打出の小槌 | 不思議なことはあったほうがいい

あれれ、本当に昔話が続いちゃったよ……。


 子供のない爺婆が住吉の神に拝んで生まれたのは「指に足りない一寸法師」。

 小さな体に大きな望み♪を抱いて、御椀の舟に箸の櫂、川を行きますどこまでも。

 そして仕えた都の宰相の姫君に一目ぼれ、あろうことか、姫君のお口に喰いカスつけて、「姫君がわらはが物を取らせたまひて候」と罠にかけ、姫は勘当。まんまと連れ出す(姫君は継子だったので宰相もあまりあはれとおもわなんだそうな)。二人は風に吹かれて「興がる島」へ。先住のどもが現われ、姫君をモノにしようとするが、一寸法師は鬼の身体に入り込んで大暴れ。逃げ出す鬼が落としていった宝物のなかに、ひときわ目立つ「打出の小槌」。

 さっそく、手にして

 「われわれがせいを大きになれ」とぞ、どうとうち候へば、程なくせい大きになり……まづまづ飯をうち出し、いかにもうまさうなる飯、いづくともなく出でにけり。(48聖典渋川版・御伽草紙)…

…その後、金銀打ち出し、姫君とともに都へ凱旋……メデタシメデタシ。

 

 芦屋の方の昔話に、村人が竜神さまに打出の小槌をもらって、村中で使おうということになったが、鐘の音がするとその魔法は解けるという。大金出して大喜びしたとたん、ゴーンと山寺の鐘が鳴りすべてなかったことになった‥‥ちう話があるそうで、その地域には今でも「打出小槌町」という地名まであるというから、筋金入りだ。

 大黒様が手にしているのも同じ打出の小槌。これも福を招き、何でも出してくれる神秘のアイテムだという(大阪通天閣のビリケンもあやかって持っている)

 怠け者の男が、大黒様から打出の小槌をもらった。望みのものは何でも出る。これはヤッタと家へ帰ると、女房はまるで信用しないので、あたまにきて、「この鼻くそ奴!」と怒鳴ると、女房は鼻くそになってしまったナンノコッチャ!(高知・長岡の昔話)‥‥。自在の宝も使い方と心のもちようで良くもなるし・悪くもなるという教訓。

 腰折れ雀 の話ででてきた、雀のくれた種から育ったヒサゴや、「花咲爺」で犬を埋めたところから生えた木で作った臼も、果てなく宝を生み出した。これなども隣の爺婆は悪い心だったので、使ったら宝どころか蛇・百足・毒虫がわきだした。

 臼の使い方・ということでは、兄弟の話で、なんでも出る碾き臼を手に入れた弟から、兄貴が臼を盗んで逃げる。舟の上で塩を出したが、止め方がわからずそのままドブン、海の水がしょっぱいのはそのためだ云々‥‥。

 似たようなものに、俵藤太秀郷むかで 退治のお礼に水神からもらった、尽きることのない米俵。酌んでも酌んでもつきることない、酒の湧く泉の話なども御馴染み。その他にも、竹の節のなかから宝や米が出たとか、なんでも福を出すはなたれ小僧とか、黄金をひりだす馬とか、昔話にはこの手の「何でも出る」魔法のアイテムは枚挙にいとまがないわい。


 そもそも大黒様が手にしていたのは、「如意宝珠(チンタマニ)」だったらしいのだが、いつのまにか小槌になった。

 如意宝珠も、いろんな福を現出させる魔法のアイテムである。

 これはモノを出すだけでなく、なでたり、かざしたりすることでさまざまな奇跡を起こす。(→「壷坂霊験記 」)

 

 なでる、という形で奇跡を起こす物といえば、魔法のアイテムを手に入れた男が、娘が病気などで困っている長者屋敷へ行って(男がわざと病気にしてこまらせる・あるいは鳥などから解決法を聞く)、娘のまわりに屏風を立てて、ペロンとなでると病気が治る……というパターンの話がある(鹿児島の「夢見小僧」、岩手の「尻なり箆」など)。

