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法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

役に立つ裁判例の紹介、法律の本の書評です。弁護士経験32年。第二東京弁護士会所属21770

医師の不作為と患者の死亡との間の因果関係の存否の判断と患者が適切な診療行為を受けていたとした場合の生存可能期間の認定

 

 

              損害賠償請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/平成8年(オ)第2043号

【判決日付】      平成11年2月25日

【判示事項】      一 医師の不作為と患者の死亡との間の因果関係の存否の判断と患者が適切な診療行為を受けていたとした場合の生存可能期間の認定

             二 医師が肝硬変の患者につき肝細胞がんを早期に発見するための検査を実施しなかった注意義務違反と患者の右がんによる死亡との間の因果関係を否定した原審の判断に違法があるとされた事例

【判決要旨】      一 医師が注意義務に従って行うべき診療行為を行わなかった不作為と患者の死亡との間の因果関係は、医師が右診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度のがい然性が証明されれば肯定され、患者が右診療行為を受けていたならば生存し得たであろう期間を認定するのが困難であることをもって、直ちには否定されない。

             二 肝硬変の患者が後に発生した肝細胞がんにより死亡した場合において、医師が、右患者につき当時の医療水準に応じた注意義務に従って肝細胞がんを早期に発見すべく適切な検査を行っていたならば、遅くとも死亡の約6箇月前の時点で外科的切除術の実施も可能な程度の大きさの肝細胞がんを発見し得たと見られ、右治療法が実施されていたならば長期にわたる延命につながる可能性が高く、他の治療法が実施されていたとしてもやはり延命は可能であったと見られるとしながら、仮に適切な診療行為が行われていたとしてもどの程度の延命が期待できたかは確認できないとして、医師の検査に関する注意義務違反と患者の死亡との間の因果関係を否定した原審の判断には、違法がある。

【参照条文】      民法416

             民法709

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集53巻2号235頁

 

 

民法

(損害賠償の範囲)

第四百十六条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。

2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

 

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

 

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判型       B5判

ページ数              124ページ

 

内容紹介

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本号の詳細

__________________________

 

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特別刑法と人身犯――正当防衛事例との関連を中心に……山本和輝 

 

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特別刑法と故意……小池直希 

 

特別刑法と共同正犯……金子 博 

 

特別刑法と刑事弁護――脱税事件を中心に……中村和洋

 

 

コメント

特別刑法の勉強は、奥行きがあります。

 

第23章 賃貸借

第1節 はじめに

賃貸借契約とは

賃貸借契約は、 「当事者の一方がある物の使用および収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことおよび引き渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約する」 ことによって、効力が生じます(民法601条)。

 

すなわち、賃貸借契約は、次の3つの要件をみたしたときに成立します。

 

①当事者の一方がある物の使用および収益を相手方にさせることを約する。

②相手方が①に対して賃料を支払うことを約する。

③相手方が引き渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約する。

 

改正前の民法では③が明文化されていませんでしたが、改正によって明文化されました。

【改正の性質】

 ①従来の判例・一般的な解釈を明文化したもの

旧民法では、借主が、賃貸物件を返還することを約束することによって、賃貸借契約が成立するということは、条文上、明らかではありませんでした。 しかしながら、賃貸借が終了したときに、借主が賃貸物件を返還することは、賃貸借契約の本質的要素です。そこで、改正により、この点が明文化されました。

 

第2節 敷金

賃貸借終了時のルールの明確化(①敷金)

賃貸借の終了時における敷金の返還等について、民法には規定がない。

この問題を巡る紛争は少なくなく、判例の積み重ねによって紛争解決

問題の所在

市民生活に多くみられるトラブルの解決指針となるルールは民法に明記すべきではないか。

敷金の定義(賃料債務等を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付する金銭で、名目を問わない)を明記

敷金の返還時期(賃貸借が終了して賃貸物の返還を受けたとき等)・返還の範囲(賃料等の未払債務を控除した残額)等に関するルールを民法に明記

 

改正法の内容【いずれも新§622条の2】

【未払債務】

・損害賠償金

・未払の賃料

・原状回復費用 等

賃貸借に当たっては、敷金のほか、地域によって「礼金」「権利金」「保証金」等の名目で金銭が差し入れられることがあり、その目的も様々なものがある。

名目にかかわらず、担保目的であれば敷金に当たると整理。

 

敷金のルールが明文化された

【改正の性質】

 ①従来の判例・一般的な解釈を明文化したもの

 

改正前の民法には、 敷金についての定めがまったくありませんでしたが、今回の改正では、これまで裁判例で確立されていた敷金のルールを明文化しました(民法622条の2第1項)。 まず、敷金の定義について、次のように定義されました(同項)。

 

賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で賃借人から賃貸人に交付される金員

 

そのうえで、貸主は、次のいずれかの場合に、敷金から未払いとなっている賃料を控除した(差し引いた)額を、借主に返還しなければならない、と定めています(民法622条の2第1項)。

 

・賃貸借が終了し、賃貸物の返還を受けたとき

 または

・借主が適法に賃借権を譲り渡したとき

 

