うちらのじだい -7ページ目

第38話 寂しい日々

姉はその町でNo.1だった芸者を辞めて、スナックを経営することになった。




上級のお客しか選ばなかった姉が出す店だから、繁盛は間違いなかった。




けれど、姉の仕事が終わるまで真さんが拓海の面倒を見るということが少し気になった。




いくら慣れてるとはいえ、所詮他人なのだから。



いずれ結婚するなら、拓海にとっては真さんが父親になる。




拓海だって男の子だから、高校生くらいになれば父親が必要になる時も出てくるだろう。




そして真さんみたいに、たくさん笑わせてくれるし、思いやりがあって優しい人なら大丈夫だろうと思った。




それは姉と拓海がいなくなれば、私だってかなり寂しい。




けれど姉や拓海の幸せを考えれば私のワガママも言ってはいられない。


寂しい気持ちをぐっとこらえた。




これでかなり遠い町に引っ越すならまた話は違ってくるけれど、姉の新居は自宅から歩いて20分程度の場所だった。




会おうと思えばいつでも会える、だからこそ寂しい気持ちも我慢できると思った。








お店の準備と引っ越しの準備は着々と進められ、自宅をでる日が来た。




拓海は何も知らない様子で、いつものように真さんと手を繋いで車に乗り込んだ。




きっと拓海は姉から何も聞かされてないのだろう。




姉も最後に『いつでも遊びに来て』と私に言うと、一万円札を私の手にそっと握らせてくれて、そそくさと車に乗り込みあっという間に3人はいなくなった。




車が見えなくなるまで最後まで確認すると、自宅に戻り自分の部屋に入る。




いつもなら拓海がうるさいくらい側にいるのに、いくら隣を見てもニコニコしている拓海はいない。




男の子のくせに、どうも女っぽくて泣き虫で、そして何よりお姉ちゃんっ子だった。





1人になりたいと毎日思っていたのに…。





友達とゆっくり自分の部屋で遊びたいって願ってたのに…。





静かすぎる部屋は妙に落ち着かなくて、話がしたくて居間に行っても姉はもういない。




2人がいなくなってから、やっと私は寂しさを実感してしまった。




一気に2人いなくなってしまった孤独感に、幼い私はひたすら耐えた。




本当に辛かった。




だが、それ以上に何よりも辛かったのは、拓海が寂しい思いをしていないか考える事だった。




保育園で泣いていないか、ちゃんとご飯は食べているのか、毎日笑顔が絶えないくらいそこにはあるのか…。





孤独感も、寂しさも、弟と離れてしまった事も、全ては姉と拓海の幸せのため。
ひたすら我慢し、拓海の事を考えてるときりがないので無理と考えないようにしていた。







そしてある日、母から大事な話があると居間に呼ばれた。

第37話 大人の話し合い

私たちはすごく楽しい日々を送っていた、そんな時別れは突然やってきた。



父も母もいる日曜日、真さんは我が家にやって来た。



両親はびっくりした表情で、初めて見る真さんに驚いていた。



いい大人が彼女の家に初めて来る時に、ビーチサンダル、それに素足。



びっくりするのは当然といえば当然なのかもしれない。




真さん「お父さんとお母さんにお話があって今日は来ました。」




いつも冗談ばかり言っているのに、初めて見る真さんの真剣な顔にギャップを覚えながらも、姉と真さんの話を聞こうと耳を傾ける、すると母が言った。




母「大事な話があるから拓海をあっちの部屋で見ててちょうだい」




私は拓海を連れ部屋を出た。




木目のテーブルに、真さんと横には姉、反対側には両親。



その部屋と襖一枚でつながっているもう一つの和室に私は息を潜めながら耳をふすまに近付けた。



すると少し声のトーンを下げた大人たちの会話が聞こえてきた。




真さん「夏子さんと一緒になりたいんです、お願いします。」




母「お願いしますって言われても…拓海もいることだし…」




姉「お母さん、もう一緒に住むアパート決まってるのよ。」




父「じゃあお前が俺達を面倒みるって買ったこの家のローンは?一人で見れないって言っていた拓海は?お前一体どうするつもりだ…」




姉「確かにお母さんたちには家も仕事も捨ててきてもらっちゃったけど、お父さんまだ52じゃない?まだまだ若いからローンくらい払えるわよ、拓海は私の子だし責任持ってみるわ!」




