法律大好きのブログ(弁護士村田英幸) -120ページ目

法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

株式会社が同時破産廃止の決定を受けた場合と清算人

 

 

              約束手形金、約束手形金本訴並に売買代金反訴各請求上告事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和42年(オ)第124号

【判決日付】      昭和43年3月15日

【判示事項】      株式会社が同時破産廃止の決定を受けた場合と清算人

【判決要旨】      株式会社が破産宣告とともに同時破産廃止の決定を受けた場合において、なお残余財産があるときは、従前の取締役が当然に清算人となるものではなく、商法第417条第1項但書の場合を除き、同条第2項に則り、利害関係人の請求によつて、裁判所が清算人を選任すべきものと解するのが相当である。

【参照条文】      商法417

             商法254-3

             破産法145-1

             民法653

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集22巻3号625頁

 

 

会社法

(清算の開始原因)

第四百七十五条 株式会社は、次に掲げる場合には、この章の定めるところにより、清算をしなければならない。

一 解散した場合(第四百七十一条第四号に掲げる事由によって解散した場合及び破産手続開始の決定により解散した場合であって当該破産手続が終了していない場合を除く。)

二 設立の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定した場合

三 株式移転の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定した場合

 

第二款 清算株式会社の機関

第一目 株主総会以外の機関の設置

第四百七十七条 清算株式会社には、一人又は二人以上の清算人を置かなければならない。

2 清算株式会社は、定款の定めによって、清算人会、監査役又は監査役会を置くことができる。

3 監査役会を置く旨の定款の定めがある清算株式会社は、清算人会を置かなければならない。

4 第四百七十五条各号に掲げる場合に該当することとなった時において公開会社又は大会社であった清算株式会社は、監査役を置かなければならない。

5 第四百七十五条各号に掲げる場合に該当することとなった時において監査等委員会設置会社であった清算株式会社であって、前項の規定の適用があるものにおいては、監査等委員である取締役が監査役となる。

6 第四百七十五条各号に掲げる場合に該当することとなった時において指名委員会等設置会社であった清算株式会社であって、第四項の規定の適用があるものにおいては、監査委員が監査役となる。

7 第四章第二節の規定は、清算株式会社については、適用しない。

 

 

破産法

第九章 破産手続の終了

(破産手続開始の決定と同時にする破産手続廃止の決定)

第二百十六条 裁判所は、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときは、破産手続開始の決定と同時に、破産手続廃止の決定をしなければならない。

2 前項の規定は、破産手続の費用を支弁するのに足りる金額の予納があった場合には、適用しない。

3 裁判所は、第一項の規定により破産手続開始の決定と同時に破産手続廃止の決定をしたときは、直ちに、次に掲げる事項を公告し、かつ、これを破産者に通知しなければならない。

一 破産手続開始の決定の主文

二 破産手続廃止の決定の主文及び理由の要旨

4 第一項の規定による破産手続廃止の決定に対しては、即時抗告をすることができる。

5 前項の即時抗告は、執行停止の効力を有しない。

6 第三十一条及び第三十二条の規定は、第一項の規定による破産手続廃止の決定を取り消す決定が確定した場合について準用する。

 

 

民法

(委任の終了事由)

第六百五十三条 委任は、次に掲げる事由によって終了する。

一 委任者又は受任者の死亡

二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。

三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。

 

 

 

 

 

 

       主   文

 

 原判決を破棄する。

 本件を大阪高等裁判所に差戻す。

 

       理   由

 

 上告代理人山本敏雄の上告理由第一、二点について。

 会社の破産は会社の解散事由とされているが、通常は破産宣告と同時に破産管財人が選任され、右管財人が破産財団に属する財産の管理、換価、配当等の手続を担当するため、別個に清算人を選任する必要をみないのであつて、商法四一七条一項が、会社の解散の際取締役が清算人となる旨を規定するにあたり、破産の場合を除外したのも右趣旨を明らかにしたものに外ならないのである。しかしながら、同時破産廃止の決定がされた場合には、破産手続は行われないのであるから、なお残余財産が存するときには清算手続をする必要があり、そのためには清算人を欠くことができないわけである。ところで、商法二五四条三項によれば、会社と取締役との間の関係は委任に関する規定に従うべきものであり、民法六五三条によれば、委任は委任者または受任者の破産に因つて終了するのであるから、取締役は会社の破産により当然取締役の地位を失うのであつて、同時破産廃止決定があつたからといつて、既に委任関係の終了した従前の取締役が商法四一七条一項本文により当然清算人となるものとは解し難い。したがつて、このような場合には、同項但書の場合を除き、同条二項に則り、利害関係人の請求によつて裁判所が清算人を選任すべきものと解するのが相当である。