改正前から、賃貸借契約では、借主から貸主に、「敷金」が差し入れられることが多く見受けられました。 これは、契約期間中に、

・借主の不払い賃料

・契約終了時の原状回復義務の履行費用

を担保することを目的に差し入れられる金銭です。貸主は、賃貸借契約が終了したときに、上記のような不払い賃料や履行費用を敷金から差し引いて、余った額のみ借主に返金していました。 旧民法には、敷金について民法には定めがなく、解釈上、賃貸借契約とは別個の契約であると考えられていました。

 

なお、従前、借主が、貸主に金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で交付した金員につき、敷金以外に「保証金」といった名目で交付されることがあり、敷金と保証金とで適用されるルールが異なるのかが議論されたことがありました。 しかし、今回の改正により、借主が貸主に金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で交付した金員については、「いかなる名目によるかを問わず」、敷金のルールが適用されるものとされています。

 

第3節 原状回復

賃貸借終了時のルールの明確化(②原状回復

賃貸借の終了時における賃借物の原状回復の範囲等について、民法には規定がない。

この問題を巡る紛争は少なくなく、判例等の積重ねによって紛争解決

問題の所在

市民生活に多くみられるトラブルの解決指針となるルールは民法に明記すべきではないか。

賃借物に損傷が生じた場合には、原則として賃借人は原状回復の義務を負うが、通常損耗(賃借物の通常の使用収益によって生じた損耗)や経年変化についてはその義務を負わないというルールを民法に明記。【新§621】

改正法の内容

(国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」より)

賃貸借が終了して賃貸物の返還を受けたときに,貸主は賃料などの債務の未払分を差し引いた残額を返還しなければなりません。

通常損耗(賃借物の通常の使用収益によって生じた損耗)や経年変化については原状回復をする必要はありません。

民法のルールをより分かりやすいものとするための改正(基本的なルールの明文化)

通常損耗・経年変化の例

・ 家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡

・ テレビ、冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)

・ 地震で破損したガラス

・ 鍵の取替え(破損、鍵紛失のない場合)

通常損耗・経年変化に当たらない例

(国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」より)

・ 引っ越し作業で生じたひっかきキズ

・ タバコのヤニ・臭い

・ 飼育ペットによる柱等のキズ・臭い

・ 日常の不適切な手入れもしくは用法違反による設備等の毀損

 

通常損耗についても、借主の原状回復義務の範囲に含める旨を定める場合、通常損耗の具体的範囲について明確にしなければなりません(最判平成17年12月16日判例時報1921号61頁)。

 

第4節 賃貸不動産が譲渡された場合のルールの明確化

問題の所在

賃貸不動産が譲渡された場合のルールの明確化

例外として、ACの合意のみで賃貸人の地位をAに留保できるが、AC間賃貸借が終了した場合には、BらとCの賃貸借関係に移行する旨を明文化【新§605条の2第2項】

建物を譲渡

A→ C

賃貸人 新賃貸人

賃借人

次のような判例法理を明文化する。【新§605条の2第1項・3項】

上記の事例で、賃貸人の地位はAからCに移転

もっとも、CがBに対して賃料請求等をするには、Cへの建物の所有権移転登記が必要(賃借人Bの保護)

【改正の性質】

 ①従来の判例・一般的な解釈を明文化したもの

 

賃貸借の契約期間中に、貸主が、賃貸不動産の所有権を第三者に譲渡することがあります。この場合、賃貸借契約における貸主たる地位も、所有権を譲り受けた第三者に移転するのでしょうか?

 

改正前の裁判例では、賃貸借の対抗要件(賃貸借契約の登記、賃貸物の引き渡し、貸地上に借主名義の登記がなされた建物が存在すること等)を備えた賃貸不動産が譲渡されたときは、原則として、「賃貸人たる地位」は譲渡人に移転するのが合理的である、という解釈が確立していました。 また、裁判例では、賃貸借の対抗要件(賃貸借契約の登記、賃貸物の引き渡し、貸地上に賃借人名義の登記がなされた建物が存在すること等)を備えた賃貸不動産が譲渡されたときは、その不動産について所有権の移転の登記をしなければ、借主に対抗することができないとしていました。

 

今回の改正では、これらの判例を踏まえて、その旨を明文化しました。

 

改正法の内容

(多数の)賃借人Bら建物を譲渡

・多数の入居者がいる賃貸マンションなどで、投資法人Cが、入居 賃貸人者のいる優良な賃貸不動産として取得したうえで、入居者との間の賃貸管理を引き続き旧所有者(賃貸人)に行わせるため、1棟ごと旧所有者に賃貸する(入居者は転借人となる)という実務がある。

・現在は、Cに賃貸人の地位が移転してしまうため(判例法理)、多数の賃借人との間で別途合意をする必要あり。

→同意を得るのが煩瑣。もっとも単純に同意不要とすると、AC間賃貸借が終了すると入居者はCに対抗できず、退去を余儀なくされかねない。

投資法人 (多数の)投資家

出資

賃貸借を継続

AC間は賃貸借

<賃貸人の地位の移転の例外(旧所有者への留保) >

※旧法は全員から同意を得ていることが前提。

 改正法の内容

例えば、家主Aが賃貸中の建物を第三者Cに譲渡したという事例で、賃借人Bは誰に対して賃料を支払えばよいか、民法には規定がない。

 

