フライドチキンと海のおと。 -15ページ目

黒い絵 その2

「その娘さん、T実ちゃんが、
 お遊戯中に突然とりつかれたように奇声を上げるらしいんです」


上げだすと手に負えない。
先生達も必至でなだめすかす。
が、泣き叫び、暴れまくる。
そしてなぜかクレヨンと画用紙を求める。
先生達も困った挙句、
クレヨンセットをT実ちゃんに渡す。
すると途端に泣き止むのだ。
困惑する先生達を尻目に、
T実ちゃんはクレヨンセットから黒を一本選ぶ。
そして画用紙を、黒で塗り潰す。
見ている人間だれもが呆気に取られた。
しかしT実ちゃんは目を輝かせて、
ひたすら画用紙に黒のクレヨンをすり込んでゆく。
これを一日繰り返す。
わけを聞いても何も話さない。



「幼稚園の先生も、こんな行動は見たことないって。
 そりゃそうですよね。だからWさん夫婦に心療内科を紹介したって」



しかもヒステリックに暴れた時に、
止めようとした男の子に怪我をさせたという。
そのこともあって、
しばらく幼稚園を休ませることにした。



「でもT実ちゃんは家にいても落ち着きがなかったらしくて。
 幼稚園の時と同じように画用紙とクレヨンを持たせると落ち着くんですって」



T実ちゃんはひたすら黒クレヨンで画用紙を塗り潰した。
毎日毎日、
画用紙が無くなると、
同じサイズのチラシにでも何にでも黒を塗った。
<つづく>

黒い絵 その1

Kさんはかつて不動産関係の仕事に就いていた。
今は全然別の仕事に就いていて、
それは元々やりたかった仕事ではないそうだが、
それでも忙しく充実した日々を送っている。


不動産関係の会社に就職するのは、
かつて彼女の夢だった。
しかし結果としてこの話を聞いた数ヵ月後、
彼女は会社を後にすることとなる。
その話を聞いたのがきっかけで不動産関係から足を洗ったわけではない。
理想と現実のギャップに苦しんだ、
とKさんは言っている。
そのギャップ部分には少なからず、
今から書く話が絡んでいることだろう。





Kさんが働いていたエリアの、
不動産業者間では比較的有名な話らしい。
Kさんも、


「あくまでわたしが担当したお客様の話ではないです」


と前置きして話してくれた。






仮にWさんとしよう。


Wさん一家は仲介業社の手引きで、
ある一戸建て中古物件を手に入れた。
築年数はいっていたが、
リフォームされていて内装は問題なかった。
すぐ近くに幼稚園も小学校も中学校もあり、
大型スーパーにもショッピングモールにも近かった。
都心部から離れていたが通勤に困るというほどでもない。
四歳になる一人娘・T実ちゃんのことも考えて、
多少田舎なのは緑が多いということで、
子育てにもいい環境に違いないと前向きに捉えた。



それから数年間、何の問題もなかった。
異変はT実ちゃんが幼稚園に入った頃にはじまった。
<つづく>

けったいな夢 #.8 後編

さて、この話が不思議なのはここからだ。



その日の夜のこと。
僕が当時よく聞いていた深夜ラジオに、
そのAがたまたまゲスト出演したのだ。
おおすごい、俺今朝アンタの夢を見たんだよ、
奇妙な一致ってあるもんだね、と僕は思い、
普段はたいして興味もないのだがAの話に聞き入った。
どんどんAの話は展開し、
彼の今日の行動と出来事についての話題に移った。
まず「あれ、なんだかおかしいぞ」となり、
彼がショッピングモールを訪れた話をはじめて完全に耳を疑った。


なんとAが話した内容は、
ほとんど僕が見た夢のまんまだったのだ。
もちろんAの目線での話だ。


まず昼過ぎにショッピングモールを出た時、電話がかかってきたこと。
電話に夢中になっている時、仲間がトラブルを起こしたこと。
自分がそれに気付かずにいたら見知らぬ男に肩を叩かれ、
トラブルの発生を教えてくれたこと。
そして自分が間に入り、
なんとか話し合いで済ませられた、ということ。


