フライドチキンと海のおと。 -22ページ目

永遠だからこそ 後編

……思わず拍手。

鉄郎、君はすばらしい。
間違いなくこれは、
“永遠の命”というバケモノじみたビッグテーマの一つの回答と言える。


短い時間だからこそ人に優しくできる。
逆なんじゃないの、とも取れる考え方だ。
短い時間だから人のことなんか考えられないんじゃないの、と。


でも、たぶんそれは違う。
大前提、人は幸せな人生を送りたいはずだ。
もちろんこの僕も幸せな人生を送りたい。
じゃあその人生を構成する時間を分解してみる。
仕事。この時間が、実はすごく長い。
最近僕は特にこの時間を、
誰かのために、と意識して行動するようにしている。
僕はとても弱い人間なのだ。
自分一人で道を切り拓いてなんかゆけない。
周りの人と一緒でないと進んでゆけないのだ。


「俺はたった一人で仕事をしている」


などと言い切れる人間は素晴らしいとも思うが、傲慢だとも思う。
僕にはとても言えない。

そんな僕はせめて、
ほんの少しのゆとりがあれば誰かを助けることにしている。
助けると言っても大げさなことじゃない。

ごく些細なことだ。
荷物を持ってあげたり。
両手がふさがった人にドアを開けてあげたり。
コーヒーを淹れてあげたり。
車で注文先へ走ってあげたり。
自分を犠牲にしている、というほどのことではないものばかりだ。
そこんとこのさじ加減は大事だと思う、が。


“誰かのために”と心から思って取った行動は必ず自分に帰ってくる。
ばかばかしいとは思っていない。
そして「それが損だ」とは思いたくない。
損だ、と思った時点で人生を損している気がする。
損得で勘定すれば、僕の中で親切は「得」なのだ。


人間は必ず、思ったとおりの人間になれるようにできている。
それは天の理りなのだ。

そうあって欲しいと願っているのだ。



短い時間だからこそ永遠の命の価値がわかる。
人間だからこそ受け継がれてゆく命の意味を感じる。

少々飛躍があったが、鉄郎のこの永遠の命に対する言葉は、
そんな考え方を的確に言い表している気がする。


そういえば、確かにそうだろうなあ。
永遠に生きられて、何でも買えるお金があるとすれば。
絶対にそのうち、
犯罪まがいのことをしないと退屈しのぎできなくなるだろうなあ。

永遠だからこそ 中編

鉄郎は雪原で凍死しかけていたところ、メーテルに救われる。
メーテルは鉄郎に言う。


「わたしを連れて行ってくれたら、銀河鉄道のパスをあげる」。


鉄郎はメーテルとともに宇宙の果て・惑星大アンドロメダに行くことを決める。
そして999号に乗る前に母親を殺した機械化人間達を皆殺しにする。
そして母の剥製(!人間を剥製にするのが機械化人間のトレンドなのだ)を前に、
アンドロメダで永遠に生きられる機械の体を手に入れること、
そして必ず地球に帰ってきて機械化人間を皆殺しにすることを誓う。





……というのが第一話の大体のストーリーだ。
知らなかった人、意外とエグイでしょ?



かくして鉄郎は長きに亘る銀河の旅に出る。
あらゆる辛酸をなめる。
何度も何度も何度も死にかける。
たくさんの親しき人を亡くす。
色々な人に出会う。
永遠に生きられる機械の体を愉しむ男。
永遠に生きなければならない機械の体を憂う女。
機械の体を手に入れようとして、
鉄郎の銀河鉄道のパスを命がけで奪おうとする少年。
享楽的に人を殺す機械化人間。
死ぬことを怖れない人間。
恐ろしい海賊。
あたたかい家族。