第5節 賃貸借の存続期間の見直し

賃貸借の存続期間の見直し

問題の所在

改正法の内容

現代社会においては、20年を超える賃貸借のニーズあり(例:ゴルフ場の敷地である山林の賃貸借)。

賃貸借の存続期間の上限を50年に伸張

(参考) 物権である永小作権の存続期間は、上限50年(民法§278条1項)

【参照条文】

旧法第604条 (賃貸借の存続期間)

賃貸借の存続期間は、20年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、20年とする。

2 (略)

 

 

 

もっとも、借地等については特別法で修正(下記表)

存続期間の上限

借地借家法

農地法

 

建物所有目的の土地賃貸借

建物賃貸借

農地・採草放牧地の賃貸借

 

上限なし(原則30年以上)

上限なし

上限50年

 

農地・採草放牧地の賃貸借

賃貸借の存続期間は、最長20年に制限(旧法§ 604条1項)

 

【改正の性質】

 ②従来、解釈に争いがあった条項を明文化したもの/従来の条項・判例・一般的な解釈を変更したもの

 

借地借家法の適用のない賃貸借とは?

 

借地借家法は、次の2種類の賃貸借契約に適用される法律です。

 

建物についての賃貸借契約

 

借主が建物を所有することを目的とした土地の賃貸借契約

 

借地借家法のルールは、民法のルールよりも、借主の地位を手厚く保護するものとなっています。

 

他方で、これら以外の次のような賃貸借契約は、借地借家法の適用はありません。

 

動産賃貸借契約……例)レンタカー契約

 

建物を所有することを目的としない土地の賃貸借契約……駐車場契約・太陽光パネルの設置敷地の賃貸借契約等

 

存続期間の上限

 

旧民法では、借地借家法が適用されない賃貸借契約の期間は、 最大20年まで とされていました。つまり、契約で、期間を30年と定めても、民法のルールに従い20年に短縮されることになります。 なぜ、このようなルールが制定されたのかというと、賃貸借契約の期間が20年を超えると、賃貸物の損傷や劣化がひどく、貸主の利益に反するものと考えられたからです。すなわち、賃借物が返還されたときには、無価値となっていたり、高額な原状回復費用がかかったります。これによる貸主の不利益を考慮し、期間が制限されていたのです。

 

しかしながら、現代社会においては、借地借家法が適用されない賃貸借契約であっても、20年を超える賃貸借契約を締結するニーズが存在します。 このようなニーズがあるにもかかわらず、契約期間の上限が20年とされると、借主は、20年の契約期間経過後において、その賃貸契約を再締結または合意によって更新しなければなりません。 貸主からこれらを拒否されれば、当然ながら、賃貸物を使用・収益し続けることはできません。

 

たとえば、太陽光パネルの設置敷地の賃貸借契約を締結するケースでは、借主としては、長期にわたって借り続けることを望む場合があります。しかしながら、旧民法では、契約期間の上限が20年であったため、借主は、投資コストを回収する前にパネルを撤去しなければならないという不利益を被ることになりかねません。

 

そこで、今回の改正では、現代社会における長期の賃貸借契約締結のニーズに応えるため、 借地借家法が適用されない賃貸借契約においても、契約期間の上限を 50年までに伸長しました(新604条1項)。

 

第6節 賃貸物の修繕に関するルールを見直した

賃貸物の修繕に関するルールを見直した

【改正の性質】

 ②従来、解釈に争いがあった条項を明文化したもの/従来の条項・判例・一般的な解釈を変更したもの

 

貸主の修繕義務の見直し

 

今回の改正では、借主の帰責性(責任)によって修繕が必要となったときは、貸主は修繕義務を負わないことが明文化されました(民法606条1項但書)。

 

賃貸借契約中に、賃貸物が破損すれば、これを修繕する必要があります。このとき、貸主と借主のどちらが修繕する義務を負うのでしょうか? 旧民法の下でも、賃貸物の修繕は、原則として貸主の義務とされており、これは改正後も変わりません(民法606条1項、旧民法606条1項)。

 

もっとも、破損した原因が、借主が、賃貸物を不適切な方法で使用したことであるときにも、貸主に修繕義務を負わせることは酷といえます。 この場合、旧民法では、貸主は、損害賠償として、破損した分の修繕費を借主に請求できるにすぎませんでした。改正により、借主の帰責性(責任)によって修繕が必要となったときは、貸主は修繕義務を負わないことが明文化されました。

 

第7節 借主の修繕権の新設

借主の修繕権の新設

 

基本的には、貸主が、賃貸物の修繕義務を負いますが、借主が自主的に賃貸物を修繕することは許されるのでしょうか? 今回の改正では、 次の事情があるときは、借主が、賃貸物を修繕することができる ことが明文化されました(民法607条の2第1号)。

