フライドチキンと海のおと。 -21ページ目

狛犬(こまいぬ) その4

クーラーボックスはいっぱいになりつつあった。
A君のテンションは上がりっぱなしだ。
仕事の疲れなど吹っ飛んだ。
弁当にもお茶にも手をつけなかった。
アタリはおさまらない。
またも大きく竿がしなった。
興奮しながらリールを巻くと、
針にはクッションくらいの大きさのカレイがかかっていた。


もうA君は呆気にとられていた。
こんな大物は釣ったことがない。
クーラーボックスのふたはもうぎりぎり閉まるくらいだ。
それでもA君は夢中で竿を降り、糸を垂らした。


と、根がかりの感触がある。
根がかりとは針が海底にひっかかること。
その夜はじめての根がかりだった。
しかたなく、A君は針を諦めることにした。


しかし、少し様子がおかしい。
強く引っ張れば少し持ち上がる。
根がかりではないのかもしれない。
とすれば、かなりの大物。
A君はさらに興奮した。
ぐいぐい糸を引っ張りながらリールを巻いた。


やがて水面近くに何かが浮かんできた。
黒くて丸い。
水面はほぼ真っ暗なのでよく見えない。
A君は帽子に付けたヘッドライトで水面を照らした。


小さな光の輪に浮かび上がったものは、黒いボール。


違った。


人間の頭だった。
<つづく>

狛犬(こまいぬ) その3

A君の目下の趣味は釣りだ。
それも海。夜釣りが最高に楽しいという。


A君営業職に就いているので、
クレーム処理的な仕事も多い。
毎日がストレスでいっぱいだ。
大きな案件に携わっており、
十日間連続勤務が続いた後、やっと二日間の休みが取れた。


A君は一日ぐっすりと眠り、
次の日の夕方までを奥さんと過ごし、
夜は釣りに出かけた。
久しぶりの釣りにA君の気持ちは浮き立った。


A君がルアーや餌などを用意している間、
奥さんが弁当やお茶などをリュックに入れていた。
弁当などを一通り入れると、奥さんはA君に、


「一応入れとくね」


と言い、狛犬の面を入れた。
それはあの美味しい漬物などと一緒に、
A君のお母さんから送られてきた荷物に入っていたものだ。
地元では特別なものでもなく、
雑貨屋やおもちゃ屋やおみやげ物屋などでも普通に売られている。
どんな仕掛けで勝負しようかと夢中で考えていたA君は、
奥さんがリュックに面を入れるのを不思議に思うこともなく見ていた。



その日の夜釣りは大漁だった。
風が強く、天気は少し荒れていたが、
防波堤から釣り糸を垂らせばすぐにアタリがある。
A君は夢中で竿を振り続けた。
<つづく>

狛犬(こまいぬ) その2

結果は散々だった。

フタを開けてみると、蛆虫が運動会をしていた。
その後もう一度試してみたが、また虫が湧いた。


結局何かが違うんだろうな、と諦め、
あの味はお袋の味、だから実家に帰った時のお楽しみにする、
ということで気持ちに決着をつけた。





それから数ヵ月後。
ひょんなことから、A君は味の秘密を知る。
A君のお母さんから電話があったのだ。
話はこうだ。


一人の雲水がたまたまA君の実家に立ち寄った。
その時にお母さんはお茶と一緒に、
自慢の漬物を切って小皿に盛り、雲水に薦めた。
その漬物を食べた雲水は一言。


「うまい。この世ならざるものの味がしますなあ」


そして雲水はお母さんに、


「漬物石を見せて欲しい」


と言った。
不思議なことを言う人だと思いながらも、
お母さんは樽から漬物石を取り出して持ってきた。
掌にちょうど乗るくらいの、
白い、つるりとした石だ。
漬物石に丁度いいと思い、
近くの川から拾ってきたものらしい。
その石を一目見た雲水はあんぐりと口を開け、
やがて大声で笑い出した。


「うまいはずだ。こりゃあなた、狛犬の頭ですよ」


今度はお母さんがあんぐりと口を開けた。


「きっとどこかの神社で欠け落ちたものが、
  たまたま川に流れ着いたんでしょうな」


川を流れるうちに角が取れ、滑らかな丸形になったのだろう。
そんなものを持っていることが不安になり、
神社かお寺で供養でもしたほうがいいのか尋ねた。
すると雲水は首を振った。


「狛犬とは供養しなければいけないものではないんですよ。
  実際こんなにうまい漬物ができているのだから、
   せいぜい漬物石としていつまでも大切に使ってやってください」


雲水はお茶と漬物の礼を言い、立ち去った。

お母さんの漬物は、
作り方をまねするくらいでうまくなるはずがないものだったのだ。
A君は漬物を自分で漬けるのを完全に諦めた。
<つづく>

狛犬(こまいぬ) その1

A君は山陰地方の、
とある山間部の小さな町の出身だ。


その町ではちょっと奇妙な風習がある。
町中で狛犬(こまいぬ)を祀っているのだ。
神社にはもちろん堂々とした狛犬が参拝者を出迎えてくれるし、
境内でもいたるところで、
たくさんの狛犬が祀られている。
二車線の普通の車道沿いにも小さな祠がいくつもある。
そこでは当たり前のように、
小さな狛犬様が鎮座している。
それが当たり前、というところでA君は育った。


だから都心部に住んでいる今でも、
たまに社寺におもむいて狛犬を見るようにしている。
A君にとって狛犬は、
懐かしくて頼もしいもの。
父と母のような存在らしい。





例えば昔、こんなことがあった。


A君の家の漬物はすごく美味しい。
それを食べて育ったので、A君は無類の漬物好きになった。
一人暮らしをはじめてからも、
小さな冷蔵庫の中に常に漬物をストックした。
切らすと不安になるそうだ。
でもその味はとてもA君を満足させるものではなかった。
お母さんの漬けたものとは比べ物にならない。


そこでA君は実家に電話し、レシピを聞いてみた。
お母さんの答えはごく平凡なものだった。
特別なことは何もしていない。
これなら俺にもできるかも、と思い、
お母さんから聞いた手順で漬物を漬けてみることにした。
<つづく>

ちょっこし異常な話

というカテゴリーで怖い話を書かせて頂いて、約半年。


“声”という話で、
実は100回をまたいでしまっていたのですねえー。


ううん。100回。
なかなかすごくないですか? 100回。


もちろんもちろんそれは、
実にたくさんのアナタ、アナタ、アナタ。
すべての読者様のあたたかいお声、応援コメントがあったればこそ。


本当にありがとうございます。


中には「ばかやろう、つまんねえぞ」みたいなのもありましたが。
いいやね。陰口よりゃよっぽど。
悪口書かれるのも読まれている証拠。
嬉しいかぎりです、まじで。
最近から読んでくれた方も、ずっと前から読んでくれている方も。
すごいなあ。


みなさんのコメント・メッセージにはすごいパワーありますよ。
前にも書いたけれど、
本当に僕は誰かの支えなしでは歩けないんだなあ、と思う。
そしてこんな僕の書くものでも、


「更新楽しみにしています!」
「ドキドキする」
「怖くて眠れなくなった」
「泣いた」
「笑った」


という声を聞くにつけ、
ああ必要としてくれているのだなあ、と感動してしまったり。
本当ですよ。


こうなりゃまじで1001話目指そうかなあ。
敬愛する星新一先生に続く形で。
アラビアンナイトに続く形で。
ハマビアンナイト。
悪くない悪くない。





そんなわけで皆様。
今後ともどうぞ宜しくお願いします。
飽きないでね。