放火既遂罪の成立時期s23
放火被告事件
【事件番号】 最高裁判所第3小法廷判決/昭和23年(れ)第707号
【判決日付】 昭和23年11月2日
【判示事項】 放火既遂罪の成立時期
【判決要旨】 犯人が家屋の押入内壁紙にマツチで放火したため火が天井に燃え移り、右家屋の天井板約1尺4方を焼燬した以上、火勢は放火の媒介物を離れて家屋が独立燃焼する程度に達したものであるから、放火既遂罪が成立する。
【参照条文】 刑法108
【掲載誌】 最高裁判所刑事判例集2巻12号1443頁
最高裁判所裁判集刑事5号9頁
刑法
(現住建造物等放火)
第百八条 放火して、現に人が住居に使用し又は現に人がいる建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑を焼損した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。
主 文
本件上告を棄却する。
理 由
弁護人平山国弘の上告趣意は、憲法第三二条に関する主張を撤回した外末尾添付の書面記載のごとくであつて、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
上告趣意第一点について。
現行刑事訴訟法における控訴審は覆審であつて、訴訟手続の全部を更新するのであるから、第一審の訴訟手続についてたとえ所論のような違法があつたとしても、その違法は控訴審の判決に影響を及ぼすものではない。又、所論のような違法は第一審の訴訟手続を違法ならしめるだけで、その手続の存在を失わしめて無効とするものではないから、所論のように控訴審が第一審となり被告人から三審制の利益を奪うものではない。されば、原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。
同第二点について。
原審は論旨摘録のような被告人の原審公判廷における供述の記載、原審証人Aの証言並びに被告人の原審公判廷における犯行情況の記憶の明確さ等を綜合した上、被告人が犯行当時心神耗弱者でなかつたことを判断したのであつて、これらの資料によればかかる判断を為し得られるのであるから、原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。
同三点について。
原判決はその挙示する証拠を綜合して、被告人が原判示家屋の押入内壁紙にマツチで放火したため火は天井に燃え移り右家屋の天井板約一尺四方を焼燬した事実を認定しているのであるから、右の事実自体によつて、火勢は放火の媒介物を離れて家屋が独立燃焼する程度に達したことが認められるので、原判示の事実は放火既遂罪を構成する事実を充たしたものというべきである。されば、原判決が右の事実に対し刑法第一〇八条を適用して放火既遂罪として処断したのは相当であつて、原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。
同第四点について。
論旨は被告人に利益な情状を述べて原判決の破毀を求めているが、かかる事情の開陳は上告の適法な理由ではないから採用することができない。
よつて、刑事訴訟法第四四六条により主文のとおり判決する。
以上は裁判官全員の一致した意見である。
検察官 小幡勇三郎関与
昭和二三年一一月二日
最高裁判所第三小法廷