 

借主が、修繕の必要性を貸主に通知したにもかかわらず、貸主が相当な期間内に修繕しないとき

 

貸主による修繕を待っていられない「急迫な事情」があるとき

 

借主は、このルールに従って修繕したときは、賃貸人に対し、支出した費用を請求することができます(民法608条1項)。

 

旧民法には、借主による賃貸物の修繕を認める定めはありませんでした。 そのため、賃貸物を修繕する必要があるときであっても、貸主が、修繕してくれなければ、借主としては修繕をしてもよいのかどうか分からない状況におかれていました。このようなケースで、仮に、借主が修繕をしたことによって、賃貸物の性能や性質が変化してしまったときは、貸主から目的物の損害などを理由とする契約違反を指摘されるリスクもありました。 そこで、今回の改正では、借主による修繕権を明文化するに至ったのです。

 

第8節 賃貸物が一部滅失したときの、賃料の減額と解除に関するルールを見直した

賃貸物が一部滅失したときの、賃料の減額と解除に関するルールを見直した。

【改正の性質】

 ②従来、解釈に争いがあった条項を明文化したもの/従来の条項・判例・一般的な解釈を変更したもの

 

賃料の減額

 

今回の改正では、賃貸物の一部滅失のみならず、「その他の事由により使用および収益することができなくなった場合において」「使用および収益をすることができなくなった部分の割合に応じて」減額されることとされました(民法611条1項)。 この場合、借主は、貸主に対して、賃料の減額を請求する必要はありません。減額される事由が生じた時点から、当然に減額されます。

 

旧民法でも、たとえば、一棟建物の事務所兼倉庫を賃借していたが、倉庫だけが焼失してしまったようなケースで、借主は、賃料の減額を請求することができました(旧民法611条1項)。 これは、賃貸物が一部滅失したときに、借主が使用・収益できる価値が小さくなるため、このような価値の対価である賃料も減額することが公平であるためです。 しかしながら、旧民法では、滅失以外の理由で、借主の使用・収益できる価値が小さくなったケースについては何も定めがありませんでした。 滅失以外の理由で、借主の使用・収益出来る価値が小さくなったときも、同じく、賃料を減額することが公平であることから、今回の改正に至りました。

 

第9節 解除

解除

賃貸借契約の期間中に、賃借物の一部が滅失したときに、残りの賃借物だけでは、借主が契約の目的を達成することができないことがあります。今回の改正では、このようなケースにおいて、借主が、契約を解除することができることになりました(民法611条1項)。

 

たとえば、運送業者が、事務所兼倉庫を、運送事業を営むために借りていたところ、倉庫が滅失したとしましょう。このとき、借主である運送業者としては、運送物を保管できる屋根付きの倉庫がなければ事業ができないといった事態になりかねません。

 

このように、賃貸物の一部が滅失したことにより、残りの部分では契約の目的を達成することができないケースでは、借主に、契約を解除する権利を認める必要があります。これを認めなければ、借主は、借りた目的を達成することもできずに、契約期間中、ずっと賃料を支払い続けなければならなくなってしまいます。

 

旧民法では、借主は、賃借物の滅失について 過失(不注意)がないときに限って、契約を解除することができると定められていました(解除可能な場合を定めた旧民法611条2項が、旧民法611条1項の「賃借人の過失によらないで滅失したとき」を準用していました)。

 

もっとも、このような借主の過失(不注意)による滅失については、別途、貸主から借主に対して、損害賠償を請求することで解決すれば足りるのではないか、なにも、借主に借りた目的を達成できない契約を継続させる必要はないのではないか、という意見があがりました。 そこで、今回の改正では、このような意見をふまえて、借主の過失(不注意)を問わず、契約を解除することができるに至りました。

 

第10節 賃貸借が終了したときに、原状回復・収去義務のルールが明文化された

賃貸借が終了したときに、原状回復・収去義務のルールが明文化された。

【改正の性質】

 ①従来の判例・一般的な解釈を明文化したもの

 

今回の改正では、これまで裁判例で確立されていた次のような解釈を明文化しました(民法621条)。

 

賃借人は、原則、賃貸物の原状回復義務を負う。

 

ただし、通常損耗・賃借人の帰責性のない損傷については負わない。

 

原状回復義務とは

原状回復義務 とは、賃貸借契約が終了した後、借主が、貸主に賃貸物を、契約を締結した時の原状に戻して返還する義務のことです。 すなわち、借主は、賃貸物を返還するとき、

 

・損傷している部分があれば修復する

・賃貸物に付属させた動産などがあれば撤去する

 

という義務を負うことになります。

 

旧民法では、このような原状回復義務は、賃貸借契約の性質上、借主が、当然に負う義務と考えられており、明文化されていませんでした。ちなみに、「借主は、借用物を原状に復して、これに付属させたものを収去することができる」(旧民法616条、598条)という文言上は借主の権利として規定されていました。 今回の改正では、このような従来の解釈を明文化するに至りました。

 

真正の所有権者からの登記簿上の所有名義人に対する移転登記請求の許容

 

 

