USPTOを凌ぐ?米国特許検索 | 特許翻訳 A to Z

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1992年5月から、フリーランスで特許翻訳者をしています。

前回、ドイツ特許庁のDEPATISnetを取り上げました。
このDEPATISnetとWIPOのPatentscopeに、USPTOの公報全文データベースPatFTに「ない」優れた米国特許検索機能が(少なくとも1つ)あります。

古い米国特許に対する、発明者名や発明の名称のキーワード検索機能です。

仕様上、米国特許庁では1790年から1975年までの特許は「Issue Date」「Patent Number」「Current Classification (US, IPC, or CPC)」の3つしか検索に対応していないことに、なっています。

ただ、実際には、登録番号「1,32X,XXX」のいずれかの番号が境になって、それ以降は1920年代などでもキーワード検索が可能なことが以前に判明しています。
(→全文検索「ではない」特許庁の全文データベース

とはいえ、USPTOはこのあたりの番号が限界なのですが、DEPATISnetでは、米国特許第1号「よりも昔の」いわゆる「X特許」まで、発明の名称や発明者をキーワード検索可能です。

特許分野になじみのない人のために補足しておくと、X特許というのは、特許庁誕生の1790年7月から、現行法のもとになる制度が動き始めた1836年7月までに発行された特許です。

 

(X1特許;クリックで拡大)


米国特許庁の特許番号検索で「X1」を検索すると、1790年7月31日のX特許第1号(HOPKINS)を取得できます。
同じく番号検索で「1」を検索すると、1836年7月13日の特許第1号(RUGGLES)を取得できます。
この第1号が、現代の番号までつながっています。
ちなみにDEPATISnetでは、publication numberを「US1」として検索すると、両方ヒットします。

さて。
X1特許は、発明の名称「The making of Pot ash and Pearl ashes」、発明者「HOPKINS SAMUEL」です。
ここからキーワードを拾って、米国特許庁のPatFT、​ドイツ特許庁のDEPATISnetのBeginnerサーチ、WIPOのPatentscopeのAdvanced Searchを比較します。

■発明の名称:「Pot」「Pearl」の2語を使用
PatFTでは、検索窓1つあたり1語にしないとフレーズ扱いにされてしまいますが、DEPATISnetでは単に並べるだけで大丈夫です。

画像の上段がPatFT、下段がDEPATISnetです。
後者は中国特許を含む6件がヒットしましたので、このうち該当米国特許だけ切り出しました。


Patentscopeの場合は、英語の発明の名称に対する検索「EN_TI:(Pot and Pearl)」で中国特許を含む3件がヒットします。USのX1も含まれます。
(→Patentscopeの検索条件の書き方

ただ、Patentscopeで、X1公報はNo Imageとなって画像がありません。
かたやDEPATISnetなら、上に示したUSPTOと同じ公報イメージを取得できます。
X1特許の書誌情報として持っているデータ量もDEPATISnetのほうが多いですから、この検索では、DEPATISnetが一番多くの結果を出しました。

■発明者名HOPKINS SAMUEL
PatFTでは38件ヒットし、そのうち最も古い3件は「5,328,588」「D345,057」「D336,783」です。
DEPATISnetでは、249件ヒットします。
米国で最も古い3件は、1790年の「X1」、1907年の「850,648」、1910年の「957,608」です。   
Patentscopeでは、158件のヒットです。
米国は古いほうから1790年の「X1」、1855年の「12,725」、1866年の「57,622」です。

発明者名での検索は、トータルのヒット数はDEPATISnetのほうが多いにもかかわらず、米国特許はPatentscopeのほうが古いものを多く出してきています。

それでは、DEPATISNetに米国特許12,725号は収録されていないのでしょうか。
番号「US12725」で検索してみると、収録自体はされていることがわかります。
でも、書誌情報に発明者名が入っていません。ヒットしなかったのは、これが理由でしょう。

このように、DEPATISnetとPatentscopeは、どちらが優れている・いないというものでもないのですが、USPTOのPatFTと比べると、得られる情報は多いです。

なお、DEPATISnetでは、X特許でも、これを引例としている特許の情報を取得できます

検索結果一覧で番号をクリックして書誌情報を表示し、「Citing documents」の「Determine documents」をクリックするだけです。
「US6127326A」「US6194502B1」「US6201053B1」の3件が該当することがわかります。

公報種別にAとB1がありますが、これは「文献種別コードと、公報番号翻訳の難しさ」で示した時期による違いです。


以上のとおり、古い公報になると、PatFTでは拾えない公報を取得できるシステムが他国にあります。
もちろん、有料であれば米国にも同じかそれ以上のことができるシステムは複数存在しますが、「誰でも無料で手軽に」という点で、DEPATISnetとPatentscopeは非常に便利ではないかと思います。

今回は米国特許を例にあげましたが、他国の公報でも全文検索は不要で「存在を特定する」だけの目的であれば、同様のことがあてはまる可能性があります。

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DEPATISnetと他国の公報全文検索システム
 


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