伝説となった人事マンは何が違ったのでしょうか?
今回の週刊アミューズメントジャパンの記事は、『分かったつもり』が成長を止める、です。自分の知っているは、それ以上学ばない思考の停止を意味し、自分が間違っていることを自覚できなくします。成長したければ、自分が本当は何も知らないことを自覚しなくてはなりません。これをソクラテスは『無知の知』と呼びました。
彼に初めての会ったのは、今から10年以上も前のお話です。
ある日メールが送られて来ました。
『お忙しい中、ぶしつけではありますが一度お会いしていただけないでしょうか』という内容でした。
彼は現在若くして、売上高数千臆円というIT企業の執行役員になっています。
『現場に必要なものは、現場が欲している営業のノウハウではなく、◯◯⚪︎◯◯◯◯⚪︎◯だと考えています。違うでしょうか?』
『そうだとしても、現場の欲していないものを提供するのは難しくありませんか?』
『いえ、自分が責任を持って開催しますので、よろしくお願い致します』
芯のある青年でした。
『起きてしまったことに対処するのではなく、起きる前に対処することが大切であると考えています』
『しかし何が起きるかなんて神様でもなければ予測できませんよ』
『An ounce of prevention is worth a pound of cure. (予防(知恵)の1オンスは、治療の1ポンドに勝る)という諺があります』
『つまり人材の育成によって、ということですか?』
『はい、営業では5対1の法則があります。ならば人事にもそれは当てはまると思います』
営業でいう5対1の法則とは、新規のお客様を獲得するには、既存のお客様の5倍のコストがかかるという法則です。
新規顧客は獲得コストが高いにもかかわらず利益率が低いので、新規顧客の獲得以上に、既存顧客の維持が重要であるという考え方があります。
人事においても、社員が辞めたり、サービスの劣化によりお客様が離れてしまってから手を打つことは下策だとされています。
人が辞めることで教育は浸透せず、サービスの質量が落ちるからです。
そうなると誰でも良いから採用することになり、それが更にサービスの劣化と組織の乱れを起こし、良い人材から抜けてしまう悪循環をつくります。
人事において、人は育つのか、育てるのか、ということでは意見が分かれます。
しかし人は環境の動物です。
育ちやすい環境を整えれば、人は育つことを否定はできません。
ならば、人が育つ環境を整えることは、会社の未来を創造することになる、というのが彼の主張でした。
この後、彼は会社の生産性を上げ、外部環境の悪化にもかかわらず、増収増益の続く社内環境を作り上げたのです。
その後も彼は実績を積み上げ、その手腕を見込まれて会社を移籍します。
彼の凄いところは、正しさに囚われないことです。
私自身も彼から、死んだ知識ではなく、生きた知恵こそが重要なのだと学ぶ機会となりました。
何を教えるのか、どう正しいことを教えるのかではなく、どのように教えるのかが重要であることに気づくきっかけになったのです。
それがなければ、現在の研修後に起きている行動変容や、組織変化など期待できず、もしかしたらそれを受講者の質のせい(責任)にしていたかも知れません。
衰退する企業の特徴は人を育てる意志の弱さにあります。
必ずしも、一部上場企業や有名企業が人材の育成に成功している訳ではありません。
それどころか、笑えるほどに酷い場合があります。
先日偶然にも昔の知り合いに会いました。
当時の仲間では誰でもが知る『ダメなやつ』でしたが、今では誰でもが知る超有名企業で講師をしているのです。
一瞬人は成長するものかと思いましたが、何にも変わっていませんでした(笑)。
それは多くの人事担当者が、ある過ちを犯しているからです。
その理由とは、どんな教育が自社に必要なのかを知るすべを持っていないため、欲しいと言われるものを提供してしまうことにあります。
現場に『どんな研修が必要ですか?』という質問をすれば、欲しいものをいうことになるでしょう。
『集客する方法』
『売上を伸ばす方法』
『利益を上げる方法』
必要だと言われれば、それを提供することになるのです。
その場に対応した『やり方』を教えられている人間が、自律し、成長する道理がありません。
そんな対症療法の連続で、会社の未来が明るくならないのは、誰が考えても分かります。
しかし80%の人事マンはその事に手を打ちません。
もっと正確にいえば、手を打たないのではなく、手を打てないのです。
それは教育が目に見えないため、イメージで行われているからです。
あなたは自分の選択において、『どうしてその◯◯を選んだのですか?』という質問に対して、誰でもが理解できる明確な答えを返すことができるでしょうか?
私はマーケターなので、そのことを憂いたりしません。
なぜならば、自分の提供している価値がその事によって輝いていることを知っているからです(笑)。
人は永遠に生きたりしません。
そのわずかな期間に、親切にも富を手渡してくださる方々がいることに感謝しているからです。
まさに有り難いことだと感じています。
知識の足りない人や、イメージだけで選択ミスをしていながら気がついていない方を馬鹿にされる方がいらっしゃいます。
しかし、何も寝た子を起こすような無粋はしなくていいのではないでしょうか。
わずかな魚しか居ない場所に沢山の人が群れているのですから、沢山の魚が居る場所を独り占めできるのです。
相手が情報弱者だと気づいていないならば、黙って温かく見守って大切にしましょう。
※限りある魚の奪い合いを、経済学であるゲーム理論では『ゼロサムゲーム』と呼びます。
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