乞食blog -18ページ目

親分

また雨だ。屋根のあるところへ移動しなければ。
新潟モ雨なんだろうか。
人様の心配をするような身分では無い事は重々承知だが、
やはり被災者の方々の生活が気になる。

山ちゃんと一緒に毛布を担いで移動していると、

「お前ら、どこ行くんだよ!」

と、一人の男に声をかけられた。
雰囲気で同業者だと解るが、
見た目はこざっぱりとしており、
ガッチリとした体格と面構えに威圧感を感じる。
少し脅えながらも山ちゃんが

「あ、雨降って来たからよう、しのげるとこまで行くんだよ…」

と言うと、

「お前ら、公園の連中だろ?雨が止んだらすぐ戻るんだぞ」

とだけ言い捨ててまたどこかへ行ってしまった。

「あいつ、親分つって、この辺の顔役なんだよ。
面倒だから逆らわん方がいいよ」

と山ちゃんがホッとした様子で教えてくれた。
話には聞いていたが、噂に違わぬ男だな、と思った。

落ち着けそうな場所を見つけ、山ちゃんと一緒に寝床を準備した。
疲れたので早く眠ってしまいたかった。

ミツコのとこ

早朝に開店する飲み屋がある。
店の名前はないが、みんな「ミツコのトコ」と呼んでいる。
店主である女将の名前がミツコというからだ。
ミツコも同じホームレス仲間だ。
昔は水商売をやっていたらしい。

ミツコのトコは、毎週土曜の6時前に開店する。
開店といっても、クーラーボックスと、
組み立て式のテーブルがふたつあるだけの簡易店舗だ。
ここで飲む酒で一番高い酒は、常連だけが知っている、

「ビールの焼酎割り」

昔でいうところのホッピーみたいな飲み物だが、
ホッピーはビールの代用品だった訳で、
本当のビールにアルコール度を増すための焼酎を入れると
ホッピーより味わいがあって美味い。
そしてビールより良く酔えるのも魅力的だ。

注文は、ミツコに「ビールのアレ」と言えば通じる。
たまに焼酎を多めに入れてくれるのも嬉しい。

アルミ缶集めを終えた人たちが、憩いの場として利用する飲み屋。
「ビールの空き缶を山ほどあつめて、コレ飲めるの一杯なんだよな」
と、山ちゃんはちびちびと焼酎のお湯割りを飲みながら言った。

一般の人が動き出す、朝7時には看板の「ミツコのトコ」。
日本で一番営業時間の短い飲み屋なのかもしれない。

破られた雑誌の謎(後編)

駅に捨てられている雑誌が破られている理由。
キンさんが駅でサラリーマンと喧嘩をしたことでわかった。

なんでも、雑誌を捨てるサラリーマンがいたらしく、
キンさんは近くで雑誌を捨てるのを待っていたらしい。
ところが、サラリーマンがキンさんに気づいたとたん、
急にキンさんの方を向きながら、雑誌を破りはじめたそうだ。
驚いたキンさんは、

「ちょ、ちょっと待てよ!捨てるなら、そのまま捨ててくれよ!」

と止めたそうだ。
そうしたら、そのサラリーマンは、

「はぁ?俺が買った雑誌を俺がどう捨てようが勝手だろうがぁ!」

と、怒鳴った後に、

「俺は前々から俺が汗水流して働いた金で買った雑誌で、
小銭を稼いでるオメェらが気に食わないの!わかる?」

と悪態をついてきたそうだ。
この一言にキンさんがキレて、
そのサラリーマンに掴みかかったが
逆に殴られて逃げてきたそうだ。

キンさんは、殴られて腫れた顔をして、公園に帰ってきた。

ノリさんがボソリと言う。

「やっぱり雑誌はもうダメだなあ。
その筋の人たちに吸い上げられちゃって、
もうおいしくないし…
やっぱりビッグイシューやろうかなあ…」

ドキリとした。

破られた雑誌の謎(前編)

温厚なノリさんが途方にくれていた。
なんでも、拾う雑誌、拾う雑誌がことごとく表紙やら、
中表紙やらが破られているというのだ。

「これじゃあ、売り物にならないよう」

古雑誌は、僕たちホームレスにとって、
数少ない現金収入源だ。

昔は、入場券で電車に乗って、各駅各駅のゴミ箱から、
雑誌をこまめに集めては、駅前で売っていたみたいだが、
近頃は駅のホームに設置されていたゴミ箱が、
テロ対策とかで撤去され、
売り物になるような雑誌をうまく拾うのは
とてもむずかしくなっている。

そんな状態でやっと拾った雑誌がことごとく破られている。
これじゃあ、流石に売り物にはならない。

捨てる雑誌の表紙を破る理由が全くわからない。
捨てるなら、そのままポイッっと捨ててくれればいいのに。

その理由は、その日のうちにわかった。

究極の銀杏料理

キンさんとノリさんが、
銀杏をビニール袋いっぱいに入れて持ってきた。
台風の翌日に拾いにいって、
果肉を取るために土に埋めておいたのだが、
もうガマンできないということで掘り起こし、
果肉を割って中身を取り出すのだという。

果肉は水でゴシゴシ洗ったら、まあまあきれいに取れた。
そしてみんなで硬い殻を割った。
キンさんは歯、ノリさんはラジオペンチといった具合だ。
自分は、近くにあった石で慎重に殻を叩いた。
割れた殻の中から実を取り出し、
渋皮を剥くとあの緑の実がやっと出てくる。

キンさんが、
「うんこ、くせぇなぁ!ったく、ノリと同じくらいくせえなあ!」
と、豪快に笑う。

ノリさんも笑いながら、
「アンタも、同じようなもんだよ」
と返す。

ヨシさんに最高の銀杏料理は何かと聞くと
「鯛の身と朴葉にくるんで、蒸し焼きにするとうまい」
だの
「塩をいいものを選び、日本酒を少し振って銀シャリに炊き込むと、
飯全体が黄金色に輝く」

だの、聞いているだけで涎の出そうなメニューを次々と答えてくれた。

「でもな、やっぱり最上級の料理法といえばな」
みんなゴクリとつばを飲み込み、身を乗り出す。

「直火で炙り焼く」

そして、大切そうにふところからアジシオの瓶をだす。
「これはね、欠かせないよ」
みんなで囲んでいた焚き火に鉄板が渡され、
ざらざらと、殻をむいた銀杏が流し込まれる。

みんなでホクホクの銀杏焼きを
「アツい!アツい!でも、うまい!」
などといいながら、おいしく頂く。

「まるで懐石料理みたいだ!」
とはキンさん。

お腹はいっぱいにならないが、贅沢な風味。
そして、みんなの顔には笑顔が浮かんでいる。
みんなで食べると、おいしい。 そう思ったら、

「みんなで食うのがまたその上の美味さだな」

とキンさんが大きな声で、自分のかわりにいってくれた。

突然、猛烈に仕事がしたいと思った。
毎年、いつも気持ちが盛り上がっては、
さんざんな目にあっているのだけど。
やっぱり自分は仕事がしたいという思いが、わきあがってくる。