手形裏書が商法第二六五条の取引にあたらないとされた事例 約束手形金請求事件 最高裁判決 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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手形裏書が商法第二六五条の取引にあたらないとされた事例

 

 

約束手形金請求事件

【事件番号】      最高裁判所第1小法廷判決/昭和34年(オ)第1228号

【判決日付】      昭和39年1月28日

【判示事項】      手形裏書が商法第二六五条の取引にあたらないとされた事例

【判決要旨】      会社が約束手形を取締役に裏書譲渡するに際し、取締役から手形金額と同額の金員の交付をうけた場合においては、右手形裏書は、商法第二六五条の取引に該当しない。

【参照条文】      商法192

             商法177

【掲載誌】        最高裁判所民事判例集18巻1号180頁

 

 

会社法

(競業及び利益相反取引の制限)

第三百五十六条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。

一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。

二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。

三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。

2 民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号又は第三号の取引については、適用しない。

 

 

 

 

〔要旨〕会社が約束手形を取締役に裏書譲渡するに際し、取締役から手形金額と同額の金員の交付をうけた場合においては、右手形裏書は、商法第二六五条の取引に該当しない。

〔説明〕被告(被控訴人・上告人)Yは、A会社に対し、三〇万円を融資することを約し、その支払にかえて金額各一五万円の約束手形二通を振出し、A会社は右手形を同会社取締役である原告(控訴人・被上告人)Xに裏書譲渡した。そして、その際Xから手形金と同額の三〇万円の交付をうけた。以上の事実に基き、XはYに対し右手形金三〇万円の支払を求めた。Yは手形振出の事実を認め、抗弁として、Ax間の裏書は商法二六五条に違反して無効であると主張した。原審は、同条は取締役の会社に対する義務を定めた命令規定であるから、同条違反の行為は無効ではないとして、右抗弁を排斥し、Xの請求を認容した。右判決に対し、Yは上告し、AX間の本件手形裏書は同条に違反し無効であると主張した。

 判例は、一貫して、手形行為が商法二六五条の取引に該当すると解しているが(大判大一二・七・一一民集二巻四七七頁、最判昭三八・三・一四民集一七巻二号三三五頁)、本判決は、手形裏書に際し手形金額と同額の金員がXからA会社に交付された場合においては、右裏書は同条の取引に該当しないと判断し、手形行為のうち同条の取引に該当しない場合もあり得ることを判示して、上告を棄却した。