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法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

買主が履行期前にした土地の測量及び履行の催告が民法557条1項にいう履行の着手に当たらないとされた事例

 

 

              土地建物所有権移転登記手続請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/平成元年(オ)第1004号

【判決日付】      平成5年3月16日

【判示事項】      買主が履行期前にした土地の測量及び履行の催告が民法557条1項にいう履行の着手に当たらないとされた事例

【判決要旨】      土地及び建物の買主が、履行期前において、土地の測量をし、残代金の準備をして口頭の提供をした上で履行の催告をしても、売主が移転先を確保するため履行期が約1年9ヵ月先に定めれられ、右測量及び催告が履行期までになお相当の期間がある時点でされたなど判示の事実関係の下においては、右測量及び催告は、民法557条1項にいう履行の着手に当たらない。

【参照条文】      民法557-1

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集47巻4号3005頁

 

 

民法

(手付)

第五百五十七条 買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。

2 第五百四十五条第四項の規定は、前項の場合には、適用しない。

 

世紀東急工業事件・価格カルテルの課徴金と取締役の会社に対する責任

 

 

損害賠償請求(株主代表訴訟)事件

【事件番号】      東京地方裁判所判決/令和2年(ワ)第32120号

【判決日付】      令和4年3月28日

【掲載誌】        LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】      ジュリスト1576号6頁

 

 

会社法

(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)

第四百二十三条 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

2 取締役又は執行役が第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定に違反して第三百五十六条第一項第一号の取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役又は第三者が得た利益の額は、前項の損害の額と推定する。

3 第三百五十六条第一項第二号又は第三号(これらの規定を第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取引によって株式会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役又は執行役は、その任務を怠ったものと推定する。

一 第三百五十六条第一項(第四百十九条第二項において準用する場合を含む。)の取締役又は執行役

二 株式会社が当該取引をすることを決定した取締役又は執行役

三 当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役(指名委員会等設置会社においては、当該取引が指名委員会等設置会社と取締役との間の取引又は指名委員会等設置会社と取締役との利益が相反する取引である場合に限る。)

4 前項の規定は、第三百五十六条第一項第二号又は第三号に掲げる場合において、同項の取締役(監査等委員であるものを除く。)が当該取引につき監査等委員会の承認を受けたときは、適用しない。

 

(株主による責任追及等の訴え)

第八百四十七条 六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主(第百八十九条第二項の定款の定めによりその権利を行使することができない単元未満株主を除く。)は、株式会社に対し、書面その他の法務省令で定める方法により、発起人、設立時取締役、設立時監査役、役員等(第四百二十三条第一項に規定する役員等をいう。)若しくは清算人(以下この節において「発起人等」という。)の責任を追及する訴え、第百二条の二第一項、第二百十二条第一項若しくは第二百八十五条第一項の規定による支払を求める訴え、第百二十条第三項の利益の返還を求める訴え又は第二百十三条の二第一項若しくは第二百八十六条の二第一項の規定による支払若しくは給付を求める訴え(以下この節において「責任追及等の訴え」という。)の提起を請求することができる。ただし、責任追及等の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、この限りでない。

2 公開会社でない株式会社における前項の規定の適用については、同項中「六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き株式を有する株主」とあるのは、「株主」とする。

3 株式会社が第一項の規定による請求の日から六十日以内に責任追及等の訴えを提起しないときは、当該請求をした株主は、株式会社のために、責任追及等の訴えを提起することができる。

4 株式会社は、第一項の規定による請求の日から六十日以内に責任追及等の訴えを提起しない場合において、当該請求をした株主又は同項の発起人等から請求を受けたときは、当該請求をした者に対し、遅滞なく、責任追及等の訴えを提起しない理由を書面その他の法務省令で定める方法により通知しなければならない。

5 第一項及び第三項の規定にかかわらず、同項の期間の経過により株式会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合には、第一項の株主は、株式会社のために、直ちに責任追及等の訴えを提起することができる。ただし、同項ただし書に規定する場合は、この限りでない。

 

 

 

       主   文

 

 1 被告Y1は、A株式会社に対し、18億3417万円及びこれに対する令和3年1月10日から支払済みまで年3分の割合による金員(ただし、17億3227万円及びこれに対する同月12日から支払済みまで年3分の割合による金員の限度で被告Y2と、15億7942万円及びこれに対する同月13日から支払済みまで年3分の割合による金員の限度で被告Y3及び被告Y4とそれぞれ連帯して)を支払え。

 2 被告Y2は、A株式会社に対し、17億3227万円及びこれに対する令和3年1月12日から支払済みまで年3分の割合による金員(ただし、同額の限度で被告Y1と、15億7942万円及びこれに対する同月13日から支払済みまで年3分の割合による金員の限度で被告Y3及び被告Y4とそれぞれ連帯して)を支払え。

 3 被告Y3及び被告Y4は、A株式会社に対し、被告Y1及び被告Y2と連帯して、15億7942万円及びこれに対する令和3年1月13日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。

 4 訴訟費用は、被告らの負担とする。

 5 この判決は、1項ないし3項に限り、仮に執行することができる。

 

       事実及び理由

 

第1 請求

   主文1項ないし3項同旨

第2 事案の概要

   本件は、A株式会社(以下「A」という。)の株主である原告が、Aにおいて遅くとも平成23年3月から平成27年1月27日までの間、同業他社8社との間で共同してアスファルト合材(以下「合材」という。)の販売価格の引上げを行っていく旨を合意(以下「本件合意」という。)することにより、公共の利益に反して、我が国における合材の販売分野における競争を実質的に制限していた行為(本件合意に基づき上記引上げを行っていた行為であり、以下「本件違反行為」という。)が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)2条6項に規定する不当な取引制限に該当し、独禁法3条の規定に違反するなどとして、公正取引委員会から排除措置命令及び課徴金納付命令を受けたことについて、当時の取締役又は代表取締役であった被告らに善管注意義務違反があったと主張して、被告らに対し、会社法423条1項に基づく損害賠償請求として、Aが上記課徴金納付命令に基づき納付した課徴金のうち、被告Y1につき18億3417万円、被告Y2につき17億3227万円、被告Y3及び被告Y4につき15億7942万円及び各損害金に対する各訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金を、各被告の上記責任金額の限度で連帯して支払うよう求める事案である。

 1 前提事実

   以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲各証拠(枝番を含む。以下同じ)及び弁論の全趣旨によって容易に認められる。

  (1)当事者等

   ア(ア)Aは、東京都港区に本店を置き、アスファルト舗装、コンクリート舗装、土木工事等の建設事業(以下、単に「建設事業」という。)及びストレートアスファルト等の原材料から合材等の舗装資材を製造し販売する事業(以下「合材事業」という。)を主に営む株式会社である。Aは、資本金額20億円の大会社(会社法2条6号イ)であり、かつ取締役会設置会社及び監査役会設置会社である(甲10、弁論の全趣旨)。

    (イ)Aは、遅くとも平成20年以降、本社において、取締役会の下に内部統制推進部、管理本部、事業推進本部、技術本部等を設置し、管理本部の下に経営企画部、総務人事部及び財務部を、事業推進本部の下に営業部、工務部、製品事業部等を、それぞれ設置していた(甲4)。

    (ウ)Aの工務部は、建設事業に係る現況月次管理、土木技術員の管理や教育等を行う(甲27、丙4、被告Y3本人)。

    (エ)Aにおける合材事業は、製品事業部及び支店の製品部又は製品課が担当する。Aの各支店は、合材を製造販売する合材工場を指揮監督し、製品事業部は、上記各支店を指揮監督するとともに、上記合材工場の収支管理等を行う(甲27、丁12、被告Y4本人)。

   イ 被告Y2は、平成16年6月から現在に至るまで取締役を、平成24年4月1日から現在に至るまで代表取締役を務める者である。

     被告Y2は、昭和49年にB株式会社(昭和57年にC株式会社と合併してAとなった。)に入社し、人事部人事課長や経理部長等を務めた後、平成16年6月に取締役に就任し、財務部長、内部統制推進室長、執行役員等を務めた後、平成24年4月1日に代表取締役に就任した(争いのない事実、弁論の全趣旨)。

