うちらのじだい -5ページ目

第44話 虐待

拓海が言う話しによると、姉が仕事に出掛けると真さんはすぐにどこかに出掛けてしまっていたらしい。



姉は、拓海が1人で居ることに気付いたが真さんが無職のため、仕事は行かないと食べて行かれなくなってしまう。



だから、しょうがなく拓海を置いていった。



姉は出て行ったプライドがあるため、この事は秘密だと念を押されたらしい。



だからどうしようもなくなった拓海は、無言で電話を掛けてきた。



そして母は、拓海の頬が赤くなっていることに気づいた。



もしやと思い、拓海の背中やお腹を見る。



足には何もなかったが、拓海の背中には無数の痣があった。



その時わたしたち3人は確信した。





拓海は真さんから虐待を受けていると…。





拓海に虐待されていたのかどうか聞いてみると、拓海は下を向き否定した。



それと同時に変な事を言い出した。





「夜になると、おばけがやって来て背中を叩いていく」と…。





これは、拓海がどこかで真さんと姉をかばうための嘘かもしれないと思った。




悲しいことに、いくら虐待されていても、子供は親を愛すものだ。





それか精神的に追い詰められた拓海は、辛すぎる気持ちに耐えきれず病んでしまったのかもしれない。





どちらにしろ、小さい体で必死に耐えていた拓海を見ると、可哀想でならなかった。



どうして今まで気が付かなかったのだろう…。



後悔と悲しみが交互に押し寄せてくる。





小さい体の拓海をそっと抱き締めた。





今までのずっと寂しい気持ちは姉と拓海の幸せの為に我慢してきたのに、こんな状態だった事を知ると体中から怒りが沸いてくる。





自分の恋愛を選び家族を捨て、そのプライドの為に見て見ぬ振りをした姉。



それに暴力に無職のダメ男。



これは後から知った事だが、真さんには昔から付き合っている看護婦をしている彼女がいたらしい。



姉との事は、遊びだったのだ。



気前の良い姉だから、真さんにとってはきっと都合が良かったのだろう。


つくづく姉は馬鹿だと思ってしまう、それに気付いても止められない姉はどうかしている。





私たちは、もちろん拓海を連れて家に帰った。



帰ってからも、私は怒りがおさまらなかった。



これでは、一体何のために学校が変わったのか分からない。



姉の幸せを考えてた自分が馬鹿らしく思えた。



自分の幸せしか考えていない姉に、私は何を姉の幸せなんて考えていたのだろう。



やり場のない怒りに、体が震えて止まらない。



真さんだって、良い人だと騙されていた自分が情けない。






もう絶対誰も信じない。






今思うと、この日をきっかけに私は変わってしまったのかも知れない…。

第43話 散乱する部屋

受話器の向こうにいるのは、拓海なんじゃないかなと思った。


それは、今まで家に無言電話なんて掛かってきたことがなかったからだ。



ゆうな「拓海なの?ねんねだよ?」




「…………………ガチャ!ツーツー…。」




今のは、絶対イタズラなんかじゃない、絶対拓海だという自信があった。

心のどこかで、やっぱり拓海が気になっていた。

真さんがいくら良くしてくれても、家族が減ってしまった拓海は寂しいと思う。


何も知らない拓海がいきなり車で知らない土地に連れて行かれ、姉と真さんとの生活になり、何も疑問に思わないはずがない。


今のが本当に拓海だったら…。


だとしたらどうして無言電話なんか…。


母と父に今の出来事を話すと、心配だから姉のアパートまで行ってみようという話になった。




午後8時、姉がまだ仕事に出てるうちに車でアパートまで飛ばす。


夜の道路はすいていて、ついついスピードが出てしまう父の運転から、かなり焦っている父の様子が分かる。


いつも平気な顔をしている父だけに、内心かなり動揺しているようだった。


車内の中はみんな無言で、考えることは同じだった。


どうか無言電話が拓海じゃありませんように。


どうか拓海が楽しくやってますように。


どうにかアパートに着き、インターホンを押す。







「………………………」







何の反応もない。


ドア越しから、母が大きな声を出す。




母「ばあばだよ~拓海いるの?出ておいで!」




