「モイラ」は元々ギリシア語で「割り当て」という意味であった。

モイラは単数で,複数でモイライ。人間個々人の運命は、モイラたちが割り当て、紡ぎ、断ち切る「糸の長さ」やその変容で考えられた。まず「運命の糸」をみずからの糸巻き棒から紡ぐのがクロートー(Klotho,「紡ぐ者」の意)で、その長さを計るのがラケシス(Lakhesis,「長さを計る者」の意)で、こうして最後にこの割り当てられた糸を、三番目のアトロポス(Atropos、「不可避のもの」の意)が切った。このようにして人間の寿命は決まるのであるという神話。このテーマの画像を探したがなかなか良いものが無かったので,ここはルーベンスにしてみた。

Destiny of marie de medici

ルーベンス,ルーブル美術館

上にいるのはジュピターとユノで,そのすぐ下から紡ぎ,測り、断ち切っている女神たち。

まずは運命,寿命はどうしようのないもの、人間の力で長くしたり,短くしたりすることができないものという考えがあるだろう。現在よりもっと人間が短命だったころ,多くの病や戦いや幼い子の死や,連れ合いの死,親の死,友の死に出会うことが多くあっただろう。その時に納得するには,どこかに運命の女神がいて,いまぷつっと断ち切ったんだよと,そのように考えるか。

 アトロポスの胸を覆っている黒いものが死の影なのだろうか。下半身もほぼ見えないし。三女神が甲斐甲斐しく働いているのに,それを眺めているジュピターの無責任そうな顔! でもこういう突き放し方の神も悪くない。