   ウ 被告Y1は、平成21年6月26日から平成30年6月22日までAの取締役を務めた者である。

     被告Y1は、昭和49年にAに入社し、平成10年4月1日から人事部長、平成16年4月1日から営業本部(平成18年4月1日から事業推進本部)営業企画部長、平成19年6月28日から事業推進本部事業推進部長等を務めた後、平成21年6月26日に取締役に就任するとともに事業推進本部副本部長兼事業推進部長となり、平成22年4月1日から平成24年3月31日までの間は営業部長も兼務し、同年4月1日から少なくとも平成27年1月27日(本件違反行為の終了日)まで事業推進本部長を務めた(争いのない事実、弁論の全趣旨)。

   エ 被告Y3は、平成24年6月28日から令和3年6月23日までの間、Aの取締役を務めた者である。

     被告Y3は、昭和53年にAに入社し、東北支店工事部長等を務めた後、平成21年10月1日から平成24年3月31日まで事業推進本部工務部長を務め、同年4月1日から少なくとも平成27年1月27日(本件違反行為の終了日)まで事業推進本部副本部長兼工務部長を務めた(弁論の全趣旨)。

   オ 被告Y4は、平成24年6月28日から平成29年6月23日までAの取締役の地位にあった者である。

     被告Y4は、昭和58年にAに入社し、平成20年4月1日に事業推進本部製品事業部次長、平成23年10月1日に同本部製品事業部長となった後、平成24年4月1日から少なくとも平成27年1月27日(本件違反行為の終了日)まで事業推進本部副本部長兼製品事業部長を務めた(争いのない事実、弁論の全趣旨)。

   カ 原告は、Aの株式を後記(5)アの提訴請求の6か月前より引き続き保有する株主である(甲1、37)。

  (2)Aの従業員による同業他社8社との会合への出席状況

   ア 合材の製造販売事業を営むA、株式会社D、E株式会社、F株式会社、G株式会社、H株式会社、I株式会社、株式会社J及びK株式会社(以下「本件9社」という。)の従業員は、遅くとも平成20年5月から平成27年1月までの間、合材に関する会合(以下「9社会」という。)を開催していた(丁12、弁論の全趣旨。なお、9社会に出席していたAの従業員の9社会に対する認識については、争いがある。)。

   イ 9社会に出席していたAの従業員(以下「A9社会出席者」という。)の氏名及びその当時の役職は、次の表の「時期」欄記載の期間ごとに、次の表の「従業員の氏名」欄及び「その当時の役職」欄記載のとおりである(丁12から14まで、17)。

 

   時期             従業員の氏名  その当時の役職

   平成20年6月2日から平成  L       製品事業部担当部長

   21年10月22日まで    (以下「L」

                  という。)

   平成21年10月22日から  M(以下    関東製販事業部販売グル

   平成22年4月21日まで   「M」とい   ープリーダー

                  う。)

   平成22年4月21日から   被告Y4    平成22年4月21日か

   平成23年10月19日まで          ら平成23年3月31日

                          までは事業推進本部製品

                          事業部次長、同年4月1

                          日から同年10月19日

                          までは同部部長

   平成23年6月28日から   N(以     関東製販事業部副事業部

   平成25年3月18日まで   下「N」と   長兼製品事業部専任次長

                  いう。)

   平成25年3月18日から   M       関東製販事業部販売グル

   平成27年1月8日まで            ープ担当次長兼製品事業

                          部専任次長

 

  (3)Aに対する排除措置命令及び課徴金納付命令

   ア 公正取引委員会は、遅くとも平成23年3月から平成27年1月27日までの間、本件9社が、共同して、本件9社又はそのいずれかを構成員とする共同企業体が販売する合材の販売価格の引上げを行っていく旨の合意(本件合意)をすることにより、公共の利益に反して、我が国における合材の販売分野における競争を実質的に制限したこと(本件違反行為)が独禁法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し、独禁法3条に違反するなどと認定して、令和元年7月30日、本件9社のうち株式会社D及びF株式会社を除く7社(Aを含む。)に対し、独禁法(令和元年法律第45号による改正前のもの)7条2項に基づき、排除措置を命じた(公正取引委員会令和元年(措)第6号。以下「本件排除措置命令」という。)(甲2)。

   イ 公正取引委員会は、本件違反行為が独禁法2条6項に規定する不当な取引制限に該当し、独禁法3条に違反するものであり、かつ、独禁法(令和元年法律第45号による改正前のもの)7条の2第1項1号に規定する商品の対価に係るものであるとして、同項に基づき、令和元年7月30日、Aに対し、課徴金として28億9781万円を令和2年3月2日までに国庫に納付するよう命じた(公正取引委員会令和元年(納)第11号。以下「本件課徴金納付命令」という。)。上記課徴金の額は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令(令和2年9月2日政令第260号による改正前のもの)5条1項に基づき算定される平成24年1月28日から平成27年1月27日までの期間(以下「本件実行期間」という。)における合材に係るAの売上額に、独禁法(令和元年法律第45号による改正前のもの)7条の2第1項、第12項、第23項を適用して算出された金額である(甲3)。

  (4)Aによる本件課徴金納付命令の一部取消請求訴訟の提起

    Aは、令和2年1月29日、公正取引委員会を被告とし、本件課徴金納付命令のうち、18億3417万円を超えて納付を命じた部分について、課徴金算定の対象とならない売上について算定されたものであると主張して、当該部分の取消しを求める取消請求訴訟を提起した(甲13)。

  (5)原告による提訴請求と本件訴えの提起

   ア 原告は、令和2年10月14日、Aの監査役らに対し、被告らにおいて本件違反行為につき善管注意義務違反があったなどとして、被告らに対する損害賠償責任を追及する訴えを提起するよう請求した。しかし、Aの監査役らは、同年12月11日頃、原告に対し、不提訴理由通知書を送付し、上記提訴請求の日から60日以内に被告らに対する上記訴えを提起しなかった(甲14、15)。

   イ 原告は、令和2年12月18日、本件訴えを提起した(顕著な事実)。

 2 争点及びこれに関する当事者の主張

   本件における争点は、(1)被告Y4が本件合意について取締役としての法令遵守義務に違反したか否か(争点1)、(2)被告Y1が本件合意について取締役としての法令遵守義務に違反したか否か(争点2)、(3)被告Y3が本件合意について取締役としての法令遵守義務に違反したか否か(争点3)、(4)被告Y2が本件合意について取締役としての善管注意義務に違反したか否か(争点4)、(5)損害の有無及びその金額(争点5)であり、これらの争点に関する当事者の主張は、次のとおりである。

  (1)被告Y4が本件合意について取締役としての法令遵守義務に違反したか否か(争点1)

   (原告の主張)

   ア(ア)9社会は、本件9社の本社に所属する従業員が出席して、自社の社内出荷データに基づく正確な製造数量や販売価格等の資料を互いに提供し、全国的に合材の販売価格を引き上げることを協議・決定する場、すなわち本件合意を形成する場であった。

    (イ)被告Y4は、取締役就任前に9社会に出席してAの業績の動向について詳細に報告しており、また、9社会に出席したAの他の従業員から9社会で決まった本件合意の内容の報告を受けていたから、9社会において本件合意が形成されていることを認識していた。

   イ 被告Y4は、本件合意の存在及び内容を知りながら、Aの取締役に就任した直後から、A社内において社内メールを送信するなどして、本件合意に従って合材の販売価格の引上げを指示していた。

     したがって、被告Y4は、独禁法に違反する行為を行い、取締役としての法令遵守義務に違反した。

   (被告Y4の主張)

   ア(ア)被告Y4は、Aの製品事業部次長であった頃、上司のO(以下「O」という。)製品事業部長から、Mに代わって9社会に参加するよう指示を受け、平成22年4月21日から平成23年10月19日までの間に10回にわたって9社会に出席した。被告Y4は、9社会について、Oからは同業者の営業担当者の懇親会であると聞いており、Mからは何の説明も受けなかった。