 本件において、これをみるのに、本件記録に徴すれば、被上告会社は、本訴が原審に係属していた昭和四〇年五月二七日、破産宣告とともに同時破産廃止の決定を受けたのであるから、その清算人については商法四一七条一項但書のような事情がある場合は格別、同条二項に則り裁判所に清算人選任の手続をなすべく、原審としてはその選任をまち、これを被上告会社の代表者として訴訟手続を進行すべきものであつたのである。しかるに、原審は、右と見解を異にし、被上告会社の破産と同時に、破産廃止決定があつた故をもつて当然従前の代表取締役Aが商法四一七条一項により代表清算人となるものと解して同人を被上告会社の代表者とし、かつその委任した訴訟代理人を適法を訴訟代理人として訴訟手続を進行し、判決をしたのであるから、右代表者および訴訟代理人はいずれも必要な授権を欠いていたものというほかはなく、論旨はこの点において理由があり、原判決はその余の上告理由について判断するまでもなく、失当として破棄を免れない。そして、この点について手続を是正し、さらに審理を進める必要があるので、本件を原審に差戻すのが相当である。

 よつて、民訴法三九五条一項四号、四〇七条一項にしたがい、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第二小法廷

第8章 意思能力制度の明文化

意思能力制度の明文化

意思能力制度とは、意思能力を有しない者がした法律行為は無効となること。

意思能力は、行為の結果を判断するに足るだけの精神能力。例えば、交通事故や認知症などにより意思能力(判断能力)を有しない状態になった方がした法律行為(契約など)は無効であることは,判例で認められており,確立したルールです。高齢化社会の急速な進展に伴い,重要性も増しています。

しかし,民法にはこのことを定めた規定がありませんでした。そこで,このルールを条文に明記しています。

旧法

自らが締結した売買契約の無効を主張して、代金の返還等を求めることができることにより、判断能力が低下した高齢者等が不当に不利益を被ることを防ぐことが可能。

高齢化社会が進展する中で意思能力制度の重要性はますます高まっている。

※ 類似の制度として、高齢者等の保護を図る成年後見制度がある。成年後見制度の利用のためには、事前に家庭裁所の審判を得ていなければならないが、意思能力制度は事前に家庭裁判所の審判を得ていなくとも利用が可能。

※ 意思能力を有しなかった者(右上のケースでは買主)の原状回復義務(受け取った商品の返還)の範囲は、現に利益を受けている限度にとどまると解されている。

問題の所在

判例・学説上は、異論なく認められ、実際にも活用されているが、民法に明文の規定はない。

改正法の内容

・ 民法を国民一般に分かりやすいものとする観点から、意思能力を有しない者がした法律行為は無効とすることを明文化【新§3条の2】

※併せて、意思能力を有しなかった者が相手方にする原状回復義務の範囲は、「現に利益を受けている限度」にとどまる旨の規定を新設【新§121条の2第3項】

 

民法第298条第2項但書にいわゆる留置物の保存に必要な使用

 

 

              船舶引渡等請求事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和28年(オ)第123号

【判決日付】      昭和30年3月4日

【判示事項】      民法第298条第2項但書にいわゆる留置物の保存に必要な使用

【判決要旨】      木造帆船の買主が、売却契約解除前支出した修繕費の償還請求権につき右船を留置する場合において、これを遠方に航行せしめて運送業務のため使用することは、たとえ解除前と同一の使用状態を継続するにすぎないとしても、留置物の保存に必要な使用をなすものとはいえない。

【参照条文】      民法196

             民法295

             民法298

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集9巻3号229頁

             判例タイムズ48号40頁

             判例時報47号13頁

【評釈論文】      別冊ジュリスト15号22頁

             別冊ジュリスト42号22頁

 

 

民法

(占有者による費用の償還請求)

第百九十六条 占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。

2 占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

 

(留置権の内容)

第二百九十五条 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。

2 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。

 

(留置権者による留置物の保管等)

第二百九十八条 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。

2 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。

3 留置権者が前二項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。

 

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告理由は、末尾に添えた別紙記載のとおりである。

 上告理由第一点について。

 原判決は、上告人が本件売買契約の解除後も被上告人の承諾なく本件船舶(木造帆船、総屯数四六屯八一、純屯数二九屯九四、昭和八年二月進水のもの)を名古屋、大阪から遠く山口県下方面にまで航行せしめて貨物の運送業務に従事し、運賃収益をえていたとの事実を確定した上、上告人のかかる遠距離にわたる船舶の使用は、よしや契約解除前と同一の使用形態を継続していたものであつたとしても、その航行の危険性等からみて、留置権者に許された留置物の保存に必要な限度を逸脱した不法のものと認むべく、したがつてこのことを理由として被上告人のなした留置権消滅の請求は有効である旨判示したのであつて、右判断は相当と認められる。所論は右と反する独自の見解に立つて原判決の正当な判断を非難するものであつて、採用しえない。

 上告理由第三点について。

 上告人が被上告人に対し所論の修繕費一六六、八二三円四〇銭の償還請求権を有することは原判決の確定するところであるが、上告人が被上告人に対し右債権を自働債権として相殺の意思表示をなした事実は記録上これをうかがいえないから、原判決が右債権による相殺につき判示するところがなかつたのは当然であつて、所論は理由がない。

