東京都庭園美術館で「森と芸術」展を観た! | とんとん・にっき

東京都庭園美術館で「森と芸術」展を観た!



東京都庭園美術館で「森と芸術」展を観てきました。4月の半ばに始まっていたのに、なぜか気が進まなくて、結局のところ行ったのは5月15日の日曜日。それも松岡美術館の「西洋絵画の中の人びと」展を観に行ったついでに立ち寄りました。どうして気が進まなかったのか? テーマが地味でチラシが地味、目玉となる作品も見あたらないし、作品も寄せ集めのようだしと、なにからなにまで是非とも観に行きたいという材料は見つかりませんでした。松岡のついでに観に行ってみるかと、重い腰を上げたのが5月の半ばだった、というわけです。それから1ヶ月近く経って、やっとこのブログを書いている体たらくです。それがどうしてか、帰りには「図録」といっても、平凡社から出ている「森と芸術」ですが、買ってしまいました。出ていた作品が大作はないにしても、おおむね平均点以上だった、ということになるのかもしれません。


さて「森の芸術」展、美術評論家で仏文学者の巖谷國士のひとり監修によるものだそうです。お名前はよく聞きますが、どういう人なのか、僕はほとんど知りませんでした。今回調べてみて、それほどお年を召していないこと、親兄弟等、そうそうたる家系の出だということ、そしてその専門とするところが、なんとシュルレアリスム、ユートピア・オカルト思想、そして昔話・メルヘンとあり、いわば在野の研究者で、しかも今回の監修者としてまさに最適であったことが、以下のプロフィールからも分かります。チラシには、約180点の美術作品・写真・工芸品・絵本などから、「森」そのものを新しい視点からとらえなおし、その美と悦び、その意味と重要性について考えてゆくもの、とあります。以下、そのプロフィールを載せておきます。


巖谷國士は1943年生まれ。フランス文学者で明治学院大学文学部教授、文芸・美術・映画批評家、エッセイスト、紀行作家・旅行写真家、メルヘン作家、講演家。フランス文学者としての専門領域は、 第1に、作家アンドレ・ブルトンや画家マックス・エルンスト、マン・レイなどを中心とする20世紀のシュルレアリスムの文学・美術・写真・映画と、その国際的・歴史的展開。 第2に、シャルル・フーリエを中心とする18‐19世紀のユートピア思想・オカルト思想、 第3に、シャルル・ペローを中心とする17‐18世紀の昔話・メルヘン。これらの方面の著書・訳書も多い。批評家・エッセイスト・講演家としての活動は、文学、美術、映画、写真、漫画、メルヘンのほか、旅、都市、庭園、温泉、食物などの領域にわたり、さまざまな著書がある。(以上、ウィキペディアによる)


展覧会の構成は、以下の通りです。
第1章 楽園としての森

第2章 神話と伝説の森

第3章 風景画のなかの森

第4章 アール・ヌーヴォーと象徴の森

第5章 庭園と「聖なる森」

第6章 メルヘンと絵本の森

第7章 シュルレアリスムの森

第8章 日本列島の森

展示室に入ってすぐに、初っぱなからデューラーの「アダムとエヴァ」(個人像)があるじゃありませんか。この1点で、僕が予想していた今回の展覧会が、ゴロッとひっくり返りました。なかなかいけるジャン、「森と芸術」!と。そしてルソーの「エデンの園のエヴァ」が出てきて、ゴーギャンの「かぐわしき大地」が出てきます。うんうん、凄い、凄い、と。「風景画のなかの森」へいくと、もうこれが凄い。クロード・ロラン、ペーテル・パウル・ルーベンス、ギュスターヴ・クールベ、テオドール・ルソー、カミーユ・コロー、カミーユ・ピサロ、ポール・ゴーギャン、等々、いちいち挙げたらきりがありませんが、ビッグ・ネームが次々と出てきます。


「森と芸術」というテーマに沿って集められた作品群、作品リストをみると、町田市立国際版画美術館、ポーラ美術館、福井県立美術館、ハーモ美術館、黒壁美術館、山寺後藤美術館、ひろしま美術館、郡山市立美術館、等々、日本全国の美術館から貸し出された作品ばかりです。これだけの作品を借りるのは大変なことだったでしょう。そのご苦労は、想像するに余りあります。しかも、監修者の意図を忠実に守りながら・・・。


すなわちこれらの作品は、あちこちの展覧会によく貸し出されることが多い、ということです。何度か観ている作品が多かったのも事実です。デューラーの「アダムとエヴァ」もそうですが、山寺後藤美術館のコローの作品「サン・ニコラ・レ・ザラスの川辺」も、ひろしま美術館のゴーギャンの作品「愛の森の水車小屋の水浴 ポン・タヴェン」も、他の展覧会で観たことがあります。姫路市立美術館のポール・デルヴォーの作品もそうですね。アールヌーヴォーの項では、やはりエミール・ガレ、ドーム兄弟が出てきますが、黒壁美術館所蔵のものです。


監修者・巖谷國士ということでいえば、特徴的なのはやはり「メルヘンと絵本の森」と、「シュルレアリスムの森」でしょう。絵本では、明治学院大学図書館や、青山学院女子短期大学図書館の所蔵品が目に付きました。またシュルレアリスムでは、エルンスト、マグリットが、思った以上に多数出ていました。ミロやデルヴォー、写真家のマン・レイが「シュルレアリスムの森」に入っていましたが、異議のある方々もいるかもしれません。日本勢では、川田喜久治が写真で、また岡本太郎や、「もののけ姫」の背景画で男鹿和雄、等々が出されていました。


第1章 楽園としての森



第2章 神話と伝説の森



第3章 風景画のなかの森



第4章 アール・ヌーヴォーと象徴の森



第5章 庭園と「聖なる森」



第6章 メルヘンと絵本の森


第7章 シュルレアリスムの森



第8章 日本列島の森


 

「森と芸術」展

はるかな昔、人間は森に住み、森の恵みを糧に暮らしていました。のちに森を離れて文明を築くようになってからも、人間は森という故郷に「楽園」の思い出を重ね、ノスタルジアを抱きつづけてきたのです。古今の芸術作品のなかにも、そうした原初の森への郷愁や憧れがあらわれています。森の神話・伝説を描く絵画、情感ゆたかな風景画、メルヘン絵本、植物文様をもつアール・ヌーヴォーのガラス器など、森の魅惑を体現する作品の数々が展示されます。アンリ・ルソーの楽園図、クロード・ロランにはじまる各時代の風景画、セリュジエやゴーギャンの描く伝説の森、グリムやアンデルセンの挿絵、シュルレアリスムの森の幻想と神秘・・・本展は、そうした森にかかわる多くの作品を通して、私たちのうちにひそむ「森の記憶」をさぐり、芸術・文化から自然界へと視野をひろげていきます。本展は美術評論家であり仏文学者の巖谷國士氏による監修のもと、訳180展の美術作品・写真・工芸品・絵本などから、「森」そのものを新しい視点からとらえなおし、その美と悦び、その意味と重要性について考えてゆくものです。東京都庭園美術館は都心の森にかこまれた、世界にも稀有なアール・デコ様式の邸宅美術館です。美しい森の雰囲気をそなえたその館内で、さまざまな風景と幻想とメルヘンに出会ってみませんか。


「東京都庭園美術館」ホームページ


とんとん・にっき-tei1 「森と芸術」

2011年4月15日初版第1刷発行

監修・著者:巖谷國士

発行所:株式会社平凡社












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