「先日、円眼鏡を購入しましてね」と宴会場でたまたま隣の席に座っていた会社の同僚が言い出した。「今もそれを掛けているのですけどね」
その言葉を聞いて私は同僚の顔を見遣ったが、彼が掛けている眼鏡の形状が円くないので不審に思った。聞き間違えたのだろうかと考えて私は「円眼鏡」と鸚鵡返しに呟いた。
「ええ。これを掛けていると視界が円形になるのですよ。いいでしょう？」と同僚は酔っ払って赤くなった顔を綻ばせながら言った。
どうやら自慢をされているらしいと気付いたが、視界が円形になったところで特に利点があるとは思われないので少しも羨ましくなかった。私は料理の方に視線を移しながら「そうですか」と呟いた。
「この眼鏡を外すと視界の形状が曖昧になりますが、そうなると気持ちが悪くて仕方がありません。しかし、円眼鏡を掛けると視界の形状がしっかりと決まるので清々しい気分になれますよ」
同僚の言葉を聞きながら私は自分の視界に注目したが、形状がよくわからなかった。それは確かに心地が良くないかもしれなかいという気がした。しかし、そもそも指摘されなければ違和感を覚えていなかったはずなのだった。そのように思って私は同僚を非難したい気持ちになった。
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