怖いっつーの。
うおお。
またしても怖い映画だった。
試写会にて『ブラック・スワン』を観てまいりました。
ナタリー・ポートマンたん主演ね。
もらったチラシには、
「本年度アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞」
とある。
ポートマンたん、子役デビューのあとのスターウォーズシリーズで、
「今後のキャリア的に大丈夫だろうか…」
と心配になる役柄を演じてたけど、
いやいやなかなかどうして、
すごい演技でしたよ。
ポートマンたん怖い怖い怖いっつーの。
ちらっと概要を。
以下、チラシの文面です。
ニューヨークのバレエ・カンパニーに所属するニナ(ポートマンたん)は、
元ダンサーの母親の寵愛のもと、人生のすべてをバレエに捧げていた。
そんな彼女に新作「白鳥の湖」のプリマを演じるチャンスが訪れる。
しかし純真な白鳥の女王だけでなく、
邪悪で官能的な黒鳥も演じねばならないこの難役は、
優等生タイプのニナにとってハードルの高すぎる挑戦だった。
さらに黒鳥役が似合う奔放な新人ダンサー、リリー(ミラ・クニス)の出現も、
ニナを精神的に追いつめてゆく。
やがて役作りに没頭するあまり極度の混乱に陥ったニナは、
現実と悪夢の狭間をさまよい、
自らの心の闇にとらわれてゆくのだった……。
てな感じなんですが。
何とかかんとか主役を獲得してからの、
ポートマンたんの「絶対に役を降ろされまい」とする、
執念の演技がものすごい。
どんどん精神的に追いつめられてゆく。
定期的に出てくる湿疹による背中のかぶれとか、
プリマとして大事な爪の手入れ(爪切り)の失敗とか、
自分にとって人形のような存在であり続けてほしいという母親のエゴとか、
イライラと精神的な不安定感を煽る演出がずらずら続く。
怖い怖い怖いっつーの。
最初は清純そのものだったのに、
情緒不安定になって壊れてゆくポートマンたん。
めっちゃエロくなってゆくのだなあ、これが。
ファン的にはたまらなくなるシーンがいくつかあるのだ。
でもそのシーンすら怖い怖い怖いっつーの。
表情の変化がほんとすごい。
特殊メイクじゃないの、ってくらい、
何気ない表情の変化とかも凄く怖い。
うまいなあー。
あ、そういえばウィノナ・ライダーもちょいと出てた。
また、その役が、怖いこと。
女ってすげええ、と思いましたね。
ナンバーワンを狙い続けるって、
そしてナンバーワンで居続けるってこんなに疲れるもんなんだなあ、と。
AKBとかもこんななのかなあ。
前田あっちゃんの健康が心配になった。
「自分を解放しろ!」
とか言ってポートマンたんに迫るエロいダンス先生が、
なぜか某秋元氏とダブって見えた。
ま、でも面白かったですよ。
ファンタジックな純和製ゴシックホラー
『夜市』
恒川光太郎著/角川書店
気が付けば読者の方が200人を超えていた。
いつも読んでいただいている皆様、
本当にありがとうございます。
これからもよろしく。
で、『夜市』のこと。
僕はホラー小説に目が無いので、
まあもちろんという感じで日本ホラー小説大賞はチェックしている。
この夜市は、読んでみてかなり驚いた。
審査員激賞!みたいなことが腰巻に書いてあったので、
これは一体どんな恐ろしい話なんだろうと思って読んだら。
これがちーとも怖くない。
日本ホラー小説大賞なのに。
ただ。
めっちゃ面白かった。
見える人間にしか見えない、
この世ならざる者達が店を開く市場“夜市”。
そこでは欲しいものは何でも手に入る。
若さ。才能。切れないものはない刀。そして人間。
主人公・裕司が、
かつて弟の命と引き換えに夜市で買ったものとは?
常連客である老紳士の正体とは?
そして迷路のような夜市から脱出する、たった一つの方法とは?
多くの謎が絡まりあい、
ストーリーが進むにつれぱらぱらと気持ちよくほぐれてゆく。
また、“異世界との交流”を描いた小説は数あれど、
この夜市の場合は“怖さ”や、
“脱出までのスリル”みたいなものの描写に終始しているわけではない。
なんともいえない、
魂を揺さぶれるようなラストシーンが待っている。
荒俣宏氏は「めずらしく泣いた」とまで言っている。
確かにこのラストはすごい。
読みながら、どんどん意外な方向に展開していった。
で、こんなラストが待っているとは想像もつかなかった。
それだけでもすごいのに、
状況描写というか、
浮かんでくる絵がすごくファンタジックなのだ。
純和製ゴシックホラーとでも言おうか、
恐ろしくも何だか郷愁をかきたてられる。
言葉のチョイスが素晴らしいのだろう。
惜しむらくは、
この小説に「審査員激賞!」という腰巻をつけてしまっている。
「どんなに怖いんだろう?」
と思って手にとってしまった人はちょっとガッカリするかもしれない。
追伸 その3
ある雨の日。
G君は駅で電車待ちをしていた。
唐突に携帯が鳴った。
見たこともない番号だった。
「Sからの電話だった。名乗らなくてもすぐわかったよ」
おい、というG君の制止を無視して、S君は淡々と引継ぎをはじめた。
しばらくの間、G君は黙って聞いていた。
しかしS君が
『……本当にすみませんが』
と言った瞬間、G君はブチ切れた。
「てめえいい加減にしろよ! なに死んでまで謝ってんだよ?