それら人々と触れ合うにつれ、
鉄郎は永遠の命について深く考えるようになる。
自分でもよくわからなくなってくる。



そして終着駅。
旅は終わり、鉄郎は回答を迫られる。
カタログを渡され、
「自分が欲しい機械の体を選びなさい」と。



鉄郎は悩みに悩んだ末、そのカタログを破り捨てる。
そしてこう語る。
本が手元にないのでウロ覚えだが、大体こんな内容だったと思う。



「カタログを見ればすばらしい機械の体がたくさん載っていると思う。
 きっと欲しくなるに違いない。
 でもこの旅で、僕はいやらしい機械化人間をたくさん見てきた。
 だから正直、機械の体が欲しいのかどうかがわからなくなった。
 ただこれだけは言える。
 人間の一生は限られているからこそ、
 その限られた時間で何かを一生懸命残そうとする。
 生きられる時間が決まっているからこそ、
 誰かに心から優しくなれるんだ」



鉄郎はさらにこう付け加える。



「この僕の体にはお父さんとお母さんの血が流れている。
 僕が人間でいるかぎり、
 いつか結婚し、子供をつくるだろう。
 その子供には僕と同じ血が流れるんだ。
 命は次の世代へ受け継がれる。
 それだって、きっと永遠の命なんだ」
<つづく>

永遠だからこそ 前編

永遠の命について描かれたSFってよくありますよね。
ちなみに僕は大好きです。


いつまでも若かったり。


傷がすぐ治ったり。


超自然的なパワーを持っていたり。


子どもの頃、よく憧れたなあ。


で、そういうパワーとシビアに向き合ったマンガとか、
アニメとか、小説とか映画とか。
割と悲劇的だったりしますよね。
ホラー的であったり。


大きな力を得るには大きな代償がいる。
そうじゃなきゃバランスがとれないのかもしれない。
マンガ『3×3EYES』では、
第一話で主人公は妖怪に襲われて命を失う。
その代わり、そばにいた三つ目の大妖怪に永遠の命を貰う。
その代償は、三つ目の大妖怪の奴隷になること。
そんな感じだったな。


どんな話でも、永遠の命は寓話的に描かれている。
正面から、永遠の命というテーマに向かっているものも多い。


いいもんじゃないんですよ、と。


ペナルティもリスクも多いんですよ、と。


はたしてそうなのかなあ、と子どもの頃よく思った。





『銀河鉄道999』も、永遠の命がテーマとして寄り添っている話だ。
どんな話かというと……。
極めて簡単に説明するとこんな感じ。



未来の地球。
その世界では、星と星が“銀河鉄道”でつながれている。
現在の海外旅行のように、
星間連絡している超特急に乗れるのは一部のセレブだ。


セレブには二種類ある。
人間のセレブ。そして機械化人間のセレブ。
機械化人間。つまりサイボーグですな。
大金を持った人間だけが、自分を機械化することができる。
機械化すれば永遠に生きることができる。
大金を持った貴族など、つまり享楽的な人間達だ。
永遠に享楽的な人生を送ることができるというわけだ。
この世界では、機械化人間が勝ち組なのである。
誰もが大金を持ちたいと願いながら、
そのほとんどが底辺の暮らしを営んでいる。
主人公・星野鉄郎もその一人だ。


母と二人、荒地のバラックに住んでいる。
ある日、鉄郎の母が突然機械化人間の貴族に銃殺される。
夜に出歩いていたせいである。
機械化人間は、夜に出歩く人間を自由に殺してもいいのだ。
瀕死の母は鉄郎に告げる。
銀河の果てに機械の体がタダでもらえる星があるらしい、と。
その星に行くため、銀河超特急999に乗りなさい、と。



ええっと。
もう少しかかりそうなので続いてみよう。
<つづく>

声 その5

今もあの時の光景が目に焼きついて離れない、とRさんは言う。


「彼の日記は、見覚えのある言葉で埋め尽くされていました」



『○月○日。ボクシングにラッキーパンチはない』
『○月○日。明日がある、

  と思うだけでどうしてこんなに嬉しくなるんだろう』
『○月○日。今日もがんばろう。

今よりもう少し自分を愛していたい。信じていたいんだ』





彼の日記に書かれていた言葉は、
Rさんパソコンに届いたメールとまったく同じものだった。
書かれた日付にも覚えがある。
節目節目の日をRさんが覚えていたのだ。
それは全部で三百通あまりあった。



