何のために、の家 その6
東西南北すべての面に大きなサッシがあり、
外に出られる。
そこも妙だった。
四人は靴を脱ぎ、廊下に上がった。
すぐにふすまがある。
G君はずかずか進み、ふすまを開けた。
と、中は四畳半の和室。
壁はなく、隣室とはまたふすまで仕切られている。
家具は一つもない。
「すごい。壁が全部ふすまなんて見たことねえよ」
S君がつぶやきを漏らした。
「俺、左から行くわ。S、お前は右から行けよ」
「OK」
G君は入った部屋の左側のふすまを開けた。
そこもまたふすまだけの和室。
S君は入った部屋の右側のふすまを開けた。
そこもふすまの和室。
G君は次の部屋を右へ、右へと進んだ。
S君は次の部屋を左へ、左へと進んだ。
どの部屋も四畳半の和室。
家具はない。
天井は古めかしい木でできていて、
細い蛍光灯がいかにも頼りなげに一本だけ据えられていた。
「なんもねえ」
「こっちもだ」
家具を置いた痕跡すらなかった。
畳はまだ綺麗で新しい匂いがした。
ただ、ふすまの枠の部分にはたくさんの爪跡があり、
人が多く出入りしていたことを物語っていた。
<つづく>
何のために、の家 その5
見れば見るほど異様な家だ。
和風建築の平屋で、縦横の長さがほぼ同じだった。
家の周りを取り囲むように幅1メートルくらいの庭がある。
その家を建てるためだけに山が拓かれた。
そんな感じだ。
「へーんな家」
Eさんが言った。
その言葉を合図に、
ドライバーのG君は路肩に車を停めた。
そして車を降りると大またで家に近づく。
「ねえ、ちょっと。いいよ、コワいから」
Yさんの制止も聞かず、
G君は庇の上を手で探った。
「やっぱり。みーっけ」
G君はしたり顔で、手にした鍵をちゃらつかせた。
「どう見たって廃墟だよ、まだ綺麗だけど。
打ち捨てられて間がないんだよな、きっと」
そう言って手早く開錠する。
助手席のS君も車を降りた。
やむなく、女子二人も後に続く。
入ってみると、家はさらに異様の色合いを濃くした。
玄関が長細く、家の端まで続いているのだ。
いや端までどころではない。
玄関が家をぐるりと取り囲んでいる。
真四角の家の四面のすべてが縁側のようになっているのだ。
家の東西南北すべての外壁の内に玄関があり、
どこからでも家の中に上がれるようになっている。
そして玄関はすべて回廊のようにつながっている。
先に入ったG君が玄関を歩いて一周してきた。
「ほんっと変な家だな」
G君は首を傾げた。
<つづく>
何のために、の家 その4
彼女が大学生の頃の話。
Eさんは合コンドライブのようなものに赴いた。
女の子はEさんともう一人Yさん。
そしてメンズが二人。
同じサークルのメンバーだ。
Yさんとは仲が良かったが、
メンズとはほとんど面識がなかった。
だからこそのドキドキがEさんには心地よかった。
向かった先は信州。
町からもそう遠くない山。
近くにキャンプ場のような場所もペンションもある、
割合にメジャーなところだったはずだ。
木々が車道にぐいっとせり出した、
自然のトンネルのような道をくねくねカーブしながら車は走った。
「おっかしいなあ。もうそろそろ下るはずなんだがなあ」
ドライバーのG君は言った。
助手席のS君も、
「前にも通った道なんだよ。覚えてたはずだよな」
と賛同する。
まあ急ぐ道行きでもないわけだし、
太陽はまだ傾いてもいない。
四人の心には余裕があった。
「あ、こっちか。右の方だったか?」
三本に分かれている道の、
さっきは真ん中を選んで走った。
G君は次に右の道を選択した。
が、走り出してすぐアスファルトは土に変わった。
「ねえ、やっぱりこの道も間違えてない?」
「うーん……。っぽいな」
とはいえ道幅は車幅ぎりぎりだ。
方向転換するには広い場所に出るしかない。
G君はなおも車を走らせた。
「あ。ほら、ねえあれ」
Yさんが身を乗り出し、斜め前を指差した。
細い車道からさらに横道が延びており、
その先にテニスコート二面くらいの広場が見える。
広場のど真ん中に家が建っていた。
<つづく>
何のために、の家 その3
用紙と用紙に隙間はなく、
天井から床まで、
ドアと窓を除いてびっしりと貼られている。
特筆すべきは、その用紙に書かれていたものだ。
迷路だった。
クロスワードパズルの本などによく載っている、
あの迷い道が書かれているのだ。
最初、
パソコンで書かれてプリントアウトされているのだと思った。
でもよく見たら違う。
油性ボールペンで書かれている。
つまり手書きだ。
だからところどころはみだしたりしている。
迷路の道幅は、3ミリくらい。
道幅3ミリの緻密な迷路が、
A4の用紙一面に書かれている。
しかも。
部屋中に貼られている用紙をよくよく見ると、
書かれている迷路はすべてパターンが違うのだ。
数百枚の手書き迷路が壁に貼られたリビング。
誰が。何のために。
そう思った瞬間、腰が抜けそうなほど恐ろしくなった。
実際、自分達の指紋が残っていないかも気になったほどだ。
僕達四人は逃げるようにその場を後にした。
僕の話は以上だ。
後輩のEさんの話はもっとすごい。
彼女もまた、
わけのわからない不気味な家と出会っている。
<つづく>
何のために、の家 その2
車道から垂直に家二軒分の長さの道が伸び、
その道沿いに二戸ずつ、
計四戸が向かい合って建っている。
周囲は林である。他に何もない。
近くのスーパーまで、車で三十分くらいかかる。
ますます変である。
四戸すべてに“売り物件”の立て札があった。
もちろん玄関のドアは施錠されている。
しかし友達の一人が発見した。
車道から見て右奥の家だけ、
勝手口の鍵が開いているのだ。
僕達は喜び勇んで中に入った。
だがまあ当然のように、
大した発見はなかった。
家具は一つも残されていなかったし、
きれいに掃除されていてチリ一つ落ちていない感じだった。
ただ一点、リビングを除いては、の話である。
リビングは異様そのものだった。
広さは十二帖くらい。
大きな窓があり、室内は明るい。
フローリングは白に近い色で、壁も白だ。
その壁一面に、A4の用紙が貼り付けられていた。
<つづく>