うちらのじだい -4ページ目

第47話 ウサギ

ゆうな「ねぇ、どうしていつも和樹をいじめてるの?」




孝太郎「…は?いきなり何言うのかと思ったよ!いじめてる理由聞きたいの?」




ゆうな「理由というか…和樹が可哀想っていうか…」




すると突然孝太郎の顔付きが変わった。




孝太郎「何が言いたいわけ?」



負けずと、孝太郎に言い返す。




ゆうな「…あのさっ!いじめとかやめない?」



部屋はシーンとして、一気に空気が変わる。



孝太郎「つかさぁ、何でお前にいきなりそんな事言われなきゃいけないの?」




ゆうな「見てて気持ちいいもんじゃないし…」




孝太郎「…どしてもやめてほしい?」




ゆうな「できれば…」




孝太郎「お前さぁ、俺に立ち向かうことがどういう事か分かってる?」




ゆうな「…だってダサいじゃん」




本当に怖い物知らずだと思う。
何でそんな事言えたのかというと、何故か孝太郎はそんなに根から悪い奴ではないような気がしてたからだ。
一歩間違えると喧嘩売ってるように聞こえる私の意見を聞くと、孝太郎は笑い出した。




孝太郎「…(笑)!!お前気に入った!女のくせに怖い物知らずだし、さすが香織がつれてきただけあるわぁ(笑)」




ゆうな「ん?本当に?!じゃあいじめやめてくれる?!」




孝太郎「あいつさぁ、うちの学校に来たばっかの頃に一匹狼みたいに1人でいてさ、飼育小屋で飼ってたウサギいじめてたんだよね~。だから俺らが同じ目にあわせてやろうかな…なんて。でももうめんどくせーから止めても良いよ。そのかわり条件がある。」




和樹がそんな事していたなんて、かなり驚いた。
きっと前の学校では威張っていた和樹だったから、新しい環境にどう溶け込めば良いか分からなかったのだろう。
普通の学校ならいいけど、この学校はそうじゃない…。
それに家庭環境も悪かった和樹は、ウサギをいじめる事で生きる力を保っていたかもしれない。
もちろんウサギは可哀想でならない、和樹は重い罪を犯したのだろうと思う。
自分が同じ目に遭ったって、それはしょうがない。
でも何故3年間も…。
動物愛好家の方から見れば少ないと感じる方はいっぱいいると思う。
毎日殴られ蹴られ誰にも話すことはなく、黙って学校に通ってた和樹の3年間を想像すると、もう充分なんじゃないかと思う。
自分でも分かっていたからこそ、ひたすら耐えていたのではないだろうか。
確かにウサギをいじめる行為から、精神的に弱いのは和樹かもしれないが、親と別れ可愛がっていた妹とも別れた和樹は、逆に被害者なような気がしてならない。
こんな状況にした和樹の親が憎くてならなかった…。
それと孝太郎が言っていた条件とは何だろうか?