 その他の所論はすべて「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

     最高裁判所第二小法廷

 

訟務検事が裁判官に任命されて国が当事者である訴訟事件を担当しても、裁判の公正を妨げるべき事情があると認めることができないとされた事件

 

 

              裁判官忌避申立事件

【事件番号】      名古屋高等裁判所決定/昭和63年(ウ)第163号

【判決日付】      昭和63年7月5日

【判示事項】      訟務検事が裁判官に任命されて国が当事者である訴訟事件を担当しても、裁判の公正を妨げるべき事情があると認めることができないとされた事件

【参照条文】      民事訴訟法37

【掲載誌】        判例タイムズ669号270頁

 

 

民事訴訟法

平成八年法律第百九号

(裁判官の除斥)

第二十三条 裁判官は、次に掲げる場合には、その職務の執行から除斥される。ただし、第六号に掲げる場合にあっては、他の裁判所の嘱託により受託裁判官としてその職務を行うことを妨げない。

一 裁判官又はその配偶者若しくは配偶者であった者が、事件の当事者であるとき、又は事件について当事者と共同権利者、共同義務者若しくは償還義務者の関係にあるとき。

二 裁判官が当事者の四親等内の血族、三親等内の姻族若しくは同居の親族であるとき、又はあったとき。

三 裁判官が当事者の後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人であるとき。

四 裁判官が事件について証人又は鑑定人となったとき。

五 裁判官が事件について当事者の代理人又は補佐人であるとき、又はあったとき。

六 裁判官が事件について仲裁判断に関与し、又は不服を申し立てられた前審の裁判に関与したとき。

2 前項に規定する除斥の原因があるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、除斥の裁判をする。

(裁判官の忌避)

第二十四条 裁判官について裁判の公正を妨げるべき事情があるときは、当事者は、その裁判官を忌避することができる。

2 当事者は、裁判官の面前において弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、その裁判官を忌避することができない。ただし、忌避の原因があることを知らなかったとき、又は忌避の原因がその後に生じたときは、この限りでない。

(除斥又は忌避の裁判)

第二十五条 合議体の構成員である裁判官及び地方裁判所の一人の裁判官の除斥又は忌避についてはその裁判官の所属する裁判所が、簡易裁判所の裁判官の除斥又は忌避についてはその裁判所の所在地を管轄する地方裁判所が、決定で、裁判をする。

2 地方裁判所における前項の裁判は、合議体でする。

3 裁判官は、その除斥又は忌避についての裁判に関与することができない。

4 除斥又は忌避を理由があるとする決定に対しては、不服を申し立てることができない。

5 除斥又は忌避を理由がないとする決定に対しては、即時抗告をすることができる。

 

 

 

       主   文

 

  本件申立を棄却する。

  申立費用は申立人らの負担とする。

 

       理   由

 

 一 申立人らの申立の趣旨及びその理由は別紙のとおりである。

 二 当裁判所の判断

 申立人らの所論は要するに裁判官Aが申立人(第一審原告)らと国(第一審被告)間の名古屋高等裁判所昭和六〇年(ネ)第七六一号、第七六八号損害賠償請求控訴事件(以下「本案事件」という。)の審理裁判に関与することは実質的に民事訴訟法三五条五号の事由に該当し、同法三七条にいう裁判の公正を妨ぐべき事情があるというものである。

 よつて審案するに、裁判官Aが昭和六三年四月判事に任命され、名古屋地方裁判所判事に補され、名古屋高等裁判所判事職務代行を命じられ、同裁判所民事第四部に配置されたこと、同裁判官は昭和六〇年四月から右の判事任命までの間名古屋法務局訟務部付として国の利害に関する訴訟事件について国の指定代理人としての職務等に従事していたことは当裁判所に顕著なところである。

 しかしながら裁判官Aが右訟務部付として右の職務等に従事していた間に前記本案事件又はこれと同一のものとみられるべき紛争事件につき国の指定代理人になつた形跡のないことが本案事件の記録上明らかである。

 しかして民事訴訟法三五条五号にいう「裁判官力事件二付当事者ノ代理人・・・・・・ナリシトキ」との「事件」とは受訴裁判所に係属する具体的な個々の事件又はこれと同一のものとみられるべき紛争事件をいうものと解されるところ、本件の裁判官Aが右の本案事件等につきこれの代理人になつた形跡のないことは前記のとおりであるから、同裁判官が前記の期間同法務局訟務部付として前記の職務等に従事したことの一事をもつて、同裁判官が本案事件の審理裁判に関与することにつき実質的に民事訴訟法三五条五号の事由ありということのできないこと、従つて、このことにつき同法三七条の裁判の公正を妨げるべき事情ありとみることのできないことは明らかであり、また本案事件の記録等を精査するも、その他同裁判官につき同法三七条の裁判の公正を妨げるべき事情があると認めることもできない。