てめえはなあ、死んだんだよ! もう働かなくていいんだよ!
もう休んでいいんだよ! 引継ぎなんか気にしてんじゃねえよ!
そんなんだからダメなんだよ! バカじゃねえの? とっとと寝ちまえ!」
ホームにいた人間全員が、狂人を見る目でG君を睨んだ。
S君は電話の向こうで黙り込んでいた。
そしてぽつりと『……ごめんなさい』と言った。
消え入りそうな声だった。
G君の脳裏に、
受話器を持って小さくなっているS君の姿がありありと浮かんだ。
「……いや……それからな、S」
G君は深呼吸してこう言った。
「前も言ったけどお前、まず俺に電話してこいよ。俺、お前の指導役なんだからさ」
五秒ほど沈黙が続き、電話は切れた。
「電話は切れたんだけどさ。その後も声が聞こえたな」
ありがとうございました、と。
G君の話では、
それは飛行船からのアナウンスのように高い場所から聞こえたという。
周りに聞こえていないのが不思議なくらい、はっきりとした声だった。
それ以来、S君からの電話はない。
「よかったよ。あいつからかけられた最後の言葉が“ごめんなさい”じゃなくて」
そうG君は言い、
最後に「ほんとは俺がどなられたいくらいだよ」と結んだ。
追伸 その2
棺の前でS君の遺影を見ても、なぜかG君の胸に悲しみの感情は湧かなかった。
「ただ、なんで気付いてやれなかったんだろ、って。……あとね」
S君が逝った前日の夜。
またも係長の携帯にS君から連絡があったようだ。
係長はその時は気付かず、
奇しくも翌朝、S君の訃報を知らせる部下からの電話で、
前夜のS君からの着信の存在を知った。
着信を知らせる緑のLEDが物悲しく明滅していたのだ。
ここにいたんだよ、と言わんばかりに。
伝言は残されていなかった。
「最期まで俺に電話をしてこなかったのが、さ。俺ほんと何やってたんだろ、って」
死後、幾日も経っていなかった。
係長の携帯に、S君から電話があった。
「見たことない番号で。かけなおしても、使われておりません、ってアナウンスがかかる。でも」
間違いなくS君の声なのだ。
小声で何事か告げている。
「それは仕事の引継ぎ電話だったんだって」
S君はぼそぼそと、しかし一方的に引継ぎを続けた。
係長が恐怖に凍りつきながら何を話しかけても応えなかった。
ただ抑揚のない声でつぶやくように話し続けた。
そして最後に、
『……本当にすみませんが、よろしくお願いします』
と付け加えたという。
S君からの電話は、その後彼の同僚の携帯にもかかってきた。
内容は同じようなものだった。引継ぎだ。
顧客リストの更新にはこのサイトを使えばいい、とか。
どこそこの客は何時のアポイントがベストだ、とか。
どうでもいい内容だった。
<つづく>
追伸 その1
「最初は係長の携帯に連絡があったんだ」
G君は少し寂しそうな口調で言った。
「俺はSのこと、けっこう厳しく叱ったりしてたからね。
俺のとこにはかけづらかったんじゃないかな」
営業スタッフとしてS君は新卒で入社し、その指導役としてG君が選ばれた。
S君は決して無能な人間ではなかったという。
仕事の覚えは悪くない。愛想がよく、人懐っこい。人間的にもマメだし話好きだ。
しかし欠点もあった。
「人が良すぎるんだよ。優しいから押しが弱くなる。そこんとこはよく注意したな」
顧客からの無理難題も断れない。
営業成績を伸ばすために自腹を切ることも少なくなかった。
「自腹を切る営業なんて誰も求めてないし。
Sにはよく、足で稼げない営業はダメになってくとも言ってたんだよ、俺は」
サービス残業、休日出社など当たり前。
ノルマは埋めなければならない。顧客に嫌な顔はできない。
追い詰められた時、S君は先輩のG君ではなく、G君の上司である係長の携帯に直接連絡を入れた。
「お前それは順序が違うだろ、って。なんで俺に先に報告しないんだってよく怒ったよ」
気の弱い男なのだ。
G君が自分を可愛がってくれているからこそ、それがわかっているからこそ失敗を告げたくなかった。
しかし悪い奴ではない。
ほとぼりが冷めると例の人懐っこい顔になって、
「GさんGさん。昼飯、おごってくださいよぉ」
と甘えてくる。
G君はお前なあ、と呆れながらも、
「牛丼でいいか?」
と応えてしまうのだ。
そのS君が自殺した。
自宅アパートでガスを大量に吸引したのだ。
覚悟の自殺であることは明白だった。
六畳間で膝を抱えるようにして倒れたS君の手には家族の写真。
そして顧客リストと見積り書が握られていた。
見積りに書かれた数字は、
とてもG君が首を縦に振れるものではなかった。
「バカだよ。死ぬようなことかよ。たかが仕事だろ、って思って」
<つづく>