特許翻訳 A to Z

特許翻訳歴25年、業界改善を目指した情報発信歴22年。
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レモンの甘み、玉ネギの甘み」からの続きです。

前回、糖度に対する英訳語のbrixには、前提として液体が必要らしいとわかりました。
そこで、液体以外の対象物ではどうなっているかということを、確認します。
 

まず、論文データベースCiNiiの詳細検索で、タイトル欄に「糖度 果実」、一番上のフリーワード欄に「fruit」を使って検索しました。

現時点で、ヒット数は67件。

この検索結果から、「糖度」に対する英語の対応関係がどうなっているかを拾った結果から、一部を以下に示します。
英語と日本語の論文タイトルがある場合はタイトル、抄録部分に出ている場合は前後を抽出しました。
強調は、こちらで付しています。
 

凍結果実の糖度およびビタミンCの消長 : 第1報 いちご
 A Study on the Influence of Refrigeration on Glucides and Vitamin C in Fruit, I. Strawberries

近赤外分光分析法によるスモモ果実の糖度,酸度および硬度の非破壊計測
 Possibility of Nondestructive Determination of Sugar Content, Acidity and Hardness of Plum Fruit by Near Infrared Spectroscopy.

栽培方法の異なるナシ'幸水'の果実糖度と気象要因の関係
 Relationship between climatic factors and sugar contents of pear fruit cv. 'Kosui' cultured under different conditions

国産および輸入果実におけるアスコルビン酸含量・滴定酸度・糖度について
 A study about ascorbic acid content, acidity and suger concentration of fruits from Japanese and imported products

マンゴー果実の糖度,有機酸および各種成分の非破壊計測
 Nondestructive measurement in sugar, organic acid and various components in mango fruit

カオリン粘土鉱物がトマト果実のクチクラ蒸散と糖度に与える影響
 Effect of kaolin clay on cuticle transpiration and soluble solid content of tomato fruit

ブドウ果実における比重と糖度の相関関係
 Correlations between Specific Gravity and Soluble Solids Concentration in Grape Berries

強日射期の果実遮光がトンネルメロン果実の日焼けと糖度に及ぼす影響
 Effect of Fruit Shading during Strong Solar Radiation Period on Sunburn and Total Soluble Solid Content in Melons Grown in Plastic Tunnels

リンゴの成熟過程における樹上果実の糖度の非破壊測定
 Non-destructive determination of soluble solids in apple fruit on the tree during maturation

培養液への塩類の添加が水耕栽培トマトの糖度と果実重量に及ぼす影響
 Effects of Salt Application on Total Soluble Solids and Fruit Weight of Tomato Grown in Hydroponics

赤肉メロンの果実成熟期における果肉色と糖度の変化
 Change of fresh color and percent soluble solids (Brix %) on maturity of red fresh melon fruit

果房直下の側枝の葉枚数がトマトの収量と果実糖度に及ぼす影響
 Effect of Number of Leaves on lateral shoot under just truss on Tomato Yields and Fruit Soluble Solids Content (Brix)


モモ果実糖度の比重を利用した非破壊推定
 Nondestructive estimation of Brix in peach furit by using specific gravity


携帯型近赤外装置によるマンゴ果実糖度の非破壊測定
 Nondestructive determination of Brix values in mango fruit by a portable NIR instrument
 

近赤外分光法によるメロン糖度測定時の果実測定部位の検討
 Examination of measuring portion of melon fruit for Brix determination by Near-Infrared Spectroscopy


こうして拾い出してみると、いろいろありますね。
brixを使っている例も数は少ないながら含まれていたため、一緒に取り上げました。

(果実についても、果汁で測定していれば液体なので、brixでも正しい可能性はあります。)


変わり種は一番上のglucideで、これは通常、「糖質」を意味します。
糖質の定義は分野や法規によって少しずつ異なるため一概には言えませんが、たとえば『日本大百科全書』にある説明の冒頭には、

  糖を主要成分とする物質の総称で、1923年の国際化学会議で決められた名称。
  脂質およびタンパク質に対してよばれる。

と記載されています。
「糖質」と「糖類」あるいは「糖」は意味が違いますので、たとえ論文の英語タイトルが正しいとしても、それはその論文の内容がそうだからであって、常に使える訳語とは言えないでしょう。

また、『振り子電車「スーパーあずさ」から、rolling stockへ』から始まる連載でも検証したように、日本人の使う英訳語は、そもそも正しいとは限りません。
論文だからといって、正しい保証は皆無です。

もっとも、日本人でなくても昨今は常に疑う必要がある時代で、そのことは cell replication の誤用が蔓延していることからも、明らかです。
(replicateはDNAの複製であって、細胞には使わないはずが、細胞複製=cell replicationが論文でもアジア圏の著者を中心に多用されています。)