    (イ)被告Y4は、9社会において、同業者の営業担当者と懇親を深めるために飲食や雑談をするのに加え、他の参加者との間で、合材の製造数量及び販売価格の増減に関する情報交換をした。

      しかし、被告Y4は、このような情報交換を合材の市況の傾向と同業者の業績確認のために行われているものと認識していた。また、9社会で聞いた他社の合材の販売価格については、それがどの製品の、どのような販売方法による場合の単価を基にしているのか不明であったことから、信頼できるものとは考えていなかったため、これをA社内で共有しなかった。

    (ウ)平成23年6月28日以降、AからはNが9社会に参加するようになったが、被告Y4は、N及びその後9社会に出席したMに対して9社会でのやり取りの報告を求めたことはなく、また、N及びMから9社会で合材価格の引上げが決まったとの報告を受けたこともなかった。

    (エ)したがって、被告Y4は、9社会について懇親会であると認識しており、合材の販売価格の引上げを共同して行うとの合意(本件合意)の進捗を確認しているという認識はなかった。

   イ(ア)Aは、アスファルトの仕入れと合材の製造販売事業の収支管理を担当する製品事業部において、アスファルト及びその原料である原油の価格及び変動に関連する情報を収集し、アスファルト価格の過去の引上げ額及び将来の引上げ予想額を合材の販売価格に転嫁することができるよう、支店を通じて、合材の販売契約を締結する各工場に対し、合材の販売価格の引上げに関する社内通達のドラフトを作成し、事業推進本部長及び同副本部長の了解を得て、これを発出していた。

    (イ)被告Y4は、平成23年4月1日以降、製品事業部長として、合材の販売価格の引上げ額を決定し、社内に通知する業務を行っていたが、これは、同部における業務として自ら収集したアスファルトの価格動向等に関する情報に基づくものであって、本件合意とは無関係である。

   ウ 被告Y4は、本件合意を認識しておらず、合材の販売価格の引上げについて独禁法に違反していないから、本件合意について取締役としての法令遵守義務に違反していない。

  (2)被告Y1が本件合意について取締役としての法令遵守義務に違反したか否か(争点2)

   (原告の主張)

   ア 次の(ア)から(ウ)までの事情からすれば、9社会における本件合意の形成(前記(1)(原告の主張)ア(ア))及びこれに基づく合材の販売価格の引上げという本件違反行為は、Aにおいて、その役員を含め広く認識されていた。

    (ア)Aの従業員が支店や合材工場に出向き、9社会で決まった本件合意に沿って販売価格の引上げを行うよう指導しており、これにより支店や合材工場の従業員も本件合意の存在及び内容を認識していた。

    (イ)合材の販売価格の引上げ方針は、合材事業においては利益となる一方で建設事業においては不利益となるものであるから、事業推進本部において、各事業を担当する製品事業部と工務部との間の利害調整を行った上で決定されるはずであるにもかかわらず、実際には、製品事業部が上記方針の決定を任されており、工務部は製品事業部の決定をただ承認していた。

    (ウ)平成20年7月開催の9社会に係るA9社会出席者であるLが、当時製品事業部長であったOに対し、同9社会において要請された合材の販売価格の共同引上げについて報告したところ、Oは、自らは判断できないとして事業推進本部、取締役会、経営会議又は役員等に相談した上、上記要請に応じるとした。

   イ 被告Y1は、本件合意の存在及び内容を知りながら、Aの取締役に就任した直後から、A社内において通達を発出するなどして、本件合意に従って合材の販売価格の引上げを指示していた。

     したがって、被告Y1は、独禁法に違反する行為を行い、取締役としての法令遵守義務に違反した。

   (被告Y1の主張)

   ア 被告Y1は、平成21年6月に事業推進本部副本部長、平成24年4月に同本部本部長に就任したが、合材の販売価格の検討及び決定業務を担当する製品事業部に在籍したことはなく、上記業務に関与したことはなかった。そのため、被告Y1は、9社会及び本件合意の存在を知らなかった。

   イ Aにおいては、原材料等の高騰を受けて合材の販売価格を引き上げる場合、担当部署である製品事業部の部長が、①値上額を決定して社内通達文書のドラフトを作成し、②各支店や事業部への指示・連絡を担当する上位組織である事業推進本部の本部長及び副本部長に対し、上記文書の内容を簡潔に説明し、同本部の本部長及び副本部長から上記文書への押印を得て、③事業推進本部名でこれを発出していた。同本部の本部長及び副本部長は、原料等が高騰すれば合材の販売価格の引上げを要請する必要があることを理解しており、また、合材の販売価格の検討及び決定は製品事業部の専権事項であるため、同部長による説明に異論や意見を述べることはなく、上記説明は短時間であった。また、事業推進本部は、上記②において、文書取扱規程上、上記文書を社内通達の形で出す必要があるために、社内通達を発出することを承認したものであって、合材の販売価格の引上げ額等を承認し、決定していたわけではない。

   ウ 被告Y1も、事業推進本部の本部長又は副本部長として、製品事業部長から原材料等の高騰により合材の販売価格の引上げを要請する内容の社内通達文書について説明を受け、上記文書に押印したにすぎず、本件合意の存在を認識していなかった。

     したがって、被告Y1は、合材の販売価格の引上げについて独禁法に違反していないから、本件合意について取締役としての法令遵守義務に違反していない。

  (3)被告Y3が本件合意について取締役としての法令遵守義務に違反したか否か(争点3)

   (原告の主張)

   ア 前記(2)(原告の主張)アと同じ。

   イ 被告Y3は、本件合意の存在及び内容を知りながら、Aの取締役に就任した直後から、A社内において通達を発出するなどして、本件合意に従って合材の販売価格の引上げを指示していた。

     したがって、被告Y3は、独禁法に違反する行為を行い、取締役としての法令遵守義務に違反した。

   (被告Y3の主張)

   ア 被告Y3は、平成24年4月に事業推進本部副本部長に就任したが、合材の販売価格の検討及び決定業務の担当部署である製品事業部に在籍したことはなく、上記業務に関与したことはなかった。そのため、被告Y3は、9社会及び本件合意の存在を知らなかった。

   イ 前記(2)(被告Y1の主張)イと同じ。

   ウ 被告Y3も、事業推進本部の副本部長として、製品事業部長から原材料等の高騰により合材の販売価格の引上げを要請する内容の社内通達文書について説明を受け、その場で上記文書に押印したにすぎず、本件合意の存在を認識していなかった。

     したがって、被告Y3は、合材の販売価格の引上げについて独禁法に違反していないから、本件合意について取締役としての法令遵守義務に違反していない。

  (4)被告Y2が本件合意について取締役としての善管注意義務に違反したか否か(争点4)

   (原告の主張)

   ア(ア)前記(1)(原告の主張)ア(ア)記載のとおり、9社会は本件合意を形成する場であり、前記(2)(原告の主張)ア記載のとおり、本件合意及びこれに基づく合材の販売価格の引上げ(本件違反行為)はAにおいて、その役員を含め広く認識されていた。

      したがって、被告Y2も、本件合意の存在を認識していた。

    (イ)被告Y2は、本件合意の存在及び内容を知っていたから、取締役として、独禁法に反する本件合意の形成を止めて、Aの職務が法令を遵守した上でなされることを確保すべき義務を負っていた。しかし、被告Y2は、本件合意の形成を止めず、上記義務に違反した。

   イ(ア)仮に被告Y2が本件合意を認識していなかったとしても、被告Y2は、代表取締役として、法令違反行為を防止するための具体的な措置を講ずることを取締役会に発議し又は自ら実施して、法令遵守に関する管理体制を整える義務(内部統制システム構築義務)を負っており、具体的には、①通常想定されるリスクに対応し得る程度の体制を整える義務を負うとともに、②想定外のリスクを予見すべき特別な事情がある場合にはそれに対応し得る体制を構築する義務を負っていた。

