フライドチキンと海のおと。 -9ページ目

小説を書く。

小説はじめました。
冷やし中華はじめました。





いや。




書きたいなあ、と思っていた小説のアイデアがある。
短編が二つ、長編が四つ。
どれも考え出すとぐつぐつ頭が熱くなってきて、
収集がつかなくて考えるのをやめたりもするのだけれど。
でも最近、めっきり遅筆になってしまっている。
たぶんこれが理由だと思うのだけれど、
どうも難しく考えすぎているようなのだ。


アイデアはたくさん思いつく。
某大人のセリフで申し訳ないが、
本当にアイデアレベルならバーゲンセールができるくらい思いつく。
でもそれを文章化する、
というところで10分の1くらいにふるいをかける。
そして今度はその文章を小説化する、
というところでさらにふるいをかける。
そうして残ったのが現在のところ、
短編二つ、長編が四つ。
これからもっともっと煮詰めてゆくので、
その段階でさらにふるいにかけられるかもしれない。


でも考えることはやめない。
それをやめてしまうと、
もう自分の存在意義が一つ減らされたような気になる。
だからやめずに考える。





ブログをはじめてたくさん書いて、


「面白かった」


というあたたかい読者の方の声にたくさん触れた。
それは力になり、
また一方で「いいものを書かなければ!」
という良きプレッシャーとなった。



自分が面白いと思ったものは絶対に面白いはずだ。
そこをブレさせてはいけない。
でも独りよがりはいけない。それだけは絶対にいけない。
あくまで読者ありき。
誰かに感動してもらうことが嬉しい。
それこそが僕が書く理由。




ホラーの大家、スティーブン・キングは言う。


「誰かがテレビを見ながら僕の本を何気なく手に取り読み始める。
 ソファーにゆったり背中を預けていたのに、
 いつの間にか前傾姿勢になっている。
 そして本から目を離さず、リモコンを探ってテレビを消す。
 その瞬間のために、僕は本を書く」


ああそうだなあ。
嬉しいだろうなあ。



こんなに悲しいことが日本に起こって、
みんな自分なりにできる何かを探している。
僕は人の心と向き合って、
自分の心と向き合って小説を書こうと思う。
本当に小さなことなのかもしれないけれど。





ちなみに僕がR1で推していたのはAMEMIYAでした。

グラウンド その3

女は胸に真っ赤な肉の塊りを抱きかかえていた。
N実さんは目を凝らした。


「それは血まみれの赤ちゃんでした」


女が抱いた赤ん坊からは生々しく鮮血が滴っており、
彼女の胸から腹にかけてを真っ赤に染めていた。
女は時折顔を上げ、
また俯いては赤ん坊の身体に唇を付けてしゃぶり、
その血をすすっていた。
真っ白な顔の中で口の周りだけが異様に赤い。
女の子がいたずらして、

ルージュをめちゃくちゃに塗りたくったような顔だった。



「不思議ですよね。その辺りでなぜか、
 あ、もう死ぬかもしれないな、ってヘンに覚悟できたんですよ」



とはいえN実さんはかさりとも落ち葉を鳴らすことなく、
ゆっくりと元来た道を戻った。
気付かれるわけにはいかない。
もうあれが人間なのかそうでないのかなど、
N実さんには必要のない情報だった。


永遠とも思える数十秒を過ごし、
N実さんはグラウンドを出た。
もう大丈夫。
そう思った瞬間、猛スピードで駆け出していた。


民宿まではそう遠くない。
すぐに看板が見えた。


玄関から駆け込むと、すぐに扉を閉めて施錠した。
そして宿泊している二階の部屋に飛び込み、
部屋のドアにも鍵をかけた。
爆睡している友達を尻目に、
自分用に布団に潜り込んだ刹那。



「布団が引っ張られたんです」



猛烈な力だった。
布団の縁を強く掴んでいたため、
そのままむしり取られることはなかった。
隣で寝ていた友達が冗談で引っ張っている、
という発想は微塵にも浮かばなかった。


間違いない。さっきの女だ。


布団を取られまいとしがみつくのに必死で、
大声を出すということに意識が向かなかった。
ただ、布団を取られたらそれで終わり。
そんな恐怖だけがN実さんの胸中を支配していた。