こういうことは多々ありますから、CiNiiの結果も、あくまで候補です。
ただ、英語ネイティブが書いた資料をあたる際の最初の「手がかり」としては、十分でしょう。

何もないゼロの状態から適切な訳語を探すのと、候補を複数持った上で探すのでは、手間も労力も圧倒的に違います。
少なくとも英語圏でのbrixの定義を見るかぎり常に使えるわけではなさそうですし、つど丁寧に確認していきたいものですね。


■関連記事
レモンの甘み、玉ネギの甘み
 


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広島で宿泊したホテルの朝食ビュッフェに、「レモンジュース」が出ていました。

100%のオレンジジュースや牛乳などと一緒に、ピッチャーに入って並んでいます。

 

そばにいたスタッフに、「どのくらい酸っぱいのか」と聞いてみたところ・・・・
全然、酸っぱくないです。さわやかな味がして、私も大好きなんですよ」とのこと。

当然、チャレンジです。
わずかに甜菜糖を加えたとのことでしたが、そのことを差し引いても、酸味はほとんど感じられません。

言われなければ、レモンジュースだとわからない可能性もありますね。


以前にカレーを調べていて、「玉ネギは炒めると甘くなる」というのが厳密には正しくないと知ったことがあったため、今回もレモン=酸っぱいを疑って(笑)調べてみました。

結果、レモンの生産量が日本一の広島には、「甘い」レモンがあるらしいことが判明。

ネット上に酸味を一切なくして甘みだけが残った感じと表現している人がいるのですが、ホテルで飲んだジュースも、そんな印象です。

さらにGoogleで

  レモン 糖度

と検索したところ、糖度計のメーカーと思われる企業が野菜や果物の糖度を示したページがありました。

それによると、レモンの糖度は、絞り汁で7~8%イチゴが8~9%
トマトが6%前後で、玉ネギは7~8%
糖度だけでいえば、レモンもイチゴも玉ネギも、それほど違わないですね。

 


玉ネギについては、『カレーの教科書』という本に、みじん切り、繊維に対していくつかの方向でのスライス、すりおろしなど切り方を変えて玉ネギを炒めた比較実験が、カラー写真や成分調査の結果と一緒に掲載されています。
玉ネギを炒めるというそれ「だけ」で、102ページから115ページまでの全16ページを割いていますから、おそらく著者は相当にこだわりたかったのでしょう。

そして実験の結果、玉ネギを加熱しても糖の量は変わらないことが、明らかになっています。
炒めると甘くなったように「感じる」のは、玉ネギが甘くなるわけではなく、甘みを隠してしまう要素がどれだけあるかの差。

これを知っていたため、レモンを酸っぱく感じたり甘く感じたりするのも、似たような原因かもしれないと予測できました。

レモンの場合は、糖度の問題ではなく酸度の影響ですね。

公報を検索すると、収穫「前に」柑橘類の酸味を抑えて相対的に甘味を向上させる技術(特開平10-248385号)、ジュースにしてから酸味や苦みを抑える技術(特許3249747号)などが出てきますので、酸味の少ない広島のレモンも、何か工夫をしているのかもしれません。

ところで、「レモンの甘さ」を追う過程で糖度は英語でどう表現するのかと思って辞書を引くと、「brix」が出てきました。
糖度計は、brix meterです。

ただ、Wikipediaのbrixには、
  Degrees Brix (symbol °Bx) is the sugar content of an aqueous solution. 
と説明されています。solutionの条件付きですね。

Googleでキーワードを

  "brix refers to"
として検索しても、「the total solids content present in the juice」や「a scale of measurement for soluble solids in a liquid」など、やはり液体との関連ばかり。

・・・・ということは、液体「ではない」対象物における糖度には、別の表現があるはずです。
それを、追いかけてみました。

続きは次回に。

■関連記事
「糖度」の英訳語、あれこれ
 


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広島の路面電車から、考える」の続きです。


路面電車と鉄道の相互乗り入れを実現するにあたって、種類の異なる線路の「連結部」がどうなっているのか、軌間距離の違いはどうしているのかといった疑問が生じていました。

この違いを考えているうちに、ふと、鉄道にも路面電車に似た部分があることに気づきました。
踏切です。


踏切だけは、路面電車と同様に鉄道の線路も路面と(ほぼ)高低差がありません。
とすると、踏切と同じような構造にすれば、路面電車-鉄道の相互乗り入れは簡単?