    (イ)Aは、本件違反行為の開始以前にも独禁法違反による課徴金納付命令を受けていたから、Aにおいては、価格カルテルの再発が通常想定されるリスクに当たり、被告Y2は、このようなリスクに対応し得る程度の管理体制を整える義務を負っていた。上記体制としては、独禁法違反行為を未然に防止するための措置のみならず、独禁法違反行為を早期に発見するための措置をも講ずることが必要であり、具体的には、競合他社との接触がある部門の担当者に対するヒアリングの実施や、自主申告による社内処分の軽減を考慮する扱い(以下「社内リニエンシー制度」という。)の整備を行う必要があった。

      しかし、被告Y2は、これらを行わず、上記義務に違反した。

    (ウ)仮に価格カルテルの再発が通常想定されるリスクに当たらないとしても、Aにおいては、本件違反行為の開始以前にも独禁法違反行為がなされており、また、本件違反行為の期間中にも刑法上の談合罪に該当する行為がなされたのであるから、本件違反行為のような価格カルテルの発生を予見すべき特別な事情が存在したといえる。したがって、この場合にも、被告Y2は、価格カルテルの再発を防止し得る程度の管理体制として、製品事業部の担当者に対するコンプライアンス担当部又は外部専門家によるヒアリングの実施や、社内リニエンシー制度の整備を行う義務を負っていた。

      しかし、被告Y2は、これらを行わず、上記義務に違反した。

   (被告Y2の主張)

   ア(ア)Aは、合材事業に加えて建設事業も行っており、後者の売上高の方が多かったから、合材の販売価格の引上げは必ずしもAの利益につながるものではないにもかかわらず、建設事業担当部の需要や意向を確認して本件合意に参画したとの証拠はないから、Aが全社的に本件合意に関与していたとはいえない。

    (イ)また、A9社会出席者が地方に出向くことはあったが、それは一部の支店・合材工場による不当廉売又はその疑いを原因とする同業者間のもめ事を仲裁し、本社の指示を伝え、不当廉売を行わないよう指導するためであって、9社会の合意に沿った販売価格の引上げを指導していたのではない。

    (ウ)したがって、本件合意はA社内において広く知られていたわけではなく、被告Y2も本件合意の存在を認識していなかった。

   イ(ア)被告Y2がAの代表取締役に就任した平成24年4月当時、担当者に対するコンプライアンス担当部署又は外部専門家によるヒアリング制度や社内リニエンシー制度を設けることは企業において一般的に求められる体制ではなかった。したがって、被告Y2は、代表取締役の通常想定されるリスクに対応し得る程度の体制を整える義務として、上記各制度を整備する義務を負っていなかった。

    (イ)被告Y2がAの代表取締役に就任した平成24年4月の時点において、Aは、平成11年の課徴金納付命令以降、公正取引委員会から独禁法違反の指摘を受けていなかった。また、平成24年4月当時、Aの価格カルテルへの関与は、昭和62年の処分事例が最後であり、それから既に約25年が経過していた。

      したがって、被告Y2には、Aによる価格カルテルを具体的に予見する契機がなかった。

      また、Aは、平成20年4月までに、独占禁止法遵守マニュアルの作成及び配布、コンプライアンス行動規範やコンプライアンス指針・行動規範の制定及び配布、内部通報制度運用規程の制定、総務人事部内のコンプライアンスグループや内部統制推進室の設置、独禁法を中心とするコンプライアンス研修会の実施等を行った。

      さらに、Aは、被告Y2が代表取締役に就任した後である平成24年7月、平成25年9月及び平成26年10月、それぞれ合材事業における営業従事者を対象とする独禁法の講習会を実施し、また、同月、コンプライアンス指針・行動規範の改訂版を作成・配布した。

      したがって、被告Y2は、過去の独禁法違反事例を省みて、独禁法違反を防止するための管理体制を継続して構築していた。

    (ウ)また、被告Y2が、Aの代表取締役就任後遅滞なく法令遵守状況に関するインタビューや社内リニエンシー制度を導入していれば本件課徴金納付命令を受けることがなかったことを裏付ける証拠はない。

  (5)損害の有無及びその金額(争点5)

   (原告の主張)

    Aが納付した本件課徴金納付命令に係る課徴金のうち、少なくともAが取消訴訟においてその支払義務を争わない18億3417万円(以下「本件自認課徴金額」という。)は、被告らの任務懈怠によって生じた損害である。被告らの取締役在任期間を考慮すると、被告Y1の任務懈怠によって生じた損害は本件自認課徴金額全額、被告Y2の任務懈怠によって生じた損害は本件自認課徴金額の36分34に当たる17億3227万円、被告Y4及び被告Y3の任務懈怠によって生じた損害は本件自認課徴金額の36分の31に当たる15億7942万円である。

   (被告らの主張)

    争う。

第3 当裁判所の判断

 1 認定事実

   前提事実に加え、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実(以下「認定事実」という。)が認められる。

  (1)Aの社内体制等

   ア Aの主要な事業は、建設事業及び合材事業であり、建設事業の現況月次管理、土木技術員の管理や教育等を工務部が、支店を通じた合材工場の指揮監督及び合材工場の収支管理等を製品事業部が担当していた(前提事実(1)ア(ア)、(ウ)、(エ))。

   イ 事業推進本部には、本部長及び副本部長がおり、少なくとも平成24年以降、工務部長及び製品事業部長の2名が副本部長を務めていた(被告Y4本人、被告Y2本人)。

   ウ Aにおいては、月に一、二回、各部の部長、執行役員及び取締役が参加する経営会議が開催されており、各部から事業の現況についての報告がなされ、また、共同企業体の組成や設備投資に関する事業計画の承認が行われていた。製品事業部長は、経営会議において、毎月の支店ごとの合材の売上数量、売上金額、利益金額等やこれらの予想値との差異について報告するとともに、支店ごとの合材の販売単価の変動や合材の原料であるストレートアスファルト等の価格の変動についても報告し、利益の増減の要因分析等を行っていた(丁8から10まで、被告Y4本人、被告Y3本人、被告Y2本人)。

  (2)Aにおける合材の販売価格の決定過程等

   ア A9社会出席者は、平成20年6月頃から平成27年1月までの間、9社会において、A以外の本件9社との間で、合材の販売価格の引上げの進捗状況や石油アスファルトの価格動向を踏まえて、更なる合材の販売価格の引上げを行うか又は既に行っている引上げの取組みを継続するかの方針、また、更なる合材の販売価格の引上げを行う場合にはその引上げ時期や引上げ幅等についての方針(以下「9社会方針」という。)を確認し合い、製品事業部長に対し、その内容を報告していた。

     製品事業部は、少なくとも平成20年6月頃から平成27年1月までの間、9社会方針に沿って、Aにおいて合材の販売価格の引上げを行うか否か、行う場合にはその引上げ時期や引上げ幅についての方針(以下、製品事業部において定めるこのような方針を「製品事業部方針」という。)を決定していた。

   イ(ア)製品事業部長は、Aの他の部の部長、執行役員及び取締役に対し、経営会議において、合材の販売単価の変動や合材の原料であるストレートアスファルト等の価格変動について報告していたところ、製品事業部方針が、合材の販売価格(Aが社外に対して販売する際の販売価格〔以下「社外販売価格」という。〕及びAの建設事業において合材を使用する際の価格〔以下「社内販売価格」という。〕のいずれをも含む。)を引き上げる内容の場合には、それも報告していた。その際、製品事業部長は、上記引上げを行うか否か、上記引上げの時期、上記引上げの幅を決定するに当たっての具体的な考慮要素については説明せず、参加者であるAの他の部の部長、執行役員及び取締役から質問がなされることもなかった。

    (イ)Aにおいては、合材の社外販売価格及び社内販売価格を引き上げようとする場合、各支店長等に対して通達を発出し、引上げを指示していた。上記通達は、製品事業部が起案し、事業推進本部長及び同副本部長の決裁を経て、事業推進本部長及び同副本部長名で発出されていた。

    (ウ)Lは、平成20年6月2日から平成21年10月22日までの間、9社会に参加していたところ、平成20年7月頃開催の9社会において、他の参加者から合材の販売価格を引き上げる提案がなされたことから、同月29日、当時製品事業部長であったOに対し、自席とは異なる別室において、上記提案について報告した。Oは、Lに対し、上記提案について自ら判断することはできないため回答を待つよう指示した上で、上記提案を受け入れるか否かについて検討した。Oは、遅くとも次の9社会までの間に、Lに対し、上記提案を受け入れ、Aにおいても合材の販売価格を引き上げる方針を採る旨を伝えた。Lは、当該9社会において、Aが上記提案を受け入れ、合材の販売価格を引き上げる方針であることを述べ、A以外の本件9社も同様の方針であることを確認した。

