2021年 読んだ本 | れぽれろのブログ

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毎年恒例、年間の読書まとめの記事です。1年の間に読んだ本の中から、その年の印象的なタイトルをいくつか並べて、覚書を残しておきます。
この記事は毎年年末に書いていましたが、昨年末は少しバタバタして忘れていましたので遅くなりました。今さらですが、2021年の読書ノートです。

自分は元々歴史系の本を読むことが多いですが、昨年はとくに歴史本を多く読んだ年です。なので今回取り上げる本もほぼすべて日本の歴史の本です 笑。
さらに、昨年の特徴として、年間に小説を全く読まなかったことがあげられます。元々小説はあまり読まないタイプですが、年間通して全然読まなかったのは初めてかもしれません。


昨年は長大な通史を2タイトル読みました。

最も印象的な本として、まずはこの2タイトルをあげておきます。

・日本倫理思想史/和辻哲郎 1~4巻 (岩波文庫)
・天皇の歴史 1~10巻 (講談社学術文庫) →※うち9巻まで読了、10巻は未読

どちらも以前から読みたいなと思っていた本です。昨年はとくに前半は時間に余裕があったので、これらを読み通すことができました。
改めて、通史を読むのは面白かったです。なかなか日本の歴史を最初から最後まで読むという機会はなく、昨年はこれを2回繰り返せたのが楽しかったです。

和辻哲郎の「日本倫理思想史」は、倫理をテーマに著者なりの日本の長い通史をまとめた本。倫理は社会により異なり、歴史的風土的に規定されるというのが著者の見解。著者は日本の倫理の歴史を6つの時代区分に分けて解説されています。
強引にまとめると、著者は古代王朝時代(平安時代前期まで)の天皇を中心とした法と人倫の社会を是とし、中世以降の武士的な忠孝の道徳による社会を否としているように読めます。この天皇的な倫理と武士的な道徳が形を変えながらその後も存続し、両者が結合したのが明治近代国家であり、前者の倫理に対し後者の道徳が混ざりこんでしまったことが、近代日本の失敗であったと読むことができるように思います。
本書は戦時下から書き始められていますが、出版は1952年、戦後7年目の本で、結論に著者なりの近代日本の総括が現れています。結論はともかく、本書は細部がむやみに面白く、1人の著者による各時代に対する所感を通して読むのはたいへん面白かったです。
同時に、天皇を中心とした倫理を何とか肯定しようとするようにみえる著者の結論(ざっくり言うと日本=天皇であるということを肯定しているようにもみえる)はなかなか難しく、昨今たまに聞かれる「日本とは天皇である」という言説は実は無理があるのではないかということも、間接的に感じさせる本ではあります。

講談社学術文庫の「天皇の歴史」全10巻は、天皇を中心とした日本の通史です。2010~2011年に出版され、2017年~2018年に文庫化された本。各巻は別々の著者により書かれ、1~8巻が古代から近代までの歴史、9巻10巻が各論となっています。(自分は10巻は未読)
各巻は著者によりテイストが異なります。自分はとくに中世・近世の部分を興味深く読みました。一般に天皇が歴史の表舞台に登場するのは古代と近代ですが、あまり知られていない中世・近世も面白かったです。とくに藤田覚さんによる江戸時代の天皇論(第6巻)は、幕府により完全に権威が押さえつけられた後水尾天皇の時代から、天皇が幕府を凌駕した幕末の孝明天皇の時代まで、徐々に古代的な天皇感が復古してくる様子が興味深く、幕末の孝明天皇は一夜にして現れたわけではないことがよく分かります(とくに霊元天皇と光格天皇が重要)。
近代は加藤陽子さんによる昭和天皇論(第8巻)が面白く、人物史ではなく制度的に天皇をみていく著述が印象的。明治憲法の有名な「天皇は神聖にして侵すべからず」の文言の解釈を巡る変遷(天皇に政治責任が及ばないようにするという目的の条文であったものが、後に天皇の絶対化につながってしまう)など、よく知らなかったので面白かったです。その他、天皇と宗教を扱った第9巻は各論ですが、このうち山口輝臣さんによる章は、明治以降の日本近代の歴史をコンパクトに読める、分かりやすい章だと感じます。


続いて、日本の歴史全体の通史以外の本を、近年出版された本の中から4冊選んでおきます。
いずれも新書であり、上の2タイトルに比べると比較的読みやすい本です。

・一日一考 日本の政治/原武史 (河出新書)
・北朝の天皇/石原比伊呂 (中公新書)
・サラ金の歴史/小島庸平 (中公新書)
・防衛省の研究/辻田真佐憲 (朝日新書)

