ブリヂストン美術館で「没後100年 青木繁展―よみがえる神話と芸術」を観た! | とんとん・にっき

ブリヂストン美術館で「没後100年 青木繁展―よみがえる神話と芸術」を観た!


ブリヂストン美術館で「没後100年 青木繁展―よみがえる神話と芸術」を観てきました。「青木繁展」は、ブリヂストン美術館で2007年10月ですから、ほぼ7年前に「青木繁と《海の幸》」展を観ています。その時に青木繁について、多少調べたのを覚えています。出身は福岡県久留米市であること、息子の幸彦は、NHKのラジオ放送、新諸国物語で尺八を吹いていた福田蘭堂であるとか、その息子がクレージーキャッツの石橋エータローであるとか、そして房州布良に、森田恒友、坂本繁二郎、福田たねと写生旅行に行ったこと、その時の坂本繁二郎の話をきっかけに「海の幸」が描かれたということ、福田たねとは結婚はしなかったこと、放浪生活の末に28歳の若さで亡くなったこと、等々。


酒井忠康の「早世の天才画家 日本近代洋画の12人」(中公新書:2009年4月25日発行)を開いてみると、青木繁の名前が見当たりません。28歳で亡くなったのであれば、短命のうちに世を去った「早世」の画家であることは間違いありませんが、その辺の事情は分かりません。「まえがき」に、土方定一著「日本の近代美術」(岩波新書:1966年)ととりあげて、欧米からの移植過程の「性急さ」について言及している箇所を取り上げて、酒井は以下のように書いています。


夭折の画家が「呪われた天才」の衣裳を着せられ、そして「異端の画家」の符牒を貼られた最初の画家はだれか―ということになれば、青木繁の名が思い浮かぶけれども、その青木繁をとりあげて、ラファエル前派のイギリスの画家ロセッティと比較して、著者(土方定一)はこんなふうに書いている。「青木繁を日本のロセッティと呼ぶ人がいるが、ぼくの感想からいえば、青木はロセッティより上である。だが、それ以後、生活の窮乏の中で、制作も少なく、敗残の中に死んでいる」と。そして「施療病院の病床のなかで姉妹にあてた手紙は、この作家の運命の号泣を効く想いがする」といって手紙を引用するのである。


今回の「没後100年 青木繁展―よみがえる神話と芸術」で、東御市梅野記念絵画館あるいは梅野満雄という名前がよく出てきました。僕が東御市梅野記念絵画館 へは、2009年10月「犬塚勉展」を観に行ったときに始めて訪れました。その時の様子を以前このブログに以下のように書きました。「会場で話しかけてきたご老人が、あまりに詳しいので『館長さんですか?』とお聞きしたところ、梅野記念絵画館館長の梅野隆さんであることが判明、いろいろとお話を聞くことが出来ました」と。その時の話の半分くらいが、実は青木繁と梅野満雄の関係についてでした。


「青木と坂本。彼らは大いに似て大いに異う処が面白い対照だ。同じ久留米に生まれて然かも同年。眼が共に乱視。彼は浮き是は沈む。彼は動是は静。荘島と京町と町は違ふが同藩の士族。青木は天才、坂本は鈍才。彼は華やか、是は地味。青木は馬で、坂本は牛。青木は天に住み坂本は地に棲む。彼は浮き、是は沈む。青木は放逸不羈、坂本は沈潜自重。青木は早熟、坂本は晩成。際限がないからよすが、要するに二人共久留米が生んだ世界的の大画家とわたしは言ひたい」。この一文は、青木繁と坂本繁二郎、この二人の共通の友人であった梅野満雄だからこそ書けたのであり、青木と坂本を比較する際、よく引用される文である。


以上は図録に掲載されている森山秀子の、「青木繁と三人の友―坂本繁二郎、蒲原有明、梅野満雄」からの引用です。梅野満雄は、久留米の生まれ、中学明善校では青木と共に文芸愛好グループに属し、青木が画家を志して上京した翌年、梅野も上京し、早稲田大学の前身東京専門学校に入学、さらに早稲田大学文学部に入学します。大学の卒業論文「ラファエル前派画家としてのダンテ、ガブリエル、ロセッチ」を書くにあたり、青木の紹介で蒲原有明とも親交を深めます。その論文は坂本繁二郎が清書したという。大学卒業後は、福岡に戻り、国漢の教師になり、歌人大隈言道の研究にも没頭しました。