    (エ)被告Y4は、平成25年3月頃、これに先立つ同年1月28日開催の9社会において同年4月1日以降に出荷する合材の販売価格を1トン当たり1000円以上引き上げる方針が確認されたことを受け、Aが同日以降に出荷する合材の社外販売価格を前年度期末単価より1トン当たり1000円以上、社内販売価格を現行設定単価より1トン当たり600円以上引き上げるよう指示する内容の通達(甲7資料4)を起案し、自らも事業推進本部副本部長として押印した上、当時事業推進本部長であった被告Y1及び同副本部長であった被告Y3の押印も得て、同年3月1日、各支店長及び事業部長に対し、これを発出した。

      上記通達には、原油価格の上昇と円安により、アスファルト価格が前年10月以降1トン当たり1万5000円上昇したことに加え、燃料、油脂類及び電力料金の値上げ等、製造原価が収益を大きく圧迫しているにもかかわらず、合材価格は横ばいとなっており、これまでの度重なるコストの上昇分を販売価格に転嫁できていない状況を踏まえ、平成25年度以降、適正な価格変更の指導が必要である旨の記載がある。

      被告Y4は、被告Y3及び被告Y1に対し、上記通達の決裁の際、原料価格が上昇したなどの販売価格の引上げを要する理由について口頭で説明し、被告Y3及び被告Y1は、それ以上の説明を求めることなく、上記通達に押印した。

   ウ Aは、全国各地域において、合材工場の工場長等を通じて、9社会方針に基づき、合材の販売価格の引上げについて情報交換を行うなどしつつ、前記イ(イ)の通達に従って合材の販売価格の引上げを行っていた。

   (以上、アからウまでについて、甲5から7まで、17から26まで、28から34まで、乙10、丙1、丁4、7、17、証人L、証人P、被告Y4本人、被告Y1本人、被告Y3本人)。

   エ 事実認定の補足説明(前記ア記載の事実について)

    (ア)前記ア記載の事実は、証人Lの証言並びにAを除く本件9社の9社会に出席した従業員及びNの公正取引委員会審査官に対する供述調書(甲5、6、17から20まで、26、28から34まで。以下、Aを除く本件9社の9社会に出席した従業員の公正取引委員会審査官に対する供述調書〔甲18、20、28から34まで〕を併せて「他社9社会出席者供述調書」という。)等に基づき認定したものであるところ、上記各供述調書の内容が信用できると判断した理由は次のとおりである。

    (イ)a まず、9社会の内容に関する他社9社会出席者供述調書は、異なる会社に所属する各供述人が公正取引委員会審査官に対して任意に供述した内容を録取したものであり、上記各供述人6名の9社会(被告Y4が出席した9社会を含む。)の内容に関する供述内容は、互いに合致している上、9社会と近接した時期にその出席者等が作成したとされる電子メールや社内通達文書等の客観的証拠の内容とも整合するものであって、その信用性を疑わせる事情はない。

     b これに対し、A9社会出席者の一人である被告Y4は、本人尋問及び陳述書(丁12)において、自身が出席した9社会について同業者の営業担当者の懇親会であり、合材の販売価格を共同して引き上げる旨の合意(本件合意)は形成されなかった旨を供述する。

       しかし、被告Y4の上記供述は、前記aの9社会(被告Y4が出席した9社会を含む。)に係る他社9社会出席者供述調書に反するものであるところ、これを裏付ける証拠がないから、これをにわかに信用することはできない。

     c また、A9社会出席者であるM及びNは、陳述書(丁13、14、16)において、各人が出席した9社会で、合材の販売価格の引上げが議論に上っていたこと自体は認めるものの、引上げの合意(本件合意)は形成されなかった旨を供述する。

       しかし、M及びNの上記供述は、前記aの9社会(M及びNが出席した9社会を含む。)に出席した他社9社会出席者供述調書に反するものであるところ、これを裏付ける証拠がない。。また、Nは、公正取引委員会審査官に対して、9社会において本件合意を行っていた旨の供述を任意に行い、各供述調書(甲5、6、17、19、26)の内容を確認した上で署名押印したものであるから、これに反する内容の供述が記載されたNの陳述書(丁13、16)の信用性を、法廷における反対尋問を経ることもなく認めることはできない。なお、Nは、上記各陳述書において、上記各供述調書の作成状況についても供述するが、当該作成状況に係る具体的な事実が立証されていない以上、上記各供述調書の信用性を否定するものとは認められない。

     d したがって、9社会の内容に関する他社9社会出席者供述調書及びNの公正取引委員会審査官に対する供述調書記載の供述はいずれも信用することができる。

    (ウ)a 次に、A9社会出席者が9社会において確認し合った9社会方針が製品事業部においてどのように扱われたかに関する事実の証拠の信用性について検討する。

     b まず、A9社会出席者の一人であるLは、証人尋問及び公正取引委員会審査官に対する供述調書(甲9)において、①自身が出席した9社会において、本件9社の間で合材の販売価格を引き上げる旨の提案があり、当時製品事業部長であったOに対して上記提案があったことを伝えたところ、遅くとも1か月以内に上記提案に従う旨の返答を得たこと、②Oが9社会方針に沿った合材の販売価格の引上げを社内に指示していたこと、③平成21年10月に9社会への出席をMに引き継ぐ際、Mに対し、9社会において合材の販売価格を報告し、9社会の内容をOに伝える必要があることを引き継いだことを供述しているところ、Lの証言は法廷において宣誓の上なされたものであり、その信用性を疑わせる事情はなく、Lの陳述書(丁17)もこれと矛盾しない限度においてはその信用性を疑わせる事情はない。

     c また、Nは、公正取引委員会審査官に対して、9社会方針を被告Y4に報告していた旨の供述を任意に行い、各供述調書(甲5、6、17、19、26)の内容を確認した上で署名押印しており、その後作成した陳述書(丁13、16)においても、少なくとも被告Y4に対して9社会において聞いた他社の値上げ方針を伝えた旨を供述しているのであるから、Nの上記各供述調書記載の供述には、その信用性を疑わせる事情はない。

     d 一方、A9社会出席者から9社会の内容について報告を受けたことがない旨の陳述書(丁15)記載のOの供述は、前記bのLの供述に反するものであり、法廷における反対尋問を経たものでないことも加味すれば、にわかに採用できない。

     e また、被告Y4は、陳述書(丁12)及び本人尋問において、Mは、陳述書(丁14)において、それぞれ9社会で聞いた他社の合材の販売価格をA社内で報告したことはないなどと供述するが、①Mは陳述書(丁14)において、上司に対して他社が合材の販売価格を引き上げたか否かに関する話題が9社会で出たことは報告したかもしれないと述べていること、②前記(イ)のとおり、被告Y4及びMの9社会の内容に関する供述の信用性を認め難いこと、③その供述内容は、Aの経費において9社会に出席し(甲8、26)、合材事業において競争関係にある本件9社の間において、Aにおける合材の販売価格の情報を提供し、他社から同様の情報を得ておきながら、当該情報の信用性を独断で否定し、製品事業部長等の上司に報告することもなかったというものであり、合材の販売価格という合材事業において重要な情報の扱いとして、極めて不合理な内容であること等からすれば、その信用性を認めることはできない。

     f 前記aからeまでによれば、A9社会出席者は、Aにおいて合材事業を担当する製品事業部長に対し、少なくとも平成20年6月頃から平成27年1月までの間、9社会方針を報告していたことが認められる。