 よつて本件申立は理由がないから、これを棄却することとし、民事訴訟法八九条、九三条に従い、主文のとおり決定する。

 (裁判長裁判官海老塚和衛 裁判官高橋爽一郎 裁判官野田武明)

 別紙 申立の趣旨

  名古屋高等裁判所昭和六〇年(ネ)第

 七六一号、同第七六八号損害賠償請求

 控訴事件について、裁判官Aに対する

 忌避は理由があるものと認める。との決定を求める。

    申立の理由

 一 一審原告らと一審被告間の頭書事件(以下本件という)は、名古屋高等裁判所民事第四部に係属しており、裁判官Aは同部の構成員である。

 二 ところで、同裁判官は昭和六三年四月名古屋法務局訟務部付検事より右裁判所裁判官に就任したものである。これは裁判所に顕著な事実である。

 裁判所と法務省との人事交流とくに民事部裁判官と訟務検事間の人事交流(いわゆる判検交流)は、裁判所と法務省当局の合意に基づいて近年急激に増加してきた。

 その目的とするところは、国の訟務体制の強化と行政の実情に対する理解を深めるという意味での裁判官への教育的効果にあると説明されているが、このような人事交流の拡大は、裁判官の意識や裁判に対する態度にも影響を及ぼし、行政権に対する司法のチェック機能を低下させるおそれがあり、ひいては司法の独立と裁判の公正に対する国民の信頼を損なう虞れがつよく、極めて問題があると指摘されている。

 とりわけ、国を当事者とする訴訟において、それまで国の指定代理人の立場から国民と対峙し国の利益を擁護することに専心して活動していた者が、一転して裁判官をつとめる場合は極めて問題である。いかに中立公正を標榜しようとも当事者の一方の代理人であつた者が裁判官となるわけであり、相手方としては到底納得し難いことは明らかである。これを弁護士に例えて言えば、ある企業の専属顧問弁護士であつた者が、その会社の訴訟事件を裁判官として担当するようなものである(近年裁判官を一定期間企業等ヘ研修のため派遣することが行なわれるようになつているが、復帰後当該派遣先企業を当事者とする裁判を担当する場合にも、同様の問題が生起することになろう)。そのように一方当事者と極めて深い関係にあつた者が行なう裁判を誰が信頼するであろうか。このようなことがまかり通れば、国民の裁判の公正に対する信頼を大きく揺るがすことになる。

 かつて最高裁は、いわゆる青法協問題が起こつたとき、裁判官は単に公正であるだけでは不十分であり、公正らしさが確保されていなければならないと述べた。今判検交流問題で問われている大きな問題は、個々の裁判官の心構えで解消できる性質のものではなく、まさにこの公正らしさである。

 このような判検交流の拡大に対し、日本弁護士連合会は、昭和六一年一一月、「裁判所と法務省との人事交流に関する意見書」を公表し、詳細な事実調査の上にたつてその弊害と改善の必要性を明らかにした。また、中部弁護士連合会をはじめ、近畿・東北等各地の弁護士会もこの問題について、相次いで決議を採択するなど、批判の声は今日大きく盛り上がつている。

 三 A裁判官は、前述のとおり、本年三月まで三年間名古屋法務局訟務部付検事として勤務し、この名古屋高等裁判所において国を当事者とする訴訟の指定代理人として国の立場を代弁して活動されていたのである。現に当代理人らのうち数名は、国を相手方とする別件において同裁判官と相対し、同裁判官が国の代理人としてその利益を擁護すべく熱心に活動されていたことを知つている。

 本件は、原審以来同裁判官が属していた名古屋法務局訟務部が国側代理人を担当し、国の責任を否定して論陣を張つてきたのである。同裁判官は本件の代理人としては直接には登場していないが、名古屋法務局訟務部長の指揮を受けつつ本件の指定代理人と机を並べて名古屋高等裁判所に係属する多数の国を当事者とする訴訟事件を分担して担当していたもので、行政機構として見れば同一部局内の一員に他ならない。

 このように、今回の人事は、本件に直接代理人として関わつたものではないとしても、本件の代理人と全く同一の部局に所属し、同じ裁判所で直前まで専ら国の代理人として活動していた者を、国を当事者とする訴訟の裁判官にするというものであつて、判検交流人事の中でも最もその弊害が顕著な事例である。これらの事情を考慮すれば本件は民事訴訟法第三五条第五号に実質的に該当すると言わざるを得ず、裁判の公正を妨げる事情が存することは明らかである。

 四 行政権の肥大化に伴つて国民生活の様々な場面において行政権と国民の人権との矛盾対立が生じ、それが裁判として持ち出されることが多くなつている。本件も、まさにそのような事件の一つとして、大きな社会的注目を集めている事件である。そのような事件において、中立公正な立場から行政権に対するチェック機能を期待されている裁判所が直前まで国の指定代理人であつた者によつて構成され、あたかも行政機関と人事面において癒着しているかの如き疑念を生じさせることはまことに由々しい事態と言わなければならない。

