民法第298条第2項但書にいわゆる留置物の保存に必要な使用
船舶引渡等請求事件
【事件番号】 最高裁判所第2小法廷判決/昭和28年(オ)第123号
【判決日付】 昭和30年3月4日
【判示事項】 民法第298条第2項但書にいわゆる留置物の保存に必要な使用
【判決要旨】 木造帆船の買主が、売却契約解除前支出した修繕費の償還請求権につき右船を留置する場合において、これを遠方に航行せしめて運送業務のため使用することは、たとえ解除前と同一の使用状態を継続するにすぎないとしても、留置物の保存に必要な使用をなすものとはいえない。
【参照条文】 民法196
民法295
民法298
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集9巻3号229頁
判例タイムズ48号40頁
判例時報47号13頁
【評釈論文】 別冊ジュリスト15号22頁
別冊ジュリスト42号22頁
民法
(占有者による費用の償還請求)
第百九十六条 占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。
2 占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
(留置権の内容)
第二百九十五条 他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。
2 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。
(留置権者による留置物の保管等)
第二百九十八条 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。
2 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。
3 留置権者が前二項の規定に違反したときは、債務者は、留置権の消滅を請求することができる。
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告理由は、末尾に添えた別紙記載のとおりである。
上告理由第一点について。
原判決は、上告人が本件売買契約の解除後も被上告人の承諾なく本件船舶(木造帆船、総屯数四六屯八一、純屯数二九屯九四、昭和八年二月進水のもの)を名古屋、大阪から遠く山口県下方面にまで航行せしめて貨物の運送業務に従事し、運賃収益をえていたとの事実を確定した上、上告人のかかる遠距離にわたる船舶の使用は、よしや契約解除前と同一の使用形態を継続していたものであつたとしても、その航行の危険性等からみて、留置権者に許された留置物の保存に必要な限度を逸脱した不法のものと認むべく、したがつてこのことを理由として被上告人のなした留置権消滅の請求は有効である旨判示したのであつて、右判断は相当と認められる。所論は右と反する独自の見解に立つて原判決の正当な判断を非難するものであつて、採用しえない。
上告理由第三点について。
上告人が被上告人に対し所論の修繕費一六六、八二三円四〇銭の償還請求権を有することは原判決の確定するところであるが、上告人が被上告人に対し右債権を自働債権として相殺の意思表示をなした事実は記録上これをうかがいえないから、原判決が右債権による相殺につき判示するところがなかつたのは当然であつて、所論は理由がない。
その他の所論はすべて「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第二小法廷