 

Louis L. Handpan Metamorphosis II

 

 この曲の全体をピアノで演奏している映像がこれになる。ちょっと長いかもしれないが一度通して聴いてもらえると嬉しい。

 

Metamorphosis

 

 フィリップ・グラスの作る曲は、ぬるいイージーリスニングにも、ニューエイジみたいなつまらないスピリチュアル系の音楽にもならず、静寂、精神性、生命力が感じられてとても好きだな。

 

※アルバムを紹介する知識はないので、気に入ったら探してみてください