うちらのじだい -2ページ目

第53話 愛さん

はじめ「おっせ~な…あいつ…」




深夜11時を過ぎ、私たち5人は静かすぎる田舎の夜の公園にいた。


辺りはブランコと滑り台のみの、とても小さな公園だ。




孝太郎「あっ!!誰か来た!!」




孝太郎が指さす方を良く見てみると、ピンクの派手なバイクに乗った女の人が爆音でこっちにやってくる。




はじめ「ごめんっ俺の女も族なんだよね(笑)しかもアタマ(笑)」




孝太郎「マジっすか?」



ゆうな「ねぇ、孝太郎。あたまって何のこと?アタマっていう暴走族の名前?」




孝太郎「ばかっ!!総長だよ…。」




ゆうな「はぁ?!早朝じゃないよ?もう夜だよ?」




孝太郎「…ったく…お前何も知らねえんだな…」



ゆうな「…???」




そう、私は無知すぎるくらい何も知らなかった。

まあ小学生で詳しい子も、なかなかはいないと思うのだが…。




その女の人は、すごいスピードだったからかあっという間に私たちの側まで来て、はじめさんの隣に立った。


その人はそれはそれはキレイで、お子ちゃまな私とは比べ物にならない。

茶髪のロングの髪に金髪のメッシュがキラキラ綺麗だった。


顔は今で言う沢尻エ〇カにそっくりで、整ったハーフのような顔立ちに赤い口紅。


黒いスウェットを着ていて、背中と胸に金の刺繍と犬の絵が書いてあった。


誰か見てもバリバリのヤンキーだった。




綺麗な女の人「ねぇ、はじめ。あんたいきなり呼び出して何の用?それにこの子たちは?」




はじめさん「わりぃな、こいつらは俺の後輩。そん中でも一番年下のやつが彼女連れてきてくれたから、俺も見せたいなと思って(笑)」




綺麗な女の人「…お前は子供か(怒)!まあいいや。私は愛っていうんだ、宜しくな。」




愛さんと言う女の人は、はじめさんに怒ってた時とは対象のにっこりした笑顔を作ると私たちに微笑んだ。


また笑った顔も、創り物のように綺麗だった。




孝太郎「…………はっははっはい!!こ、こちらこそ宜しくお願いします。」




動揺してどもっている孝太郎を心の中で睨むと、孝太郎に続いてペコリと頭を下げた。




愛さん「ん~、君は中坊くらいかな?隣にいるお嬢ちゃんもそのくらい?」




孝太郎「小6です!!!」




愛さん「小学生かよ?!はじめ~、どういうつもりだよ?!中坊ならまだしも小学生って…。困るよ~?」




愛さんが言った言葉について、何が困るのかはこの時は分からなかった。



愛さん「お嬢ちゃん、ちょっと話しあんだけど…」




ゆうな「え?私ですか?」




そう言われると、孝太郎たちから少し離れた自販機に、愛さんと一緒に温かい珈琲を買いに歩いて出掛けた。


その時にはじめさんから愛さんに、合図みたいな物をしたような気がしたけれど、気のせいだと思った。


けれど実際に怖そうな人から話しなんて言われると、正直驚く。






愛さんに自分から話す言葉がうまく見つからず、ボッ~としながらもくもくと歩いていると、沈黙を破るように愛さんの口が開いたのだった。

第52話 暴走族

孝太郎の家に着くと、何台かバイクが止まっている。


それは、スクーターから中型まで3台くらいは止まっていた。


どれも派手で、バイクの後ろには長いしっぽみたいなのが上を向いて固定されていた。


中からは深夜なのに、かなり笑い声が聞こえてくる。


親はなんで何も言わないのだろうかと不思議に思いながら、静かに玄関を開けると足音に注意しながら孝太郎の部屋へ入った。


すると、孝太郎の他に見知らぬ男たちが3人一斉にこっちを向いた。


それは明らかに私や孝太郎よりも年上で、高校生くらいに見えた。


金髪のツンツン頭に、虎壱の紫のニッカ姿の男が口を開いた。




「な~に~(笑)これが孝太郎の女~?まぢ小学生に見えねー!!」




孝太郎「そうっすか(笑)?まあまだ付き合いたてっすけどね…。はじめさんの彼女も俺見たいっすよ~。まあ、ゆうな座れよ!」




ゆうな「……ども」




はじめさん「ゆうなって言うんだ、宜しくな!俺はじめって言うから何かあったら俺の名前出せばい~から。龍神會(りゅうじんかい)のはじめって言えば知らねー奴いないから。」