              土地所有権移転登記手続請求事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/昭和51年(オ)第673号

【判決日付】      昭和51年10月8日

【判示事項】      真正の所有権者からの登記簿上の所有名義人に対する移転登記請求の許容

【判決要旨】      不動産登記簿上の所有名義人は、真正の所有者に対し、その所有権の公示に協力すべき義務を有するものであるから、真正の所有者は、所有権に基づき所有名義人に対し所有権移転登記の請求をすることができる。

【参照条文】      民法177

【掲載誌】        金融法務事情809号79頁

【評釈論文】      登記先例解説集17巻2号126頁

 

所有権移転登記請求権は、所有権に基づく妨害排除請求権の1つである。

 

 

民法

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)

第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

 

 

       理   由

 

 上告代理人中村健の上告理由第一点及び第二点について

 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の認定にそわない事実を主張し、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

 同第三点について

 不動産の登記簿上の所有名義人は、真正の所有者に対し、その所有権の公示に協力すべき義務を有するものであるから、真正の所有者は、所有権に基づき所有名義人に対し所有権移転登記の請求をすることができることは、当裁判所の判例とするところである(昭和三四年二月一二日第一小法廷判決・民集一三巻二号九一頁以下参照)。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

手形裏書が商法第二六五条の取引にあたらないとされた事例

 

 

約束手形金請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/昭和34年(オ)第1228号

【判決日付】      昭和39年1月28日

【判示事項】      手形裏書が商法第二六五条の取引にあたらないとされた事例

【判決要旨】      会社が約束手形を取締役に裏書譲渡するに際し、取締役から手形金額と同額の金員の交付をうけた場合においては、右手形裏書は、商法第二六五条の取引に該当しない。

【参照条文】      商法192

             商法177

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集18巻1号180頁

 

 

会社法

(競業及び利益相反取引の制限)

第三百五十六条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。

一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。

二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。

三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。

2 民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号又は第三号の取引については、適用しない。

 

 

 

 

〔要旨〕会社が約束手形を取締役に裏書譲渡するに際し、取締役から手形金額と同額の金員の交付をうけた場合においては、右手形裏書は、商法第二六五条の取引に該当しない。

〔説明〕被告(被控訴人・上告人)Yは、A会社に対し、三〇万円を融資することを約し、その支払にかえて金額各一五万円の約束手形二通を振出し、A会社は右手形を同会社取締役である原告(控訴人・被上告人)Xに裏書譲渡した。そして、その際Xから手形金と同額の三〇万円の交付をうけた。以上の事実に基き、XはYに対し右手形金三〇万円の支払を求めた。Yは手形振出の事実を認め、抗弁として、Ax間の裏書は商法二六五条に違反して無効であると主張した。原審は、同条は取締役の会社に対する義務を定めた命令規定であるから、同条違反の行為は無効ではないとして、右抗弁を排斥し、Xの請求を認容した。右判決に対し、Yは上告し、AX間の本件手形裏書は同条に違反し無効であると主張した。

 判例は、一貫して、手形行為が商法二六五条の取引に該当すると解しているが(大判大一二・七・一一民集二巻四七七頁、最判昭三八・三・一四民集一七巻二号三三五頁)、本判決は、手形裏書に際し手形金額と同額の金員がXからA会社に交付された場合においては、右裏書は同条の取引に該当しないと判断し、手形行為のうち同条の取引に該当しない場合もあり得ることを判示して、上告を棄却した。

任意捜査において許容される有形力の行使の限度

 

 

道路交通法違反、公務執行妨害被告事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷決定/昭和50年(あ)第146号

【判決日付】      昭和51年3月16日

【判示事項】      一、任意捜査において許容される有形力の行使の限度

             二、任意捜査において許容される限度内の有形力の行使と認められた事例

【判決要旨】      一、任意捜査における有形力の行使は強制手段、すなわち個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段にわたらない限り、必要性、緊急性などをも考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度において、許容される。

             二、警察官が、酒酔い運転の罪の疑いが濃厚な被疑者をその同意を得て警察署に任意同行し、同人の父を呼び呼気検査に応じるよう説得を続けるうちに、母が警察署に来ればこれに応じる旨を述べたので、連絡を被疑者の父に依頼して母の来署を待つていたところ、被疑者が急に退室しようとしたため、その斜め前に立ち、両手でその左手首を掴んだ行為(判文参照)は、任意捜査において許容される限度内の有形力の行使である。

【参照条文】      刑法95-1

             刑事訴訟法197-1

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集30巻2号187頁

 

 

刑法

(公務執行妨害及び職務強要)

第九十五条 公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

2 公務員に、ある処分をさせ、若しくはさせないため、又はその職を辞させるために、暴行又は脅迫を加えた者も、前項と同様とする。

 

 