ゆうな「条件って?」

第46話 同じ匂い

クスクス笑っている女子は、いわゆる今時というような女の子たちで、髪も茶髪で少し不良っぽい。


私と目が合うと、鼻で笑い去っていった。






そして放課後になり、帰ろうとすると不良っぽい女子に話しかけられた。



「ちょっと転入生~、付き合ってほしいんだけど…。良いとこ行かない?」




ゆうな「どこにいくの?」




「ついてくれば分かるよ」




ゆうな「………いいよ」



何やら怪しげな顔をしながら私のランドセルをポンと叩くと、ついて来なと言わんばかりに先に歩き出した。


躊躇しながらも、一歩後ろに下がりついて行くことにした。




けれど…これから何が始まるかだいたい予想はついていた。




多分やられるだろうと…。




もうこれが一回や二回ではない。


多少やり合うことに慣れていた私は、ドキドキもハラハラもムカつきもなく、ただ黙々と後について歩いていくだけだった。




五分くらい歩いただろうか、茶色い木造の薄汚れた長屋の家が見えてきた。


すると不良っぽい女子が口を開いた。




「はいんな」




ゆうな「…うん」




その家に入ると、小さな玄関に入りきれないくらいのたくさんの靴があった。


軽く、8足はあるだろう。


私は外にちょこんと自分のスニーカーを並べると、中に入った。


すごい臭いがする、多分タバコの臭いだろうと思った。


ゴミが散乱する狭い廊下を少し歩くと、一つの部屋に辿り着いた。


中をあけると小さな部屋に大人数の男子がいた。



男子「おう、よく来たな。まあそこら辺に座って!」




不良女子「おう!転入生もまあ汚いとこだけど座って~!」




ゆうな「うん、ありがと」




部屋はタバコの煙で充満し、小さな窓では充分に換気できないでいた。


壁には、hideやLUNA SEAといったミュージシャンのポスターがたくさん貼られていた。


大きなアルミの灰皿は、溢れるほどの吸い殻でいっぱいになっていて、床にも吸い殻がこぼれていた。




不良女子「私の名前は香織っていうんだぁ~、ぶっちゃけボコられると思ったでしょ?ごめんね、私人見知りするからさぁ感じ悪くなっちゃうんだよね。」




てっきりやられるだろうと思っていたから、なんだか急な展開に驚いた。




ゆうな「…思ったねぇ(笑)てかすごいとこだね…」




香織「あははっやばいよね。ここは孝太郎の家なんだ、ほらっさっきしゃべってたあの男!」




香織はさっきの男子の方を指差した。


孝太郎は色黒で背が高く、白い歯が印象的な男子だった。クラスの中でもリーダー的存在で、孝太郎に逆らえる人は誰一人いない。


孝太郎が黒と言えば黒だし、白と言えば白だった。




ゆうな「そうなんだぁ~でもどうして私のことここに連れてきたの?」




香織「…ん~なんか同じ匂いがしたからかな…」




ゆうな「同じ匂い?!(笑)」





香織「そうそう…なんか笑ってても目の奥が笑ってないっていうか…わけありっぽい感じがしたんだよね」




ゆうな「……そっか」




香織「めんどくさいから無理に聞こうなんて思わないよ~。」




理由を聞かないのは、優しさなのか本当にめんどくさいのか、よく分からなかった。


でもその時の私には、香織がどう思ってるのかもあまり関心がなく、聞かないでくれた事はただ有り難かった。


香織は自分の赤いラークのタバコをポケットから出すと、寂しそうに火をつけて煙を吸い込んだ。

なんだか不思議とこの場所にいて落ち着いている自分がいた。


悩んでいるのは自分だけじゃなかったと言うか、同じというか…。


なんとも妙にしっくりとくる。


香織がさっき言っていた同じ匂いとはこういう事なのだろうか…。




すると私の席の隣の香川君が話しかけてきた。




香川「おっお前も俺たちの仲間入りしたのか?」



ゆうな「いや別に仲間入りっていうかなんというか…」




香川「まあここに来るって事はそうそう事だろ!今まで冷たくしてて悪かったな」




ゆうな「気にしてないからいいよ」




香川「なら良かった」




香川君の今までとは全然違う態度にびっくりした。


あんなに嫌なやつだったのに…。




それから香織に、今日の朝の出来事を思い切って聞いてみることにした。



ゆうな「美香の靴隠したのってもしかして香織?」




香織「面白い事聞くね~なわけないぢゃんめんどいし。あいつもあんなに隠されてバカだね。」