ゆうな「はぁ…じゃあ何かあったら宜しくお願いします」




孝太郎「すいません、はじめさん」




はじめ「良いってぇ!俺女には優しいから!孝太郎には厳しいけどな!」



孝太郎「勘弁して下さいよ(泣)!!」




全く誰かいるなら、一言くらいポケベルに入れといて欲しいものだ。


しかも初対面なのに、孝太郎はいつも突然だ。


もう少し気を使ってくれないと困る。


大人な空気が漂うこの部屋は、昼間と違って居心地が悪かった。




孝太郎「っつうことで、メンバーの先輩達にお前の事紹介したかったんだよ。あっもう分かると思うけど、俺暴走族なんだ。」




ゆうな「はぁ?だってまだ小学生でしょ?バイク乗れないじゃん。」




孝太郎「運転くらいできるよ!あっでも集会の時は後ろに乗っけてもらうだけだけどね(笑)」




ゆうな「ふ~んそうなんだ。」




孝太郎「びっくりした?」




ゆうな「まあ、ちょっとはね。」




本当はかなり驚いた。有り得ないと思った。孝太郎が好きでやってれば良いとは思うが…。


学校のみんなは誰も知らない。




はじめさん「やべぇ、俺の女も紹介したくなってきた!よし!みんなであいつんとこ行こうぜ!」



ゆうな「でも…どうやっていくんですか?」




はじめさん「孝太郎にクーター貸してやるから、ゆうなちゃんは孝太郎の後ろ乗ってけばいいよ。」



孝太郎「やったぁ!!運転できる!!」




ゆうな「はあ…。」




はじめ「大丈夫、こっから五分くらいだから。」



そう言うと、そそくさとバイクに乗り込んだ。


はじめさんはピッチで彼女に電話すると、近くの公園まで来てくれるみたいだった。




孝太郎「…お前落ちんなよ…」




ゆうな「…孝太郎こそ落ちるような運転しないでよ…」




いくらスクーターとはいえ、バイクなんて乗るのが初めてだったので、怖くて死ぬんじゃないかと思った。


しかも寒い日にバイクなんて凍え死ぬんじゃないかと思った。


孝太郎は、私を後ろに乗せ急発進した。




ゆうな「っちょっと!!あんた私を殺す気?!」



孝太郎「悪い悪い!!でも気持ちいいだろ?」




ゆうな「寒いだけだよ!!もうっ!!」




孝太郎「じゃあもっとしがみつけよ。」




ゆうな「え?」




夜の町に響くバイクの音にかき消され、会話も聞き取りにくい。


運転する嬉しそうな孝太郎を見ると、何故か私の心も晴れていった。


不器用な2人だったけれど、確実に気持ちは孝太郎に向いていった。
好きか嫌いかと言われれば、はっきりと孝太郎が好きだ。


その孝太郎の後ろに座り、腕を腰にしっかりと回して、まだあどけない背中にピッタリと顔をくっつける。


慣れないバイクは今にも落ちそうで、恐怖でいっぱいだけれど孝太郎となら怖くない。


端から見ればバイクに乗るのにあまりにも不自然な私たちは、なんとか公園に向かったのだった。

第51話 美香の事情

美香はいじめられっこだった。



それは私が転入してくる前の出来事で、理由は嘘つきだったかららしい。


嘘つきは治っていなく、社長の娘というのも嘘だった。



父親は、中小企業の平社員。



見栄を張っていたのか、何のためについた嘘なのかも分からない。



嘘つく事が、生活の一部になっているのだろうと思った。



性格も強く、人をバカにし、貧乏人をとことんバカにする。



そんな美香に嫌気がさした女子数人が、美香をいじめた。



暴力はなかった物の、机に落書きしたり、無視したり、給食エプロンを汚したり、女子特有のいじめだった。



飽きたのか、それもいつしかなくなり美香はいじめられる事はなくなった。



それをきっかけに更正すればいいのだが、美香は懲りるどころか自分の靴を隠し、人の注目を浴びていた。



意味が分からない美香の行動が、頭を悩ませた。


今思うと、きっと美香は寂しかったんだと思う。


けれど当時の私には美香を理解する力はなく、途轍もなくうざく思えた。


自分の家庭環境のせいにはできないけれど、イライラしていた。



泣く美香を冷たい目で睨むと、さっさと自分の席についた。








ちょうどその時期、姉が真さんと別れた。



実は真さんにはずっと付き合っている看護婦の女性がいたらしく、それに気付いた姉が怒り、真さんの車を蹴りまくり、車がボコボコになってしまった。



何よりも大事にしていた車がボコボコになり、真さんは弁償しろと家に怒鳴り込みに来たことからそれが発覚した。



姉は真さんに、逆に慰謝料をよこせと話は平行線。



もうどうでも良かった、真さんも姉も関係ない。


自分にそう言い聞かせることで、精神を保っていた。



家の親は、そういう事になると弱く何もいえなかった。



苛立ちさえ覚え、もう何もかも消えてしまえば良いと思っていた。








そんなある日、孝太郎からポケベルに連絡が入った。



まだ携帯が主流ではなく、ポケベルやピッチが流行っていた頃に姉が初めてピッチを買った。



今まで使っていたポケベルを、私に譲ってくれた。




「イマカラウチニコナイカ?コウタロウ」




時間は夜の11時、私は親の目を盗み窓から飛び出した。



家から孝太郎の家までは、自転車で10分ほど。



小学生が出るには遅すぎる夜の道を、街灯に照らされ力一杯ペダルをこいだ。



CDウォークマンから流れるSPEEDのホワイトラブが寒くなってきた夜に心地良かった。






この日孝太郎の秘密を知ることになった。