 司法の独立と国民の裁判への信頼確保のために、賢明なる判断を求めるものである。

 別紙 申立人目録〈省略〉

発明につき、人の行為により実現される要素が含まれ、人の精神活動が必要となるものであっても、人の精神活動を支援するための技術的手段を提供するものであり、特許法二条一項にいう「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するものとして、同項の「発明」に該当しないとした審決が取り消された事例

 

 

審決取消請求事件

【事件番号】      知的財産高等裁判所判決/平成19年(行ケ)第10369号

【判決日付】      平成20年6月24日

【判示事項】      発明につき、人の行為により実現される要素が含まれ、人の精神活動が必要となるものであっても、人の精神活動を支援するための技術的手段を提供するものであり、特許法二条一項にいう「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するものとして、同項の「発明」に該当しないとした審決が取り消された事例

【参照条文】      特許法2-1

【掲載誌】        判例時報2026号123頁

             LLI/DB 判例秘書登載

【評釈論文】      発明105巻10号50頁

             ビジネスロー・ジャーナル5号110頁

 

 

特許法

(定義)

第二条 この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。

2 この法律で「特許発明」とは、特許を受けている発明をいう。

3 この法律で発明について「実施」とは、次に掲げる行為をいう。

一 物(プログラム等を含む。以下同じ。)の発明にあつては、その物の生産、使用、譲渡等(譲渡及び貸渡しをいい、その物がプログラム等である場合には、電気通信回線を通じた提供を含む。以下同じ。)、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出(譲渡等のための展示を含む。以下同じ。)をする行為

二 方法の発明にあつては、その方法の使用をする行為

三 物を生産する方法の発明にあつては、前号に掲げるもののほか、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為

4 この法律で「プログラム等」とは、プログラム(電子計算機に対する指令であつて、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下この項において同じ。)その他電子計算機による処理の用に供する情報であつてプログラムに準ずるものをいう。

 

 

 

       主   文

 

 1 特許庁が不服2005-7446号事件について平成19年6月19日にした審決を取り消す。

 2 訴訟費用は被告の負担とする。

 

       事実及び理由

 

 第1 請求

 主文と同旨。

 第2 事案の概要

 本件は,米国法人である原告が,「双方向歯科治療ネットワーク」とする名称の発明につき特許出願したところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。

 争点は,①特許請求の範囲の補正の許否,②本願発明が,特許法29条1項柱書にいう「発明」に該当するかどうか,である。

会社が取引上の通称を用いて降り出した約束手形につき振出人として支払の責に任ずべきものであるとされた事例

 

 

              約束手形金請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/昭和43年(オ)第1070号

【判決日付】      昭和44年1月30日

【判示事項】      会社が取引上の通称を用いて降り出した約束手形につき振出人として支払の責に任ずべきものであるとされた事例

【判決要旨】      有限会社カネ一松尾自転車商会なる商号の会社が、その営業活動の実態の変化に伴ない、手形取引も含めて、取引上自己をあらわす名称として有限会社松尾商会なる名称を使用しているなど原判示の事実関係のもとにおいては、有限会社カネ一松尾自転車商会は、同社が有限会社松尾商会なる名称を用いて降り出した約束手形につき、振出人として支払の責に任ずべきものである。

【参照条文】      手形法1

             手形法77

【掲載誌】        最高裁判所裁判集民事94号129頁

 

 

手形法

第一条 為替手形ニハ左ノ事項ヲ記載スベシ

一 証券ノ文言中ニ其ノ証券ノ作成ニ用フル語ヲ以テ記載スル為替手形ナルコトヲ示ス文字

二 一定ノ金額ヲ支払フベキ旨ノ単純ナル委託

三 支払ヲ為スベキ者(支払人)ノ名称

四 満期ノ表示

五 支払ヲ為スベキ地ノ表示

六 支払ヲ受ケ又ハ之ヲ受クル者ヲ指図スル者ノ名称

七 手形ヲ振出ス日及地ノ表示

八 手形ヲ振出ス者(振出人)ノ署名

 

第七十七条 左ノ事項ニ関スル為替手形ニ付テノ規定ハ約束手形ノ性質ニ反セザル限リ之ヲ約束手形ニ準用ス

一 裏書(第十一条乃至第二十条)

二 満期(第三十三条乃至第三十七条)

三 支払(第三十八条乃至第四十二条)

四 支払拒絶ニ因ル遡求(第四十三条乃至第五十条、第五十二条乃至第五十四条)

五 参加支払(第五十五条、第五十九条乃至第六十三条)

六 謄本(第六十七条及第六十八条)

七 変造(第六十九条)

八 時効(第七十条及第七十一条)

九 休日、期間ノ計算及恩恵日ノ禁止(第七十二条乃至第七十四条)

