山中伊知郎の書評ブログ -172ページ目

イエズス会

イエズス会―世界宣教の旅 (「知の再発見」双書)/フィリップ レクリヴァン
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「イエズス会」といえば、フランシスコ・ザビエルをはじめ、日本史や世界史の中に登場する過去のモノ、となんとなく思い込んでいたが、ぜんぜんそうじゃないんだな。

日本でも上智大学や栄光学園をはじめ多くの学校を運営しているのをはじめ、世界中に活動域は及び、今でもキリスト教、ことにカトリックの普及のために働いているのだ。

それをこの本を読んで、知った。

しかし、この中の歴史に関する記述を見ていくと、どうもイエズス会賛美の論調があまりに強すぎる。

たとえばアフリカでは、ヨーロッパの奴隷商人と戦い、奴隷を解放したとか、南アメリカでは、スペイン人たちが軽蔑した地元のインディオ芸術をイエズス会員だけは評価した、とか。

著者も監修者もイエズス会の会員らしいので、それは仕方ないのかもしれないが、食い足りない、っていえば食い足りない。

あくまで噂とはいえ、ローマ教皇の教えを広げる「布教軍団」として、イエズス会は、数々の陰謀や、外国への侵略に加担した、といわれているではないか。そのあたりのことを、客観的に紹介し、それが事実に即したものなのかどうかを検証する目も欲しかった。

著者の人選が、その意味では違うんじゃないかな。

波瀾万丈の映画人生

波瀾万丈の映画人生―岡田茂自伝/岡田 茂
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 元東映社長だった岡田茂の自伝。


 終戦直後、まだ海のものとも山のものとも分からなかった東横映画(東映の前身)に、東大出でありながらあえて入社し、やがてトップにたっていくまでの「活動屋人生」を綴る。


 これはけっこう集中して一気に読めた。


 読んでいる限り、やはり芸能界とヤクザの世界を切り離すなんて、並大抵のことじゃないと改めて感じた。

 何しろ、今ある映画界の原点というか作り手ともいうべき人たちが、その筋の人なのだから。文中に千本組の親分というのが登場するが、実に、その一番の子分が元大映社長の永田雅一で、組長と東横映画を仕切るマキノ兄弟とも親戚筋。要するに、終戦直後の映画界は、ヤクザが牛耳っていたのだ。


 かつて美空ひばりは、東映時代劇の看板スターであり、ひばりといえば山口組三代目。そこそこボカしながらではあれ、著者と三代目との交流についても触れている。


 ヤクザから俳優に転身した安藤昇については、「僕は非常に仲がよかった」とはっきりいっているくらい。菅原文他は、その安藤昇の子分だったこともあり、高倉健もその関連の組織で働いていたとか。

 映画『山口組三代目』を作って、警察の手入れを受けた話も、わずかだが触れている。


 「ヤクザとヤクシャは一字違い」なんてよくいうけど、両方の業界はいわば兄弟みたいなもの。


 まあ、当時の撮影所は、ヤクザから左翼崩れの文化人風から、いる人間も種々雑多ながら、映画という核のもとに集う不思議な熱気があった、と著者はいう。

 要するに、世間からハグれた「不良」の集団だったわけだな。だからこそ、世の中の常識を突き抜けた、非日常的なパワーも生み出せたともいえる。


 ヤクザと縁を切って、立派な社会人になることが、果たして芸能の世界にとって有益なことなのか? どうもそのへんはよくわからない。

お楽しみはこれからだ  PART7

お楽しみはこれからだ―映画の名セリフ〈PART7〉/和田 誠
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相変わらず、黒磯のライブの方にエネルギーがいってしまって、読書に集中できない。そのかわり、スポーツ新聞や夕刊紙をよく買って読む。本を読むほどの集中力がいらないので、ちょうど手ごろなんだろうな。


 しかし、この書評プログもやっているわけで、あまり長期間、読書なしもいかがなものかと思った。それで、すぐに読めそうな、この本を選ぶ。主に洋画の名セリフを集めた有名なシリーズもので、『キネマ旬報』の名物連載コラムでもあった。


 とりあげる映画のイラストと、名セリフとともに、その映画自体も紹介して、見開きで一話完結。読みやすい作りになっていて、これなら集中力が少々欠けていても、一冊、読み切れるな、との判断。


 難しい。調子のいい時ならスイスイと頭に入っていきそうな内容なのに、どうも、ページの上を、ただ目が追ってるだけになっている。


 一つだけ、「あ、いいセリフだな」と目がとまったものを書いておこうか。

 史上最悪の映画監督といわれた人物を描いた『エド・ウッド』の中で、ある監督が主人公エド・ウッドを励まして言う一言。

「自分の夢のために闘え。他人の夢を撮ってどうする」


 なんかいいなァ、と思った。

伝言

伝言 (岩波新書)/永 六輔
¥735
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まずいなァ。

栃木で『栃木・福島対抗 健康お笑いライブ』(11月13日 黒磯文化会館大ホール)をやろう、と決めたあたりから、意識がそっちに行ってしまって、落ち着いて読書に集中できなくなってしまった。

別に読む時間がなくなったわけじゃないのに。


それで出来るだけ読みやすい本を、と選んだのが、この『伝言』。


しかし、実際に読んでみると、平和についての話、メディアとしてのラジオについての話、人の命や生きる意味についての話など、これが相当に重たいテーマが続くのだな。ちっとも気楽に読めない。かえって、集中力をもって読まないと、まったく頭に入らないような内容なのだ。


どうも困ったちゃったね。明日からまた1泊2日で栃木に行くし、もうどうせ読むならあまり集中力を必要としない雑誌や新聞の方がラクだからな。

また、本を落ち着いて読めないかもしない。 

もうひとつのアンパンマン物語

もうひとつのアンパンマン物語―人生は、よろこばせごっこ/やなせ たかし
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 アンパンマンの作者・やなせたかしのエッセー集。すでに16年前の本で「今日の流行児も明日はオチメということはいつも覚悟しています」と書いているように、まだアンパンマンが「国民的キャラ」に成りきる前のものだ。

 話はアンパンマンだけでなく、ずっと著者が編集を続けてきた雑誌『詩とメルヘンのことや、子供に何をどう教えるかの教育論、第二の人生をどう生きるかの人生論にまで及ぶ。

「ボクは大芸術作品をかきたいと思ったことはいちどもありません」

 というように、マンガや絵本だけでなく作詞などに至るまで、みんなが喜んでくれるような作品、それでいて子供が大人になってふりかえったらなつかしくなるようなものを作りたい、と語る著者。そこには一貫性がある。

 これはもう、実際にその通りのことをやっているのだからたいしたものだ。

 ただ、やたらと「自分には才能がない」という記述がたくさんあるのは、やや気にかかった。

 それは誰と比較して「才能がない」のだろうか。手塚治虫より下、とかそういう意味なのだろうか。アンパンマンで成功して、『手のひらを太陽に』も当てて、雑誌の編集でも多大な功績を残した著者に、「自分は才能がない」といわれたら、他の多くの人々は、それをどう受けとったらいいのかわからない。

 才能のあるなしをはかる大きな基準が「結果」であり、この著者は、現代でも珍しいくらいその「結果」を残した人なのだから。

 アンパンマンの元ネタがフランケンシュタイン、というもの、アンパンマンファンには常識となっている話なのかもしれないが、私は初めて知る。言われてみればなるほど、と思った。