原武史さんの「一日一考日本の政治」は、1年366日のそれぞれの日について、政治思想に関係する人物の言葉を1つ取り上げ、著者がそれに対しコメントするという形式の本で、一度読み終わった後も折に触れてページを開き、どの部分からでも繰り返し読める、たいへん面白い1冊です。
内容と感想は過去の記事(→こちら)に書いた通りですが、一つ過去記事に書かなかった点として、5月4日の柳田国男の言葉も印象的です。鉄道に乗って日本の風景を味わいながら旅する民俗学者柳田国男による郷土愛の言葉が取り上げられていますが、この言葉は著者の近著「最終列車」でも登場しており、おそらく著者のお気に入りの言葉なのだと思います。鉄道を通して国家を相対化し郷土を考える契機として、この柳田国男の言葉は重要です。

石原比伊呂さんの「北朝の天皇」は、南北朝~室町時代の天皇を中心とした通史で、なぜ南朝ではなく北朝が存続したのかを問題にする一冊。
北朝は足利氏と協調し現実路線を取ったことが存続の主たる理由ですが、本書の結論の面白い部分はこれを現代社会と重ね合わせ、過剰な正義や理念を追求する(南朝的)立場と、穏当な現実路線を志向する(北朝的)立場を比較し、前者を否定し後者を肯定している点にあります。南朝を昨今の過剰なポリコレ的風潮と比較している点も面白い。
その他折に触れて現代社会との比較で語られる分も面白く、笑える記述も多い(著者自身「悪ふざけが好き」と書かれています 笑)です。応仁の乱のさなかに、後花園上皇、後土御門天皇、足利義政、日野富子が、足利邸で酒宴を開き(戦争状態でも足利邸はさすがに誰も襲わない)毎晩のようにみんなで泥酔していた事実など、おもしろ歴史エピソードにも事欠かない、楽しい本に仕上がっています。

小島庸平さんの「サラ金の歴史」は、借金をテーマにした戦後の経済史であり、戦後の日本の通史としても読めるたいへん面白い本です。
戦後の日本経済は各家庭の家計によって支えられ、とくに高度成長期以降になると金融機関は貸付先を企業だけではなく家計に求めるようになります。そんな中で登場してきたのが、アコム、プロミス、レイク、アイフル、武富士といった有名なサラ金業者です。
これらの業者のルーツは戦前以来の個人間融資にさかのぼり、法定利率を越える高利での金貸しは当たり前、これがシステム化し広く普及したのが60年代以降。高度成長期は給与所得者は年々所得がアップする時代で、借金も遊興費が中心であり、高利であっても翌月・翌年には返せていましたが、70年代以降の低成長期になると所得の硬直化と借金の生活費化が進み、我々の知るところのサラ金=借金苦という図式となり、過剰な追い込みによる社会問題化が顕著になります。
サラ金が実は銀行システムに組み込まれているという指摘が重要で、サラ金問題は一人間の資質の問題や一企業の問題を超えて、日本社会の構造的問題であることが分かる本です。

辻田真佐憲さんの「防衛省の研究」は、防衛をテーマにしたやはり戦後日本の通史であり、人物にフォーカスした列伝形式になっている点が読みやすく、内容と感想は過去記事(→こちら)で書いた通り。
本書から考える、過去記事に書かなかった感想を一つ。
過去記事に書かなかった点のうち重要なのは、戦後の海上保安庁の部隊による掃海(海の機雷を除去する)活動の中で、朝鮮戦争の最中に、けが人だけではなく実は1名の死者が出ていることです。これは自分は全然知りませんでした。
戦後長らく日本は1名の戦死者も出さなかったなどと言われていましたが、実は死者が出ていたという事実。戦前の戦死者は神社などに祀られたり、場合によっては(爆弾三勇士などのように)英雄として記念碑まで建つようになりますが、戦後の戦死者はなぜか秘匿される、このことにはやはり問題を感じます。
戦前のような英雄化はそれはそれで問題が多く、良いこととは全く思いませんが、戦後の戦死者から目をそらすことも問題。自衛隊の活動の中で死者が出た場合の慰霊について考えるのも大切なことで、そのためにも本書のような形で防衛についての歴史を知ることは重要です。


ということで、計6タイトルについてコメントしてみました。
歴史本ばかりで、しかも天皇の本がなぜかやたらと多い(笑)という選書になりましたので、今年は小説や歴史以外の本もあれこれ読みたいなと思っています。


「防衛省の研究」には、著者に目の前でサインを書いて頂きました。

ご本人を前にして直接サインをもらったのは、カツァリス(ピアニスト)以来2人目です。


2021年の記念撮影。