       そして、①上記のとおり、少なくとも平成20年6月頃から平成27年1月までの間、9社会方針の報告が製品事業部長等から止められることなく継続的に行われていたこと、②少なくとも平成23年3月9日付け通達(丁4)、平成24年3月16日付け通達(甲7資料2)及び平成25年3月1日付け通達(甲7資料4)が、平成23年3月4日開催の9社会における9社会方針(甲18)、平成24年3月13日開催の9社会における9社会方針(甲19)及び平成25年1月28日開催の9社会における9社会方針(甲7)とそれぞれ合致していること、③Aにおける合材の販売価格の引上げに関する決定は、製品事業部方針に従って決められていたこと(前記イ(ア))からすれば、製品事業部が、少なくともこの間、9社会方針に沿って、Aにおいて合材の販売価格の引上げを行うか否か、行う場合にはその引上げ時期や引上げ幅に関する製品事業部方針を決定したことが認められる。

       なお、被告Y4は、アスファルト価格等について自ら調査を行い合材の販売価格を検討していたと主張するが、被告Y4において、9社会方針が上記検討内容に整合するものであることを確認した上で、製品事業部方針を決定したことも大いにあり得るのであるから、この点は上記認定を左右するものではない。

    (エ)以上のとおり、証人Lの証言並びにAを除く本件9社の9社会に出席した従業員及びNの公正取引委員会審査官に対する供述調書には、信用性が認められる一方で、これに反する内容の被告Y4、N、M及びOの各供述を信用することはできない。

      したがって、製品事業部方針の決定過程については、前記アのとおり認めることができる。

  (3)本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令の経緯

   ア Aは、令和元年7月30日、公正取引委員会から、本件排除措置命令及び本件課徴金納付命令を受けた(前提事実(3))。

   イ Aは、令和2年3月2日までに、本件課徴金納付命令に係る課徴金全額を納付した(甲43)。

  (4)Aにおける独禁法違反事例

    Aは、昭和62年12月11日、東京アスファルト合材協会、神奈川アスファルト合材協会及び千葉アスファルト合材協会がそれぞれスポット事業者向け合材の販売価格を引き上げる旨を決定し、これを各協会の会員(Aを含む。)に伝達し、遵守させたことに関し、公正取引委員会から独禁法違反に基づく課徴金納付命令を受けた(甲11、乙9)。

 2 争点1(被告Y4が本件合意について取締役としての法令遵守義務に違反したか否か)について

  (1)前提事実(1)オ、(2)イ及び認定事実(2)アによれば、被告Y4は、遅くとも平成20年頃からAの製品事業部に在籍し、取締役就任前である平成22年4月から平成23年10月までの間、9社会に出席していたのであるから、平成24年6月28日の取締役就任時において、Aを含む本件9社の間において行われた本件合意に基づき、Aが合材の販売価格の引上げを行っていたことを認識していたものと認めるのが相当である。その上で、認定事実(2)イによれば、被告Y4は、同日にAの取締役に就任してから平成27年1月27日に至るまで、製品事業部長として、本件合意に従って、製品事業部方針を決定し、同方針に従って作成された社内通達の発出について事業推進本部長及び同副本部長の決裁を経た上で、社内通達等を通じてこれを指示していたことが認められる。

  (2)取締役は、会社を名宛人とし、会社がその業務を行うに際して遵守すべき全ての法令を遵守する義務を負うものであるところ、被告Y4の前記(1)の行為は、事業者であるAを名宛人とし、Aが遵守すべき独禁法3条(独禁法2条6項に規定する不当な取引制限の禁止)に違反する行為に該当する。

    したがって、被告Y4は、本件合意について取締役としての法令遵守義務に違反したと認められる。

 3 争点2(被告Y1が本件合意について取締役としての法令遵守義務に違反したか否か)について

  (1)まず、被告Y1が、本件合意の存在及び内容を認識していたか否かについて検討する。

   ア 認定事実(2)イ(ウ)によれば、Lは、平成20年7月頃、製品事業部長であったOに対し、9社会における合材の販売価格の引上げ提案を報告したところ、Oは、上記提案に応じるか否かについて自ら判断できない旨を述べ、直ちに回答しなかったというのである。Oが当時製品事業部長であり、合材事業の責任者であったことからすると、Oは、合材の販売価格に利害関係を有する工務部又はA全体の判断を行う経営会議の構成員である他の部長、執行役員及び役員等に対し、上記提案について相談し、これに賛同することへの同意や承認を得ていた可能性が高い。

   イ 認定事実(2)アによれば、A9社会出席者及び製品事業部長は、9社会方針の存在及び内容を認識しており、また、証拠(甲28、29、31から33まで)によれば、本件9社から9社会に出席していた担当者のうち数名が、地方の意見交換会等に出席し、実際に合材の販売価格の引上げ交渉を行う支店や合材工場の従業員に対して、引上げを確実に実行するよう指導していたことが認められるところ、競争関係にあれば、複数の同業者が共同して引上げを指導することは想定し難い以上、Aの支店や合材工場の従業員においても、9社会のような会合において、Aを含む複数の同業者が合材の販売価格の引上げについて合意しているものと認識し得たといえる。さらに、証拠(甲36)によれば、平成22年4月から平成27年3月までAの北海道支店製品部製品課の課長であったQが、本件9社の一部を含む同業他社の関係者が参加した懇親会において、被告Y4から、資材価格が上がった場合に、それに見合う程度の合材の販売価格の引上げを行うための集まりとして、本件9社においては9社会というものが存在する旨を聞いたことが認められる。

     上記のような事実からすれば、製品事業部、支店及び合材工場の従業員は、9社会の存在及び内容を認識していたことが認められる一方で、9社会の存在及び内容について、A社内において、一般に、口外してはならない情報として扱われていた形跡はうかがわれない。

   ウ 認定事実(2)ア、イによれば、製品事業部が9社会方針に沿って決定した製品事業部方針は、製品事業部以外の部の部長、執行役員及び取締役に対し、経営会議において報告されるほか、上記方針を社内に指示するための通達の発出について決裁を得る際、事業推進本部長及び同副本部長に対して報告されていたものであるが、経営会議及び通達発出の決裁のいずれにおいても、製品事業部以外の部の部長、執行役員及び取締役から、製品事業部長に対し、上記方針に係る引上げの要否、時期、幅等に関する質問がなされることはなく、上記方針がAの指示として、社内に伝達されていたというのである。

   エ 認定事実(1)アによれば、合材事業を担当するのは製品事業部であったから、Aにおける合材の社外販売価格について、まずは製品事業部において、現在及び将来におけるストレートアスファルト等の合材の原材料や製造経費の変動の可能性やその幅、適法に取得した同業者の動向に関する情報等を考慮して、その引上げの要否、時期及び幅を慎重に検討する必要があったといえる。

     また、社外販売価格については、証拠(甲21から25まで、証人P)によれば、各支店及び合材工場において、販売先との間で合材の販売価格の引上げを交渉していたことが認められるが、上記交渉が、事業推進本部が発出する通達や製品事業部長が送信するメールに記載された指示等に従って行われていたことからすれば、上記交渉において常に引

法学教室 2023年8月号(No.515) ◆特集2 宗教・宗教団体と法

 

有斐閣

2023年07月28日 発売

定価  1,650円(本体 1,500円)

 

 

特集2は「宗教・宗教団体と法」。人にとって、あるいは、人の生にとって、善きものともの悪しきものともなりうる宗教に、法は、そして私たちはどのように向き合うべきか。簡単に答えの出ない深い深い問いですが、それでも、おそれずに対峙し、考え続けねばなりません。本特集の四論文が、そのための羅針盤となれば幸いです。

 

 

◆特集2 宗教・宗教団体と法

1 宗教と法――法と理性と宗教と…安藤 馨……41

 

2 日本国憲法が信教の自由を規定することの意味…山本健人……46

 

3 宗教法人法と国家の権限…田近 肇……50

 

4 宗教団体の経済活動と法…棚村政行……54

 

 

コメント

あまり詳しくはない分野ですので、参考になります。

 

 

法学教室 2023年8月号(No.515)  ◆特集1 メタバースと知的財産法

 

有斐閣

2023年07月28日 発売

定価  1,650円(本体 1,500円)

 

 

災害級とも言われる酷暑と、収束が遠い感染症の流行と、ままならないことも多いですが、一生に一度の今年の夏がすこしでも素敵なものでありますよう。

 

