アフリカ・レポート
- アフリカ・レポート―壊れる国、生きる人々 (岩波新書)/松本 仁一
- ¥735
- Amazon.co.jp
独立を果たして「植民地」という立場を離れ、輝く明日が訪れるはずだったアフリカ諸国。
ところが、経済もズタズタ、治安も最悪、多くの国民が生まれ育った国を捨てなければならない現状とその要因を、長く、記者としてアフリカに駐在した著者が語る。
構図はとてもわかりやすい。
ほとんどの国の政府高官たちは、私利私欲の利権あさりに動いて、国民の生活向上を考えていないためだ。
しいて考えるとしたら、自分たちと同じ部族の人間の利益だけ。しかも、もし欧米など、他の国々が「もうちょっとマトモにやろうよ」といおうものなら、高官たちは、「長い植民地支配のために教育訓練の機会を奪われたため」と言った上に、「そんなことを言いだすあなたたちはレイシスト(人種差別主義者)だ」と返してくる。
この「レイシスト」という言葉が、どうも大きな障害になってるようだな。
白人たちは、ずっと黒人たちを差別してきたのは事実であり、そこをつかれると、もう何も言い返せない。
で、結局は、私利私欲に走るアフリカの独裁者たちを制御できなくなっていく。
そのスキをついて、アフリカでどんどん力を伸ばしているのが中国だとか。
結論として、まず国家よりも、国民ひとりひとりが自立していける道を模索すべし、と著者は説く。
ま、素直な感想をいうなら、アフリカじゃなく、日本に生まれてよかった、とつくづく思う。
ニセモノ師たち
- ニセモノ師たち/中島 誠之助
- ¥1,680
- Amazon.co.jp
これは、相当思い切った内容の本だな。
著者は、あのテレビ『開運! なんでも鑑定団』の鑑定士として有名な人物。彼の、骨董屋としての半生の中で出会ってきた「ニセモノ」の数々、またそれにまつわる人々がたくさん登場して、内容はすこぶるエグい。
骨董屋の師匠であり、自分の父代わりだった伯父がニセモノの売買で儲けていた話や、自分もニセモノと知りつつ高額で骨董を売ってしまった話なども飛び出して、ここまで書いちゃっていいのか、と読んでる方が心配になるくらい。
その伯父さんにまつわるエピソードにはさらにドロドロしたものがある。
伯父が、「目利き」の腕を認めていたのは甥である著者だったが、やはり、自分の子供の方が可愛い。そこで「あいつ(著者)に客を取られるなよ」と、我が息子に大切な仕入れ先を教えたものの、息子には「目利き」の腕がない。で、その仕入れ先は、伯父にはホンモノを提供していたのに、息子になった途端、次々とニセモノをつかませていったのだという。
おいおい、こんなこと書いて、親戚関係に波風立たないのかよ、だ。
自分の「恩人」である伯父を「親ばか」と、その息子を「無能」と断定しているわけではないか。
その他にも、ニセモノと知らずに大金はたいてガラクタ骨董品を買いあさる欲深社長から、ニセモノ作りにその生涯をかけた、かえって爽やかともいえるオッサンから、いろいろな人間像が出てくる。
オブラートに包んでない分、読者として読んでいるとインパクトは強い。
ダマし、ダマされ、プロからセミプロ、アマまで巻き込んだ骨董品の世界。少なくとも、我々のような人間は足を踏み入れない方が妥当なのだけは確かだ。
北朝鮮はなぜ潰れないのか
- 北朝鮮はなぜ潰れないのか (ベスト新書)/重村 智計
- ¥720
- Amazon.co.jp
さすがに、何十年も北朝鮮問題に関わり、70年代から80年代、まだまだ反韓国、親北朝鮮が「進歩的」といわれていた時代に北朝鮮の本当の姿を報道しようと活躍した著者。
分析がわかりやすい。しかも的確。4年前に出た本なので、やや後継者問題に関する記述など内容が古くなってはいるものの、基本線は変わらない。
なぜ、経済もボロボロの北朝鮮が崩壊しなかったかについて、著者は五つの要素をあげている。
「中国と韓国が、崩壊を望まなかった」「儒教的価値観」「軍事優先でクーデターを防いだ」「徹底した秘密警察の取り締まり」「金大中の太陽政策」
ことに、隣国に突然、統一された民主国家が出現するのを嫌う中国と、「世界的最貧国」北朝鮮を併合して経済が混乱するのを嫌う韓国の思惑一致が、大きな要因になっているとも。
だから、この両国が今の状況を容認している限り、北朝鮮の崩壊もない、という。
また一方で、北が、経済制裁で追い詰められたあまり「暴発」して、戦争を引き起こす要素もほぼ皆無に近い、とも説く。