ちょうどその前に「開館10周年記念 梅野満雄と親友・青木繁展」を開催していたようで、その時も青木繁の作品も、数多く展示されていたように記憶しています。また、菅野圭介(1909-1963)の作品を多数所蔵していることから、横須賀美術館と協力して「菅野圭介展」を開催することなどの話しをされていました。僕は「犬塚勉展」に行ったので、意識がそっちの方へ行っていたので、あまり熱心に聞かなかったのが今から思うと残念でした。梅野隆さんは梅野満雄の長男で、平成22年3月31日に開館以来12年務めた館長を退任された、とのことです。


そうそう、どういう関係からか、僕のところに千葉県館山市の「青木繁《海の幸》誕生の家と記念碑を保存する会」 から連絡があったことを思い出しました。


展覧会の構成は、以下の通りです。

第1章 画壇への登場―丹青によって男子たらん 1903年まで

第2章 豊饒の海―《海の幸》を中心に 1904年

第3章 描かれた神話―《わだつみのいろこの宮》まで 1904-07年

第4章 九州放浪、そして死 1907-11年

第5章 没後、伝説の形成から今日まで


作品のちょっとした感想を。ともに青木の代表作、しかもともに重要文化財に指定されている「海の幸」も、「わだつみのいろこの宮」も、以前観ている作品です。ただ今回「海の幸」が以前観たときよりもちょっと小さく見えたこと、よく観るとけっこう荒っぽい筆致で描かれていること、は今回分かったことです。「わだつみのいろこの宮」が1907年の東京府勧業博覧会に出品し、三等受賞作だったことで、青木は相当落ち込んだこと、は今回初めて知りました。初期の作品、「輪転」「黄泉比良坂」あるいは「天平時代」のような路線も、青木の画業のなかであったのかなとも思います。


「自画像」はもちろん、福田たねを描いたのではと思われる作品、「海の幸」「女の顔」「大穴牟知命」は、福田たねの人物像を的確に表しているのではないでしょうか。僕は「大穴牟知命」が、青木の最高傑作と言ってもいいのではないかと思うほど、素晴らしく思いました。子どもを描いた作品、「幸彦像」と「二人の少女」、この路線もありかなと思いました。岸田劉生の「麗子像」のように。捕らぬ狸の皮算用、ではないですが、「真・善・美」、まだスケッチの段階ですが、これを煮詰めて描けば、黒田清輝の「智・感・情」に勝るとも劣らない作品になるのではと、夢想したりもしました。絶筆が「朝日」(1910年)、1904年に描いた荒々しい布良の海景と比べると、なんと穏やかなあたたかい海景でしょう。


第1章 画壇への登場―丹青によって男子たらん 1903年まで




第2章 豊饒の海―《海の幸》を中心に 1904年







第3章 描かれた神話―《わだつみのいろこの宮》まで 1904-07年





第4章 九州放浪、そして死 1907-11年





第5章 没後、伝説の形成から今日まで



「没後100年 青木繁展ーよみがえる神話と芸術」

100年前の春、福岡の病院で青木繁はひっそりと世を去りました。28歳8カ月でした。短いながらも、貧しさのなかで奔放に生きたその生涯は、鮮やかな伝説に彩られています。東京美術学校在学中、日本神話をみずみずしい感覚で描いた作品によって、青木は画壇に颯爽と登場します。1904(明治37)年、 22歳のときに発表した《海の幸》は、明治浪漫主義とよばれる時代の空気の中で、人々の心を力強くとらえました。青木のすぐれた想像力と創造力の結晶だったからです。さらに、青木は《わだつみのいろこの宮》など、古事記や聖書に題材をとった作品群を私たちに残しています。その魅力の源は、時空をこえたかなたに見るものの思いを導くロマンティシズムでした。青木の愛憎や苦悩、情熱が一つひとつの作品に色濃く反映されています。没後100年を記念して開催する本展は、油彩作品約70点、水彩・素描約170点、手紙などの資料約60点という、空前の規模でこの画家の全貌をご紹介いたします。

「ブリヂストン美術館」ホームページ


とんとん・にっき-aokizuroku 没後100年 

青木繁展―よみがえる神話と芸術

図録

編集・執筆:

森山秀子(石橋財団石橋美術館)

植野健造(石橋財団石橋美術館)

貝塚健(石橋財団ブリヂストン美術館)

山野英嗣(京都国立近代美術館)
発行:

石橋財団石橋美術館

石橋財団ブリヂストン美術館

毎日新聞社


とんとん・にっき-buri 「Masterpices from the Collection of the Ishibashi Foundation」
2006年4月2日初版発行

2007年2月1日3刷発行

編集:財団法人石橋財団

発行:財団法人石橋財団







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