母「そんな勝手な事許さないわよ!今までどういう思いでやってきたか!」




父「お前またそうやって俺達も子供も裏切る気か?!絶対許さん!!」




真さん「………。」




姉「もういいわよ!私の人生なんだから好きにさせてもらうわ!」




一同「………………………」







しばらく沈黙が続く、きっと姉は自分の意見を通してしまう、今までだってそうだったから。




ゆうな「はぁぁぁ…。」



私はため息をつかずにはいられなかった、子供ながらに、みんながバラバラになってしまう事は理解していた。



私や拓海は毎日のように真さんが車で迎えに来ては、遊びに行くだけで良かった。



けれど恋人同士の2人では、それがだんだん物足りなくなってしまい一緒に住みたくなってしまったんだろう。



普通なら怒る所だけど、なんだか真さんに普段から良くしてもらっているため、なんだか悪くて私は反対できなかった。



そんな中、拓海は1人ブロックで遊んでいた、器用に飛行機を作っていた。



何も分からない拓海をみると悲しくなってきた。


今話してる内容がまさか拓海にとっては、ねんねやお爺ちゃんやお婆ちゃんと離れて暮らすことだとは思ってないから。



無邪気に遊ぶ大事な弟と離れなければいけない、それが大人の事情なら子供は従うしか選択肢はない。








本当に他に選択肢がない。








どんな辛いことでも悲しいことでも、それが乗り越えられそうもなくても、子供は大人に従うしか生きていく方法はないのだ。








私は遊んでいる拓海のそばにいくと、後ろからギュッと抱きしめた。




ゆうな「拓海が元気で明るくいられますように」




神様にそう願いを込めて…。










でも…神様はどこにもいなかった。








私は間違えて悪魔に祈ってしまったのだろうか…。

第36話 真さん

その人の名前は真さんという名前らしい…。



黒髪の長髪、顔はかなり濃いめで鼻が大きく特徴がある。



靴が嫌いらしく、冬でもいつも素足にビーチサンダル。



年は35歳で職業はホストだった。



かなり面白い人で、子供が大好き。



黒い素肌に白い歯の笑顔が眩しく、どことなく憎めない印象だった。



家に来たときは母も父も外出していて、私と拓海だけだった。




真さん『こんにちは(^O^)ゆうなちゃんに拓海君だよね?ゆうなちゃんは小学生には見えないなぁ!よろしくね(^▽^)』




ゆうな「あっどうもぉ…よろしく」




拓海「お兄ちゃんだぁ(=^▽^=)」




真さん「お兄ちゃんだなんて嬉しいな~これからゲームセンター行かない?」




ゆうな「え?いいけど…」




拓海「わぁい!行く行く!o(^▽^)o」




そういうと、真さんは家のお風呂に入った。



姉の話しによると、もう一週間はお風呂に入っていなかったそうで、よく見ると髪がべったりだった。



今思うと、姉がそんな男と恋に落ちたのかさっぱり分からない。



風呂から上がり上機嫌で真さんは出てきた、ワックスで固められたと勘違いしていた汚れた髪はサラサラへと生まれ変わっていた。




真さん『よしっみんな行こう!』




そう言うと、真さんは自分の車に案内してくれた。




黒のセルシオにフルスモの車、年式は古いがそれが真さんの車だった。




なんだかかなり怪しい感じを醸しだしてる人だった…。




車内では尾崎豊が流れ、上機嫌の真さんの面白いトークでお腹が痛くなるくらい笑った。



初対面とは思えないくらい、私も拓海も仲良くなった。






ゲームセンターに着くと、バイクで対戦したりメダルで遊んだりと、私たちと一緒になって遊んでくれた。




変に大人ぶらないで、つねに子供の目線で話をしてくれる。




その後、カラオケに行った。




私はかなりカラオケ好きだったので、真さんと一緒にディエットしたりして楽しんだ。




ただ拓海はカラオケは恥ずかしがって歌わなかったから面白いのか分からなかったけれど、笑顔で聞いていた。




そして私たちは毎日のようにゲームセンターに行ったり、カラオケに行ったり、日曜日には遊園地に行った。




一番に子供の気持ちになって考えてくれているし、退屈させないように頑張ってくれている。




案外姉は良い人と付き合っているんじゃないかと思った。








ただ、お金を全て姉に払わせる事以外は…。