② 第三者方ニテ又ハ支払人ノ住所地ニ非ザル地ニ於テ支払ヲ為スベキ為替手形(第四条及第二十七条)、利息ノ約定(第五条)、支払金額ニ関スル記載ノ差異(第六条)、第七条ニ規定スル条件ノ下ニ為サレタル署名ノ効果、権限ナクシテ又ハ之ヲ超エテ為シタル者ノ署名ノ効果(第八条)及白地為替手形(第十条)ニ関スル規定モ亦之ヲ約束手形ニ準用ス

③ 保証ニ関スル規定(第三十条乃至第三十二条)モ亦之ヲ約束手形ニ準用ス第三十一条末項ノ場合ニ於テ何人ノ為ニ保証ヲ為シタルカヲ表示セザルトキハ約束手形ノ振出人ノ為ニ之ヲ為シタルモノト看做ス

 

『社会保障法 第2版 有斐閣ストゥディア』2023年

 

 

身近な社会保障法をより身近に

有斐閣ストゥディア

 

黒田 有志弥 (国立社会保障・人口問題研究所室長),柴田 洋二郎 (中京大学教授),島村 暁代 (立教大学教授),永野 仁美 (上智大学教授),橋爪 幸代 (日本大学教授)/著

 

 

2023年03月発売

A5判並製カバー付 , 232ページ

定価 2,200円(本体 2,000円)

 

 

社会保障法

社会保障法 > 社会保障法一般

社会保障法 > 社会保障

社会保障法 > 社会福祉

社会保障法 > 少子・高齢化(介護保険を含む)

 

主要論点を網羅しつつも,平明な解説を貫き,図表なども駆使して分かりやすく社会保障法の全体像をとらえることができる入門書の決定版。コンパクトな一冊でまとまっているので,はじめて社会保障法を学ぶうえで最適なテキスト。最新の法改正や判例に対応した最新版。

目次      

はじめに

第1章 医療保障

第2章 年金制度

第3章 労災補償

第4章 雇用保険

第5章 介護保険

第6章 社会福祉・社会手当

第7章 第二のセーフティネット

第8章 生活保護

おわりに──社会保障制度における権利と紛争解決

 

 

コメント

最新の入門書。

この1冊で何でもわかるわけではないが、良書。

 

所有権移転請求権保全の仮登記の名義人が仮登記と無関係に所有権移転登記を経由した場合と仮登記の本登記請求権及び第三者の右本登記承諾義務の帰すう

 

 

              所有権移転請求権仮登記抹消登記手続、土地所有権移転登記承諾請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/昭和55年(オ)第1140号

【判決日付】      昭和57年3月25日

【判示事項】      所有権移転請求権保全の仮登記の名義人が仮登記と無関係に所有権移転登記を経由した場合と仮登記の本登記請求権及び第三者の右本登記承諾義務の帰すう

【判決要旨】      所有権移転請求権保全の仮登記の名義人は、登記上利害関係を有する第三者の承諾書等がないため、仮登記とは無関係に所有権移転登記を経由した場合であつても、特段の事情のない限り、仮登記義務者に対して仮登記の本登記手続を請求する権利を失わず、右仮登記の本登記を承諾すべき第三者の義務も消滅しない。

【参照条文】      不動産登記法2

             不動産登記法7-2

             不動産登記法105-1

             不動産登記法144

             不動産登記法146-1

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集36巻3号446頁

 

 

事案の概要

 本件は、農地の二重譲渡の買主相互間で、第一の買主が第二の買主の得ていた仮登記の抹消手続を請求し、第二の買主が自己の仮登記の本登記をするにつき、第一の買主の承諾を請求する事案である。

 

 

不動産登記法

平成十六年法律第百二十三号

(登記の抹消)

第六十八条 権利に関する登記の抹消は、登記上の利害関係を有する第三者(当該登記の抹消につき利害関係を有する抵当証券の所持人又は裏書人を含む。以下この条において同じ。)がある場合には、当該第三者の承諾があるときに限り、申請することができる。

 

(仮登記)

第百五条 仮登記は、次に掲げる場合にすることができる。

一 第三条各号に掲げる権利について保存等があった場合において、当該保存等に係る登記の申請をするために登記所に対し提供しなければならない情報であって、第二十五条第九号の申請情報と併せて提供しなければならないものとされているもののうち法務省令で定めるものを提供することができないとき。

二 第三条各号に掲げる権利の設定、移転、変更又は消滅に関して請求権(始期付き又は停止条件付きのものその他将来確定することが見込まれるものを含む。)を保全しようとするとき。

 

(仮登記に基づく本登記の順位)

第百六条 仮登記に基づいて本登記(仮登記がされた後、これと同一の不動産についてされる同一の権利についての権利に関する登記であって、当該不動産に係る登記記録に当該仮登記に基づく登記であることが記録されているものをいう。以下同じ。)をした場合は、当該本登記の順位は、当該仮登記の順位による。