そもそも戦争をするだけの体力がないんですな。北の経済力は、国家予算でいうなら、日本の島根県にも劣るとか。石油も、ろくにない。こんな国が、まともに戦えるはずはない、と。
「暴発」は本当に得意なのは島国・日本の方で、太平洋戦争の開戦なんて、完全に、国力を無視した「暴発」らしい。
周辺各国の思惑によって生きながらえている北朝鮮という国の存在としての危うさ、さらに日本国内にもそんな国を利用して、うまく利権を確保しようとうごめいている人たちがたくさんいるのを、この本は教えてくれる。
もてない男
- もてない男―恋愛論を超えて (ちくま新書)/小谷野 敦
- ¥714
- Amazon.co.jp
この本にはガッカリしたというか、ハラが立ったな。
「もてない男」というから、私のように、たとえば若い時からハゲてて、女性に縁がなかったような人間が対象なのかと思って、つい読み始めたら、前書きからいきなりこうだった。
「どうも自分の念頭にある「もてない男」は、世間でいうそれとは違うらしい。世間でいう「もてない男」というのは、ほんとうに、救いがたく、容姿とか性格のためにまるで女性に相手にしてもらえない男のことを言うらしい。じつはそこまで考えていなかった。私がもっぱら考えていたのは、好きな女性から相手にしてもらえない、というような男だったのである。女なら誰でもいい、というようなケダモノはどうでもよかったのである。そんな連中は金をためてソープランドにでも行くがいい」
そうか、私のような「若ハゲ・もてない男」は、すでに、この著者にとっては眼中になかったわけですな。
そして、延々と、夏目漱石はこういってる、宮台真司はこう語った、森鴎外は、村上春樹は村上龍は、吉本隆明は上野千鶴子は、ドストエフスキーは、フィツジェラルドは、と、様々な作家先生や評論家先生が語った、男と女の一節が引用され、それについての著者の分析が語られている。
まいった。オレたちは「もてない男」の範疇にすらも入ってないのかい、「人間以下」かよ、とついグチりたくもなる。所詮は、「ある特定の女」にもてないと嘆いているなんて「特権階級」であり、私たちにとって問題なのは「女そのものにもてない」ことだから。この著者はそういう意味で「特権階級」なのだ。
東大出らしいし、何かわけのわからん理屈もいっぱいいうし。
そもそもタイトルを「もてない男」とするから誤解が生じるのであって、「文学に見るセックスできない男たち」とか、まったく別の、内容にそったものにしておけばハラも立たなかったのに。
ま、それだと、そもそもこの本を読もうとは思わなかったわけで、私もまんまとタイトルに騙されてしまったのだな。
搾取される若者たち
- 搾取される若者たち ―バイク便ライダーは見た! (集英社新書)/阿部 真大
- ¥672
- Amazon.co.jp
- さすがに、著者自身が団塊ジュニア世代なのもあり、これは、同じ年代に生きた人間ならではの、鋭い若者分析本になっている。
そうか、若者といえばニートや引きこもりばかりが話題になる昨今だが、ワーカホリック、つまり「働き過ぎ」の問題もあったのか。その具体例として、著者自身も経験したバイク便ライダーがあげられている。
若者たちの多くは、「自分のやりたい仕事をしたい」と考え、バイク便ライダーの多くも、バイクが好きで入ってきた人たちなので、「これがやりたい仕事」と思って、どんどん仕事におぼれこんでいく。
ところが、それは基本的に請負型の不安定就労であり、いわば「使い捨て」。気が付いたら働き過ぎや事故などで身体はボロボロになって、多くの人はやめていく。
しかもそのシステムはうまくできている。最初は時給で働く「時給ライダー」として入っていき、それがやがて、出来高払いの「歩合ライダー」に変わっていくことで、ライダーたちには「プロ」としてプライドが生まれ、会社側も働いただけカネを払えばいいのだから、余計な出費が生じない。
つまりライダーたちのプライドをくすぐりつつ、会社は彼らを巧妙に搾取している図式だ。
それを薄々は感じつつ、ライダーたちは道の「すり抜け」の腕を誇り、より機能的なバイクを持っていることを誇る。死亡事故さえも、「好きなことに命を捧げた」というストイックな物語として語り合う。
さーて、どうなのかな? 搾取されてる、と憤るより、私なんか、こういう生き方をやれるところまでやってみるのもいいじゃないか、と思ってしまう。「好きなことをやる」のは、やはり楽しいから。