「彼が日記として書いていたのはきっと、
 自分を励ますための言葉だったんだと思います。
 病気で負けそうになる気持ちを奮い立たせるための。
 そこにはポジティブな言葉しかありませんでしたから。
 それを、保存用に自宅のサーバーに送信しようとして」



間違ってRさんのパソコンに届いていたのだろう、と彼女は言った。
見るとサーバーのアドレスはRさんのそれと一字違いだった。
“er”と“ar”の違い。



「たったそれだけのミスで、彼の声はわたしのもとに届いていたんです」



そして、その日記の最後の言葉。
彼が昏睡に入る前日の夜に書かれたものだ。


『○月○日。人は泣きながら生まれ、周りの人達は笑っていたはずだ。
 だから死ぬ時は微笑みを浮かべ、周りの人は泣いている。

                          そんな人間になりたい』


Rさんは傍らの少年を見た。
目を閉じた少年の顔は新月のように白く、ただ美しかった。



「たった十四歳の少年ですよ?
 友達はみんなゲームしたり、友達とサッカーしたり、小さな恋したり。
 いじめたり、いじめられたり、

 バカなバラエティ番組で爆笑したりしてるのに。
 そんな人間になりたい、なんて思えるはずないのに。
 絶対に、そんなにポジティブでなんかいられるはずないのに。
 きっと、絶対、そんなに強くいれるわけないはずなのに、って思ったら」



Rさんの胸は、
わけのわからない熱いものでいっぱいになった。
哀しいわけではない。
嬉しい、とも少し違う。
はじめての気持ちだった。
その気持ちの正体がわからないまま、
Rさんは涙を流した。





少年は今も昏睡状態にある。
しかしRさんは、
あくまで彼の書いていたものは“日記”なのだ、と言う。


「日記である以上、いつかそれを読み返す日が来る。

            彼はそう信じて書いていたはずです」


もちろんわたしもね、とRさんは言った。
そして彼女自身が書きはじめた日記についても話してくれた。


「いつかあの子に見せてやろうって。
 彼の言葉に励まされたわたしは、

 きっとまた他の誰かを励ますことができるはずだって思って」




その日記は奇跡的に続いている。
飽きっぽいRさんにしてはすごく珍しいことなのだそうだ。



声 その4

Rさんは後悔した。
送り主にどんな事情があったのかは知るすべもないが、
こちらからコンタクトを取ろうとしてはいけなかったのだ。
きっと向こうには返信できない理由があるのだろう。
自分を長い間救ってくれていたメール。
たった一行の、

誰のものともわからない力強くあたたかい言葉。
それはパンドラの箱だった。
自分の軽率な行動でそれを永遠に失ってしまったかと思うと、
Rさんはやりきれなかった。



そして楽しい大学生活ははじまり、
Rさんはいつしかメールの存在を忘れた。





数年後。

大学を卒業した彼女は志望通り看護師になることができた。
忙しくも楽しい職場での毎日。
ある日、彼女は仲良くなった先輩看護師にある患者の話を聞いた。


「個室の患者さんで。

 原因が特定できない脳の病気で植物状態になって、
 もう四年以上も昏睡状態が続いてるって」


十四歳の少年らしい。

特別手がかかる患者ではないので、
専任というわけではないがRさんが注意して目をかけるように、

とその先輩看護師は言った。


「きれいな顔の子でした。

 四年前、昏睡に入る前までは普通に元気にしてたらしいんですけど」



少年の枕元にノートパソコンがあった。
Rさんが布巾でパソコンを拭こうとした時、
マウスが動いてスリープが解け、

パソコンは低くうなりながら起動した。


「デスクトップにはフォルダがたった一つだけ。“日記”って書いてました」


絶対にしてはいけないことだと思いつつ、
Rさんは好奇心に勝てなかった。


フォルダをダブルクリックしたのだ。
<つづく>