東京都庭園美術館で「舟越桂 夏の邸宅」展を観る! | とんとん・にっき

東京都庭園美術館で「舟越桂 夏の邸宅」展を観る!


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東京都庭園美術館は、1933(昭和8)年に建てられた朝香宮鳩彦王(1887-1981)の邸宅を、美術館として1983(昭和58)年に開館したものです。建築の全体設計は宮内省内匠寮工務課が担当しましたが、主要な部屋7室の内装は、1925(大正14)年にパリで開催された「現代装飾美術・産業美術博覧会(通称アール・デコ博覧会)」で活躍したフランス人デザイナーのアンリ・ラバン(1873-1939)が担当しています。

ラパンは、ガラス工芸のルネ・ラリック(1860-1945)、鉄工芸(鍛金)のレイモン・シューブ(1893-1970)、彫刻家レオン・ブランショ(1868-1947)らの作品を巧みに組み込んで、フランス・アール・デコの華やぎを遠く離れた日本で再現しました。(庭園美術館発行:「旧朝香宮邸のアール・デコ」より)

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今回の「舟越桂 夏の邸宅」展は、東京都庭園美術館、旧朝香宮邸でこそフィットする展覧会です。全部ではありませんが、基本は舟越桂の作品がやや暗めのアール・デコ風に装飾された小部屋に一点ずつ展示してあり、それが得も言われぬ効果を発揮しています。まさに「美術館は魔術的な驚きに満ちた『夏の邸宅』に変貌します」。これほど彫刻作品と展示される邸宅の小部屋が見事に一致した例は他にあったでしょうか。絶対に他では観られません。


僕は、舟越桂の作品は、「夏のシャワー」という作品は、世田谷美術館で観た記憶があります。また昨年、横須賀美術館で開催された開館記念「生きる」展、現代作家9人が作品を出していましたが、その中で舟越桂が一つの部屋で5~6作品を出していたのが印象に残っています。「森に浮くスフィンクス」や「遠い手のスフィンクス」「伝えられた言葉」がそれでした。木彫であるにもかかわらず、その質感は妙にエロチックでもあります。


舟越桂は1951年に、彫刻家・舟越保武の次男として生まれます。1975年に東京造形大学彫刻科卒業、1977年に東京芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻終了。1980年代の初めには、木彫彩色の人物像という自分のスタイルをつくりあげます。これは彫刻家としてはかなり早熟といえます。1986年には、文化庁芸術家在外研究員としてロンドンに滞在しています。 近年では、謎めいた両性具有のスフィンクスのシリーズを手がけ、独自の新たな表現領域を切り開きつつあります。


舟越桂は、彫刻と同じくドローイング、版画も重要な創造の領域と考えています。かれにとってドローイングは彫刻制作のための単なる習作にとどまらず、一つの完結した世界を構成しています。一方、1987年イギリス留学時に制作を始めた版画では、ドライポイント、アクアチント、リトグラフ、木版などさまざまな技法を駆使し、彫刻に従属しない自由な表現をつくりだしています。本展ではこの三つの領域に等しく光を当て、彫刻19点、ドローイング約40点、版画約20点により表現者舟越桂の全体像に迫ります。と、「展覧会概要」にあります。



舟越保武については、佐藤忠良との関係で、次のように書いたことがあります。

佐藤忠良というと、同じ美術学校の同級生で親友もあった舟越保武が亡くなったときの談話が、今でも僕の中では印象に残っています。朝日新聞紙上の「追悼文」ですが、その内容は、帰郷する際に舟越の実家のある盛岡駅のホームで、北海道へ帰る佐藤を見送ってくれた、というものだったと思うのですが、手元にないので詳しくは分かりません。佐藤忠良の故郷は宮城県だとばかり思っていましたが、幼少期は北海道で過ごしていたことが、この新聞記事で分かりました。(過去の記事:もう一つの佐藤忠良展を観た!


佐藤忠良と舟越保武は、芸大時代の同級生で、日本の近代彫刻の発展に大きく寄与した巨匠であることは論を待ちません。その舟越保武の息子の舟越桂、木彫でありながら独自の表現の境地に達しながら、なおかつ進化しています。僕にはその表現は、ますます過激になっているように見えます。比較するのも何ですが、僕には2005年に31歳の若さで事故死した石田徹也の描く自画像の「うつろな目」が、舟越桂の初期の作品の「憂愁の目」に似通っているように思えました。


初期は臍の辺りまでしか表現されてなかった木彫、従って手首は表現されなく切断されたままです。しかし、近年はもう少し下まで表現され、「森に浮くスフィンクス」では、手首とそして性器までもが表現されるようになりました。「戦争を観るスフィンクスⅡ」では、現代の世界情勢に対する怒りや苦悩を表現しているように見えます。なぜスフィンクスの耳は長いのか?僕にはわからないままです。








fu1 舟越桂 夏の邸宅

アール・デコ空間と彫刻、ドローイング、版画

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