つちのこ | 不思議なことはあったほうがいい

 日本を代表する、ヘビ型未確認生物(UMA)。

 昭和40年代に一大ブームをまきおこし、生け捕りにしようと「手配書」まで配られた。今でも岡山県吉井町などは「つちのこの里」と称して賞金を出して探しているそうだ。

 体長30センチから80センチ。普通のヘビよりあきらかに太いおなかをして、いびきをかいたり、ころがったり、ジャンプしたり……。でも、結局太めのヤマカガシ。エサを飲み込んだところをかんちがいしたンダとか、そもそも、その場の雰囲気などで怪獣とカンチガイしたンダとか、、いや、マツカサトカゲの見間違いだ、などともいわれるが……ここで興味ぶかいのはその名前。


 「川太郎」「ガータロ」「ガメ」「ケンムン」「ガンキ小僧」「ガラッパ」「ガッパ」、全国でいろんな名称がある水辺に出没する童型幻獣に総称として「河童」という名前が与えられたのは、政治体制や言語が統一していく国民国家形成のひとつの成果であるといえる。

 「ツチノコ」も、地域によって呼び名の違った、山野に出没する、太目のヘビ型幻獣類の総称となっている。

 いくつかある「別名」のうち、その太めの体型からくる名前がおおいようだ。

 「ツツマムシ」「キネノコ」「バチヘビ」「タワラヘビ」「トッタリ」「ワラヅチ」「トックリヘビ」

 

 さて、「ツチノコ」とはもとは京都を中心とした呼び名であるというが、その体型から「槌の子」かとも解釈できる。わが不思議48聖人・鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』では「野槌」と出ている。曰く「草木の霊をいう」。

 「ツチノコ」はまず、「ツ+チ」と「ノ+コ」に別けられる。

 「ノコ」は「~のコドモ」という意味でいいだろう。

 「ツチ」は「槌」ではなく、もとは「~ツ・チ」であり、「~のチ」という意味ではないか。(国ツ神、のツと同じ)

 「チ」とは「魑魅魍魎(チミモウリョウ)」の「魑」で、山水の精霊をあらわす。だから、「ツチノコ」は「山の精霊の子供」であり、じゃあ、親はなにかというと、これが「ノヅチ(野ツ魑)」であろう。『古事記』ではイザナギ・イザナミの生んだ「カヤノヒメノ神」の別名でもある。ツチノコの本名は「ノヅチノコ」であると思われる。同じ「~の」の意味で別の助詞を用いているということは「ノコ」の部分があとからついたということで、「ツチ」のほうが先に存在していたのだ(ちなみに、カッパの別名はミヅチ=「水ツ魑」となる。)

 即ち、山中の精霊のコドモがヘンテコなヘビの形をして出現したと解釈したらロマンがある。

 たいていの生き物の脳にはどういうわけか、本能的にヘビを嫌うクセがインプットされているという。特別な存在を、恐れ・敬い・時として神としてマツることもある。しかし、人間は「天然」を改造し、自分がすみよい「自然」にすることをしなくてはいられない生き物である。だがら、「天然破壊」をするために、ノンキなことをいっていられなくなると神様は容易に妖怪・バケモノに転落してしまうのだ。

 ほんにんは何もかわらないが、うけとりての都合によって神様になったり・妖怪になったりする。その代表がヘビ族であるといえよう。

 ツチノコのことを「ツチコロビ」と呼ぶこともあるそうだが、それは転がるという習性からついた名であろう。しかし、峠道で旅人を転がっておいかける「べとべとさん」の山野版のような妖怪と同名である。いや、おそらく同じであろ。完全に妖怪となって、名前も保存されたのだろ。

 だから、ツチノコとは、もとは目に見えぬ「ノツカミ」が、ヒトが山野を支配する過程で妖怪化されて「ノツチ」となり、さらにその異界性がより実在的な生物として目に見える存在にUMA化されたものなのである。

……勝手な意見だが、神様を捕まえようなんて、オソロシイことだからよしたがいいぞ。

 ひょっとしたら、イッシーとかヒバゴン とかも大昔から「いた」のが改名・解釈がえされただけかもしんない。