「鉄道車両」の意味は? | 特許翻訳 A to Z

特許翻訳 A to Z

1992年5月から、フリーランスで特許翻訳者をしています。

専門辞書と、rolling stock」の続きです。

英語の本来の語義では、「集合名詞」の「不可算」であるはずのrolling stock。
こうしたことは英和辞典でも説明されていますが、国を含めて日本の公的機関での使用例には、可算名詞扱いがいくつもあることがわかりました。

それでは、米国の審査官は、このあたりをどう扱っているのでしょう。
rolling stockを可算名詞単数扱いしているのは非英語圏からの出願ばかりですので、単なる誤用とみなして問題にしなかったとしても、不思議はありません。

そこで、rolling stock 自体を物としてクレームしている出願のOffice Actionを調べました。
結果、予想どおりと申しますか、審査官のほうが柔軟に対応しているようで、語義が問題になった例は今のところ見当たりません。

念のため判例も調べてみたところ、rolling stockが何をどこまで含むかを取り上げた判例はありましたが、特許絡みではなく関税絡みです(JARVIS CLARK CO. v. UNITED STATES; 566 F.Supp. 344 (1983))。


それはそれとして、Office Actionを調べていて気づいたことがあります。
英語圏からの出願の請求項では、「鉄道車両用○○」という場合の「鉄道車両」であれば、不可算のrolling stockがそこそこ使われているということです。
たとえば「a brake system for rolling stock」といった具合です。

これは、場合によっては大いに意味がありますね。
明細書の書き方によっては、貨物列車用ブレーキ、客車用ブレーキ、軌条クレーン用ブレーキ、保線機械用ブレーキ・・・・と分けることなく包含できるかもしれません。

ようするに、字面は同じ「鉄道車両」でも、中身は最低2通りの意味があるということです。



結論。
審査官は、車両1両にrolling stockを使っても問題にしないようですが、「鉄道車両用○○」という場合の「鉄道車両」と、個々の車両そのものをいう場合の「鉄道車両」は、多くの場合は区別して訳す必要があるのだろうと思います。

審査の段階で問題にならないことと、訴訟になったときに問題になるかならないかは別でしょうし。

参考までに、英語圏からの出願で個々の車両をいうときは、railcarやrailroad carなど普通の可算名詞が使われていました。

以上をもって、rolling stock 調査は一旦終了といたします。


■関連記事 (連載です)
振り子電車「スーパーあずさ」から、rolling stockへ
rolling stock=鉄道車両「1両」?
専門辞書と、rolling stock
「鉄道車両」の意味は? ←現在地。

■その他関連記事
松本城から考える、情報の信憑性
  

インデックスへ