「とりあえず、シャンディーガフ…」

喉の渇きを潤すにはちょうどいいカクテルだ。
俺の言葉少なめな答えを聞き終わると、髪の長い女性は少し微笑みながら、カウンターへと歩き出した。

髪の長い女性の顔の確認はあとにして、改めて同席している女性の顔を確認した。


……
…………

俺は心の底からこう思った。

帰りたい…

この一言で全てを語らなくても分かって頂けるだろう。

「お待たせしました。」

俺のシャンディーガフが到着した…が、絶対に手が届かない位置に置かれいる。

この店の店員はアホなのか?
飲み物が無いのは俺だけだろ。

少しイラッとした表情を察したのか、先ほどの髪の長い女性がグラスを差し出してくれた。

「何を考えてるんだろうね…あの店員さん♪」

俺の心を読んだのか?と思いたくなるタイミングと同じ思い。

「では、改めて…乾杯♪」

後輩が頭に突き刺さる声でわめきだした。

「乾杯♪」

それぞれがグラスを重ねて飲み始めた。

俺は面倒くさそうに顔の前にグラスを差し出して無言で飲もうとした時…

「乾杯♪」

突然、キールの注がれたグラスが現れた。

髪の長い女性…

何が嬉しいのか、少し微笑んでいる。

面倒くさいが、とりあえずグラスを重ることにした。
「いらっしゃいませ♪」

奥のカウンターから店員が挨拶をしてきた。

その声に反応した若者数名が立ち上がり、嬉しそうな顔でこちらを見ている。

「お疲れ様です♪」

俺が来たことを喜んでいるのか、財布が来たことを喜んでいるのか分からない顔をしてやがる…

そんな皮肉を頭に浮かべながら、その団体に足を進めた。

「勝雪さん、こちらにどうぞ♪」

一応、上座に座らされて、辺りを見渡した。

こ洒落た感じのショットバー…

客筋も悪くなさそうだ。

「どうです?みんな可愛いでしょ!!」

突然、後輩が話しだした。よく考えてみてくれ…
例え、残念な顔の女性ばかりでも、綺麗な女性ばかりだ…と、答えるしかないだろ!!

何より、自慢気に話す後輩の顔がムカついた。

ただ言える事は、さっき車の前を横切った女性の団体ではないのは確かだ。

カルシウムが足りないのか、やけに後輩を殺したくなった。

「何を飲みます?」

俺の苛立ちをよそに、1人の女性が話しかけてきた。
20時45分…

目的地近辺に到着。
予定より早く着いたな。
あとはパーキングを探すだけだが…
間違いなくなさそうだ。
…と言うより、はなから探す気がまったく無い。

顔を出して、すぐに帰る予定だしな…

適当に車を停める所を探し、路地裏へとアクセルを踏み込んだ。

車を停めて、時計を見ると21時4分…

まだ、早いな…

21時の約束だが、遅れて行くくらいがちょうどいい。
もし、時間厳守で行ったら、嫌そうなふりしてるくせに、本当は楽しみにしてますやん!みたいに思われるからな。

俺は、少し恥ずかしがり屋さんなのだ。

まぁ、何も期待していないのも事実だし、俺より4~5歳も年下の後輩たちが根こそぎ持って帰るだろうしな…
誰が好き好んで、こんな無愛想なオッサンに惚れるかよ;
そんな皮肉を頭に浮かべながら、タバコに火をつけた。

その時、車の前を5人の女性が横切った。

俺の鋭い眼がナイトビューモード&望遠仕様に変換された。
ナイトビューモード&望遠仕様と言っても、ただ眼を細めて本気で女性の顔を確認してるだけだが…

……
………
…………

俺は無言で車の肘置きのフタを開けた。
中には、CHANELのアリュールが入っている。
気合いを入れて、perfumeをつけるのはかまわないが、重大なミスに気が付いた。

窓を閉めきった車で、香水を使うと凄く息苦しい。

…いったい何をしてるのだ、俺は?

…いったい何を期待しているのだ?

恋愛?

彼女?

そんな感情は捨てたはずだろ…

そう自分に言い聞かせながら、歩き出した。

ネクタイを絞め直し、店のネオンが見えた時、確かに聴こえた…

『…背負いし者よ

よいのか?

背負いし者よ…

必ず降りかかる…ツミ…と…バつ…』

??

何なんだ?

今の声は?

考える時間もなく、店の前に着いた俺はドアを勢いよく開いた。