乞食blog -17ページ目

ストリートミュージシャン

ずいぶんと日が短くなった。
じっとしていると冷えるので、
なんとなく賑わっていそうな駅前に行くことにして歩く。

帰宅ラッシュがひと段落した時間、
駅前の一角では、若者たちが路上ライブをやっている。
そこそこ客が集まって、
ギター2本で歌い続ける二人組みの歌に耳を傾けている。

その少し離れてたところに、同業であろう男性が
ダンボールを敷き、バンドの演奏を眺めていた。
年のころは、初老といった感じだろうか。
焼酎の大型プラスチック容器を
片手に、バンド演奏を聞く若者たちを眺めている。
そして時折、その焼酎(中身がなにかはわからないが)を
グイッっとあおる。

彼にとっては、少し離れた場所から聞く駅前ライブは、
夜のひとときを過ごす、大切な娯楽なのかもしれない。

歌は、青年らしい恋や夢を歌うだけのどこにでもあるような
ものだったけれど、誰かが歌うのを聞くというのは、
意外にいいものだなと思った。

そのまま足を止めて、しばらく聞いていたら、
昔、流行した山口百恵の聞き覚えのある歌を歌い始め、
これがなかなかよかった。
テンポをスローにしただけで、
なんともいえない哀愁があり、胸が熱くなる。
それまで通り過ぎていた中年の人間も、みんな足を止め聞き入っている。

 あなたが望むなら 私何をされてもいいの
 いけない娘だと 噂されてもいい
 恋したとき 体の中で 別のわたしが目を覚ます

この曲が流行した頃は、どんなことにも熱く
無鉄砲な自分だった。
みな、同じ思いだったのだろう。
初老の男は、立ち上がり拍手をしていた。

皆の気前と野草のお茶

早朝、よっさんとノリさんが、
コンビニのゴミ袋から、
パン類とマヨネーズ、ソース、ドレッシングの小袋を
たくさん拾ってきた。

濃い霧の中「なんとなくピンときて」
いつもと反対の方角に歩いたら、
そこだけ光ってみえたそうだ。

みんな気前よく、キャベツでもパンでも分けてくれる。
自分には、それがなかなかできない。
行動力がないのだと思う。

せめてあたたかいお茶でも、と、
秋の間に野草を摘んでつくったお茶を沸かし、
みんなにふるまおうとするが、
湿気で火がなかなかつかないので、あせった。

ノリさんのキャベツ

しばらく姿をみせなかったスタイリストのナベさんが、
両手にキャベツの入った袋をふたつ下げて姿を見せた。

なんでも長野の農家に住み込みで、取り入れの仕事に
ありついたものの、作物が台風でほとんど仕事にならず、
売り物にならない傷キャベツを6個もらっただけで、
帰ってきたそうだ。

「まあ、飯は出たし、風呂にも入れたし、
セーターなんかの古着も、よかったらもっていけ、っていわれてさ。」

おしゃれなナベさんは、食べられるキャベツより、
背中にくくった包みの方が重大らしく、次々と古着を取り出す。

「ほらこれなんか、これおまえに似合いそうだ」

茶色のジャンバーをノリさんに着せてやる。
ノリさんは「農家の人も、台風でたいへんだったよなあ」
と照れくさそうにジャンパーをなでる。

「おれ今、なにもお礼できないよ。
これ古着屋に持っていけば、いい金になるんじゃないの?」

「いや、古着屋にはもう行ってきて、これは売れなかったやつだから」

とナベさんは、気前がいいセリフをはきつつ、下を向く。

見れば、クリーニングもせず、形も古く、
とても売り物になるような代物でない。
以前、ナベさんが拾った衣類を古着屋に持ち込もうとして、
たたき出されていたところを見たことを思いだした。
最初から、売り物になるようなものではないのだ。

「それより、キャベツ食べようよ」

しかしヨシさんの姿も、この前の銀杏の日から見かけない。
ひどい雨だったので、どこかに移動したままなのだろうか。
仕方がないので、鉄板でいためて食べた。
汁ものにしたかったのだけど、ミソもダシもなく、
調味料が醤油しかなかったのだ。

「生でかじってもいけるよ!」

ナベさんが歯のない顔で真剣にいうので、おかしかった。

農家の古着袋からは、靴下がありがたかった。
洗濯してある靴下に履きかえると、
ふかふかで穴もなくて、ぐっと体があたたまる感じがするのだ。

パンの耳

気付けばもう11月。早いものだ。
今日は100円ショップで買った食パンを
よっさん、山ちゃんと分けて食べた。

「ジャムくらい塗りてぇな…イチゴの甘いの…」

山ちゃんがつぶやく。
よっさんは無言のまま食べつづける。
しばらくすると

「あ!耳のとこずっと噛んでたらなんか甘くなってきた!!」

と、山ちゃんが急に叫んだ。
急に何を言い出すのかと、よっさんと顔を見合わせて笑った。
その後、山ちゃんの言う通りパンの耳を何度も何度も噛みつづけた。
確かにほんのりと甘くなっていくような気がした。

松井とミスター

皆から「ミスター」と呼ばれる野球好きの仲間がいる。
そのミスターが、くやしそうに古い新聞を握り締めていた。
なんでも、松井がいるヤンキースが
ワールドシリーズに行けなかったというのだ。

ミスターは生粋の巨人ファンだが、
野球そのものが好きな野球狂でもある。
松井が元巨人という事とも相俟って、
松井の活躍には一喜一憂してたほどだ。

「松井は世界でだって活躍できます!」

といつも息巻いてたミスターは、
この公園の誰よりも松井の活躍を確信していた。

私もそんなに詳しい方じゃなかったが、
ミスターの野球熱にあてられたらしく、
以前より自然と詳しくなった。

野球素人の私でも残念だと思ったほどだから、
ミスターは余程くやしかったのだろう。

我々は、世界の松井とは程遠い世界にいるが、
それでも松井と同じ世界で生きている。
我々の生活はギリギリだけど、
松井だってギリギリで頑張っていると思う。

「来年は巨人も松井のヤンキースも優勝してダブルハッピー」

と、ミスターは来年の野球に夢を馳せていた。