 

 ところで、魔法使いの女の子って、オールマイティ型と変身型に分けられそうだが、オールマイティ型のサリーちゃんとかメグちゃん、(オジサンだが)ハクション大魔王とかって、特別に道具をつかったりしないな。一方、変身型魔法使いには変身アイテムがお似合い。アッコちゃんのコンパクトや、モモちゃんのバトン、姫ちゃんのリボンに、プリキュアの携帯電話……。変身といえばオトコノコヒーローでも、ウルトラマンのペンライトとかメガネ、仮面ライダーのベルト、戦隊の腕時計(?)と、もちろん例外もあるけれど、変身には小道具が必要なものなんだろ(商業的という意味ではなく、民俗学的に……)。

 その元祖的位置にいるのが、我等が一寸法師の打出の小槌だ!!


 というわけで、打出の小槌的不思議アイテムがもたらす福には、1、一寸法師のような変身アイテムと、2、直接欲望を満たす物品を出すタイプと、3、間接的に欲望を満たすことになる金銭・宝玉を出すアイテムとに大別できそうである。それぞれを兼ねている場合もあるが、貨幣経済なくして金銭のありがたみはないから、3はもっとも時代的に下ったお話ということになる。

 

 いろんなアイテムが出てきたが、動物・植物からモノが出たり、臼とかヒサゴにモノが出たりというのはなんとなく分かる。

 でも、トンカチってのはなんだんだ?? 


 日常生活でトンカチといえば、大工仕事をまず思い浮かべる。鍛冶屋はこれで鋼を鍛た。藁をトントンたたく横槌(ツチノコ は形がこれと似ているので名づけられたとも‥)とか、古代の脱穀、後代の餅つきにかかせない杵も広い意味でトンカチだろう。たたくことでモノを生み出すというのは神事の太鼓をも連想させる。火見櫓から火事や事件を知らせるのも、ヨイトマケで地面を固めるのも広い意味でトンカチ・ハンマー。

そして鏡開きもトンカチを使う。

 一方、トンカチには悪を倒す・払う力もあった。

 「稲生物怪録」の平太郎が、最後に山ン本五郎左衛門にもらったのは、妖怪退散の功現ある木槌であった。子孫がコッソリ受け伝え、広島・国前寺におさめられている(水木サン『木槌の誘い』はこれの秘密を追及する漫画だったと思うが、途中からベクトルが変わってしまって、ハンパになってしまった)。

 九尾の狐・玉藻前が変じた「殺生石」を破壊した、玄翁和尚の武器「げんのう」、すなわちハンマー。これは鉄槌であった。

 (モッコリ色魔煩悩退散には香の100tハンマー!get wild!)
 

 トンカチ・ハンマーはモノを創る行為と、モノを破壊する行為の両軸の能力をもったがゆえにカミのアイテムになったんだともいえる。もとはわけのわからんタマだったのが、より、民衆に実感的に受け入れられるために最もカミ的道具・トンカチがとってかわったということだろうか?


 ところで、先の大黒様であるが、これは大国主と同一人物ということになっている。出雲大社では大国主は魔法の珠を持っているが、これはアマテラスから授かった神器の勾玉である、と、安永ごろ(1770年くらい)の神職・佐々誠正は解釈した。で、打出の小槌は、珠が変じたのではなく、そもそも、彼が手にしていた邪気払いの神器天広矛つまり出所的には、コウロコウロと日本の基礎となる土地を創った天沼矛と同じような存在であり、ちうことは伊勢神宮の真柱ともつながる=世界の中心という存在でもある。それがトンカチに変じたというのだ。うーん。

 (ところで、セリ落しに「ハンマープライス!」、裁判で「静粛に!」、棺おけ作るにもハンマーは必要、戦争での打撃兵器としてのハンマー、「ポールのミラクル大作戦」ではパックンが異次元への扉を開くのにハンマーを使っていたっけ……この項目、考察延長候補ですな)


→で、続き「少彦名(と大国主)