サザエさんの面白い落ち(128)
可愛いカナリヤの死に、我を忘れて、大きな穴を掘ってしまったマスオさんがいました。
朝日文庫版23巻〔189頁〕・昭和36年
『マスオさんが、シャベルで自宅の庭に穴を掘っています。その様子を近所のオジサンが、垣根越しに見に来て、「おせいがでますね」とお世辞を言っています。マスオさんは、「いや」と言いながら、穴掘りに夢中です』
『マスオさんは、まだ穴を掘っています。今度は、その様子を、通りがかりの綺麗な若い奥さんが、垣根越しに見に来て、「ほんとにまめでいらっしゃるわ」とおだてています。マスオさんは「なに」と言いながら、シャベルで穴を掘り続けています。穴は随分大きくなりました』
『マスオさんは、まだ、穴を掘り続けています。通りがかりの中年の夫婦が、垣根に凭れかかって、マスオさんの穴掘りを眺めています。穴は、かなり大きくなりました。マスオさんの両足が入りこんでしまう位です。マスオさんは、掘った穴に入りこんで、まだ穴を拡げています。中年の夫婦は、何も言わず、感心したかのように眺めつづけています。マスオさんは、穴を掘った土をシャベルに、すくい取ると、得意そうに穴の外に放り出しています。中年の夫婦は、飽きずに眺めています』
『すると、そこに、サザエさんが、板切れの上に死んだカナリヤを乗せて持って来て、「いやだわカナリタのおはかよ」と、叱っています。穴は、マスオさんの腰から下が、スッポリとはいってしまう位に大きく深くなっています。サザエさんに言われて気付いたマスオさんは、シャベルを穴の底に突き刺して、「あっそうだったな」と額を叩いています。ワカメちゃんも傍に来て、呆れています』
マスオさんとサザエさんが、可愛がり、大事に育てていたカナリヤが死んだようです。
私も、長男が、小学生の頃、セキセイインコを飼っていました。
良くなついて、家族で可愛がっていました。
ところが、ある朝、籠の中で冷たくなっていました。
洗面所の近くに籠を置いていたので、整髪用噴霧剤が原因だと推測しました。
死んだセキセイインコは、裏の木の傍に、小さなスコップで、小さな穴を掘って、埋めました。
その時の穴は、本当に小さな穴です。
マスオさんが使っていたような、道路工事でもするような大きなシャベルではなく、小さなスコップで、小さな穴を掘りました。
マスオさんは、何を勘違いして、大きなシャベルを持ち出し、大きな穴を掘ったのでしょうか?不思議です。
多分、見栄っ張りのマスオさんは、見物の人達に煽てられ、特に綺麗な奥さんに、褒められ煽てられ、掘っている穴も、どんどん大きくなってしまったのでしょう。
サザエさんが持ってきたカナリヤは、小さな小さな亡骸です。
マスオさんは、そのちいさな亡骸を大きな穴の底に横たえ、掘りだした土を返して埋めたのでしょう。
マスオさん、ご苦労さんでした。
埋葬の時は、見物人は、皆帰って、誰もいませんでした。
恐らく、マスオさんは、可愛がっていたカナリヤの死を悼み、涙にくれ、穴掘りに夢中になってしまい、大きな穴になっていたのでしょう。