刑事訴訟法

第百九十七条 捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。

② 捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。

③ 検察官、検察事務官又は司法警察員は、差押え又は記録命令付差押えをするため必要があるときは、電気通信を行うための設備を他人の通信の用に供する事業を営む者又は自己の業務のために不特定若しくは多数の者の通信を媒介することのできる電気通信を行うための設備を設置している者に対し、その業務上記録している電気通信の送信元、送信先、通信日時その他の通信履歴の電磁的記録のうち必要なものを特定し、三十日を超えない期間を定めて、これを消去しないよう、書面で求めることができる。この場合において、当該電磁的記録について差押え又は記録命令付差押えをする必要がないと認めるに至つたときは、当該求めを取り消さなければならない。

④ 前項の規定により消去しないよう求める期間については、特に必要があるときは、三十日を超えない範囲内で延長することができる。ただし、消去しないよう求める期間は、通じて六十日を超えることができない。

⑤ 第二項又は第三項の規定による求めを行う場合において、必要があるときは、みだりにこれらに関する事項を漏らさないよう求めることができる。

 

医師の過失ある医療行為と患者の死亡との間に因果関係の存在は証明されないが、右過失がなければ患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される場合における医師の不法行為の成否

 

 

              損害賠償請求事件

【事件番号】      最高裁判所第2小法廷判決/平成9年(オ)第42号

【判決日付】      平成12年9月22日

【判示事項】      医師の過失ある医療行為と患者の死亡との間に因果関係の存在は証明されないが右過失がなければ患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される場合における医師の不法行為の成否

【判決要旨】      医師の過失ある医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明される場合には、医師は、患者が右可能性を侵害されたことによって破った損害を賠償すべき不法行為責任を負う。

【参照条文】      民法709

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集54巻7号2574頁

 

 

民法

(不法行為による損害賠償)

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

 

原審判決

慰謝料として二〇〇万円を支払うべきものとした。

 

 

       主   文

 

 本件上告を棄却する。

 上告費用は上告人の負担とする。

 

       理   由

 

 上告代理人加藤済仁、同松本みどり、同岡田隆志の上告理由第一及び第三について

 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足りる。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであって、採用することができない。

 同第二について

一 原審が適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

1 平成元年七月八日午前四時三〇分ころ、Aは、突然の背部痛で目を覚まし、庭に出たところ、しばらくして軽快した。その後、妻である被上告人Bの強い勧めもあって、Aは、子の被上告人Cと共に自動車で上告人の経営するD病院に向かった。自宅から上告人病院までは車で六、七分くらいの距離であり、当初A自身が運転していたが、途中で背部痛が再発し、被上告人Cが運転を替わった。 

2 午前五時三五分ころ、Aは上告人病院の夜間救急外来の受付を済ませ、その後間もなくして、外来診察室において、D医師の診察が開始された。

3 Aの主訴は、上背部(中央部分)痛及び心か部痛であった。触診所見では心か部に圧痛が認められたものの、聴診所見では、特に心雑音、不整脈等の異常は認められなかった。Aは、D医師に対し、七、八年前にも同様の痛みがあり、そのときは尿管結石であった旨伝えた。D医師は、Aの痛みから考えて、尿管結石については否定的であったが、念のため尿検査を実施した。その結果、潜血の存在が否定されたので、その時点でD医師は、症状の発現、その部位及び経過等から第一次的に急性すい炎、第二次的に狭心症を疑った。

4 次にD医師は、看護婦に鎮痛剤を筋肉内注射させ、さらに、Aを外来診察室の向かいの部屋に移動させた上で、看護婦に急性すい炎に対する薬を加えた点滴を静注させた。なお、診察開始からAが点滴のために診察室を出るまでの時間は一〇分くらいであった。

5 点滴のための部屋に移ってから五分くらい後、Aは、点滴中突然「痛い、痛い」と言い、顔をしかめながら身体をよじらせ、ビクッと大きくけいれんした後、すぐにいびきをかき、深い眠りについているような状態となった。被上告人Cの知らせで向かいの外来診察室からD医師が駆けつけ、呼びかけをした。しかし、ほどなく、呼吸が停止し、D医師がAの手首の脈をとったところ、触知可能ではあったが、極めて微弱であった。そこで、D医師は体外心マッサージ等を始めるとともに、午前六時ころ、Aを二階の集中治療室に搬入し、駆けつけた他の医師も加わって各種のそ生術を試みたが、午前七時四五分ころ、Aの死亡が確認された。

6 Aは、自宅において狭心症発作に見舞われ、病院への往路で自動車運転中に再度の発作に見舞われ、心筋こうそくに移行していったものであって、診察当時、心筋こうそくは相当に増悪した状態にあり、点滴中に致死的不整脈を生じ、容体の急変を迎えるに至ったもので、その死因は、不安定型狭心症から切迫性急性心筋こうそくに至り、心不全を来したことにある。

7 背部痛、心か部痛の自覚症状のある患者に対する医療行為について、本件診療当時の医療水準に照らすと、医師としては、まず、緊急を要する胸部疾患を鑑別するために、問診によって既往症等を聞き出すとともに、血圧、脈拍、体温等の測定を行い、その結果や聴診、触診等によって狭心症、心筋こうそく等が疑われた場合には、ニトログリセリンの舌下投与を行いつつ、心電図検査を行って疾患の鑑別及び不整脈の監視を行い、心電図等から心筋こうそくの確定診断がついた場合には、静脈留置針による血管確保、酸素吸入その他の治療行為を開始し、また、致死的不整脈又はその前兆が現れた場合には、リドカイン等の抗不整脈剤を投与すべきであった。