ゆうな「てっきりみんなで笑ってたからそうだと思ってたよ…」




香織「そういう失礼でズバズバ言うとこ気に入ったよ(笑)」




ゆうな「そう?ありがと(笑)」




初めて2人で笑った瞬間だった。




素直に香織と話してると、自然で楽な自分がいた。


でも、だとしたら一体誰が美香の靴を…。


疑問は残る。


香織も知らないと言っているから、みんな知らないのだろうと思った。


それともう一つ、ずっと気になってたあの事を聞こうと孝太郎に声をかけた。

第45話 上履きの行方

私は学校へ行く準備をしていた。


はっきりいって学校の事を考えると、胃の辺りがズキズキ痛み出す。


居場所がない教室、まとまりのないクラス、そして悲惨ないじめ。


誰か1人でも友達がいれば学校生活も変わってくるのかと思うのだが、今の私には1人もいない。

そんな状況の中で、学校に行きたいとは誰もが思わないだろう。


姉と弟の幸せの為なら犠牲になっても良いと思っていたのに、その幸せがどこかに行ってしまった今では、頑張る理由さえ見つからない。


いっそのこと登校拒否になってしまえば…と何度も考えてたが、引きこもる勇気もなかった。


母や父に、これ以上悩みはかけさせたくない。


いつも以上に重く感じる赤いランドセルを背負うと、一気に家を出た。


家から学校までは、歩いて20分はかかる。


ここはかなりの田舎なので、1時間以上もかけて登校してくる生徒もいた。


20分ではかなり近い方だった。


まだ道が分からないので、前を歩いている生徒にくっついて一緒に歩いた。


その時、後ろから声をかけられた。




「ゆうなちゃんだよね?」




振り向くと、ピンクのカチューシャをしたショートカットの異常に髪の厚い女の子と、体が細くて背が高く顔の小さいメガネを掛けた女の子が立っていた。




ゆうな「ゆうなだよ、声かけてくれてありがとう」




「私たち同じクラスだよ!仲良くしてね」




明るく接してくれた。


しばらく友達が出来ないと思っていた私に、一筋の光が差し込んだ。


ピンクのカチューシャの方は、美香。


背の高い方は、祐実と言う名前らしい。


色々話をしていると、美香は溶け込みやすい性格で話を合わせるのがうまい。
でも少し八方美人な所もありそうだ。
家柄は某有名電気会社の社長の孫らしい…。


祐実はおとなしくて静かで人見知りをするタイプで、自分に自信がなさそうな感じだ。
美香に無理矢理引っ張られて付いてきているように見えた。


3人でたわいもない話しをしていると、あっと言う間に学校に着いた。


すると、美香が騒ぎ出した。




美香「私の靴がない!!!きっと隠されたんだ!!」




ゆうな「え~?漫画の世界じゃないし探せばきっとあるよ~!誰かが間違えて上履き履いていっちゃったんじゃない?」




祐実「とにかく教室に行って見ようよ、美香ちゃん」




私たちは急いで教室に行って、クラスのみんなに聞いて回った。




「え~知らない」




「どっか無くしたんじゃん?」




「知らないよ」




心当たりはないらしい…。




靴下でウロウロしている美香を見るのは、少し痛々しかった。




すると、突然美香が思い出したように閃いた顔をした。




美香「ゴミ箱にあるかも」




ゆうな「ゴミ箱?!どして??」




祐実「ちょっと見てみようよ?」




ゴミ箱だとは、考えもしなかった。


誰かが捨てたと言うことだろうか?


だとしたら、このクラスは女子の間にも頻繁にいじめがあるのだろうか。

多くの事を疑問に思いながらも、ゴミ箱をあさった。




ゆうな「いやあさすがにゴミ箱なんかには無いんじゃない?」




祐実「でもね…前にも美香ちゃん…」




美香「…あった…。私の靴…。」




ゆうな「え?!誰がこんなこと!!大問題じゃん??」




祐実「私先生に報告してくる!!」




まさか本当にあるとは思いもしなかった。


上履きを見るとほとんど汚れていなく、ただ捨てただけという感じだった。


祐実が言うことによると、美香の上履きが無くなることはこれが1回目ではないらしい。


前にもゴミ箱に捨てられていたと言う。


美香は一気に暗い表情になると教室にいたくないと言い、靴下のまま上履き手に持つと保健室に行った。


すると、数人の女子がそれを横目で見ながらクスクスと笑っているのが見えた。




すごく嫌な予感がした…。