「ちょっと! やめてよ!」


さらに引っ張る力が加わった時、
反射的に声が出た。


ふっ、と力が消えた。
外の気配が完全になくなっても、
布団の外に首を出すことができなかった。



「あれ? N実ぃ、起きてんの?」



のんきな友達の声が聞こえたのは、
それからさらに数時間後だった。




N実さんはしぶる友達を説得し、
朝一番の連絡線で本州に戻った。

そして案の定、
僕はN実さんからその島の正確な所在地を聞き出せなかった。

グラウンド その2

「人通りのまったくない漁村は静かでした」



ひたひた、という足音がすごく大きく聞こえた。
民宿を出て右に進むと船着場で、

その右がささやかなビーチ。
左に進むとゆるい傾斜になっていて、
道の右手に小高い山があり、左手に集落。
N実さんは集落を抜けた。
もう少し進むと、例のグラウンドがあるはずだった。


「別に何も考えてなかったです。ただ、だだっ広いところに出たかっただけ」


月の明るい夜だった。
ちらほら立っているぼんやりした蛍光灯くらいでは、
とても月光の邪魔にはならない。
白い砂が敷き詰められた広いグラウンドが、
これくらいの月の光ならどれほど明るくなるか見てみたかった。


木の生い茂った短い道を抜け、
ややあってグラウンドに出た。


「すぐに誰か立っているのに気付きました」


グラウンドのほぼ中央部分。
ピッチャーマウンドのように少し盛り上がっている。
そこに誰かが立っていた。
こちらに背を向けている。
どうやら女性だ。

白い着物を着ている。


「すでに、ああもうちょっと普通の状態じゃないな、とは思っていました」


なのでN実さんは足音を忍ばせ、
グラウンドをぐるりと取り囲んだ潅木の茂みに沿って歩いた。
背の低い木々だけれど、
身をかがめたN実さんを隠すには十分だった。


「その女の人は、両腕を前に交差させて俯いているようでした」


女性との距離、約五十メートル。
やっと女性のほぼ真正面にまわりこめた。
月光にその真っ白な肌が反射していた。
<つづく>

グラウンド その1

今は女性ジャーナリストとして働くN実さん。
彼女もまた奇妙な体験をしている。



「瀬戸内海のある島に行ったんですね」


卒業旅行だ。
スキューバのサークル仲間三人と。
女だけの旅行だった。


「わりと有名な島ですよ。好きな人なら何回も訪れるような」


それはガイドブックにも載っているような島だったらしい。
観光地というほどでもないが、
集落がいくつかあり、大きなグラウンドやテニスコートもある。
古き良き漁村としての顔も持つ、
好事家ウケのするこじんまりとした島だ。
N実さんはこの島の雰囲気が好きになった。





一泊目の夜。
多少のアルコールが入ったことも手伝って、
民宿の一室はガールズトークで盛り上がっていた。
ただN実さんは酒に強いわけではなかったので、
翌日をしっかり楽しむためにもあまり飲まないようにしていた。


「すると一人、また一人と宴から脱落していくんですよ」


周りのメンバーはおかまいなしにひたすら飲み、
そして布団にぶっ倒れてゆく。
とうとうN実さん一人だけが起きている、という状況になった。
まだ眠気は訪れそうもない。
N実さんは夜の散歩に出ることにした。
<つづく>

せめて酒でも飲もう。

開高健といえば

「西のヘミングウェイ、東の開高」

と言われるほどの酒豪であり、酒を愛し、

酒に愛された"文学界の酒仙"である。

氏の酒に関する記述はたくさんあって、

そのどれもが面白く、

実にまったくもうたまらないくらい呑みたくなる。



氏が紹介している酒の中で「ややっ」と思ったのが、

究極のドライマティーニ。

言わずと知れたジンとベルモットをステアしたカクテルなのだが、

ここで言う"究極"とはベルモットの割合の少なさにある。

好みによるが、

通常はジン3にベルモット1くらいの割合。

これが"究極"になると、

ベルモットの染み込んだコルク栓でグラスのふちをひとこすり。

以上。

グラスを満たしているのは全部ジンである。

うーん。ドラーイ。



開高さんはある本で、

「口当たりのいい酒やウイスキーなどを経て、結局透明な酒に辿りついた」

と書いている。

透明な酒とはジンとかウオッカみたいな、

もろアルコール! という感じのやつね。

これはちょっとわかる気がする。

とはいえハイボールとかキューバリバーとか、

なんならスプリッツァーとかが大好きなんだけれど。



また氏は

「味覚の入り口は"甘味"で、味覚の最終章は"苦味"である」

とも書いている。

苦いものが欲しいと思うことはあっても、

もっぱらうきうきしながら甘いものを食べてしまっている僕なのです。



酒仙は遠きかな。