あまりに不思議すぎて開いた口が塞がらなかった。


まず一つ目の不思議。
どうして僕がトラブルを予知できたか、ということ。
しかしこれはよくある話……でもないけれど、
聞いたことがないわけでもない話だ。
予知夢、という言葉もあるくらいなわけだし。


わからないのはもう一つのポイントだ。
これが、僕の身に起こったのではないということだ。
会ったことも喋ったこともないAという男に、
まさに僕が夢を見たその日に発生した事件なのだ。


一体誰なんだろう。
ショッピングモールでAの肩を叩いたのは。


もちろん僕じゃない。
その時間僕は全然違う場所で働いていた。
僕が彼の肩を叩いたのは夢の中でだけだ。
そして僕がその夢を見たのは朝六時ごろ。
一件が起こったのは昼過ぎ。
まったくなにがなんだかわからない。
ひょっとしたらこれは、
僕の経験した中でも最も恐ろしい出来事の一つなのかもしれない。


それでは皆様、よきバレンタインデーを。

けったいな夢 #.8 前編

これは十年くらい前に見た夢と、
それにまつわる不思議な話。



話の性質的に“ちょっこし異常な話”のカテゴリーに入れようかと思ったが、
まあけったいな夢の話ではあるのでこっちに入れることにした。
とりようによっては、これは怖い話なのかもしれない。





夢の中に、お笑い芸人のAが現れた。
そいつは漫才師でツッコミ担当。
今はブレイクして全国区を賑わすマルチタレントになったが、
当時は大阪でもまだまだこれからの芸人だった。


そのAが現れたのだ。


僕がショッピングモールのような場所に入ろうとしていた。
一つ目の扉を入って数メートル歩き、二つ目の扉の前に立つ。
そして壁面に貼られている
「今日の特売品」
というチラシを見ている。
と、店内から若い男四人連れが出てきた。
一人が先頭を歩いている。Aだ。
後の三人は、どう贔屓目に見てもガラが悪い。
いかにも荒事を好みそうなタイプだ。
実際にAは、若い頃にはやんちゃで有名なタレントでもある。
三人の内、ドレッドヘアの一人が、


「おう。ちょっと」


と言った。
一瞬僕に声をかけたのかと思ったが違った。
僕の横に立っていたおじさんだ。


「おっさん。てめえ今捨てたろ」


じりっ、じりっ、という感じでドレッドと他の二人が歩いてきた。
そのドレッドは、
おじさんがタバコの吸殻をゴミ箱に捨てたのを見たのだ。
Aはドアの外で携帯を使っており、
中のトラブルに気付いていない。


「てめえ火事になったらどうすんだよ」


ドレッドと残りの二人はおじさんに掴みかからんばかりの勢いだ。
おじさんはあからさまに、
何で俺がこんな若僧に……という顔をしている。
やばい。ドレッド達に火をつけてしまう。
僕は早足でAに近づいた。
そして夢中で話し込んでいるAの肩を叩いて電話を切らせ、


「あんたの連れが問題を起こしかけている」


と告げた。


Aは頭のいい男なので、
それが今の自分にとって如何に問題のある行動なのかすぐ理解した。
そして間に入ると、誰も傷つけないように、
誰も怒らせないようにトラブルの鎮火に努めた。





と、いうところで目が醒めた。


くりかえすが十年前の話だ。
僕はそのAという芸人がとりたてて好きでもなかったので、
変な夢を見たな、という程度ですぐにそのことを忘れた。

<つづく>


イタ電

イタ電がかかってくるらしい。


電話をとると、Fさんが何を話しても応えない。
いわゆる無言電話だ。
しかし必ず、


『○○駅、○○駅です。……次は△△駅、△△駅です』


というアナウンスがバックで流れている。
ざわついている。地下鉄のホームからかけているらしい。
電話はそこで唐突に切れる。



翌日、同じ時間にまた携帯が鳴る。
とると、また無言だ。
バックでは、


『△△駅、△△駅です。……次は□□駅、□□駅です』


というアナウンス。

その翌日もかかってくる。
依然として無言。バックでは、


『□□駅、□□駅です。……次は◎◎駅、◎◎駅です』


というアナウンス。







近づいてきている。





あと一週間ほどでFさんの最寄駅に着くらしい。