犬眼鏡 | 山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

山田小説 (オリジナル超短編小説) 公開の場

アメーバブログにて超短編小説を発表しています。
「目次(超短編)」から全作品を読んでいただけます。
短い物語ばかりですので、よろしくお願いします。

 「先日、犬眼鏡を購入しましてね」と宴会場でたまたま隣の席に座っていた会社の同僚が言い出した。「今もそれを掛けているのですけどね」

 その言葉を聞いて私は同僚の顔を見遣ったが、彼が掛けている眼鏡の形状が犬を連想させないので聞き間違えただろうかと思った。それで、私は「犬眼鏡」と鸚鵡返しに呟いた。

 「ええ。これを掛けたまま雲や石ころを凝視していると犬に見えてくるのですよ。いいでしょう?」と同僚は酔っ払って赤くなった顔を綻ばせながら言った。

 どうやら自慢をされているらしいと気が付いたが、犬が好きではないので少しも羨ましくなかった。私は料理の方に視線を移しながら「そうですか」と呟いた。

 「あなたは雲や石ころの形状に明確な意味が込められていると思えますか?曖昧模糊としていると感じているのではありませんか?しかし、この眼鏡を掛けていると犬に似ているという確固とした印象を受けられるようになりますよ」

 同僚の言葉を聞きながら私はテーブルの表面にある木目を凝視していた。所々に犬の顔面を連想させる部分があった。どの像も牙を剝き出しにしながら吠え立てているように見えた。もし雲や石ころなどが咆哮し始めたら世界が騒々しくて堪らなくなるだろうと私は考えた。犬眼鏡は要らないと思った。


関連作品
円眼鏡
上機嫌眼鏡
箱眼鏡
坂眼鏡
穴眼鏡


目次(超短編小説)