第51話 美香の事情 | うちらのじだい

第51話 美香の事情

美香はいじめられっこだった。



それは私が転入してくる前の出来事で、理由は嘘つきだったかららしい。


嘘つきは治っていなく、社長の娘というのも嘘だった。



父親は、中小企業の平社員。



見栄を張っていたのか、何のためについた嘘なのかも分からない。



嘘つく事が、生活の一部になっているのだろうと思った。



性格も強く、人をバカにし、貧乏人をとことんバカにする。



そんな美香に嫌気がさした女子数人が、美香をいじめた。



暴力はなかった物の、机に落書きしたり、無視したり、給食エプロンを汚したり、女子特有のいじめだった。



飽きたのか、それもいつしかなくなり美香はいじめられる事はなくなった。



それをきっかけに更正すればいいのだが、美香は懲りるどころか自分の靴を隠し、人の注目を浴びていた。



意味が分からない美香の行動が、頭を悩ませた。


今思うと、きっと美香は寂しかったんだと思う。


けれど当時の私には美香を理解する力はなく、途轍もなくうざく思えた。


自分の家庭環境のせいにはできないけれど、イライラしていた。



泣く美香を冷たい目で睨むと、さっさと自分の席についた。








ちょうどその時期、姉が真さんと別れた。



実は真さんにはずっと付き合っている看護婦の女性がいたらしく、それに気付いた姉が怒り、真さんの車を蹴りまくり、車がボコボコになってしまった。



何よりも大事にしていた車がボコボコになり、真さんは弁償しろと家に怒鳴り込みに来たことからそれが発覚した。



姉は真さんに、逆に慰謝料をよこせと話は平行線。



もうどうでも良かった、真さんも姉も関係ない。


自分にそう言い聞かせることで、精神を保っていた。



家の親は、そういう事になると弱く何もいえなかった。



苛立ちさえ覚え、もう何もかも消えてしまえば良いと思っていた。








そんなある日、孝太郎からポケベルに連絡が入った。



まだ携帯が主流ではなく、ポケベルやピッチが流行っていた頃に姉が初めてピッチを買った。



今まで使っていたポケベルを、私に譲ってくれた。




「イマカラウチニコナイカ?コウタロウ」




時間は夜の11時、私は親の目を盗み窓から飛び出した。



家から孝太郎の家までは、自転車で10分ほど。



小学生が出るには遅すぎる夜の道を、街灯に照らされ力一杯ペダルをこいだ。



CDウォークマンから流れるSPEEDのホワイトラブが寒くなってきた夜に心地良かった。






この日孝太郎の秘密を知ることになった。