  しかるに、D医師は、Aを診察するに当たり、触診及び聴診を行っただけで、胸部疾患の既往症を聞き出したり、血圧、脈拍、体温等の測定や心電図検査を行うこともせず、狭心症の疑いを持ちながらニトログリセリンの舌下投与もしていないなど、胸部疾患の可能性のある患者に対する初期治療として行うべき基本的義務を果たしていなかった。

8 D医師がAに対して適切な医療を行った場合には、Aを救命し得たであろう高度の蓋然性までは認めることはできないが、これを救命できた可能性はあった。

二 原審は、右事実関係に基づき、D医師が、医療水準にかなった医療を行うべき義務を怠ったことにより、Aが、適切な医療を受ける機会を不当に奪われ、精神的苦痛を被ったものであり、同医師の使用者たる上告人は、民法七一五条に基づき、右苦痛に対する慰謝料として二〇〇万円を支払うべきものとした。

  論旨は、原審の右判断を不服とするものである。

三 本件のように、【要旨】疾病のため死亡した患者の診療に当たった医師の医療行為が、その過失により、当時の医療水準にかなったものでなかった場合において、右医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者に対し、不法行為による損害を賠償する責任を負うものと解するのが相当である。けだし、生命を維持することは人にとって最も基本的な利益であって、右の可能性は法によって保護されるべき利益であり、医師が過失により医療水準にかなった医療を行わないことによって患者の法益が侵害されたものということができるからである。

  原審は、以上と同旨の法解釈に基づいて、D医師の不法行為の成立を認めた上、その不法行為によってAが受けた精神的苦痛に対し同医師の使用者たる上告人に慰謝料支払の義務があるとしたものであって、この原審の判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

第22章 消費貸借の成立要件の見直し

第1節 消費貸借の成立要件の見直し

消費貸借の成立要件の見直し

消費貸借の合意

契約成立

改正法

消費貸借の合意→契約成立

(書面を要件として)

※借主は金銭交付まで解除可

 

改正法の内容【いずれも新§587条の2】

書面によることを要件として、合意のみで消費貸借の成立を認める。

借主は、金銭の交付を受ける前は、いつでも契約を解除できる。

→ 借主に借りる義務を負わせない趣旨

その場合に貸主に損害が発生するときは、貸主は賠償請求できるが、限定的な場面でのみ請求は可能

例:相当の調達コストがかかる高額融資のケース

→ 消費者ローンなど少額多数の融資では、借主の契約解除による損害なし

 

【関連】 要物契約の諾成化

現在は要物契約とされている使用貸借と寄託についても、目的物交付前に契約を成立させる(拘束力を認める)ニーズがあり、合意のみで成立する諾成契約に改める。【新§593、657】

 

問題の所在

旧法587条によれば、金銭の借入について貸主と借主が合意をしても、実際に金銭が交付されるまで契約は成立しない(要物契約)。

借主は、金銭を交付せよという請求ができない。

例:住宅ローンを利用して不動産を購入する場合

判例上、合意のみによる消費貸借の成立も認められている(諾成的消費貸借)が、区別があいまいで不安定

 

第2節 利息のルールが明文化された

利息のルールが明文化された

【改正の性質】

 ①従来の判例・一般的な解釈を明文化したもの

旧民法には、消費貸借は、無利息が原則と定められていました(旧民法587条)。しかしながら、現実には、多くの消費貸借は、特約で利息を請求するのが慣行となっていました。 今回の改正では、金銭消費貸借契約の利息の取扱いを明らかにするため、次の2つのルールが明文化されました。

 

① 貸主は、特約がなければ借主に利息の請求をすることができない(民法589条1項)

② 利息の支払いの特約があるときは、貸主は、借主が金銭を受け取った日以後の利息を請求することができる(同条2項)

 

なお、改正前と同様に、商人間において金銭の消費貸借をしたときは、特約がなくとも、貸主は、当然に法定利息を請求することができます(商法513条1項)。

 

借主は、金銭を受け取る前であれば、一方的に解除することができるようになった

【改正の性質】

 ②従来、解釈に争いがあった条項を明文化したもの/従来の条項・判例・一般的な解釈を変更したもの

 

「当事者の合意のみで契約を成立させることができる」で解説したとおり、諾成的金銭消費貸借契約(合意のみで成立する金銭消費貸借契約)の場合、貸主が金銭を交付する前に、契約が成立します。しかしながら、借主としては、契約を締結した後に、お金を借りる必要がなくなることがあります。 このようなケースのときに、借主が、金銭を受け取り、返還の義務を課せられるのは不合理です。 とくに、利息付の金銭消費貸借契約であるときは、借主は、借りる必要のない金銭について、利息まで支払わなければならず不利益です。

 

