第44話 虐待 | うちらのじだい

第44話 虐待

拓海が言う話しによると、姉が仕事に出掛けると真さんはすぐにどこかに出掛けてしまっていたらしい。



姉は、拓海が1人で居ることに気付いたが真さんが無職のため、仕事は行かないと食べて行かれなくなってしまう。



だから、しょうがなく拓海を置いていった。



姉は出て行ったプライドがあるため、この事は秘密だと念を押されたらしい。



だからどうしようもなくなった拓海は、無言で電話を掛けてきた。



そして母は、拓海の頬が赤くなっていることに気づいた。



もしやと思い、拓海の背中やお腹を見る。



足には何もなかったが、拓海の背中には無数の痣があった。



その時わたしたち3人は確信した。





拓海は真さんから虐待を受けていると…。





拓海に虐待されていたのかどうか聞いてみると、拓海は下を向き否定した。



それと同時に変な事を言い出した。





「夜になると、おばけがやって来て背中を叩いていく」と…。





これは、拓海がどこかで真さんと姉をかばうための嘘かもしれないと思った。




悲しいことに、いくら虐待されていても、子供は親を愛すものだ。





それか精神的に追い詰められた拓海は、辛すぎる気持ちに耐えきれず病んでしまったのかもしれない。





どちらにしろ、小さい体で必死に耐えていた拓海を見ると、可哀想でならなかった。



どうして今まで気が付かなかったのだろう…。



後悔と悲しみが交互に押し寄せてくる。





小さい体の拓海をそっと抱き締めた。





今までのずっと寂しい気持ちは姉と拓海の幸せの為に我慢してきたのに、こんな状態だった事を知ると体中から怒りが沸いてくる。





自分の恋愛を選び家族を捨て、そのプライドの為に見て見ぬ振りをした姉。



それに暴力に無職のダメ男。



これは後から知った事だが、真さんには昔から付き合っている看護婦をしている彼女がいたらしい。



姉との事は、遊びだったのだ。



気前の良い姉だから、真さんにとってはきっと都合が良かったのだろう。


つくづく姉は馬鹿だと思ってしまう、それに気付いても止められない姉はどうかしている。





私たちは、もちろん拓海を連れて家に帰った。



帰ってからも、私は怒りがおさまらなかった。



これでは、一体何のために学校が変わったのか分からない。



姉の幸せを考えてた自分が馬鹿らしく思えた。



自分の幸せしか考えていない姉に、私は何を姉の幸せなんて考えていたのだろう。



やり場のない怒りに、体が震えて止まらない。



真さんだって、良い人だと騙されていた自分が情けない。






もう絶対誰も信じない。






今思うと、この日をきっかけに私は変わってしまったのかも知れない…。