今月号の特集1は「メタバースと知的財産法」。実社会の相似形のように存在することもある三次元CG仮想空間では、一体なにが問題となりうるのか。知的財産法を切り口に、6名の専門家に問題点を分析していただきました。彼方と此方の境はどこか――ある種、哲学的な問いすら内包する異世界をお楽しみください。

 

◆特集1 メタバースと知的財産法

Ⅰ 現実世界をメタバース内に再現する際の諸課題…蘆立順美……10

 

Ⅱ 現実世界のデザインとメタバース内のアイテム…青木大也……15

 

Ⅲ 知的財産権の対象としてのアバターの名前・肖像(あるいは私自身)…誠子夜火猫……20

 

Ⅳ メタバースにおける活動…駒田泰土……25

 

Ⅴ メタバースにおける権利侵害・トラブル…中崎 尚……30

 

Ⅵ NFTを活用した仮想オブジェクト等の取引と著作権法…谷川和幸……35

 

 

コメント

メタバース法は、まったく新しい解釈の視点でした。

 

 

事情変更の原則と契約締結時の当事者の予見可能性及び帰責事由

 

 

              ゴルフクラブ会員権等存在確認請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/平成8年(オ)第255号

【判決日付】      平成9年7月1日

【判示事項】      1 事情変更の原則と契約締結時の当事者の予見可能性及び帰責事由

             2 ゴルフクラブ入会契約後のゴルフ場ののり面の崩壊という事情の変更とゴルフ場経営会社の予見可能性及び帰責事由

【判決要旨】      1 事情変更の原則を適用するためには、契約締結後の事情の変更が、契約締結時の当事者にとって予見することができず、かつ、右当事者の責めに帰することのできない事由によって生じたものであることが必要である。

             2 自然の地形を変更してゴルフ場を造成したゴルフ場経営会社は、ゴルフクラブ入会契約締結後にゴルフ場ののり面が崩壊したとしても、事情変更の原則の適用に関しては、特段の事情のない限り、右崩壊について予見不可能であったとはいえず、また、これについて帰責事由がなかったということもできない。

【参照条文】      民法1-2

             民法3編第2章契約

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集51巻6号2452頁

 

 

民法

(基本原則)

第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3 権利の濫用は、これを許さない。

 

(債務不履行による損害賠償)

第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。

一 債務の履行が不能であるとき。

二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

(損害賠償の範囲)

第四百十六条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。

2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

 

 

放火既遂罪の成立時期s23

 

 

              放火被告事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/昭和23年(れ)第707号

【判決日付】      昭和23年11月2日

【判示事項】      放火既遂罪の成立時期

【判決要旨】      犯人が家屋の押入内壁紙にマツチで放火したため火が天井に燃え移り、右家屋の天井板約1尺4方を焼燬した以上、火勢は放火の媒介物を離れて家屋が独立燃焼する程度に達したものであるから、放火既遂罪が成立する。

【参照条文】      刑法108

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集2巻12号1443頁

             最高裁判所裁判集刑事5号9頁

 

 

刑法

(現住建造物等放火)

第百八条 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 

       理   由

 

 弁護人平山国弘の上告趣意は、憲法第三二条に関する主張を撤回した外末尾添付の書面記載のごとくであつて、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

 上告趣意第一点について。

 現行刑事訴訟法における控訴審は覆審であつて、訴訟手続の全部を更新するのであるから、第一審の訴訟手続についてたとえ所論のような違法があつたとしても、その違法は控訴審の判決に影響を及ぼすものではない。又、所論のような違法は第一審の訴訟手続を違法ならしめるだけで、その手続の存在を失わしめて無効とするものではないから、所論のように控訴審が第一審となり被告人から三審制の利益を奪うものではない。されば、原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。

 同第二点について。

 原審は論旨摘録のような被告人の原審公判廷における供述の記載、原審証人Aの証言並びに被告人の原審公判廷における犯行情況の記憶の明確さ等を綜合した上、被告人が犯行当時心神耗弱者でなかつたことを判断したのであつて、これらの資料によればかかる判断を為し得られるのであるから、原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。

 同三点について。

 原判決はその挙示する証拠を綜合して、被告人が原判示家屋の押入内壁紙にマツチで放火したため火は天井に燃え移り右家屋の天井板約一尺四方を焼燬した事実を認定しているのであるから、右の事実自体によつて、火勢は放火の媒介物を離れて家屋が独立燃焼する程度に達したことが認められるので、原判示の事実は放火既遂罪を構成する事実を充たしたものというべきである。されば、原判決が右の事実に対し刑法第一〇八条を適用して放火既遂罪として処断したのは相当であつて、原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。

 同第四点について。

 論旨は被告人に利益な情状を述べて原判決の破毀を求めているが、かかる事情の開陳は上告の適法な理由ではないから採用することができない。

 よつて、刑事訴訟法第四四六条により主文のとおり判決する。

 以上は裁判官全員の一致した意見である。

 検察官 小幡勇三郎関与

  昭和二三年一一月二日

     最高裁判所第三小法廷

 

定年後の再雇用・南山大学事件・大学専任教員B

 

 

懲戒処分無効確認等請求控訴,同附帯控訴事件

【事件番号】      名古屋高等裁判所判決/令和元年(ネ)第665号、令和元年(ネ)第794号

【判決日付】      令和2年1月23日

【判示事項】      1 懲戒対象事実①~③に当たる被控訴人兼附帯控訴人(一審原告)Xの行為については,いずれも懲戒事由に該当せず,本件処分は無効であるとした一審判断が維持された例

             2 仮にXの行為が懲戒事由に該当するとしても,情状酌量の余地があるとして,譴責を免じて訓戒に留めるのが相当であったとした一審判断が維持された例

             3 仮に懲戒事由があるとしても,本件処分は,懲戒事由との均衡を欠いた不相当なものであり,無効であるとした一審判断が維持された例

             4 定年後再雇用者について労契法19条2号を類推適用した一審判断が維持された例

             5 Xの再雇用の拒否は,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められないから,控訴人兼附帯被控訴人(一審被告)Y法人とXとの間に,定年後も再任用規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であるとした一審判断が維持された例

             6 再雇用後の給与面での待遇については,定年年齢時の俸給は少なくとも支給され,雇用期間については,Xが満68歳に達する年の年度末までになるものと解されるとした一審判断が維持された例

             7 本件処分および本件再雇用拒否は,全体として,Xの雇用を保持する利益や名誉を侵害するものとして不法行為を構成するとして,慰謝料請求を一部認容した一審判断が維持された例

             8 現時点において,名誉教授の称号授与の可能性の有無を慰謝料額算定の要素として考慮するのは相当でないとされた例

【掲載誌】        労働判例1224号98頁

 

 

労働契約法

(懲戒)

第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

 

(有期労働契約の更新等)

第十九条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。

二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

 

 

 

       主   文

 

 1 本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。

 2 控訴費用は控訴人の,附帯控訴費用は被控訴人の各負担とする。

 

 

 

              懲戒処分無効確認等請求事件

【事件番号】      名古屋地方裁判所判決/平成29年(ワ)第636号

【判決日付】      令和元年7月30日

【判示事項】      私立大学の大学教授の65歳定年後の再雇用に関して,再雇用による雇用継続を期待することに合理性が認められ,大学の再雇用拒否は許されず,定年後も再雇用規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものと判断した事例

【参照条文】      労働契約法19

【掲載誌】        判例タイムズ1471号106頁

             判例時報2434号100頁

             労働判例1213号18頁

             LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】      法学セミナー65巻3号131頁

             労働法律旬報1964号31頁

             ジュリスト1547号103頁

             法律時報93巻3号131頁

 

       主   文

 

 1 原告が,被告に対し,雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

 2 被告は,原告に対し,平成29年4月1日から本判決確定の日又は令和2年3月31日までのいずれか早いほうの時期に至るまでの間,毎月末日限り,月額63万0700円を支払え。

 3 被告は,原告に対し,50万円を支払え。

 4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

 5 訴訟費用は,これを4分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

 6 この判決は,第2項及び第3項に限り,仮に執行することができる。

 