「………………………」




それでも反応は特にない。


私たち3人は、顔を見合わせた。


誰もいないという事は、真さんと拓海でご飯でも外に食べに出てるのかもしれない。



帰ろうとしたとき、ドアが開いた。




そこにはなんと、泣きはらした真っ赤な目をした拓海がいた。




父「拓海大丈夫か?!」



母「真さんはいるの?!」




拓海「…ひっく…うぇ~ん!!寂しかったよ~!!お兄ちゃんはお出掛けしてるの」




ゆうな「拓海、どうしてパンツはいてないの?」



拓海「おしっこ漏らしちゃったんだけど、パンツがなかったの~。」




とにかく中に入る、そこは2LDKの部屋で、全く掃除がされていなく足の踏み場がない。
食べかけの腐ったカップラーメンや、腐った牛乳、部屋は悪臭が漂いここに拓海が生活していたんだと思うと、ゾッとした。


なんと、拓海は四時間もの間、パンツが見つからずに寒い部屋の中をうろうろしていた。


お腹が空いていた拓海に、父がコンビニでお弁当とお茶を買ってきて与えた。




落ち着いた所で拓海に話しを聞いた。

第42話 虐められてるのは?

すごい悲惨な光景に、目を反らしたくなる。


目をこじ開けてよく見てみると、やっぱり和樹だった。


何せ3年ぶりの再会なので、和樹かどうか分からなかった。


それでも和樹だと分かったのは3年生の時の喧嘩が幼い私の心に、トラウマとして根強く存在していたからだ。


そして何よりも、またこうして和樹と同じ学校になってしまった事が、偶然すぎて驚いた。


もうこんなやつ二度と会うことはないと思っていたから…。


和樹はあれから3年もたち、身体は上にも横にも大きくなっていた。


その体格の割には小さすぎる一重の瞳には、うっすら涙が滲んで痛さに耐えていた。


今の和樹には、昔のガキ大将の面影はすでにない。


前の学校でも、いじめと言わないまでの小さないじめはあったが、ここまで陰湿ないじめはない。

和樹も悪ガキだったが、こんな酷いいじめをしているのは見たことがない。


止めてあげたいけれど、転入初日の私にはみんなの名前も顔も分からない。


いきなり登場して、いじめを止めさせる度胸が私にはなかった。


和樹も自分のこんな姿を、私には見られたくなかったと思う。


その日はそれからも、和樹と目が一回も会う事はなかった。








学校が終わり、また和樹を取り囲む男子たちの姿が目に入った。




ゆうな「もう何も見たくない…」




そう思い、一目散にその場から逃げ出した。


結局私は意気地なしだった。


今度自分がやられるかもしれない恐怖に、完全に負けてしまっていた。


いじめられてるのは和樹なのに…。


唯一の前の学校の同級生なのに…。


どうする事も出来ない自分が、情けなくてダメ人間で本当に嫌いになった。


結局私は自分が一番可愛いくて、他の人の幸せのために自分を投げ出せることはできない人間だったという事実が、この学校に来て分かってしまった。


誰よりも正義感があると思っていた…。


かなり落ち込んでしまい、この時本当に病んでしまった。




学校から帰ると、母と父がニコニコしながら私に話しかけてきた。




母「おかえり!今日学校どうだった?」




父「友達たくさん出来たろ?」




かなり上機嫌でお酒でも飲みながら、今日1日の出来事を聞いてきた。


友達なんて1人も出来てないし、居場所がない。いじめはあるし、先生もあまり頼りない。


でも、父と母に、これ以上心配はかけたくない。

ただでさえ姉と弟の事でショックを受けてるはずだから。




ゆうな「たくさん友達できたよ!みんなひっきりなしで話し掛けてくるんだから困っちゃったよ」



また嘘をついてしまった。




私たち家族3人は、楽しく笑いあった。




1人1人の心にガッチリと鍵をかけ、上辺だけの笑顔だ。
家族みんながそうだった。
母は娘に裏切られたショックと一番可愛がっていた弟がいない生活、父も娘にまた裏切られ、その事で会社の中で笑い物にされている。


顔で笑い、心で泣いていた。




それぞれの思いを胸に…。






そして、家に電話が鳴った。






ゆうな「もしもし、どちら様でしょうか?」




「……………………。」



その電話は無言だった。



その時私はピンときたのだった。