波瀾万丈の映画人生 | 山中伊知郎の書評ブログ

波瀾万丈の映画人生

波瀾万丈の映画人生―岡田茂自伝/岡田 茂
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 元東映社長だった岡田茂の自伝。


 終戦直後、まだ海のものとも山のものとも分からなかった東横映画(東映の前身)に、東大出でありながらあえて入社し、やがてトップにたっていくまでの「活動屋人生」を綴る。


 これはけっこう集中して一気に読めた。


 読んでいる限り、やはり芸能界とヤクザの世界を切り離すなんて、並大抵のことじゃないと改めて感じた。

 何しろ、今ある映画界の原点というか作り手ともいうべき人たちが、その筋の人なのだから。文中に千本組の親分というのが登場するが、実に、その一番の子分が元大映社長の永田雅一で、組長と東横映画を仕切るマキノ兄弟とも親戚筋。要するに、終戦直後の映画界は、ヤクザが牛耳っていたのだ。


 かつて美空ひばりは、東映時代劇の看板スターであり、ひばりといえば山口組三代目。そこそこボカしながらではあれ、著者と三代目との交流についても触れている。


 ヤクザから俳優に転身した安藤昇については、「僕は非常に仲がよかった」とはっきりいっているくらい。菅原文他は、その安藤昇の子分だったこともあり、高倉健もその関連の組織で働いていたとか。

 映画『山口組三代目』を作って、警察の手入れを受けた話も、わずかだが触れている。


 「ヤクザとヤクシャは一字違い」なんてよくいうけど、両方の業界はいわば兄弟みたいなもの。


 まあ、当時の撮影所は、ヤクザから左翼崩れの文化人風から、いる人間も種々雑多ながら、映画という核のもとに集う不思議な熱気があった、と著者はいう。

 要するに、世間からハグれた「不良」の集団だったわけだな。だからこそ、世の中の常識を突き抜けた、非日常的なパワーも生み出せたともいえる。


 ヤクザと縁を切って、立派な社会人になることが、果たして芸能の世界にとって有益なことなのか? どうもそのへんはよくわからない。