 

(仮登記に基づく本登記)

第百九条 所有権に関する仮登記に基づく本登記は、登記上の利害関係を有する第三者(本登記につき利害関係を有する抵当証券の所持人又は裏書人を含む。以下この条において同じ。)がある場合には、当該第三者の承諾があるときに限り、申請することができる。

2 登記官は、前項の規定による申請に基づいて登記をするときは、職権で、同項の第三者の権利に関する登記を抹消しなければならない。

 

(仮登記の抹消)

第百十条 仮登記の抹消は、第六十条の規定にかかわらず、仮登記の登記名義人が単独で申請することができる。仮登記の登記名義人の承諾がある場合における当該仮登記の登記上の利害関係人も、同様とする。

 

無断私用運転中の事故につき所有者に自動車損害賠償保障法3条による運行供用者責任が認められた事例

 

 

              損害賠償請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/昭和45年(オ)第267号

【判決日付】      昭和46年7月1日

【判示事項】      無断私用運転中の事故につき所有者に自動車損害賠償保障法3条による運行供用者責任が認められた事例

【判決要旨】      小規模の信用組合の常務理事である甲が、長期出張に際し、同組合営業部長乙に託して甲所有の自動車を修理に出させたが、その際、修理工場への往復には乙の指示により組合従業員が運転にあたることを予想しつつ、不在中の自動車の管理を乙に一任した場合において、修理完了に際し乙から右自動車の引取方の指示を受けた組合従業員丙が、組合預金係見習で自動車運転の業務にも従事していた丁と相談のうえ、右自動車を無断使用したのち組合事務所に届けておくこととし、丁において、修理の終わつた右自動車を修理工場から受け取り、丙を同乗させ運転して私用に赴いたのち、翌朝組合事務所への帰途事故を起こしたものであるなどの判示の事実関係があるときは、甲は、自動車損害賠償保障法3条による運行供用者としての責任を免れない。

【参照条文】      自動車損害賠償保障法3

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集25巻5号727頁

 

 

自動車損害賠償保障法

(自動車損害賠償責任)

第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

 

 

破産宣告決定およびこれに対する抗告事件についての抗告棄却決定と憲法82条

 

 

破産宣告決定に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件

【事件番号】      最高裁判所大法廷決定/昭和41年(ク)第402号

【判決日付】      昭和45年6月24日

【判示事項】      破産宣告決定およびこれに対する抗告事件についての抗告棄却決定と憲法82条

【判決要旨】      破産宣告決定およびこれに対する抗告事件についての抗告棄却決定は、口頭弁論を経ないでなされても、憲法82条に違反しない。

【参照条文】      破産法126

             破産法110

             破産法112

             憲法82

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集24巻6号610頁

 

 

平成十六年法律第七十五号

破産法

(破産手続開始の原因)

第十五条 債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第三十条第一項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。

2 債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する。

 

(破産手続開始の決定)

第三十条 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合において、破産手続開始の原因となる事実があると認めるときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、破産手続開始の決定をする。

一 破産手続の費用の予納がないとき(第二十三条第一項前段の規定によりその費用を仮に国庫から支弁する場合を除く。)。

二 不当な目的で破産手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき。

2 前項の決定は、その決定の時から、効力を生ずる。

 

 

憲法

第八十二条 裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。

② 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。

 

 

       主   文

 

 本件抗告を棄却する。

 抗告費用は抗告人の負担とする。

 

       理   由

 

 抗告代理人堀之内誠吉の特別抗告状および特別抗告理由書記載の抗告理由について。

 論旨は、東京地方裁判所が昭和四一年六月二一日午前一〇時抗告人に対する破産申立事件についてした破産宣告決定(以下本件破産宣告決定という。)および東京高等裁判所が同年九月一四日右破産宣告決定に対する即時抗告申立事件についてした抗告棄却決定(以下原決定という。)は、いずれも、口頭弁論すなわち公開の法廷における対審を経ないでなされたものであるから、憲法八二条に違反し、ひいては、憲法三二条および七六条三項にも違反すると主張する。

 そこで、考えるに、憲法八二条は、「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。」と規定しているが、この規定にいう裁判とは、現行法が裁判所の権限に属せしめている一切の事件につき裁判所が裁判という形式をもつてするすべての判断作用ないし法律行為を意味するものではなく、そのうち固有の司法権の作用に属するもの、すなわち、裁判所が当事者の意思いかんにかかわらず終局的に事実を確定し当事者の主張する実体的権利義務の存否を確定することを目的とする純然たる訴訟事件についての裁判のみを指すものと解すべきことは、すでに当裁判所の判例(昭和二六年(ク)第一〇九号・同三五年七月六日大法廷決定・民集一四巻九号一六五七頁、昭和三六年(ク)第四一九号・同四〇年六月三〇日大法廷決定・民集一九巻四号一〇八九頁、昭和三七年(ク)第二四三号・同四〇年六月三〇日大法廷決定・民集一九巻四号一一一四頁、昭和三九年(ク)第一一四号・同四一年三月二日大法廷決定・民集二〇巻三号三六〇頁等参照。)において明らかにされているところである。