そこで、改正により、 諾成的金銭消費貸借契約(合意のみで成立する金銭消費貸借契約)の場合、借主は金銭の交付を受けるまでは、一方的に契約を解除することができる ようになりました(民法587条の2第2項前段)。

 

もっとも、借主による解除権を自由に認めてしまうと、高額融資のため相当の調達コストをかけていたり、 利息付の場合、得られるはずの利息の支払が得られなくなったりするようなケースで、貸主が多額の損害を被るおそれがあります。 そのため、改正では、貸主は、借主が契約を解除したことによって損害を受けたときは、借主に対して、その賠償を請求することができると定めています(民法587条の2第2項後段)。

 

ただし、このような貸主による損害賠償の請求は、かなりハードルが高いものと考えられます。 たとえば、貸主が、相当なコストをかけて金銭を調達していたとしても、他の借主が見つかれば、その借主に貸し付けて、利息分の回収も可能になります。 そうすると、貸主には損害が生じていないということになります。 貸主が借主に損害賠償請求するためには、 実際に損害が発生していること、 借主の解除と損害との間に因果関係があることを具体的に立証しなければなりません。

 

第3節 金銭交付前に一方当事者が倒産したときは、契約が終了する

金銭交付前に一方当事者が倒産したときは、契約が終了する

【改正の性質】

 ②従来、解釈に争いがあった条項を明文化したもの/従来の条項・判例・一般的な解釈を変更したもの

 

改正により、諾成的金銭消費貸借契約(合意のみで成立する金銭消費貸借契約)が成立した後、貸主が金銭を交付する前に、貸主または借主の一方に破産手続きが開始された場合、その契約は当然に効力を失うものとされました(民法587条の2第3項)。

 

貸主は、借主の資力が悪化したという理由だけで、お金を貸す義務から解放されるわけではありません。

諾成的金銭消費貸借契約が成立したら、貸主は、借主が破産手続開始決定を受けない限り、お金を貸してあげなければなりません。

 

第4節 借主は、期限前にいつでも返済できるようになった

借主は、期限前にいつでも返済できるようになった

【改正の性質】

 ②従来、解釈に争いがあった条項を明文化したもの/従来の条項・判例・一般的な解釈を変更したもの

 

借主としては、利息の支払いを押さえるために、できる限り、返済の期限よりも早く借金を返済したいと考えることがあります。 しかしながら、改正前の民法では、期限前の返済について定めはありませんでした。そのため、

・利息付きの金銭消費貸借契約の期限前返済の可否

・返済期限までの利息の支払の要否

について議論がありました。

 

改正により、期限前の返済のルールを明確にし、借主は、いつでも返済できるようになりました(民法591条2項)。 他方で、貸主からすると、期限前に返済されると、その後に得られるはずであった利益が得られない、という不都合が生じます。 そこで、改正の際には、この点が考慮され、貸主は、期限前に返済されたことによって損害を被ったときは、 その賠償を借主に請求することができます(民法591条第3項)。

 

第591条 (略)

2 借主は、返還の時期の定めの有無にかかわらず、いつでも返還をすることができる。

3 当事者が返還の時期を定めた場合において、貸主は、借主がその時期の前に返還をしたことによって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる。

 

貸主は、このような損害賠償を請求するためには、貸付前の解除の場合と同様に、

・具体的に損害が発生したこと

・その損害が借主の期限前返済と因果関係があること

を立証しなければなりません。

 

結局、貸主から借主への損害賠償請求は、相当ハードルが高いということになります。

とくに、貸主が金融業者であれば、返済された金銭を別の借主に貸し付けて、利息を稼ぐこともできます。そのため、損害が発生していないと評価される可能性があります。

 

譲渡担保権者が被担保債権の弁済期後に目的不動産を譲渡した場合における受戻しの可否

 

 

              家屋明渡請求事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/平成元年(オ)第23号

【判決日付】      平成6年2月22日

【判示事項】      譲渡担保権者が被担保債権の弁済期後に目的不動産を譲渡した場合における受戻しの可否

【判決要旨】      譲渡担保権者が被担保債権の弁済期後に目的不動産を譲渡した場合には、譲渡担保を設定した債務者は、譲受人がいわゆる背信的悪意者に当たるときであっても、債務を弁済して目的不動産を受け戻すことができない。

【参照条文】      民法369

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集48巻2号414頁

 

 

民法

(抵当権の内容)

第三百六十九条 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。

2 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。

 

傷害致死罪が成立する1事例

 

 

              傷害致死被告事件

【事件番号】      最高裁判所第3小法廷判決/昭和29年(あ)第3604号

【判決日付】      昭和32年2月26日

【判示事項】      傷害致死罪が成立する1事例

【判決要旨】      夫婦喧嘩の末夫が妻を仰向けに引き倒して馬乗りとなり両手でその頸部を圧迫する等の暴行を加え、因つて特異体質である妻をシヨツク死するに至らしめたときは、致死の結果を予見する可能性がなかつたとしても傷害致死罪を構成する。

【参照条文】      刑法205-1

【掲載誌】        最高裁判所刑事判例集11巻2号906頁

 

 

刑法

(傷害致死)

第二百五条 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。