 

農業協同組合を共済者とする養老生命共済契約における災害給付金及び死亡割増特約金給付の免責事由である被共済者の「重大な過失」があるとされた事例

 

 

共済金支払請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/昭和56年(オ)第1112号

【判決日付】      昭和57年7月15日

【判示事項】      農業協同組合を共済者とする養老生命共済契約における災害給付金及び死亡割増特約金給付の免責事由である被共済者の「重大な過失」があるとされた事例

【判決要旨】      農業協同組合を共済者とする養老生命共済契約の被共済者が、夜間飲酒酩酊のうえ普通乗用車の運転を開始し、事故発生時においてさえ血液1ミリリットル中0.98ミリグラムのアルコールを保有しており、右アルコールの影響のもとに道路状況を無視し、かつ制限速度毎時40キロメートルの屈曲した路上を前方注視義務を怠つたまま漫然時速70キロメートル以上の高速度で運転をして、路上右寄りに駐車中のレッカー車に衝突して死亡した場合には、右事故につき前記養老生命共済契約における災害給付金及び死亡割増特約金給付の免責事由である被共済者の「重大な過失」があるものと解すべきである。

【参照条文】      商法641

             商法829

             農業協同組合法10の2

             農業協同組合及び農業協同組合連合会の共済規程の記載事項を定める省令(昭和29年農林省令第62号)1

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集36巻6号1188頁

 

 

 判例は、「重大な過失」について、「通常人に要求される程度の相当の注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態」を指すものとしている(大判大2・4民録19輯281頁、大判大2・12・20民録19輯1037頁、大判昭7・4・11民集11巻7号609頁、大判昭8・5・16民集12巻12号1178頁、最高3小判昭32・7・9民集11巻7号1203頁)。

 

 

保険法

(保険者の免責)

第十七条 保険者は、保険契約者又は被保険者の故意又は重大な過失によって生じた損害をてん補する責任を負わない。戦争その他の変乱によって生じた損害についても、同様とする。

2 責任保険契約(損害保険契約のうち、被保険者が損害賠償の責任を負うことによって生ずることのある損害をてん補するものをいう。以下同じ。)に関する前項の規定の適用については、同項中「故意又は重大な過失」とあるのは、「故意」とする。

 

(重大事由による解除)

第五十七条 保険者は、次に掲げる事由がある場合には、生命保険契約(第一号の場合にあっては、死亡保険契約に限る。)を解除することができる。

一 保険契約者又は保険金受取人が、保険者に保険給付を行わせることを目的として故意に被保険者を死亡させ、又は死亡させようとしたこと。

二 保険金受取人が、当該生命保険契約に基づく保険給付の請求について詐欺を行い、又は行おうとしたこと。

三 前二号に掲げるもののほか、保険者の保険契約者、被保険者又は保険金受取人に対する信頼を損ない、当該生命保険契約の存続を困難とする重大な事由

 

 

農業協同組合法

第十条の二 組合は、前条の事業を行うに当たつては、組合員に対しその利用を強制してはならない。

 

 

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人らの負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人林光佑の上告理由一ないし四について

 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

 同五について

 本件共済契約における災害給付金及び死亡割増特約金給付の免責事由である「重大な過失」とは、損害保険給付についての免責事由を定める商法六四一条及び八二九条にいう「重大な過失」と同趣旨のものと解すべきところ、これを本件についてみると、原審の適法に確定した事実によれば、亡Aは、本件事故当夜酒を五、六合飲酒してかなり酩酊のうえ普通乗用車の運転を開始し、事故発生時においてさえ血液一ミリリツトル中〇・九八ミリグラムのアルコールを保有しており、同人が右アルコールの影響のもとに道路状況を無視し、かつ、制限速度四〇キロメートルの屈曲した路上を前方注視義務を怠つたまま漫然時速七〇キロメートル以上の高速度で運転をして、折から路上右寄りに駐車中の本件レツカー車に衝突した、というのであり、右事情のもとにおいては、亡Aは極めて悪質重大な法令違背及び無謀操縦の行為によつて自ら事故を招致したものというべきであるから、右は本件共済契約における免責事由である「重大な過失」に該当するものと解するのが相当である。これと結論において同趣旨にでた原判決は結局正当であり、論旨は、採用することができない。

 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

    最高裁判所第一小法廷

 

 

請求の一部についての予備的請求原因となるべき事実を被告が主張した場合に原告がこれを自己の利益に援用しなくても裁判所はこの事実をしんしゃくすべきであるとされた事例

 

 

建物所有権確認等請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/平成7年(オ)第1562号

【判決日付】      平成9年7月17日

【判示事項】      請求の一部についての予備的請求原因となるべき事実を被告が主張した場合に原告がこれを自己の利益に援用しなくても裁判所はこの事実をしんしゃくすべきであるとされた事例

【判決要旨】      原告が単独で土地を賃借し地上に建物を建築したことを主張する所有権確認等請求訴訟において、被告らがこれを否認して土地を賃借し建物を建築したのは原被告らの被相続人であると主張した場合には、原告がこれを自己の利益に援用しなかったとしても、裁判所は、適切に釈明権を行使するなどした上でこの事実をしんしゃくし、相続による持分の取得を理由に原告の請求の一部を認容すべきであるかどうかについて審理判断すべきである。(補足意見がある。)

【参照条文】      民事訴訟法186

【掲載誌】        最高裁判所裁判集民事183号1031頁

             裁判所時報1200号280頁

             判例タイムズ950号113頁

             金融・商事判例1031号19頁

             判例時報1614号72頁

             金融法務事情1504号44頁

 

 

民事訴訟法

(証明することを要しない事実)

第百七十九条 裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しない。

 

(判決事項)

第二百四十六条 裁判所は、当事者が申し立てていない事項について、判決をすることができない。

 

 

市の道路用地買収過程において買収交渉事務担当の課長が買収交渉の相手方に対し市が買収ずみの道路用地のうち道路敷地に供しない特定の残地を他に優先者のない限り払下げる旨の説明をし右相手方が右残地払下げを期待して当該買収対象土地の売買に応じたがその後の事情によって右相手方に当該残地の払下げがされなかったことが市の不法行為とはならないとされた事例

 

 

              損害賠償請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/昭和53年(オ)第1436号

【判決日付】      昭和58年12月6日

【判示事項】      市の道路用地買収過程において買収交渉事務担当の課長が買収交渉の相手方に対し市が買収ずみの道路用地のうち道路敷地に供しない特定の残地を他に優先者のない限り払下げる旨の説明をし右相手方が右残地払下げを期待して当該買収対象土地の売買に応じたがその後の事情によって右相手方に当該残地の払下げがされなかったことが市の不法行為とはならないとされた事例

【判決要旨】      市の道路用地買収交渉過程において、買収交渉事務担当の都市計画課長が、買収交渉の相手方に対して、市が買収ずみの土地のうち道路敷地に供しない特定の残地につき、他に優先者のない限り、将来これを右相手方に払下げる、市長の承諾も得ている旨の説明をし、右相手方は右残地の払下げを期待して、当該買収対象土地の売買に応じた場合であっても、右課長には売買契約締結区締結権限はなく、しかも、右課長が道路敷地残地の払下げ特約を売買契約書に明記するようにとの相手方の申出を市議会との関係上できないとしてこれを拒否し、もとより右残地部分の売買予約がされたり、右残地部分の払下げが右買収対象土地の売買の条件とされたものではないなど、判示の事実関係のもとにおいては、その後市が、他の買収対象者からの要望によりその者の所有土地を道路用地として獲得する手段としてこれと右残地とを交換し、右残地を前記売買契約の相手方に払下げなかったとしても、右市の所為は、違法性がなく、不法行為とならない。

【参照条文】      民法1

             民法709

             民法715

【掲載誌】        最高裁判所裁判集民事140号573頁

             判例タイムズ532号125頁

             金融・商事判例710号38頁

             判例時報1123号85頁

 

 

民法

(基本原則)

第一条 私権は、公共の福祉に適合しなければならない。

2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

3 権利の濫用は、これを許さない。

 

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

(使用者等の責任)

第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。

3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。