そこで公報を調べてみたところ・・・・

当然のように、ありますね。いろいろ出てきました。
番号の右側が発明の名称で、カッコ内はいずれも、明細書の記載内容からの一部抜粋です。
直接的には関係ないものも入っていますが、周辺からいくつか拾います。

 

特許3909855号 線路軌間外舗装構造、及び線路軌間外舗装方法
「線路の軌間外においてレールの外側とアスファルト舗装道路との間に設けられ道路の路面を構成する線路軌間外舗装構造」

特開2002-115202    複合交通システム軌道構造
「鉄道車両と交通制御システムにより走行制御される自動車両との双方が走行できるように構成された複合交通システム軌道構造」

特許4187961号 鉄道用と道路用に兼用可能なデュアルモード車両交通システム
「鉄道用と道路用に兼用可能なデュアルモード車両交通システム」

特許4202989号 共用走行路を有する複合交通システム
「限られた財源で建設、維持管理ができるとともに、低負荷で、かつ多種類の車両の利用が可能な共用走行路を有する複合交通システム」

特許3545316号 複合交通システム
「モノレールと異種交通システムのばらばらに存在している各交通機関を一部地域で集約し、相互乗り入れや同一ホーム発着と乗り換えを可能にする複合交通システム」

特開2001-097681 車輌昇降装置及び車輌昇降方法
「設置高さの異なる電車軌道を、経済的で必要用地の少ない方法で接続する列車昇降装置」

特許4137253号 鉄道車両の軌間可変装置
「車輪間隔を自動的に調整して軌間が異なるレール間を直通運転することができる鉄道車両の軌間可変装置」

特開平10-250575号  鉄道車両の軌間可変台車及びその軌間可変方法
「異なった軌間のレールを直通運転するための鉄道車両の軌間可変台車及びその軌間可変方法」


さて。
相互乗り入れが「どのように」実現されていたとしても、日常生活には、ほぼ無関係です。
仕組みを知っていてもいなくても、ほとんどの場合、実害は生じないでしょう。
ましてや、鉄道マニアでもなければ、なおさらどうでもいいことです。

その「どうでもいい」ことにこだわるには、理由があるのです。

1日が24時間なのは、誰でも同じ。
ただ、その24時間を「どのように使うか」つまり、どれだけ翻訳力の向上につなげられるかは、心がけ次第だと思うのです。

よく、すぐれた翻訳をするには、対象となる文章をゼロから書ける必要があると言われます。

小説であれば、自分で小説を書ける翻訳者。
特許明細書であれば、自分で明細書をゼロから書ける翻訳者が訳すのが、理想だという意味です。

村上春樹さんが典型で、ご自身で書いて、翻訳もなさっています。
上手な翻訳者は、対象となる文章を、書くこともできる。当然のことですよね。

自分で野球はできないけれど教えるのは上手なコーチがいるように、なかには、書けなくても上手に訳せる人もいるかもしれませんが、こちらのほうが例外でしょう。

そして、書けるようになるためには、まずは大量に読む必要があります

昨今の特許翻訳者/学習者には、この読む量が圧倒的に不足している人が多いように思うのです。

私が翻訳者になったばかりの頃、1件の仕事をこなすために、同じ分野の公報の50件や100件は「普通に」読んでいました
当時は今と違って短い明細書ばかりで多読しやすかったのもありますが、インターネットのない時代に有料で取得してでも、読んでいたわけです。


翻訳の講座に通うのもそれはそれで良いですし、翻訳指南本を読むのも、悪いとは思いません。
ただ、いくらテクニック的な知識ばかりを仕入れても、公報そのものを読んでいる量が少なければ、できることには限度があるでしょう。
やはり、多読は避けて通れません。
特許には特許の「型」がありますし、それに慣れるには、読むしかないと思います。

・・・とはいえ、興味も関心もないものを読むのは、苦痛ですよね。
仕事の場合は必要に迫られていますが、仕事以外で読むときは、強制力がないですし。

当然、同じ時間を使うなら、ワクワク楽しめるほうが、自然に数をこなせます
日々の素朴な疑問を利用すれば、もともと関心がありますから、いくらでも読み進められるでしょう。
「勉強している」というより、遊びが勉強につながっているようなものですし。

遊びですから、読んでみて理解できなければ、そのまま放って別の公報を読めばいい
通読なんて、必要ありません。その点、とても気楽です。
そうこうしているうちに、理解できないものが減ってきて、請求の範囲が何にどこまで保護を求めているのか、だいたいわかるようになると思います。

私の場合は、生活の中に素朴な疑問が多すぎて1割も調べることができていないのですが、そのわずか1割程度でも、しないのと比べたら天地の差だと感じています。

もちろん、英語にしろ日本語にしろ、すべての明細書が「書く」ためのお手本になるわけではありません。
特許技術者が全員、優れた書き手なのかというと、全然そんなことはない。
上手な明細書もあれば、そうでもない明細書もあります。

でも、そういう良し悪しも、多読しないと区別できるようになしませんから、その意味でも読むことの意義は大きいのではないでしょうか。

どちらにしても、同じ多読するなら、楽しいほうが良いですよね。

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広島の路面電車から、考える

 


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