 ところで、破産裁判所がする破産宣告決定およびその抗告裁判所がする抗告棄却決定が右に述べたような固有の司法権の作用に属する裁判に該当するかどうかについて考察するに、これらの裁判は、いずれもそのような裁判には該当しないものと解するのが相当である。けだし、破産手続は、狭義の民事訴訟手続のように、裁判所が相対立する特定の債権者と債務者との間において当事者の主張する実体的権利義務の存否を確定することを目的とする手続ではなく、特定の債務者が経済的に破綻したためその全弁済能力をもつてしても総債権者に対する債務を完済することができなくなつた場合に、その債務者の有する全財産を強制的に管理、換価して総債権者に公平な配分をすることを目的とする手続であるところ、破産裁判所がする破産宣告決定は右に述べたような目的を有する一連の破産手続の開始を宣告する裁判であるにとどまり、また、その抗告裁判所がする抗告棄却決定は右のような破産宣告決定に対する不服の申立を排斥する裁判であるにすぎないのであつて、それらは、いずれも、裁判所が当事者の意思いかんにかかわらず終局的に事実を確定し当事者の主張する実体的権利義務の存否を確定することを目的とする純然たる訴訟事件についての裁判とはいえないからである。もとより、破産裁判所およびその抗告裁判所は、右のような各決定をする前提として、破産の申立をした債権者およびその他の債権者と債務者との間の債権債務の存否についても判断するものであるけれども、その裁判によつては右当事者間の債権債務の存否は終局的に確定するものではない。むしろ、破産裁判所およびその抗告裁判所が右債権債務の存否についてする判断は、破産手続外においてはもちろん、その後の破産手続内においてすら、何ら特別の効力を有するものではなく、債権者が破産手続において破産債権者としての地位を取得し、その地位にもとづく権利を行使するためには、その者が自ら破産の申立をした債権者であると否とを問わず、破産宣告後の所定の期間内にその債権の届出をしたうえ、債権調査期日において破産債権確定の手続を経ることを要し、その際所定の異議のあつた債権については、破産手続外で行なわれる純然たる訴訟事件としての債権確定訴訟をも経由しなければならないのである。他方、破産宣告決定を受けた債務者も、特定の届出債権の存否を争おうとする場合には、債権調査期日において自らその債権に異議を述べることにより、後日破産手続外で行なわれる純然たる訴訟事件としての別途訴訟においてその債権の存否を争う機会を留保することができるのである。してみれば、破産裁判所がする破産宣告決定およびその抗告裁判所がする抗告棄却決定はいずれも固有の司法権の作用に属する裁判に該当しないことは明らかであり、したがつてまた、これらの裁判は、憲法八二条の規定にいう裁判には該当しないものというべきである。

 なお、破産宣告決定があると、その決定を受けた債務者はその所有する破産財団所属の全財産の管理処分の権限を喪失するとともに、居住の制限、引致、監守等の一身上の拘束をも受けることになり、また、債権者も右決定を受けた債務者に対し直接的個別的に権利を行使することができず、それを行使するためには、前述したように、その債権の届出をして破産手続に参加することを余儀なくされるのであるが、これは、破産法が破産手続の目的を達成するために定めた効果にすぎないのであつて、特定の債権者と債務者との間の実体的権利義務の存否には何ら影響を及ぼすものではない。さらに、破産宣告決定があると、その決定を受けた債務者は、破産法以外の私法および公法上の諸資格、例えば、後見人、保佐人、公証人、弁護士等になる資格を失ない、その後復権の要件が成就しないかぎり、これらの資格を回復することができなくなるけれども、これは、単に破産法以外の法令が破産宣告決定の存在を要件として定めた別個の効果にすぎず、破産宣告決定自体の効果ではないから、破産法以外の法令上そのような効果が発生するからといつて、破産宣告決定およびこれに対する抗告棄却決定自体の性質に影響を及ぼすものではない。

 以上によつてみれば、本件破産宣告決定および原決定は、それらが所論のように口頭弁論を経ないでなされたものであるとしても、何ら憲法八二条に違反するものではないというべきであり、その違憲をいう論旨は採用することができない。したがつてまた、その違憲を前提として右各決定が憲法三二条および七六条三項に違反するという論旨も理由がない。

 なお、その余の違憲をいう論旨は、その実質において、違憲に名をかりて本件破産宣告決定および原決定の単なる法令違反ないし事実誤認を主張するものにすぎず、いずれも民訴法四一九条ノ二、一項所定の特別抗告理由には該当しない。

 よつて、本件抗告はこれを棄却し、抗告費用は抗告人の負担とすべきものとし、裁判官全員の一致で、主文のとおり決定する。

   昭和四五年六月二四日

     最高裁判所大法廷